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第十章 乙女ゲーム最終年
第306話 因縁の対決は続く
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「うおおぉぉっ!」
風に向かってオフライトが飛び込んでいく。闇属性の薄い膜で風の刃を防ぎながらの突進だ。目指すはペシエラ、一直線である。その進路に迷いはないオフライト。
だがしかし、これはペシエラの作戦だった。わざと風の薄い場所を作っているのだ。ペシエラはタイミングを計っている。
だが、オフライトもオフライトでそれに気が付いていないはずがない。戦闘におけるセンスは、ペシエラもオフライトもそう差がないのだ。読み合いともなればオフライトだって負けていない。
つまり、互いの手を読み合いながらそれを上回る手を打ち出す。単純な武器や魔法の応酬とは別の次元の戦いに突入していたのである。ペシエラが風魔法を広範囲に放ったおかげで、視覚的な派手さが追加された。観客たちはその戦いを息を飲んで見守っている。
オフライトがペシエラとの距離を詰め、今にも斬りかかろうとしたその刹那!
取り囲んでいた風が、一気にオフライトに襲い掛かる。
「くっ、やはりか!」
オフライトは風を防ぐために、かすかに使える闇魔法の膜を強化する。それでもペシエラは攻撃の手を緩めない。
「ここっ!」
剣を握り締めて、ペシエラがオフライトへと斬りかかる。前方はペシエラの剣、後方は風の刃。オフライトは四方八方から攻撃にさらされるという、絶体絶命の状況に陥った。
だが、オフライトは普通なら予想だにしない行動に出た。ペシエラの攻撃を受け流し、ぎりぎりまで風の刃を引き付けたのである。追尾攻撃の場合、普通ならばこれで自爆してくれるはずである。
……ペシエラの場合、そうとはならなかった。
ペシエラを避けるようにして、風の刃は周りを通過してオフライトを追撃したのだ。正直言って使いたくなかった、ペシエラの奥の手である。
「やっぱり君は、魔法に関しては天才だな」
風の刃がオフライトに着弾する。さすがに一発一発の威力が低くても、数十発と食らえばダメージは大きかった。
「魔法を使わせた時点で、勝敗は決していたな。……君の勝ちだ」
オフライトは膝をつきながらも持ちこたえていたが、さすがにダメージが大きすぎた。
「勝者、ペシエラ選手!」
武台の端に退避していた審判の宣言が響き渡ると、会場が割れんばかりの歓声に包まれる。優勝候補の最有力オフライトが負けたのだ。勝ったのは三つ年下の同じ優勝候補のペシエラ。剣捌きはもちろん、魔法の精度も高く、試合を見ていた者はその容姿も相まって魅了されていた。
さすがに疲労していたペシエラだったが、歓声に応えて周りに笑顔で手を振った。
二人とも立っているのがやっとのようで、運営の補助を務める学生たちが武台に上がって、二人に肩を貸して救護室へと連れて行った。その様子を見ていたアイリスは心配そうに見ていた。
「主人様、ここは私が見ておきますから、様子を見てこられてはどうですか? あそこにニーズヘッグ様がおられますから、声を掛けて一緒に行かれるとよろしいですよ」
アイリスに対して、ライはそう声を掛けた。確かに少し離れた場所でニーズヘッグが武台をじっと見ている。彼も不届き者が居ないかなどの警備に当たっていたのだ。それを確認したアイリスは、
「ありがとう」
