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第十章 乙女ゲーム最終年
第322話 身近な刃
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年次末試験も終わり、いよいよ残すは冬の月ひと月半のみである。年末の三日間がパーティーであり、ここが一応乙女ゲームの終了するポイントである。
異世界からの転生者であるチェリシアにとっては、ここが終了ポイント。これが過ぎれば、イベントとかあまり気にせずにこの世界を満喫できるはずである。……すでにそんなものは崩壊しているわけだが、チェリシアは気にしないようにしていた。ある程度はその通りにゲーム以上の事件が起きたわけだが、本当に気楽なものである。
ペシエラの方もアイリスの持つ蒼鱗魚の能力を使ったり、ニーズヘッグやライたちを使ったりして、不穏分子が居ないか逐一チェックを続けていた。これだけ気を回していて、筆記一位、実技一位、総合断然トップという化け物ぶりである。ましてや武術大会で優勝までしているので、株は恐ろしいまでに跳ね上がっていた。
「貴族の中には変な動きをしている者は、今のところ認められませんわね」
「はい。商人などの平民たちも特に悪口すら出てこない状況です。事を起こすとすれば、すっかり静かになっているパープリアの残党くらいでしょう」
ペシエラとニーズヘッグは状況の再確認を行っていた。
「学園の生徒たちの方も調べられないかしら。変に妬みを持つ者は必ず出てくるでしょうから」
「畏まりました。早急に調べて参ります」
「お願いですわよ」
ニーズヘッグは依頼を承諾すると、姿をかき消して移動した。
ニーズヘッグを見送ったペシエラは、ストロアを呼んで紅茶を用意させる。座って待っていると、ストロアが紅茶を持って部屋に戻ってきた。
「まったく、時が過ぎるのが早すぎますわね。あれだけいろいろとありましたのに、もうだいぶ過去の事なんですから」
ペシエラは紅茶には手を付けず、ストロアを見る。
「しかしまぁ、あなたまでが裏切る側だなんて思いもしませんでしたわね。ねえ、ストロア」
「な、何を仰いますか、ペシエラお嬢様」
急なペシエラの物言いに、慌てふためくストロア。
「いつもより戻って来るのが遅かったですわよ。それに……」
ペシエラは紅茶に向かって浄化魔法を使う。ただいつもの浄化魔法とは違う。紅茶や茶器から、紫色の妙な物体が浮かび上がってきた。毒である。
「こんな事をしようだなんてね。……まぁ、私もようやく思い出しただけなんですけれどね。逆行前に私を唆したのが誰なのか」
「わ、私がペシエラお嬢様を唆すだなんて、そんな事……」
ぶんぶんと首を振るストロアだったが、目の前の紫のもやを目の前にしては、言い逃れはできなかった。
「逆行前、まだチェリシアだった頃の私のお付きの侍女はストロア、あなたでしたのよ。貧乏な頃からずっと一緒。だからこそ、私はそれを信じて行動をしてきたのですわ」
笑顔で話すペシエラ。だが、ストロアにとってその笑顔が逆に怖かった。
「結果として、嘘をでっちあげての冤罪事件を起こしましたわ。それがきっかけで、王国を滅ぼす事になりましたのよ。たいそう満足でしたでしょうね」
今のストロアにとってはよく分からない話だが、心の片隅でそうですねと頷いてしまう自分が居るのに驚いた。
「まぁ、さっさとこの毒を処分して謝罪するのでしたら、私の胸三寸で済ませますけれど。でも、パープリアの下に居たインディとはかなり親密につながっていたのでしょうね。私には無理だという風に見えますわ」
ペシエラに迫られるストロア。さすがにここまで言われてしまっては、観念するしかなかった。
「……今までも何度か仕掛けてたのに、なんで効かなかったんですか」
「見れば分かるでしょう? こっそり毒を無毒化しておいたのですわ。逆行後のロゼリアと会ったその日から、常に警戒していましたもの」
ペシエラの言葉に、ストロアは黙り込んだ。
「元は子爵家ですけれど、平民の貴族への不敬は死罪でしてよ。あなたはそれに耐えられるだけの覚悟はありましたのかしら」
ペシエラから続けられる言葉に、ストロアはずっと黙り込んでいた。そして、ついには膝をついて崩れ落ちた。
「も、申し訳ございません、ペシエラお嬢様。私ったらなんて恐ろしい事を!」
泣きじゃくるストロア。だが、さすがに同情はできない。
「今はもうあなたを縛り付けたパープリアもインディも居ませんのよ。こういう真似はもうおやめなさい!」
ペシエラがこう叫ぶと、ストロアの肩に手を置く感触が伝わる。ストロアが顔を上げると、そこにはプラウスの顔があった。
「だ、だ、だ、旦那様!?」
驚いたストロアは、飛び退いて尻餅をつく。
「あら、お父様ったら趣味が悪いですわよ」
「やあ悪いね。ストロアの事はサルモアから相談を受けてずっと見張っていたんだよ。こういう洞察力は鋭いからね、妻は」
ストロアは尻餅をついたまま、恐怖に顔を歪ませている。毒殺の未遂とはいえ、これでは死罪が免れないからである。
「さて、私はこの恩知らずを処罰したいんだが、お前はどうなんだい、ペシエラ」
不敵に笑うプラウス。しかし、ペシエラはまったく表情を変えない。
「ここでパープリアとの縁を完全に捨て去るなら、私はこのままそばに置いておくつもりですわ。……まったく、お姉様のお人好しがうつってしまいましたかしら」
「お前がそう言うのなら、後は任せよう。しっかり手綱は握っておきなさい」
「ええ、分かっていますわ、お父様」
