逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第323話 神出鬼没

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 落ち着いた後のストロアは、おとなしく使っていた毒をペシエラに提出していた。
「これで全部ですわね?」
「はい。本当にあのインディとかいう男はもう居ないのでしょうか?」
「ええ。春の月の内に処刑されているわ。国家転覆を謀ったんですもの、仕方ありませんわね」
 ペシエラは毒の小瓶を受け取ると、光魔法で浄化して無毒化してしまった。
「身内にも知らせなかったのは、各地に散らばるパープリアの勢力を炙り出すためですわよ。おかげでだいぶ弱体化しましたけれど」
「それは、よかったです」
 ストロアはほっとしていた。だが、ペシエラはすぐに釘を刺す。
「残念ですけれど、あなたにも罰はありましてよ? 気付かれなかったとはいえ、毒を使っていたんですからね」
 これを聞いたストロアは身を強張らせる。それもそうだろう。自分の処遇はペシエラに一任された状況なのだ。ペシエラの気持ち次第では、最悪処刑すらあり得るのだから。
「さすがにこんな事件を起こしてしまっては、王宮まであなたを連れていくわけには参りませんわ。それは分かりますわよね?」
 ストロアは首を縦に振る。
「とはいえ、私たちからは信用がない状態ですし、自由にさせるわけにも参りませんわ」
「はっはっはっ、それならボクに任せてみてはどうかな?」
 ペシエラが腕を組んで考え込むと、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ケットシーですわね」
「その通り」
 空中の何もないところから巨大な猫が突如として姿を現した。その乱入者の姿に、ストロアはまた尻餅をついて口をパクパクとさせている。
「彼女はしょせん、パープリア一派の捨て駒だからね。そこで相談なんだが、ボクに預けてみる気はないかい?」
 ケットシーからの急な提案である。
「そうですわね。パープリア一派をあっさり壊滅させたあなたの手腕なら、安心して預けられそうですわね」
 ペシエラが両腕を組んだ状態のまま、頭を抱えるように考え込んでいる。
「うんうん。ボクたちの方も事業の拡大で人手が足りないからね。大体は君のお姉さんのせいだよ」
「あら、お姉様のせいなのね」
 ケットシーの言い分に反応するペシエラ。姉と言われてすぐにチェリシアだと特定されるあたり、チェリシアの前科は多すぎるのだ。
「そう、温泉といえば豆腐とか言って、大豆の生産を増やす事になったのさ。まったく、何年かかると思っているんだい?」
「お姉様ったら……」
 ペシエラは額に指先を当てて呆れていた。
「というわけだ。今年も年末のパーティにはボクは参加させてもらうよ。その時にでもその子を引き取らせてもらうよ」
「勝手な事を言いますのね。でもまぁ、預けられそうと言ったからには、お任せ致しますわ」
 ペシエラがジト目を向けながらケットシーに言うと、ケットシーは高らかに笑っていた。
「うんうん、君のその目はいいね。いやはや、面白い気配を感じて押し掛けたかいがあるというものだよ」
「あらやだ、監視とは趣味の悪い事ですこと」
「はっはっは、裏切り者ならそこにももう一人居るじゃないか。なあ、ライ?」
 ケットシーの言葉に、ペシエラはくるりと振り返る。すると、部屋の片隅の暗がりからライが姿を現した。
「ちょっと、なんであなたがそこに居ますの?」
 ペシエラが騒ぐと、ライはばつが悪そうに顔を背けたままだった。
「はっはっは、ボクと彼女は古い友人だからね。蒼鱗魚の力を使わなくても意思疎通ができるんだ。ちなみにそこに居るのはライ本人じゃなくて、闇魔法で作った分身だよ。本人はアイリスくんに付き添っているからね」
 ペシエラはケットシーに顔を向けて睨み付ける。
「おやおや、怖い怖い。というわけだ、君たちの行動はすべてボクに筒抜けだったんだよ」
「まったく、油断も隙もない猫ですわね!」
「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「褒めてませんわよ!」
 本当にケットシーとのやり取りは疲れるようで、ペシエラは叫んだ後、肩で呼吸をしていた。これを見ていたストロアは反応に困っていた。
「うむ、実に君はいい反応をしてくれるね。ボクは楽しくて仕方がないよ」
「私は疲れますけれどもね」
 ペシエラは大きく息を吐いていた。その様子を見ながら、ケットシーがストロアを見てくる。すると、ストロアは体を震わせた。
「というわけだ。年明けには君を引き取っていくから。ちなみに君に拒否権はないよ、こんな事件を起こしたんだからね」
 ケットシーが怪しく笑うと、ストロアは青ざめて顔を左右に振った。
「うーん、そんなに脅したつもりはないんだがね。まあ、新しい組合員として活躍してくれる事を期待しているよ」
 ケットシーは腕を組んで一人でうんうんと頷いていた。
「さて、そろそろ戻らないとボクの元にいろいろと報告が来る時間だ。それじゃあ、年末にまた会える事を楽しみにしているよ」
 ケットシーはそうとだけ言うと、その姿をかき消していった。さすが幻獣、瞬間移動もお手の物というわけである。
「ペ、ペシエラ様。私、あの人についていける気がしません……」
 涙目になって声を震わせているストロアだったが、こればかりは擁護はできない。
「死ぬよりはましよ。しっかりと罪を償ってちょうだい」
「うう、本当に申し訳ございませんでした……」
 ストロアは完全に心が折れたのだった。
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