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第十章 乙女ゲーム最終年
第304話 チェリシアの扱いには慣れたもの
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三年次の学園祭三日目。この日はロゼリアとペシエラも試合が無いために、商会の出店スペースにやって来ていた。久しぶりにマゼンダとコーラルの令嬢四人が勢揃いしていた。
「お兄様、今日はお手伝いします」
「おお、ロゼリアか。正直助かるぞ」
ロゼリアとカーマイルはバックヤードの在庫管理で話し合いを始める。
「お姉様、今日の写真は私が対応しますので、料理でも作っておとなしくしていて下さいませ」
「うっ、分かったわよ」
「私は何をすればいいかしら」
「アイリス姉様は、お姉様を手伝っていて下さい。どうせ張り切って作り過ぎるでしょうから、監視をお願い致しますわ」
「分かりました」
チェリシアもアイリスも、ペシエラの指示に従う。実際、チェリシアだけだと歯止めが効かずに暴走してしまう傾向にある。シアンやキャノルではとても止められなかったのだ。どうしてこうなったのだろうか。
今日のコーラル家の三人の行動は、夜のうちにペシエラが単独で練り上げていた。チェリシアは二日間の行動を見返すに、完全に暴走モード。つい張り切って頑張ってしまう性格が災いしていた。
そこでペシエラは、チェリシアを暴走させないように何かいい案はないかと考えていた。その時に思い付いたのが、作り過ぎた物を収納魔法にしまい込むチェリシアの癖だった。まだあまり表に出していない豆腐やおからが眠っているはずなので、それを消化させようと考えたのだ。それが、この朝の指示というわけである。
「ペシエラ、料理とはいっても材料が……」
「お姉様、私知ってますのよ? 収納魔法に豆腐とかピザとか、過去に調子に乗って作った料理が押し込められている事を。それでも消化して下さいませ」
「うっ……、なんで知ってるのよぉ……」
完全にチェリシアの敗北である。さすがは女王を一度経験したペシエラの洞察力である。チェリシアは渋々、後ろで豆腐を使った冷奴やおからハンバーグを作って試食を行う事にした。午前中だけの特別イベントである。
豆腐の作り方は職員たちに教えているが、なにぶん力の要る作業なので作れる量はそれほど多くはない。しかも保存技術や入れる容器の問題もあり、商会の近くの料理店に卸して使ってもらっている程度である。おからも料理方法がチェリシアの教えたハンバーグと和え物くらいなので、こちらも現状の取り扱いは豆腐と同じ状態である。
豆腐の揚げ物である薄揚げや厚揚げも、絶賛研究中。しかしながら、その定着にはまだまだ遠そうである。
そんなわけで、今日のところは冷奴とおからハンバーグの宣伝だけになった。
この日も記念撮影のために、朝からたくさんのお客が詰めかけていた。しかし、この日は午前午後ともに百人までと人数制限を設けておいたので、中には渋々帰っていく姿も見えた。
記念撮影をした客には、チェリシアが試食も食べてもらうという感じで、この日もマゼンダ商会のブースは大盛況である。試食品はチェリシアが浄化魔法を掛けて、食中毒対策も万全である。それにつられるように調味料の類もそれなりに売れているようだった。
その盛り上がりの中で、とんでもない客がやって来た。
「よお、今日も盛況みたいじゃないか」
「これは悔しいですね。写真魔法なんて特殊技能が羨ましいですよ」
シルヴァノ、ペイルに加えてロイエールがやって来た。
「あら、殿下たちではございませんの。どうでしょう、記念に一枚撮っていかれませんか?」
ペシエラはすかさず写真を勧める。数を絞ったおかげで余裕はあるし、シルヴァノたちがやって来た事で客が一気に周りから引いたのだ。
「そうですね。でも、私たちは今は遠慮しておきますよ。明日は決勝トーナメントで戦いますからね。終わった後にでも頼みましょう」
「ああ、そうだな。明日はお前に勝つからな、ペシエラ」
「ええ、当たる事がありましたら返り討ちにさせて頂きますわ。私も成長をしていますからね。オフライト様相手でも後れを取るつもりはございませんわよ」
「えぇ、殿下たちは写真撮られないのですか?! あっ、僕だけは撮りますからね」
シルヴァノ、ペイル、ペシエラの三人がバチバチしている中、ロイエールだけはマイペースに写真を撮ってもらう事になった。
「この紙、羊皮紙ではないですね。何なんですか?」
「お姉様が作られた、樹皮や草を材料にした紙ですわ。詳しい製法はお姉様やモスグリネの方がご存じですわよ」
ロイエールがちらりとペイルを見るが、すぐに紙に視線を戻した。
「写真は白い枠がありますね。これに意味はあるのですか?」
「お姉様に確認したら、『だって、額に入れるんでしょ?』と仰られてましたわ。額縁保存を前提にしたものという事ですわね」
「なるほど、確かに貴族ならそうしますね」
「まぁ、その辺の話はお姉様の出す豆腐の試食でもしながらお姉様となさって下さいませ。私はまだ写真を撮る商売をしておりますので、それほど暇ではございませんわ」
ペシエラは話を打ち切って、写真撮影を再開していた。
学園祭三日目もこれといった大きな事件は起きる事なく、実に平和なものだった。過去二年間の事を思えば、これだけ平和なのはありがたい事だ。
こうして、三年次の学園祭も最終日を残すのみ。武術大会を優勝するのは一体誰なのか。すべての注目がそこに注がれる事となった。
「お兄様、今日はお手伝いします」
「おお、ロゼリアか。正直助かるぞ」
ロゼリアとカーマイルはバックヤードの在庫管理で話し合いを始める。
「お姉様、今日の写真は私が対応しますので、料理でも作っておとなしくしていて下さいませ」
「うっ、分かったわよ」
「私は何をすればいいかしら」
「アイリス姉様は、お姉様を手伝っていて下さい。どうせ張り切って作り過ぎるでしょうから、監視をお願い致しますわ」
「分かりました」
チェリシアもアイリスも、ペシエラの指示に従う。実際、チェリシアだけだと歯止めが効かずに暴走してしまう傾向にある。シアンやキャノルではとても止められなかったのだ。どうしてこうなったのだろうか。
今日のコーラル家の三人の行動は、夜のうちにペシエラが単独で練り上げていた。チェリシアは二日間の行動を見返すに、完全に暴走モード。つい張り切って頑張ってしまう性格が災いしていた。
そこでペシエラは、チェリシアを暴走させないように何かいい案はないかと考えていた。その時に思い付いたのが、作り過ぎた物を収納魔法にしまい込むチェリシアの癖だった。まだあまり表に出していない豆腐やおからが眠っているはずなので、それを消化させようと考えたのだ。それが、この朝の指示というわけである。
「ペシエラ、料理とはいっても材料が……」
「お姉様、私知ってますのよ? 収納魔法に豆腐とかピザとか、過去に調子に乗って作った料理が押し込められている事を。それでも消化して下さいませ」
「うっ……、なんで知ってるのよぉ……」
完全にチェリシアの敗北である。さすがは女王を一度経験したペシエラの洞察力である。チェリシアは渋々、後ろで豆腐を使った冷奴やおからハンバーグを作って試食を行う事にした。午前中だけの特別イベントである。
豆腐の作り方は職員たちに教えているが、なにぶん力の要る作業なので作れる量はそれほど多くはない。しかも保存技術や入れる容器の問題もあり、商会の近くの料理店に卸して使ってもらっている程度である。おからも料理方法がチェリシアの教えたハンバーグと和え物くらいなので、こちらも現状の取り扱いは豆腐と同じ状態である。
豆腐の揚げ物である薄揚げや厚揚げも、絶賛研究中。しかしながら、その定着にはまだまだ遠そうである。
そんなわけで、今日のところは冷奴とおからハンバーグの宣伝だけになった。
この日も記念撮影のために、朝からたくさんのお客が詰めかけていた。しかし、この日は午前午後ともに百人までと人数制限を設けておいたので、中には渋々帰っていく姿も見えた。
記念撮影をした客には、チェリシアが試食も食べてもらうという感じで、この日もマゼンダ商会のブースは大盛況である。試食品はチェリシアが浄化魔法を掛けて、食中毒対策も万全である。それにつられるように調味料の類もそれなりに売れているようだった。
その盛り上がりの中で、とんでもない客がやって来た。
「よお、今日も盛況みたいじゃないか」
「これは悔しいですね。写真魔法なんて特殊技能が羨ましいですよ」
シルヴァノ、ペイルに加えてロイエールがやって来た。
「あら、殿下たちではございませんの。どうでしょう、記念に一枚撮っていかれませんか?」
ペシエラはすかさず写真を勧める。数を絞ったおかげで余裕はあるし、シルヴァノたちがやって来た事で客が一気に周りから引いたのだ。
「そうですね。でも、私たちは今は遠慮しておきますよ。明日は決勝トーナメントで戦いますからね。終わった後にでも頼みましょう」
「ああ、そうだな。明日はお前に勝つからな、ペシエラ」
「ええ、当たる事がありましたら返り討ちにさせて頂きますわ。私も成長をしていますからね。オフライト様相手でも後れを取るつもりはございませんわよ」
「えぇ、殿下たちは写真撮られないのですか?! あっ、僕だけは撮りますからね」
シルヴァノ、ペイル、ペシエラの三人がバチバチしている中、ロイエールだけはマイペースに写真を撮ってもらう事になった。
「この紙、羊皮紙ではないですね。何なんですか?」
「お姉様が作られた、樹皮や草を材料にした紙ですわ。詳しい製法はお姉様やモスグリネの方がご存じですわよ」
ロイエールがちらりとペイルを見るが、すぐに紙に視線を戻した。
「写真は白い枠がありますね。これに意味はあるのですか?」
「お姉様に確認したら、『だって、額に入れるんでしょ?』と仰られてましたわ。額縁保存を前提にしたものという事ですわね」
「なるほど、確かに貴族ならそうしますね」
「まぁ、その辺の話はお姉様の出す豆腐の試食でもしながらお姉様となさって下さいませ。私はまだ写真を撮る商売をしておりますので、それほど暇ではございませんわ」
ペシエラは話を打ち切って、写真撮影を再開していた。
学園祭三日目もこれといった大きな事件は起きる事なく、実に平和なものだった。過去二年間の事を思えば、これだけ平和なのはありがたい事だ。
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