322 / 529
第十章 乙女ゲーム最終年
第317話 火山の麓の村
しおりを挟む
ロゼリアやペシエラが忘れていた事にはたくさんある。
「アイリス、トムさんと連絡取れるかしら」
「チェリシア、どうしたの?」
オークの件が片付いた翌日、チェリシアはアイリスに声を掛けていた。
「いやね、マゼンダ領の火山の麓の村があるじゃないの。あそこで開こうとしてた温泉と旅館がどうなったのか、確認しようと思うの。いきなり訪ねるのも迷惑かなと思ってね」
チェリシアはまたとんでもない事を画策していたようだ。確かに活火山があれば温泉が湧く可能性はあるのだが、いくらなんでもこの世界でそれはどうだろうかと思われる。
「分かったわ、ちょっと待ってて」
無下に断るのも何なので、アイリスはトムへと連絡を取る。蒼鱗魚が居れば契約外の神獣や幻獣とも連絡は取れるのだ。
「……そう、分かりました」
アイリスとトムとの念話が終わる。
「どうだったの?」
チェリシアがアイリスに顔を近付ける。圧が凄い。
「えと、温泉も宿もできてるそうなんです」
とりあえず、念話の内容を簡単に伝えるアイリス。
「そっか、じゃあ、今から行って確認するわ」
「はい?」
「明日帰ってくるから、夕飯も朝食も要らないって伝えておいて、キャノル」
「はぁ? ちょっと待ちなよ、チェリシア様」
キャノルが止めるのも聞かず、チェリシアは伝えるだけ伝えるとテレポートで火山の麓の村まで飛んでしまった。
「はぁ、お姉様って本当にこういう時は行動が早いですわね」
ペシエラも呆れていた。
「お待ちしておりました、チェリシア様」
「お出迎えご苦労様です、トムさん」
チェリシアがやって来たのは、村に新設された新しいマゼンダ侯爵の分邸である。既にこの夏に一度ヴァミリオたちが訪れている。
「あまり貴族体の対応でなくてよろしいですからね。今日はマゼンダ商会の運営の一員として来てるわけですから」
「いえいえ、そうは参りません。お嬢様の大切な親友なのですから、相応の対応をしませんと旦那様から叱られます」
トムは幻獣の割にはしっかり職業病なものが身に付いていた。長らくマゼンダ侯爵家を支えてきた自負のようなものがあるのだろう。
さて、分邸で軽く休憩をした後、件の温泉旅館を見せてもらった。
この世界では日本のような瓦屋根を期待できないのが、簡単なイメージイラストを渡しておいた。間取りも貴族向けと庶民向けの両方を用意しておいた。そうして出来上がったのが、
「おお、これはなかなかいいんじゃないかしら」
高級感あふれる宿屋だった。寒い場所に建つので、窓などには防寒対策も取られている。
内装も確認していく。そのどれ一つとってもチェリシアは満足だった。これなら後はお風呂と食事である。
「肝心のお風呂はどうかしらね」
床は近くの鉱山で掘り出されてきた鉱石を使っているようである。お湯は程よい温度に調整されており、これなら入ってもやけどはしなさそうである。
「湯船に浸かるという話でしたので、この辺りの妖精に頼んで温度を調整してもらっております」
「そっか、この温度なら大丈夫よ」
温泉と宿ができているなら、後はここへ人を呼び込む産業といったところだろう。これもチェリシアはすでに対策済み。ロゼリアたちマゼンダ家との話の中で鉱山の話は聞いていたのである。王家の持つ鉱山とは別口の鉱山だが、場所自体は近い。当面は鉱山で採れる鉱石と職人を揃えて、徐々に他の産業も増やしていく方針だ。
特にしたいのは雪山が近くにあるのでスキーである。チェリシアも尻餅をつくくらいには嗜んだ。火山があるとはいってもこの辺りは夏でも涼しいので、避暑地として売り出すのもいいかも知れない。チェリシアの頭の中にはいろいろと考えが浮かんできた。
しかし、ここはマゼンダ領である。他家が安易に口を出していいはずがない。一度マゼンダ侯爵家に様々な案を話しておくべきだろう。
「一度ロゼリアたちと話をしましょう」
「その方がよいかと思われます」
というわけで、翌日までの滞在中は、活用案をいろいろと出す事にしたのだった。なにせ、雪山と火山、近くには鉱山もあるというなかなか面白い場所だ。しかもこの場所、山に沿って西へ進むと例の王家の直轄地に至る。そう、先日オークのために提供された手つかずの場所である。
