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第十章 乙女ゲーム最終年
第308話 短気は損気
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さて、武術大会の話に戻る。
シルヴァノ対シェイディアの戦いは、拮抗しながらもシルヴァノに軍配が上がった。やはり男女の差の壁は厚かったようで、まともに打ち合いをしてしまったシェイディアの腕が痺れてしまったのだ。まるでおととしのペシエラのような失敗である。
こうして一回戦がすべて消化され、二回戦が始まる。
二回戦もいきなり好カード。ペシエラ対ペイルである。
「ようやくこの時が来たな、ペシエラ」
「またコテンパンにされに来たのですか? ペイル殿下」
「ほざけ。俺を以前の俺だと思うなよ?」
ペイルが煽ってくるので、ペシエラも煽り返す。そしたらば、ペイルの反応が分かりやすいったらありゃしない。相変わらずの短気な性格である。
「ふん、オフライトとの戦いの疲労とか残していないだろうな?」
「あら、心配して下さりますの? お優しいことで」
ペイルが煽れば、ペシエラはまた煽り返す。まったく仲の悪いことである。
だが、そのやり取りもこの一言で終わりを迎えた。
「始め!」
そう、戦いの火ぶたが切って落とされたのだ。
二人ともそろって瞬時に踏み込んでいく。そして、挨拶代わりにと剣をぶつけ合った。
「私相手にロングソードとは、ずいぶん大人げないのですね」
「有利な点は活かしてこその戦いだろう?」
「ふふっ、確かにそうですわね」
ペシエラは剣を弾くと、距離を取って身の軽さを活かして動き回る。風魔法も使いながら、まるで分身しているように残像が見えている。ペシエラを目で追うペイルは、この状況に混乱しているようだ。
「くっ!」
ペイルはすべてを目で追ってしまっていた。
「正直、オフライト様との戦いの疲れが残ってますのでね。いくらペイル殿下とはいえ、早めに決着を着けさせて頂きますわ」
分身しながらペシエラは、ペイルを更に煽った。
「なめてくれるなよ?」
ペイルは完全に頭に血が上りつつあった。このままではペシエラの術中に嵌ってしまう。
「そこだっ!」
一瞬強まった気配に、ペイルが攻撃を仕掛ける。だが、それは虚しく空を斬っただけだった。
次の瞬間、ペイルの背中に痛みが走る。ペシエラの一撃が入ったのである。
「くそっ」
ペイルは更に逆上する。こうなってくるとペシエラの一方的な展開になってくる。ペイルの頭に血が上りやすい性格を利用した、ペシエラの頭脳作戦が見事に決まったのである。
こうなってくると、ペイルには逆転の目はない。ちょこまかと動いては一撃を入れるペシエラの攻撃に、じわじわとペイルの神経は削られていったのである。
結局、ペイルはペシエラの姿を捉える事ができずに、膝をついてしまった。
「勝者、ペシエラ選手」
その姿に、審判にこう宣言されてしまった。
「待て、俺はまだ戦える!」
ペイルは声を上げて講義をしたが認められなかった。審判はペイルの脚が震えているのを見逃さなかったのだ。
実は途中から、ペシエラの攻撃は下半身、特に脚へと集中していたのである。そのため、ペイルの脚は痙攣を起こして立てなくなったのだ。
「この勝負、実は始まる前に決着してましたのよ」
「なんだと?!」
ペシエラがペイルに衝撃の事実を告げる。
「最初の煽り合いの時点で、ペイル殿下は冷静さを失っていたのですわ。そこで私は足で撹乱して、更に殿下の集中を奪う事にしましたの」
なんとまあ、試合前の言い合いの時点で既に決していたと言われたのである。
「ロゼリアと結婚して、モスグリネの王になるようですけれど、さすがにその頭に血が上りやすい性格をどうにかすべきですわね。ロゼリアの気苦労が絶えない姿が、すぐに想像できてしまいますわ」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて、ペイルは負けを認めたのだった。
