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第十章 乙女ゲーム最終年
第315話 思わぬ活躍
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行きはエアリアルボードで早かったが、帰りはオークたちを引き連れて道なりだったために、倍以上の日数がかかってしまった。しかも、アクアマリン領の関所で手間取る始末だった。魔物が大所帯で移動してくれば仕方のない話だが、そこはラルクのおかげで結構早く片が付いてよかった。
王都に戻ったペシエラたちは、王都の外でラルクと一緒にオークたちを待機させる。オークたちが紳士的とはいえ、王国騎士団のラルクをつかせていないとただの魔物と勘違いされるからである。
というわけで、ペシエラ、アイリス、ライの三人は取り急ぎ国王と女王へ報告に向かった。
「……というわけなんです」
ペシエラの報告を受けて、国王も女王も真剣に唸った。人を襲わないオークの群れというのが信じられないからである。
「ラルクが率いていたというのなら、多少信頼はできるが、やはりオークはな……」
国王が非常に難しい顔をしていた。
「あの……」
「何かな、アイリス」
「差し出がましいのですが、一度お話をしてみてはいかがと思います。ラルクさんが通訳をしてくれますので、一応話は通じるかと」
アイリスがこう申し出ると、国王たちは悩んだ。だが、アイリスはちょうどいい物を持っていた事を思い出したのである。
「直接会うのが難しいのなら、これを使ってみてはいかがでしょうか」
アイリスが何かを取り出して、国王たちに見せた。それは、チェリシアが開発したチャットフォンである。
「ああ、チャットフォンですわね。これならば離れた場所でも会話ができますわね」
ペシエラは国王と王妃に、チャットフォンについて説明する。その機能に二人は驚いていた。シルヴァノも持っていると聞いてさらに驚いた。
「ですので、私とライの二人で、オークたちのところへ行って参ります。このチャットフォンとペシエラのチャットフォンを通話状態にしておけば、この場を動かずとも会話ができます」
アイリスは強く言い切った。
それにしてもまさか、こういう場面でチェリシアが作った魔道具が役に立とうとは、一体本人も思っただろうか。それは絶対にないだろう。
アイリスはライを連れて、王都の外に待たせてあるオークたちのところへと急いだ。
「ラルクさん、お待たせしました」
「おお、主人。どうでしたかな」
「国王陛下も女王陛下も、この場に来る事は叶いませんでした」
「それでは、一体どうされるおつもりで」
ラルクが困った顔をしてアイリスに問う。
「チェリシアの作った、この魔道具を使います」
アイリスはチャットフォンを取り出すと、早速ペシエラをイメージしながら魔力を通す。すると、その薄い板にペシエラの姿が映し出された。
「ペシエラ、聞こえてる?」
『ええ、余裕過ぎるくらいに聞こえてますわよ、アイリスお姉様』
無事に通話ができているようである。さすが、料理と魔道具ではあまり失敗しないチェリシアである。
アイリスはチャットフォンの画面をラルクたちの方に向ける。すると、ペシエラのチャットフォンには、ラルクたちオークが映し出された。なんとも狭くて暑苦しい絵面である。
「おお、ペシエラ殿が見える。これがチェリシア殿の技術なのか」
アイリスのチャットフォンにはペシエラが映し出されており、ラルクたちも感動していた。これには後ろのオークたちも驚いて騒いでいた。それにしても、ラルクはチャットフォンがチェリシアの作った物だと知っていたようだ。多分、ペイルあたりが自慢でもしたのだろう。
というわけで、双方の通話状況が確認できたので、話し合いが始まった。持っていると腕が疲れてきて大変だったので、アイリスの方はライの土魔法で土台を作ってそこに置き、ペシエラの方は風魔法で浮かせ続けた。それでもチャットフォンは動作し続けており、魔力でオンオフを操作しない限りは継続的に使えるようである。
さて、国王たちとオークたちの話も意外とあっさり決まったようである。
王家の直轄地に手の届いていない土地があり、そこをオークたちに提供する事になった。国に対して害がなければ居住を認める方針のようだ。国にしてもらっても構わないが、その場合はアイヴォリーの属国扱いである。オークたちは住処があるのなら文句はないといった様子である。
ただ、その直轄地の場所は、マゼンダとアクアマリンの境界付近で、少々寒い地域のようだった。
「私どもの住んでいた地域よりは暖かいと思います。それとこの辺りは鉱山も近いようですし、よろしければ労働力として使って頂いて構いません」
ラルクがオークたちの総意としてそう言っているので、心配はないと思われる。
「我らは、アイヴォリーに忠誠を誓います。主人、もちろんあなたにもです」
ラルクが跪く。すると、それに倣うようにオークたちも次々と跪いていった。なんともすごい光景である。
その次の瞬間、不思議な光がアイリスから放たれ、ラルクを通じてオークたちへと伝播していった。
「あらら、これは契約の証みたいね。私みたいな個で行動する魔物と違って、オークは集団生活だから、リーダーが認めればそれが群れ全体の共通の認識になるってやつだわ」
「という事は?」
「主人は、このオークの集団の新たな主人になったって事ね。ラルクほどじゃないけど、このオークたちもそれなりの変化が出てるはずよ」
ライが不思議な光の解説をしてくれた。ラルクと契約をしていたからこそ起きた現象のようである。
「我らオークナイト、主人とこの国のために尽力しましょうぞ」
うん、喋ったあぁぁぁっ!!?
王都に戻ったペシエラたちは、王都の外でラルクと一緒にオークたちを待機させる。オークたちが紳士的とはいえ、王国騎士団のラルクをつかせていないとただの魔物と勘違いされるからである。
というわけで、ペシエラ、アイリス、ライの三人は取り急ぎ国王と女王へ報告に向かった。
「……というわけなんです」
ペシエラの報告を受けて、国王も女王も真剣に唸った。人を襲わないオークの群れというのが信じられないからである。
「ラルクが率いていたというのなら、多少信頼はできるが、やはりオークはな……」
国王が非常に難しい顔をしていた。
「あの……」
「何かな、アイリス」
「差し出がましいのですが、一度お話をしてみてはいかがと思います。ラルクさんが通訳をしてくれますので、一応話は通じるかと」
アイリスがこう申し出ると、国王たちは悩んだ。だが、アイリスはちょうどいい物を持っていた事を思い出したのである。
「直接会うのが難しいのなら、これを使ってみてはいかがでしょうか」
アイリスが何かを取り出して、国王たちに見せた。それは、チェリシアが開発したチャットフォンである。
「ああ、チャットフォンですわね。これならば離れた場所でも会話ができますわね」
ペシエラは国王と王妃に、チャットフォンについて説明する。その機能に二人は驚いていた。シルヴァノも持っていると聞いてさらに驚いた。
「ですので、私とライの二人で、オークたちのところへ行って参ります。このチャットフォンとペシエラのチャットフォンを通話状態にしておけば、この場を動かずとも会話ができます」
アイリスは強く言い切った。
それにしてもまさか、こういう場面でチェリシアが作った魔道具が役に立とうとは、一体本人も思っただろうか。それは絶対にないだろう。
アイリスはライを連れて、王都の外に待たせてあるオークたちのところへと急いだ。
「ラルクさん、お待たせしました」
「おお、主人。どうでしたかな」
「国王陛下も女王陛下も、この場に来る事は叶いませんでした」
「それでは、一体どうされるおつもりで」
ラルクが困った顔をしてアイリスに問う。
「チェリシアの作った、この魔道具を使います」
アイリスはチャットフォンを取り出すと、早速ペシエラをイメージしながら魔力を通す。すると、その薄い板にペシエラの姿が映し出された。
「ペシエラ、聞こえてる?」
『ええ、余裕過ぎるくらいに聞こえてますわよ、アイリスお姉様』
無事に通話ができているようである。さすが、料理と魔道具ではあまり失敗しないチェリシアである。
アイリスはチャットフォンの画面をラルクたちの方に向ける。すると、ペシエラのチャットフォンには、ラルクたちオークが映し出された。なんとも狭くて暑苦しい絵面である。
「おお、ペシエラ殿が見える。これがチェリシア殿の技術なのか」
アイリスのチャットフォンにはペシエラが映し出されており、ラルクたちも感動していた。これには後ろのオークたちも驚いて騒いでいた。それにしても、ラルクはチャットフォンがチェリシアの作った物だと知っていたようだ。多分、ペイルあたりが自慢でもしたのだろう。
というわけで、双方の通話状況が確認できたので、話し合いが始まった。持っていると腕が疲れてきて大変だったので、アイリスの方はライの土魔法で土台を作ってそこに置き、ペシエラの方は風魔法で浮かせ続けた。それでもチャットフォンは動作し続けており、魔力でオンオフを操作しない限りは継続的に使えるようである。
さて、国王たちとオークたちの話も意外とあっさり決まったようである。
王家の直轄地に手の届いていない土地があり、そこをオークたちに提供する事になった。国に対して害がなければ居住を認める方針のようだ。国にしてもらっても構わないが、その場合はアイヴォリーの属国扱いである。オークたちは住処があるのなら文句はないといった様子である。
ただ、その直轄地の場所は、マゼンダとアクアマリンの境界付近で、少々寒い地域のようだった。
「私どもの住んでいた地域よりは暖かいと思います。それとこの辺りは鉱山も近いようですし、よろしければ労働力として使って頂いて構いません」
ラルクがオークたちの総意としてそう言っているので、心配はないと思われる。
「我らは、アイヴォリーに忠誠を誓います。主人、もちろんあなたにもです」
ラルクが跪く。すると、それに倣うようにオークたちも次々と跪いていった。なんともすごい光景である。
その次の瞬間、不思議な光がアイリスから放たれ、ラルクを通じてオークたちへと伝播していった。
「あらら、これは契約の証みたいね。私みたいな個で行動する魔物と違って、オークは集団生活だから、リーダーが認めればそれが群れ全体の共通の認識になるってやつだわ」
「という事は?」
「主人は、このオークの集団の新たな主人になったって事ね。ラルクほどじゃないけど、このオークたちもそれなりの変化が出てるはずよ」
ライが不思議な光の解説をしてくれた。ラルクと契約をしていたからこそ起きた現象のようである。
「我らオークナイト、主人とこの国のために尽力しましょうぞ」
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