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第十章 乙女ゲーム最終年
第316話 一つずれればすべてがずれる
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オークの群れの一件は平穏無事に終わった。それにしても、アイリスとの契約が発動して、言葉が通じるようになるとは思わなかった。おかげで移住後のトラブルは少なくなりそうである。その移住先まではラルクが案内する事となったため、しばらくラルクは王都から不在となった。
「パーティーの事もございますので、年末には戻ります」
ラルクはそう言ってオークの群れを引き連れていった。ぞろぞろと移動していくオークの群れは、それはそれは圧巻の景色だった。
「これがお姉様の言われていた魔物襲撃かしら。学園祭から年末パーティーの間に、攻略対象の一部のシナリオでは魔物による襲撃があると言われてましたもの」
その姿を見送ったペシエラが独り言を言う。
「あー、でも、それって私たちですよね」
ライがそれを拾って反応する。一応チェリシアからひと通り聞いているからできる反応である。
「ええ、アイリスお姉様の配下に加わった、六体の魔物ですわ」
「タウロさんも対象って事ですかね」
「六体ならそうでしょうね」
ラルク、トルフ、アックス、ライ、ルゼの五体に、タウロを含めた六体。チェリシアはうろ覚えだったようだが、ロゼリアと共有したメモの中にはそう記してあった。実際には名前じゃなくて種族名で記してあったが、まぁ間違いないだろう。
一年早く、アクアマリンで行われた二年次の夏合宿に現れた六体の魔物は、確かに桁違いの力を持っていた。ただ、あの時点でインフェルノがアイリスとの契約を済ませていたがために、無事にタウロを打ち倒す事ができた。もし、アイリス抜きだった場合は、最悪の自体だってあり得ただろう。一年目の夏の時点で最善手を取っていた事になるのだ。
(本当はアイリスを死なないようにしただけですけれど、本当に人生って分かりませんわね)
家に戻ったペシエラとアイリスは、留守番していたチェリシアに事のあらましを全部伝えておいた。聞こうとしてうるさくすると考えたので、先に全部話してしまう事にしたのだ。
「そっか。ラルクさん、仲間に会えたんだね。よかったわ」
チェリシアは意外にもホッとした様子だった。
「でも、チャットフォン大活躍だったわね」
「ええ、役に立ちましたわ。でも……」
「でも?」
「アクアマリンに着いた時に気が付けば、無駄足を踏まずに済んだ気がしますのよ。実際王都まで五日間掛かりましたもの」
ペシエラはこの点だけを悔やんだ。どうしてもっと早く思い出さなかったのか。
「滅多に使う物でもなかったから、そこは仕方ないんじゃないのかな。いずれにしても、無事平和的に終わったならいいじゃないの」
チェリシアはこう言って、ペシエラを労った。
「アイリスも、お疲れ様」
「はい、ありがとうございます」
報告を受けたチェリシアは、ぽんと手を叩いた。
「そうとなれば、今夜のご飯は私が腕を振るいましょう。妹たちを労うのは姉の役目なんだから」
チェリシアはそう言って、厨房まで走っていった。
「ちょっと、お姉様?!」
「あはは、チェリシアって相変わらずね」
ペシエラは慌てて止めようとしたが間に合わず、アイリスは苦笑いを浮かべていた。仕方ないので、でき上がって呼ばれるまでチャットフォンの使用感を話し合っていた。
「さあ、できたわよ」
一時間もすればチェリシアが呼びに来た。一時間で料理したのだから、手間のかからないものだろうと思っていた時期がありました。そしたらば、食卓の上に並んだのは豪華な料理だった。
「フォレストバードの肉のソテーに、厚揚げを使ったシチューとか、見た目は豪華にしてみたわ」
「……料理店を開けるような腕前ですわね」
「本当、私たちにはできないわね」
そんなわけで、チェリシアが作った料理を味わいながら、ペシエラとアイリスはチャットフォンの事でチェリシアにいろいろと話をした。
チャットフォン自体は使えるのは血の登録をした本人だけだが、使用中の状態なら本人から離れても問題なく使えていた事を話す。実際、土で作った土台に乗せたり、風魔法で浮かせたりしながら使用して、王族とオークたちの間で話ができていた。
「うーん、それ自体は想定した使い方だから問題ないわよ」
チェリシアの見解自体はこうだった。
「本人からどれくらい離れていても使えたのか、むしろ聞きたいのはそっちかな」
まったく予想していなかった方向の要求だった。
「せいぜい一メートルくらいですわよ。離れすぎると使えないと思ってましたから」
「はい、私の方もそれくらいですね」
「ふむふむ、一メートルなら鮮明だったと……」
チェリシアは何やらぶつくさと言い始めた。どうも研究者気質があるようだったが、
「チェリシア、今は食事中だ。そういうのは後にしなさい」
「あ、はい、お父様」
プラウスに注意されて、食事に戻る。
「ほほほ、チェリシアは本当に研究熱心ね」
サルモアも感動しているのか呆れているのか、微妙な表情でチェリシアを褒めていた。