「ですが、正直、今度はちゃんと剣を交えてみたいですわね。試合でしたから、勝つために手段を選びませんでしたもの。正直言って不本意ですわ」
ペシエラはこう言って武台から降りていった。
ペシエラはああは言っていたが、小細工をしたのはオフライトとの戦いで消耗していたからである。つまり、ペイルとまともに打ち合う事を、最初の一撃で避けるべきだと判断したという事である。
だが、どういう理由があれ、試合は勝ちである。負けたペイルはしばらくこの場を動けなかった。そして、救護班に担がれて武台から降りていった。脚はまだ痺れているようで、歩きづらそうにしていたのが印象的だった。
予想外な一戦が終わった後も、武術大会は続けられた。さすがに決勝トーナメントともなれば、どの一戦も見応えがあるものばかりである。
そして、迎えた決勝戦。
「さあ、今年の武術大会も、残すは決勝戦だけとなりました」
司会がこのようにアナウンスすると、武台の上に二人の人物が上がった。
「さあ、その容姿からは想像できない機敏な動きで相手を翻弄。蝶のように舞い鉢のように刺す。美しい戦い方が聴衆を魅了する」
こう紹介されるのは、ドレス風制服にハイヒールブーツという、戦いにそぐわない姿の令嬢だった。
「ペシエラ・コーラル選手!」
この瞬間、会場が一気に湧き立った。なにせペシエラはまだ十二歳。本来なら学園に居る事のできない年齢だからである。それでありながら、強豪を次々に打ち破ってきたのだ。騒ぐなという方が無理なのだ。
そして、その向かいに立つのは、もう一人の決勝戦進出者である。
「その淡麗な容姿から繰り出される華麗な剣捌き。剣の腕前は確実に学園トップクラス。その麗しきお姿は間違いなく未来の国王」
変な前口上を送られた相手、それは……。
「シルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下!」
紛れもなくこの国の王子、シルヴァノだった。
この武術大会の決勝戦、まさかの婚約者対決となったのだった。
シルヴァノ対シェイディアの戦いは、拮抗しながらもシルヴァノに軍配が上がった。やはり男女の差の壁は厚かったようで、まともに打ち合いをしてしまったシェイディアの腕が痺れてしまったのだ。まるでおととしのペシエラのような失敗である。
こうして一回戦がすべて消化され、二回戦が始まる。
二回戦もいきなり好カード。ペシエラ対ペイルである。
「ようやくこの時が来たな、ペシエラ」
「またコテンパンにされに来たのですか? ペイル殿下」
「ほざけ。俺を以前の俺だと思うなよ?」
ペイルが煽ってくるので、ペシエラも煽り返す。そしたらば、ペイルの反応が分かりやすいったらありゃしない。相変わらずの短気な性格である。
「ふん、オフライトとの戦いの疲労とか残していないだろうな?」
「あら、心配して下さりますの? お優しいことで」
ペイルが煽れば、ペシエラはまた煽り返す。まったく仲の悪いことである。
だが、そのやり取りもこの一言で終わりを迎えた。
「始め!」
そう、戦いの火ぶたが切って落とされたのだ。
二人ともそろって瞬時に踏み込んでいく。そして、挨拶代わりにと剣をぶつけ合った。
「私相手にロングソードとは、ずいぶん大人げないのですね」
「有利な点は活かしてこその戦いだろう?」
「ふふっ、確かにそうですわね」
ペシエラは剣を弾くと、距離を取って身の軽さを活かして動き回る。風魔法も使いながら、まるで分身しているように残像が見えている。ペシエラを目で追うペイルは、この状況に混乱しているようだ。
「くっ!」
ペイルはすべてを目で追ってしまっていた。
「正直、オフライト様との戦いの疲れが残ってますのでね。いくらペイル殿下とはいえ、早めに決着を着けさせて頂きますわ」
分身しながらペシエラは、ペイルを更に煽った。
「なめてくれるなよ?」
