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第十章 乙女ゲーム最終年
第327話 ノーブルダンス
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音楽が止むと、去年や一昨年同様に、近衛兵による王族登場の挨拶がなされる。だが、今年違う点があるとすれば、モスグリネ王国の国王ダルグと王妃ライムが居る事だろう。まさか隣国の王族が揃って参加するなど、誰が予想したというのだろうか。
紹介が行われると、王族用のバルコニーにクリアテス国王、ブランシェード女王、シルヴァノ王子が現れる。アイヴォリー王国の王族が階段を降りると、続けてモスグリネ王国の王族が姿を現す。ダルグ国王、ライム王妃、ペイル王子が揃うと、アイヴォリーと同じように階段を降りて壇上に勢ぞろいする。その圧巻の光景に、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。
「王国の臣民たちよ、今年もこうして無事に年末を迎えられた事を嬉しく思う。ひとえに皆の努力あっての事だ、実に喜ばしい限りだ」
「今年は、モスグリネの王族一家もそろっての宴席である。この宴が両国の友好と発展の誓いの場となれる事は、大変素晴らしい事だ。貴公らもそこに同席できる事を誇りに思うとよいぞ」
アイヴォリーの国王と女王がそれぞれに述べると、会場は更に盛り上がっていく。
「それでは、モスグリネの国王と王妃にも挨拶を頂こう」
クリアテスとブランシェードが中央からすっと端へと動く。入れ替わるようにダルグとライムが中央へと歩み出てきた。
「紹介に預かったモスグリネ国王のダルグ・モスグリネだ。此度は息子がアイヴォリーのサンフレア学園での留学を終えるので、迎えに来た側面もある。だが、せっかく来たのだからとこの宴席に同席させてもらった。ここに集まった貴族諸君の数には驚かされる。これからも隣国として長く付き合わせてもらうつもりだ。よろしく頼むぞ」
ダルグが挨拶を終える。ライムは言葉を発する事なく、ダルグの挨拶が終わると同時に頭を下げて中央から退いた。
すると、王族に使える侍従たちが国王たちにグラスを配っている。どうやら乾杯のワインのようだ。シルヴァノとペイルは搾った果汁である。
「それでは、これからのアイヴォリー、そしてモスグリネの平和と発展を願って、ここに杯を交わそうぞ!」
「おーっ!」
この乾杯によって、宴は本番へと入っていく。貴族同士では交渉を交えた会話が始まったり、楽団の演奏に合わせてダンスが始まったりと、ほどほどに自由に振舞っている。
いろいろ警戒はしていたが、今のところは実に平和である。国王たちが参加する初日に何か起こるかと思ったのだが、とりあえずロゼリアたちは安心したようである。
ロゼリアたちがテーブルでおとなしくしていると、予想外の人物が近付いてきた。
「やあ、お姫様たち」
「せっかくだから踊ろうぜ」
シルヴァノとペイルがやって来たのだ。まさかパーティーの席で王子自らが婚約者のもとに足を運ぶとは予想外過ぎた。
「お呼び頂ければ、こちらから向かいましたのに」
「ははは、すまないね。たまにはこっちが驚かせてみたかったんだ」
「まぁ、子どもっぽい理由ですこと」
シルヴァノの言い訳に、ペシエラは意地悪を言ってみる。だが、その顔は嬉しそうだった。
「これでしばらくはお預けになるからな。その前にお前と踊っておきたいんだ」
「ふふっ、それは嬉しい限りですね」
ペイルは照れながらロゼリアを誘っている。それに対してロゼリアは笑いながら、その誘いを了承していた。
「ではお姉様、アイリスお姉様、少し踊ってきますわね」
「ええ、いってらっしゃい」
ペシエラがそう言うと、チェリシアもアイリスも笑顔で見送った。
アイヴォリーとモスグリネの王子がその婚約者と踊り始めると、周りに居た人たちはダンスをやめてその姿を見守り始めた。さすがにみんな弁えているようである。
シルヴァノとペシエラ、ペイルとロゼリアのペアの踊りは、実に対照的なものだった。シルヴァノとペシエラは繊細であり、ペイルとロゼリアは豪快といった感じである。リードする王子の性格がそのまま出たようなダンスではあるが、ペシエラとロゼリアもちゃんと合わせられている。
やがて、曲が一度終わりを迎え、二組のダンスも終わる。一瞬静まり返った後、一斉に拍手が起きる。四人は頭を下げると、そのまま会場の王族の席の方へと移動した。その様子にチェリシアはちょっと寂しく感じたが、二人が幸せであるならそれが一番いいと自分に言い聞かせた。
結局初日は、そのまま無事に終わりを迎えた。乙女ゲームにおける断罪イベントはこの初日の出来事だったので、何事も起きなかった事にひとまずは安心である。
シルヴァノとペシエラの方へは、もう入り込む余地がないとしても、ペイルとロゼリアの方ならまだつけ入る隙はありそうなものである。だが、そちらの方に関してもほとんど不満の声が聞こえてこない。
だが、年末パーティーは三日間である。年が明けるまで気は抜けない。とりあえず今はまだ、警戒を解くわけにはいかなかった。ロゼリアたちは帰宅すると、初日を乗り切った安心からかそれぞれの自室で眠りにつくのだった。
紹介が行われると、王族用のバルコニーにクリアテス国王、ブランシェード女王、シルヴァノ王子が現れる。アイヴォリー王国の王族が階段を降りると、続けてモスグリネ王国の王族が姿を現す。ダルグ国王、ライム王妃、ペイル王子が揃うと、アイヴォリーと同じように階段を降りて壇上に勢ぞろいする。その圧巻の光景に、会場からは割れんばかりの拍手が起きた。
「王国の臣民たちよ、今年もこうして無事に年末を迎えられた事を嬉しく思う。ひとえに皆の努力あっての事だ、実に喜ばしい限りだ」
「今年は、モスグリネの王族一家もそろっての宴席である。この宴が両国の友好と発展の誓いの場となれる事は、大変素晴らしい事だ。貴公らもそこに同席できる事を誇りに思うとよいぞ」
アイヴォリーの国王と女王がそれぞれに述べると、会場は更に盛り上がっていく。
「それでは、モスグリネの国王と王妃にも挨拶を頂こう」
クリアテスとブランシェードが中央からすっと端へと動く。入れ替わるようにダルグとライムが中央へと歩み出てきた。
「紹介に預かったモスグリネ国王のダルグ・モスグリネだ。此度は息子がアイヴォリーのサンフレア学園での留学を終えるので、迎えに来た側面もある。だが、せっかく来たのだからとこの宴席に同席させてもらった。ここに集まった貴族諸君の数には驚かされる。これからも隣国として長く付き合わせてもらうつもりだ。よろしく頼むぞ」
ダルグが挨拶を終える。ライムは言葉を発する事なく、ダルグの挨拶が終わると同時に頭を下げて中央から退いた。
すると、王族に使える侍従たちが国王たちにグラスを配っている。どうやら乾杯のワインのようだ。シルヴァノとペイルは搾った果汁である。
「それでは、これからのアイヴォリー、そしてモスグリネの平和と発展を願って、ここに杯を交わそうぞ!」
「おーっ!」
この乾杯によって、宴は本番へと入っていく。貴族同士では交渉を交えた会話が始まったり、楽団の演奏に合わせてダンスが始まったりと、ほどほどに自由に振舞っている。
いろいろ警戒はしていたが、今のところは実に平和である。国王たちが参加する初日に何か起こるかと思ったのだが、とりあえずロゼリアたちは安心したようである。
ロゼリアたちがテーブルでおとなしくしていると、予想外の人物が近付いてきた。
「やあ、お姫様たち」
「せっかくだから踊ろうぜ」
シルヴァノとペイルがやって来たのだ。まさかパーティーの席で王子自らが婚約者のもとに足を運ぶとは予想外過ぎた。
「お呼び頂ければ、こちらから向かいましたのに」
「ははは、すまないね。たまにはこっちが驚かせてみたかったんだ」
「まぁ、子どもっぽい理由ですこと」
シルヴァノの言い訳に、ペシエラは意地悪を言ってみる。だが、その顔は嬉しそうだった。
「これでしばらくはお預けになるからな。その前にお前と踊っておきたいんだ」
「ふふっ、それは嬉しい限りですね」
ペイルは照れながらロゼリアを誘っている。それに対してロゼリアは笑いながら、その誘いを了承していた。
「ではお姉様、アイリスお姉様、少し踊ってきますわね」
「ええ、いってらっしゃい」
ペシエラがそう言うと、チェリシアもアイリスも笑顔で見送った。
アイヴォリーとモスグリネの王子がその婚約者と踊り始めると、周りに居た人たちはダンスをやめてその姿を見守り始めた。さすがにみんな弁えているようである。
シルヴァノとペシエラ、ペイルとロゼリアのペアの踊りは、実に対照的なものだった。シルヴァノとペシエラは繊細であり、ペイルとロゼリアは豪快といった感じである。リードする王子の性格がそのまま出たようなダンスではあるが、ペシエラとロゼリアもちゃんと合わせられている。
やがて、曲が一度終わりを迎え、二組のダンスも終わる。一瞬静まり返った後、一斉に拍手が起きる。四人は頭を下げると、そのまま会場の王族の席の方へと移動した。その様子にチェリシアはちょっと寂しく感じたが、二人が幸せであるならそれが一番いいと自分に言い聞かせた。
結局初日は、そのまま無事に終わりを迎えた。乙女ゲームにおける断罪イベントはこの初日の出来事だったので、何事も起きなかった事にひとまずは安心である。
シルヴァノとペシエラの方へは、もう入り込む余地がないとしても、ペイルとロゼリアの方ならまだつけ入る隙はありそうなものである。だが、そちらの方に関してもほとんど不満の声が聞こえてこない。
だが、年末パーティーは三日間である。年が明けるまで気は抜けない。とりあえず今はまだ、警戒を解くわけにはいかなかった。ロゼリアたちは帰宅すると、初日を乗り切った安心からかそれぞれの自室で眠りにつくのだった。
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