とだけ言って、ニーズヘッグと一緒にペシエラが運ばれた救護室へと向かった。
救護室に慌ててやってきたアイリスは、息が上がっていた。そこにはすでにロゼリアが到着しており、ペシエラとオフライトを労っていた。
「オフライト様は切り傷がございますが、これくらいならしばらくすれば回復するでしょう。ペシエラ様も集中して魔法を使っていたので、その疲れが出ているだけです。このままなら次の試合には支障はないかと思われますが、次の対戦相手はおそらくペイル殿下です」
診察をした医師から告げられたのは、ペシエラは軽い疲労だという話だった。少し無理していたらしく、その分体力も魔力も使ったので、疲労が少し大きく出ているだけという事らしい。
「オフライト様相手では仕方ないでしょうね。全力で戦わないと勝てないですから。私たちでは絶対無理ですけれど」
「はははっ、評価してもらえて嬉しいね」
隣で話を聞いていたオフライトは笑っていた。
「ただ、きちんと回復させなければ、そこの医師も言っているが次の相手はペイル・モスグリネだ。私並みに厳しい戦いが待っていると言って過言ではないぞ。よく訓練で顔を合わせているからな、彼の実力が確実に伸びてきている」
だが、それも束の間。すぐに厳しい顔をするオフライト。確かに一年次の時点でかなりの実力を持っていた。対戦相手には荷が重すぎるだろう。
『主人様、ペイル殿下が圧勝で勝ち上がりました。次のペシエラ様の対戦相手はペイル殿下です』
蒼鱗魚を通じて、アイリスにライからの連絡が入った。どうやらペイルは、開幕一撃で相手を負かしたようである。オフライトの言葉が嘘でない事の証左だった。
『残りの試合も私がしっかり見ておきますので、主人様はペシエラ様としばらくご一緒していて下さい』
ライがそう言ってくるものだから、アイリスはしばらくペシエラを労っていた。その後ろで、
「ニーズヘッグ、怪しいところはありましたか?」
「いえ、これといった感じはなかった。今年もあると見ているのか?」
「当然でしょ。いくら主犯が捕まったからといって、おとなしくするような奴らだと思えないもの」
ロゼリアとニーズヘッグが話をしていた。パープリア一派の残党の話のようだ。
「アイリスは私に任せておいて、ニーズヘッグは周囲の警戒をよろしく頼むわ」
「……そうだな、主人の事を頼むぞ」
ニーズヘッグはそう言って、救護室を後にして警戒を再開させた。
ペシエラの次の対戦相手はペイル・モスグリネ。オフライトの時同様に気が抜けないなと、ペシエラはしっかりと体を休める事に集中するのだった。
風に向かってオフライトが飛び込んでいく。闇属性の薄い膜で風の刃を防ぎながらの突進だ。目指すはペシエラ、一直線である。その進路に迷いはないオフライト。
だがしかし、これはペシエラの作戦だった。わざと風の薄い場所を作っているのだ。ペシエラはタイミングを計っている。
だが、オフライトもオフライトでそれに気が付いていないはずがない。戦闘におけるセンスは、ペシエラもオフライトもそう差がないのだ。読み合いともなればオフライトだって負けていない。
つまり、互いの手を読み合いながらそれを上回る手を打ち出す。単純な武器や魔法の応酬とは別の次元の戦いに突入していたのである。ペシエラが風魔法を広範囲に放ったおかげで、視覚的な派手さが追加された。観客たちはその戦いを息を飲んで見守っている。
オフライトがペシエラとの距離を詰め、今にも斬りかかろうとしたその刹那!