プラウスが部屋を出ていく。
「お嬢様、本当に、本当に申し訳ございませんでした!」
ストロアの号泣がしばらく部屋から響き渡るのだった。
異世界からの転生者であるチェリシアにとっては、ここが終了ポイント。これが過ぎれば、イベントとかあまり気にせずにこの世界を満喫できるはずである。……すでにそんなものは崩壊しているわけだが、チェリシアは気にしないようにしていた。ある程度はその通りにゲーム以上の事件が起きたわけだが、本当に気楽なものである。
ペシエラの方もアイリスの持つ蒼鱗魚の能力を使ったり、ニーズヘッグやライたちを使ったりして、不穏分子が居ないか逐一チェックを続けていた。これだけ気を回していて、筆記一位、実技一位、総合断然トップという化け物ぶりである。ましてや武術大会で優勝までしているので、株は恐ろしいまでに跳ね上がっていた。
「貴族の中には変な動きをしている者は、今のところ認められませんわね」
「はい。商人などの平民たちも特に悪口すら出てこない状況です。事を起こすとすれば、すっかり静かになっているパープリアの残党くらいでしょう」
ペシエラとニーズヘッグは状況の再確認を行っていた。
「学園の生徒たちの方も調べられないかしら。変に妬みを持つ者は必ず出てくるでしょうから」
「畏まりました。早急に調べて参ります」
「お願いですわよ」
ニーズヘッグは依頼を承諾すると、姿をかき消して移動した。
ニーズヘッグを見送ったペシエラは、ストロアを呼んで紅茶を用意させる。座って待っていると、ストロアが紅茶を持って部屋に戻ってきた。
「まったく、時が過ぎるのが早すぎますわね。あれだけいろいろとありましたのに、もうだいぶ過去の事なんですから」
ペシエラは紅茶には手を付けず、ストロアを見る。
「しかしまぁ、あなたまでが裏切る側だなんて思いもしませんでしたわね。ねえ、ストロア」
「な、何を仰いますか、ペシエラお嬢様」
急なペシエラの物言いに、慌てふためくストロア。
「いつもより戻って来るのが遅かったですわよ。それに……」
ペシエラは紅茶に向かって浄化魔法を使う。ただいつもの浄化魔法とは違う。紅茶や茶器から、紫色の妙な物体が浮かび上がってきた。毒である。
「こんな事をしようだなんてね。……まぁ、私もようやく思い出しただけなんですけれどね。逆行前に私を唆したのが誰なのか」
「わ、私がペシエラお嬢様を唆すだなんて、そんな事……」
ぶんぶんと首を振るストロアだったが、目の前の紫のもやを目の前にしては、言い逃れはできなかった。
「逆行前、まだチェリシアだった頃の私のお付きの侍女はストロア、あなたでしたのよ。貧乏な頃からずっと一緒。だからこそ、私はそれを信じて行動をしてきたのですわ」
笑顔で話すペシエラ。だが、ストロアにとってその笑顔が逆に怖かった。
「結果として、嘘をでっちあげての冤罪事件を起こしましたわ。それがきっかけで、王国を滅ぼす事になりましたのよ。たいそう満足でしたでしょうね」
今のストロアにとってはよく分からない話だが、心の片隅でそうですねと頷いてしまう自分が居るのに驚いた。
「まぁ、さっさとこの毒を処分して謝罪するのでしたら、私の胸三寸で済ませますけれど。でも、パープリアの下に居たインディとはかなり親密につながっていたのでしょうね。私には無理だという風に見えますわ」
ペシエラに迫られるストロア。さすがにここまで言われてしまっては、観念するしかなかった。
「……今までも何度か仕掛けてたのに、なんで効かなかったんですか」
「見れば分かるでしょう? こっそり毒を無毒化しておいたのですわ。逆行後のロゼリアと会ったその日から、常に警戒していましたもの」
ペシエラの言葉に、ストロアは黙り込んだ。
「元は子爵家ですけれど、平民の貴族への不敬は死罪でしてよ。あなたはそれに耐えられるだけの覚悟はありましたのかしら」
ペシエラから続けられる言葉に、ストロアはずっと黙り込んでいた。そして、ついには膝をついて崩れ落ちた。
「も、申し訳ございません、ペシエラお嬢様。私ったらなんて恐ろしい事を!」
泣きじゃくるストロア。だが、さすがに同情はできない。
「今はもうあなたを縛り付けたパープリアもインディも居ませんのよ。こういう真似はもうおやめなさい!」
ペシエラがこう叫ぶと、ストロアの肩に手を置く感触が伝わる。ストロアが顔を上げると、そこにはプラウスの顔があった。
「だ、だ、だ、旦那様!?」
驚いたストロアは、飛び退いて尻餅をつく。
「あら、お父様ったら趣味が悪いですわよ」
「やあ悪いね。ストロアの事はサルモアから相談を受けてずっと見張っていたんだよ。こういう洞察力は鋭いからね、妻は」
ストロアは尻餅をついたまま、恐怖に顔を歪ませている。毒殺の未遂とはいえ、これでは死罪が免れないからである。
「さて、私はこの恩知らずを処罰したいんだが、お前はどうなんだい、ペシエラ」
不敵に笑うプラウス。しかし、ペシエラはまったく表情を変えない。
「ここでパープリアとの縁を完全に捨て去るなら、私はこのままそばに置いておくつもりですわ。……まったく、お姉様のお人好しがうつってしまいましたかしら」
「お前がそう言うのなら、後は任せよう。しっかり手綱は握っておきなさい」
「ええ、分かっていますわ、お父様」
プラウスが部屋を出ていく。
「お嬢様、本当に、本当に申し訳ございませんでした!」
ストロアの号泣がしばらく部屋から響き渡るのだった。
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