ペイルは完全に頭に血が上りつつあった。このままではペシエラの術中に嵌ってしまう。
「そこだっ!」
一瞬強まった気配に、ペイルが攻撃を仕掛ける。だが、それは虚しく空を斬っただけだった。
次の瞬間、ペイルの背中に痛みが走る。ペシエラの一撃が入ったのである。
「くそっ」
ペイルは更に逆上する。こうなってくるとペシエラの一方的な展開になってくる。ペイルの頭に血が上りやすい性格を利用した、ペシエラの頭脳作戦が見事に決まったのである。
こうなってくると、ペイルには逆転の目はない。ちょこまかと動いては一撃を入れるペシエラの攻撃に、じわじわとペイルの神経は削られていったのである。
結局、ペイルはペシエラの姿を捉える事ができずに、膝をついてしまった。
「勝者、ペシエラ選手」
その姿に、審判にこう宣言されてしまった。
「待て、俺はまだ戦える!」
ペイルは声を上げて講義をしたが認められなかった。審判はペイルの脚が震えているのを見逃さなかったのだ。
実は途中から、ペシエラの攻撃は下半身、特に脚へと集中していたのである。そのため、ペイルの脚は痙攣を起こして立てなくなったのだ。
「この勝負、実は始まる前に決着してましたのよ」
「なんだと?!」
ペシエラがペイルに衝撃の事実を告げる。
「最初の煽り合いの時点で、ペイル殿下は冷静さを失っていたのですわ。そこで私は足で撹乱して、更に殿下の集中を奪う事にしましたの」
なんとまあ、試合前の言い合いの時点で既に決していたと言われたのである。
「ロゼリアと結婚して、モスグリネの王になるようですけれど、さすがにその頭に血が上りやすい性格をどうにかすべきですわね。ロゼリアの気苦労が絶えない姿が、すぐに想像できてしまいますわ」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて、ペイルは負けを認めたのだった。
「ですが、正直、今度はちゃんと剣を交えてみたいですわね。試合でしたから、勝つために手段を選びませんでしたもの。正直言って不本意ですわ」
ペシエラはこう言って武台から降りていった。
ペシエラはああは言っていたが、小細工をしたのはオフライトとの戦いで消耗していたからである。つまり、ペイルとまともに打ち合う事を、最初の一撃で避けるべきだと判断したという事である。
だが、どういう理由があれ、試合は勝ちである。負けたペイルはしばらくこの場を動けなかった。そして、救護班に担がれて武台から降りていった。脚はまだ痺れているようで、歩きづらそうにしていたのが印象的だった。
予想外な一戦が終わった後も、武術大会は続けられた。さすがに決勝トーナメントともなれば、どの一戦も見応えがあるものばかりである。
そして、迎えた決勝戦。
「さあ、今年の武術大会も、残すは決勝戦だけとなりました」
司会がこのようにアナウンスすると、武台の上に二人の人物が上がった。
「さあ、その容姿からは想像できない機敏な動きで相手を翻弄。蝶のように舞い鉢のように刺す。美しい戦い方が聴衆を魅了する」
こう紹介されるのは、ドレス風制服にハイヒールブーツという、戦いにそぐわない姿の令嬢だった。
「ペシエラ・コーラル選手!」
この瞬間、会場が一気に湧き立った。なにせペシエラはまだ十二歳。本来なら学園に居る事のできない年齢だからである。それでありながら、強豪を次々に打ち破ってきたのだ。騒ぐなという方が無理なのだ。
そして、その向かいに立つのは、もう一人の決勝戦進出者である。
「その淡麗な容姿から繰り出される華麗な剣捌き。剣の腕前は確実に学園トップクラス。その麗しきお姿は間違いなく未来の国王」
変な前口上を送られた相手、それは……。
「シルヴァノ・アイヴォリー王太子殿下!」
紛れもなくこの国の王子、シルヴァノだった。
この武術大会の決勝戦、まさかの婚約者対決となったのだった。
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