取り囲んでいた風が、一気にオフライトに襲い掛かる。
「くっ、やはりか!」
オフライトは風を防ぐために、かすかに使える闇魔法の膜を強化する。それでもペシエラは攻撃の手を緩めない。
「ここっ!」
剣を握り締めて、ペシエラがオフライトへと斬りかかる。前方はペシエラの剣、後方は風の刃。オフライトは四方八方から攻撃にさらされるという、絶体絶命の状況に陥った。
だが、オフライトは普通なら予想だにしない行動に出た。ペシエラの攻撃を受け流し、ぎりぎりまで風の刃を引き付けたのである。追尾攻撃の場合、普通ならばこれで自爆してくれるはずである。
……ペシエラの場合、そうとはならなかった。
ペシエラを避けるようにして、風の刃は周りを通過してオフライトを追撃したのだ。正直言って使いたくなかった、ペシエラの奥の手である。
「やっぱり君は、魔法に関しては天才だな」
風の刃がオフライトに着弾する。さすがに一発一発の威力が低くても、数十発と食らえばダメージは大きかった。
「魔法を使わせた時点で、勝敗は決していたな。……君の勝ちだ」
オフライトは膝をつきながらも持ちこたえていたが、さすがにダメージが大きすぎた。
「勝者、ペシエラ選手!」
武台の端に退避していた審判の宣言が響き渡ると、会場が割れんばかりの歓声に包まれる。優勝候補の最有力オフライトが負けたのだ。勝ったのは三つ年下の同じ優勝候補のペシエラ。剣捌きはもちろん、魔法の精度も高く、試合を見ていた者はその容姿も相まって魅了されていた。
さすがに疲労していたペシエラだったが、歓声に応えて周りに笑顔で手を振った。
二人とも立っているのがやっとのようで、運営の補助を務める学生たちが武台に上がって、二人に肩を貸して救護室へと連れて行った。その様子を見ていたアイリスは心配そうに見ていた。
「主人様、ここは私が見ておきますから、様子を見てこられてはどうですか? あそこにニーズヘッグ様がおられますから、声を掛けて一緒に行かれるとよろしいですよ」
アイリスに対して、ライはそう声を掛けた。確かに少し離れた場所でニーズヘッグが武台をじっと見ている。彼も不届き者が居ないかなどの警備に当たっていたのだ。それを確認したアイリスは、
「ありがとう」
とだけ言って、ニーズヘッグと一緒にペシエラが運ばれた救護室へと向かった。
救護室に慌ててやってきたアイリスは、息が上がっていた。そこにはすでにロゼリアが到着しており、ペシエラとオフライトを労っていた。
「オフライト様は切り傷がございますが、これくらいならしばらくすれば回復するでしょう。ペシエラ様も集中して魔法を使っていたので、その疲れが出ているだけです。このままなら次の試合には支障はないかと思われますが、次の対戦相手はおそらくペイル殿下です」
診察をした医師から告げられたのは、ペシエラは軽い疲労だという話だった。少し無理していたらしく、その分体力も魔力も使ったので、疲労が少し大きく出ているだけという事らしい。
「オフライト様相手では仕方ないでしょうね。全力で戦わないと勝てないですから。私たちでは絶対無理ですけれど」
「はははっ、評価してもらえて嬉しいね」
隣で話を聞いていたオフライトは笑っていた。
「ただ、きちんと回復させなければ、そこの医師も言っているが次の相手はペイル・モスグリネだ。私並みに厳しい戦いが待っていると言って過言ではないぞ。よく訓練で顔を合わせているからな、彼の実力が確実に伸びてきている」
だが、それも束の間。すぐに厳しい顔をするオフライト。確かに一年次の時点でかなりの実力を持っていた。対戦相手には荷が重すぎるだろう。
『主人様、ペイル殿下が圧勝で勝ち上がりました。次のペシエラ様の対戦相手はペイル殿下です』
蒼鱗魚を通じて、アイリスにライからの連絡が入った。どうやらペイルは、開幕一撃で相手を負かしたようである。オフライトの言葉が嘘でない事の証左だった。
『残りの試合も私がしっかり見ておきますので、主人様はペシエラ様としばらくご一緒していて下さい』
ライがそう言ってくるものだから、アイリスはしばらくペシエラを労っていた。その後ろで、
「ニーズヘッグ、怪しいところはありましたか?」
「いえ、これといった感じはなかった。今年もあると見ているのか?」
「当然でしょ。いくら主犯が捕まったからといって、おとなしくするような奴らだと思えないもの」
ロゼリアとニーズヘッグが話をしていた。パープリア一派の残党の話のようだ。
「アイリスは私に任せておいて、ニーズヘッグは周囲の警戒をよろしく頼むわ」
「……そうだな、主人の事を頼むぞ」
ニーズヘッグはそう言って、救護室を後にして警戒を再開させた。
ペシエラの次の対戦相手はペイル・モスグリネ。オフライトの時同様に気が抜けないなと、ペシエラはしっかりと体を休める事に集中するのだった。
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