(インフェルノが居るのに、雪崩も起きないっていうのは不思議よね。そういう意味では安心な場所なんだけど)
チェリシアはこの地を売り出す文句として、インフェルノの加護を打ち出そうと考えた。まぁ、本人に確認しようとしても面倒だと言って断られそうだから、こっそり書き加えておくつもりである。
「はっはっは、それくらいだったら構わないと思いますよ。気難しい方ですが、その辺はおおらかですから」
トムに確認すれば、思い切り笑われてしまった。
「しかし、この地は元々近くの鉱山のためだけに作られた村。ただ、その過酷な環境のためにこのように寂れているのです。チェリシア様の発案のおかげでしばらく盛り上がりましたが、今はまたこの有様ですからね」
飲み物を用意しながら、トムはそのように話している。確かに、寒い時期だからという事を考慮しても、まったく活気が見られない。このままでは、鉱山がある地域とはいっても、すぐ近くの流刑地にも劣る村となってしまいそうだった。よく今までもっていたものだ。
「これは、急いだ方がいいかも知れないわね」
チェリシアは鉱山を中心とした案から取りまとめる事にしたのだった。
「アイリス、トムさんと連絡取れるかしら」
「チェリシア、どうしたの?」
オークの件が片付いた翌日、チェリシアはアイリスに声を掛けていた。
「いやね、マゼンダ領の火山の麓の村があるじゃないの。あそこで開こうとしてた温泉と旅館がどうなったのか、確認しようと思うの。いきなり訪ねるのも迷惑かなと思ってね」
チェリシアはまたとんでもない事を画策していたようだ。確かに活火山があれば温泉が湧く可能性はあるのだが、いくらなんでもこの世界でそれはどうだろうかと思われる。
「分かったわ、ちょっと待ってて」
無下に断るのも何なので、アイリスはトムへと連絡を取る。蒼鱗魚が居れば契約外の神獣や幻獣とも連絡は取れるのだ。
「……そう、分かりました」
アイリスとトムとの念話が終わる。
「どうだったの?」
チェリシアがアイリスに顔を近付ける。圧が凄い。
「えと、温泉も宿もできてるそうなんです」
とりあえず、念話の内容を簡単に伝えるアイリス。
「そっか、じゃあ、今から行って確認するわ」
「はい?」
「明日帰ってくるから、夕飯も朝食も要らないって伝えておいて、キャノル」
「はぁ? ちょっと待ちなよ、チェリシア様」
キャノルが止めるのも聞かず、チェリシアは伝えるだけ伝えるとテレポートで火山の麓の村まで飛んでしまった。
「はぁ、お姉様って本当にこういう時は行動が早いですわね」
ペシエラも呆れていた。
「お待ちしておりました、チェリシア様」
「お出迎えご苦労様です、トムさん」
チェリシアがやって来たのは、村に新設された新しいマゼンダ侯爵の分邸である。既にこの夏に一度ヴァミリオたちが訪れている。
「あまり貴族体の対応でなくてよろしいですからね。今日はマゼンダ商会の運営の一員として来てるわけですから」
「いえいえ、そうは参りません。お嬢様の大切な親友なのですから、相応の対応をしませんと旦那様から叱られます」
トムは幻獣の割にはしっかり職業病なものが身に付いていた。長らくマゼンダ侯爵家を支えてきた自負のようなものがあるのだろう。
さて、分邸で軽く休憩をした後、件の温泉旅館を見せてもらった。
この世界では日本のような瓦屋根を期待できないのが、簡単なイメージイラストを渡しておいた。間取りも貴族向けと庶民向けの両方を用意しておいた。そうして出来上がったのが、
「おお、これはなかなかいいんじゃないかしら」
高級感あふれる宿屋だった。寒い場所に建つので、窓などには防寒対策も取られている。
内装も確認していく。そのどれ一つとってもチェリシアは満足だった。これなら後はお風呂と食事である。
「肝心のお風呂はどうかしらね」
床は近くの鉱山で掘り出されてきた鉱石を使っているようである。お湯は程よい温度に調整されており、これなら入ってもやけどはしなさそうである。
