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第十章 乙女ゲーム最終年
第318話 暴走なんていつもの事
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「まぁ、こんなものかしらね」
チェリシアは案を取りまとめ終わったようである。
インフェルノの住む火山の麓の村は、一応マゼンダ侯爵領内である。それなのにこんな寂れた感じでいいものだろうか。いや、よくない。その打開策のために、チェリシアはこの日頑張ったのである。
名物が無いのなら作ってしまえばいいのである。雪解け水はお酒造りにいいし、寒い地方でも育つ植物だってある。火山があるのだから地熱だって活かせる。思い出せる限りの前世の知識を使って、現地の利点を活かすのだ。
翌朝、チェリシアはトムに改革案を見せる。それを見たトムはふむふむと眺めている。
「なるほど、火山の熱と雪解け水を利用した農業ですか」
「そうそう。地熱が届いている場所は温かくなっているから、雪が積もりにくくなっているはず。だから、探せばすぐに分かるかと思うわ。まあ、温泉があるならこの辺りもそうなはずなんだけど、村は雪深いから、私の前世の常識が通用してないわね」
チェリシアが長々と語ると、トムが思い出したように言う。
「温泉の掘削深度ですが、かなり深かったですぞ。魔法を使って土を固めながらという事を除いたとしても、かなり時間が掛かりました」
「となると、地熱の地面への伝わりを阻害している原因である地表に覆い被さった土が、想像以上の厚さという事になるわね。……なら地熱利用は現実的ではないって事か」
というわけで、地熱利用による農業は諦めた方がよさげである。
「となると、温泉の源泉を利用した冬の暖房の方がいいかしらね。村の地面の下を温泉の水を通して温めるっていう方法よ。これならちょっと工事が必要になるけれど、農業とかにも活かせると思うの」
「なるほど、それはいい案ですな」
チェリシアの提案にトムは感心していた。
「まぁ、ロゼリアだけじゃなくて侯爵様やカーマイル様にも相談しなければいけないけど。ここはコーラル領じゃなくてマゼンダ領ですものね」
「しかし、空中はどうされますか。地面は温かくなっても、冬山の寒気が覆っておりますぞ」
「それはカイスで使った土魔法の小屋を使えばいいと思うわ。あっちは熱波と潮風を防ぐために建てたんだけどね」
「なるほど、外からの空気の流れを遮断するわけですな」
という感じで、チェリシアとトムによる改善案は午前中ずっと続けられたのであった。まぁさすが幻獣であり、執事も長年務めてきただけの事はある。チェリシアの出すとんでも案にちゃんとついてこれてきていた。頼もしい限りである。
「いやぁ、トムさん、ありがとうございます。これを持ってマゼンダ侯爵邸に乗り込みますね」
「いやはや、お役に立てたのなら幸いですぞ。しかし、乗り込むとはまた物騒な言い方を」
「だって、他家の領地に口を挟むんですから、乗り込むと言ってもいいじゃないかしら」
「ははは、それはそうかも知れませんが。カーマイル様と結婚なさるのであれば、チェリシア様も他家の者というわけではございませんぞ」
トムにそう言われて、珍しくチェリシアの動きが止まった。前世もずっと独り身だったので、結婚という単語に慣れていないのである。チェリシアはしばらくまごまごしていた。
「時にチェリシア様、お昼はどうされますか?」
「えっ、ああ、そうですね」
外を見てみれば、陽が高く上がっていた。周りは雪景色とあって、反射光が眩しい。
「ええ、頂いていきましょう」
食べていった方がいいと考えたチェリシアは、結局侯爵邸で昼食を食べていく事になった。そして、トムに見送られる中、チェリシアはテレポートで王都へと戻っていった。
「これで、来年からは忙しくなりそうですな」
トムは屋敷の中へと戻っていった。
王都に戻ったチェリシアは、大慌てでテレポートを使って学園へと向かう。講義の準備をしていなかったので、一度コーラル邸に戻ったからである。それにしても午前中を欠席とは、学業成績がぎりぎりのチェリシアは大丈夫なのだろうか。
「あら、お姉様、やっと戻ってこられましたのね」
教室でペシエラが無表情で出迎える。
「あはは、ただいま。いろいろ考えてたら時間忘れちゃってて」
「そういうところはお姉様ですわね。それで、何かいい案でも思いつきましたの?」
「ええ、前に提案しておいた温泉が完成してたから、そこからいろいろ何かできないか考えてきたの。あの近くには鉱山もあるし、それも絡めた上での村の在り方についてね」
「それは興味あるわね」
ペシエラとの会話に、ロゼリアも混ざり込んできた。
「トムさんとも相談した上で、いろいろと詰めてきたわ。温泉に使うお湯の一部を村に通して畑にする方法とかね」
チェリシアは教室の中で、考えてきた案をいろいろ話していた。一緒に居たアイリスは話についていけずに目を回しかけていた。
「とまぁ、こんな感じなの。マゼンダ侯爵家にもこの後報告するつもりよ。なにせマゼンダ侯爵領の話だから」
説明を終えたチェリシアの鼻息が荒い。
「それだったら、国王陛下と女王陛下にも報告しておいた方がいいわよ。下手をすると国家事業レベルの話だから」
ロゼリアはチェリシアの話を聞いた上で、冷静にそう判断を下す。
「私もそう思いますわね。鉱山絡みとなると、王家で持つ鉱山の方にも影響は出ますもの。勝手な事をして反逆の冤罪なんて嫌ですわよ」
「そっかー……」
ペシエラにまでそう言われてしまって、チェリシアは机にへたり込んだ。
「お父様たちには今日にでも報告して、陛下たちには明日話をしましょう」
というわけで、チェリシアが頑張って考えた案は段々と大ごとになり始めたようである。思い付きで動くのはやめてもらいたいと、チェリシア以外の三人は思ったのだった。
チェリシアは案を取りまとめ終わったようである。
インフェルノの住む火山の麓の村は、一応マゼンダ侯爵領内である。それなのにこんな寂れた感じでいいものだろうか。いや、よくない。その打開策のために、チェリシアはこの日頑張ったのである。
名物が無いのなら作ってしまえばいいのである。雪解け水はお酒造りにいいし、寒い地方でも育つ植物だってある。火山があるのだから地熱だって活かせる。思い出せる限りの前世の知識を使って、現地の利点を活かすのだ。
翌朝、チェリシアはトムに改革案を見せる。それを見たトムはふむふむと眺めている。
「なるほど、火山の熱と雪解け水を利用した農業ですか」
「そうそう。地熱が届いている場所は温かくなっているから、雪が積もりにくくなっているはず。だから、探せばすぐに分かるかと思うわ。まあ、温泉があるならこの辺りもそうなはずなんだけど、村は雪深いから、私の前世の常識が通用してないわね」
チェリシアが長々と語ると、トムが思い出したように言う。
「温泉の掘削深度ですが、かなり深かったですぞ。魔法を使って土を固めながらという事を除いたとしても、かなり時間が掛かりました」
「となると、地熱の地面への伝わりを阻害している原因である地表に覆い被さった土が、想像以上の厚さという事になるわね。……なら地熱利用は現実的ではないって事か」
というわけで、地熱利用による農業は諦めた方がよさげである。
「となると、温泉の源泉を利用した冬の暖房の方がいいかしらね。村の地面の下を温泉の水を通して温めるっていう方法よ。これならちょっと工事が必要になるけれど、農業とかにも活かせると思うの」
「なるほど、それはいい案ですな」
チェリシアの提案にトムは感心していた。
「まぁ、ロゼリアだけじゃなくて侯爵様やカーマイル様にも相談しなければいけないけど。ここはコーラル領じゃなくてマゼンダ領ですものね」
「しかし、空中はどうされますか。地面は温かくなっても、冬山の寒気が覆っておりますぞ」
「それはカイスで使った土魔法の小屋を使えばいいと思うわ。あっちは熱波と潮風を防ぐために建てたんだけどね」
「なるほど、外からの空気の流れを遮断するわけですな」
という感じで、チェリシアとトムによる改善案は午前中ずっと続けられたのであった。まぁさすが幻獣であり、執事も長年務めてきただけの事はある。チェリシアの出すとんでも案にちゃんとついてこれてきていた。頼もしい限りである。
「いやぁ、トムさん、ありがとうございます。これを持ってマゼンダ侯爵邸に乗り込みますね」
「いやはや、お役に立てたのなら幸いですぞ。しかし、乗り込むとはまた物騒な言い方を」
「だって、他家の領地に口を挟むんですから、乗り込むと言ってもいいじゃないかしら」
「ははは、それはそうかも知れませんが。カーマイル様と結婚なさるのであれば、チェリシア様も他家の者というわけではございませんぞ」
トムにそう言われて、珍しくチェリシアの動きが止まった。前世もずっと独り身だったので、結婚という単語に慣れていないのである。チェリシアはしばらくまごまごしていた。
「時にチェリシア様、お昼はどうされますか?」
「えっ、ああ、そうですね」
外を見てみれば、陽が高く上がっていた。周りは雪景色とあって、反射光が眩しい。
「ええ、頂いていきましょう」
食べていった方がいいと考えたチェリシアは、結局侯爵邸で昼食を食べていく事になった。そして、トムに見送られる中、チェリシアはテレポートで王都へと戻っていった。
「これで、来年からは忙しくなりそうですな」
トムは屋敷の中へと戻っていった。
王都に戻ったチェリシアは、大慌てでテレポートを使って学園へと向かう。講義の準備をしていなかったので、一度コーラル邸に戻ったからである。それにしても午前中を欠席とは、学業成績がぎりぎりのチェリシアは大丈夫なのだろうか。
「あら、お姉様、やっと戻ってこられましたのね」
教室でペシエラが無表情で出迎える。
「あはは、ただいま。いろいろ考えてたら時間忘れちゃってて」
「そういうところはお姉様ですわね。それで、何かいい案でも思いつきましたの?」
「ええ、前に提案しておいた温泉が完成してたから、そこからいろいろ何かできないか考えてきたの。あの近くには鉱山もあるし、それも絡めた上での村の在り方についてね」
「それは興味あるわね」
ペシエラとの会話に、ロゼリアも混ざり込んできた。
「トムさんとも相談した上で、いろいろと詰めてきたわ。温泉に使うお湯の一部を村に通して畑にする方法とかね」
チェリシアは教室の中で、考えてきた案をいろいろ話していた。一緒に居たアイリスは話についていけずに目を回しかけていた。
「とまぁ、こんな感じなの。マゼンダ侯爵家にもこの後報告するつもりよ。なにせマゼンダ侯爵領の話だから」
説明を終えたチェリシアの鼻息が荒い。
「それだったら、国王陛下と女王陛下にも報告しておいた方がいいわよ。下手をすると国家事業レベルの話だから」
ロゼリアはチェリシアの話を聞いた上で、冷静にそう判断を下す。
「私もそう思いますわね。鉱山絡みとなると、王家で持つ鉱山の方にも影響は出ますもの。勝手な事をして反逆の冤罪なんて嫌ですわよ」
「そっかー……」
ペシエラにまでそう言われてしまって、チェリシアは机にへたり込んだ。
「お父様たちには今日にでも報告して、陛下たちには明日話をしましょう」
というわけで、チェリシアが頑張って考えた案は段々と大ごとになり始めたようである。思い付きで動くのはやめてもらいたいと、チェリシア以外の三人は思ったのだった。
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