こういうチェリシアの気質があったからこそ、コーラル家はかなり裕福な生活を送れるようになったので、どうにも責めきれない。マゼンダ侯爵家の嫡男カーマイルとの婚約が決まったのは嬉しかったが、コーラル家の悩みはまだ尽きそうになかった。
「パーティーの事もございますので、年末には戻ります」
ラルクはそう言ってオークの群れを引き連れていった。ぞろぞろと移動していくオークの群れは、それはそれは圧巻の景色だった。
「これがお姉様の言われていた魔物襲撃かしら。学園祭から年末パーティーの間に、攻略対象の一部のシナリオでは魔物による襲撃があると言われてましたもの」
その姿を見送ったペシエラが独り言を言う。
「あー、でも、それって私たちですよね」
ライがそれを拾って反応する。一応チェリシアからひと通り聞いているからできる反応である。
「ええ、アイリスお姉様の配下に加わった、六体の魔物ですわ」
「タウロさんも対象って事ですかね」
「六体ならそうでしょうね」
ラルク、トルフ、アックス、ライ、ルゼの五体に、タウロを含めた六体。チェリシアはうろ覚えだったようだが、ロゼリアと共有したメモの中にはそう記してあった。実際には名前じゃなくて種族名で記してあったが、まぁ間違いないだろう。
一年早く、アクアマリンで行われた二年次の夏合宿に現れた六体の魔物は、確かに桁違いの力を持っていた。ただ、あの時点でインフェルノがアイリスとの契約を済ませていたがために、無事にタウロを打ち倒す事ができた。もし、アイリス抜きだった場合は、最悪の自体だってあり得ただろう。一年目の夏の時点で最善手を取っていた事になるのだ。
(本当はアイリスを死なないようにしただけですけれど、本当に人生って分かりませんわね)
家に戻ったペシエラとアイリスは、留守番していたチェリシアに事のあらましを全部伝えておいた。聞こうとしてうるさくすると考えたので、先に全部話してしまう事にしたのだ。
「そっか。ラルクさん、仲間に会えたんだね。よかったわ」
チェリシアは意外にもホッとした様子だった。
「でも、チャットフォン大活躍だったわね」
「ええ、役に立ちましたわ。でも……」
「でも?」
「アクアマリンに着いた時に気が付けば、無駄足を踏まずに済んだ気がしますのよ。実際王都まで五日間掛かりましたもの」
ペシエラはこの点だけを悔やんだ。どうしてもっと早く思い出さなかったのか。
「滅多に使う物でもなかったから、そこは仕方ないんじゃないのかな。いずれにしても、無事平和的に終わったならいいじゃないの」
チェリシアはこう言って、ペシエラを労った。
「アイリスも、お疲れ様」
「はい、ありがとうございます」
報告を受けたチェリシアは、ぽんと手を叩いた。
「そうとなれば、今夜のご飯は私が腕を振るいましょう。妹たちを労うのは姉の役目なんだから」
チェリシアはそう言って、厨房まで走っていった。
「ちょっと、お姉様?!」
「あはは、チェリシアって相変わらずね」
ペシエラは慌てて止めようとしたが間に合わず、アイリスは苦笑いを浮かべていた。仕方ないので、でき上がって呼ばれるまでチャットフォンの使用感を話し合っていた。
「さあ、できたわよ」
一時間もすればチェリシアが呼びに来た。一時間で料理したのだから、手間のかからないものだろうと思っていた時期がありました。そしたらば、食卓の上に並んだのは豪華な料理だった。
「フォレストバードの肉のソテーに、厚揚げを使ったシチューとか、見た目は豪華にしてみたわ」
「……料理店を開けるような腕前ですわね」
「本当、私たちにはできないわね」
そんなわけで、チェリシアが作った料理を味わいながら、ペシエラとアイリスはチャットフォンの事でチェリシアにいろいろと話をした。
チャットフォン自体は使えるのは血の登録をした本人だけだが、使用中の状態なら本人から離れても問題なく使えていた事を話す。実際、土で作った土台に乗せたり、風魔法で浮かせたりしながら使用して、王族とオークたちの間で話ができていた。
「うーん、それ自体は想定した使い方だから問題ないわよ」
チェリシアの見解自体はこうだった。
「本人からどれくらい離れていても使えたのか、むしろ聞きたいのはそっちかな」
まったく予想していなかった方向の要求だった。
「せいぜい一メートルくらいですわよ。離れすぎると使えないと思ってましたから」
「はい、私の方もそれくらいですね」
「ふむふむ、一メートルなら鮮明だったと……」
チェリシアは何やらぶつくさと言い始めた。どうも研究者気質があるようだったが、
「チェリシア、今は食事中だ。そういうのは後にしなさい」
「あ、はい、お父様」
プラウスに注意されて、食事に戻る。
「ほほほ、チェリシアは本当に研究熱心ね」
サルモアも感動しているのか呆れているのか、微妙な表情でチェリシアを褒めていた。
こういうチェリシアの気質があったからこそ、コーラル家はかなり裕福な生活を送れるようになったので、どうにも責めきれない。マゼンダ侯爵家の嫡男カーマイルとの婚約が決まったのは嬉しかったが、コーラル家の悩みはまだ尽きそうになかった。
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