「湯船に浸かるという話でしたので、この辺りの妖精に頼んで温度を調整してもらっております」
「そっか、この温度なら大丈夫よ」
温泉と宿ができているなら、後はここへ人を呼び込む産業といったところだろう。これもチェリシアはすでに対策済み。ロゼリアたちマゼンダ家との話の中で鉱山の話は聞いていたのである。王家の持つ鉱山とは別口の鉱山だが、場所自体は近い。当面は鉱山で採れる鉱石と職人を揃えて、徐々に他の産業も増やしていく方針だ。
特にしたいのは雪山が近くにあるのでスキーである。チェリシアも尻餅をつくくらいには嗜んだ。火山があるとはいってもこの辺りは夏でも涼しいので、避暑地として売り出すのもいいかも知れない。チェリシアの頭の中にはいろいろと考えが浮かんできた。
しかし、ここはマゼンダ領である。他家が安易に口を出していいはずがない。一度マゼンダ侯爵家に様々な案を話しておくべきだろう。
「一度ロゼリアたちと話をしましょう」
「その方がよいかと思われます」
というわけで、翌日までの滞在中は、活用案をいろいろと出す事にしたのだった。なにせ、雪山と火山、近くには鉱山もあるというなかなか面白い場所だ。しかもこの場所、山に沿って西へ進むと例の王家の直轄地に至る。そう、先日オークのために提供された手つかずの場所である。
(インフェルノが居るのに、雪崩も起きないっていうのは不思議よね。そういう意味では安心な場所なんだけど)
チェリシアはこの地を売り出す文句として、インフェルノの加護を打ち出そうと考えた。まぁ、本人に確認しようとしても面倒だと言って断られそうだから、こっそり書き加えておくつもりである。
「はっはっは、それくらいだったら構わないと思いますよ。気難しい方ですが、その辺はおおらかですから」
トムに確認すれば、思い切り笑われてしまった。
「しかし、この地は元々近くの鉱山のためだけに作られた村。ただ、その過酷な環境のためにこのように寂れているのです。チェリシア様の発案のおかげでしばらく盛り上がりましたが、今はまたこの有様ですからね」
飲み物を用意しながら、トムはそのように話している。確かに、寒い時期だからという事を考慮しても、まったく活気が見られない。このままでは、鉱山がある地域とはいっても、すぐ近くの流刑地にも劣る村となってしまいそうだった。よく今までもっていたものだ。
「これは、急いだ方がいいかも知れないわね」
チェリシアは鉱山を中心とした案から取りまとめる事にしたのだった。
1
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~
白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。
タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。
小説家になろうでも公開しています。
https://ncode.syosetu.com/n5715cb/
カクヨムでも公開してします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500
●現状あれこれ
・2021/02/21 完結
・2020/12/16 累計1000000ポイント達成
・2020/12/15 300話達成
・2020/10/05 お気に入り700達成
・2020/09/02 累計ポイント900000達成
・2020/04/26 累計ポイント800000達成
・2019/11/16 累計ポイント700000達成
・2019/10/12 200話達成
・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成
・2019/06/08 累計ポイント600000達成
・2019/04/20 累計ポイント550000達成
・2019/02/14 累計ポイント500000達成
・2019/02/04 ブックマーク500達成

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる