逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
305 / 488
第十章 乙女ゲーム最終年

第301話 消化イベントでも抜かりなし

しおりを挟む
 この日はペシエラがもうひと試合あっただけで、こちらも無事に学園祭初日を終えられたようだ。アイリスはライと一緒に観戦していたのだが、二人の活躍に大はしゃぎだった模様。すっかり姉妹として溶け込んでいるようで何よりである。
「ペシエラ、本当にすごいわ。二年前、あなたを殺そうとして失敗したのは必然だったのね」
「当然ですわ。私は逆行前に三十歳まで生きた中で、何度となく死線を潜り抜けてきましたもの」
 なんとも物騒な会話であるが、一年次の夏の合宿の話である。この時のアイリスはパープリア男爵の命令で、シルヴァノとペイルを亡き者にしようと小規模な魔物氾濫を引き起こしたのだ。結局は誰一人殺せず失敗に終わったが、それがあったからこそ、アイリスは今もこうやって生きているのである。あのままパープリアの家に居たら、今頃生きていたかどうかなんて分からなかった。
「それよりもライ、何か感じました?」
「いえ、特に何も感じませんでしたね。今年も居るのではと警戒しましたが、武台に何か仕掛けられたような感じはありませんでした」
 アイリスとライもただ観戦していたわけではなかった。会場に入っての監視である。アイリスは相変わらず髪飾りを着けているが、今日着けているのは侍女時代にも着けていた撮影魔法付きの髪飾りである。コーラルの家に養女となってからはこの機能は外していたのだが、この日は本人の希望もあって久しぶりに機能付きの髪飾りを身に着けていた。つまり、学園祭の監視役を自ら買って出たという事なのだ。
「ロゼリアも、あんなレベルの高い戦いができるなんてすごいわ。見てるこっちがとても緊張したわ」
「ありがとう、アイリス。シェイディア様はさすがだったわ」
 ロゼリアとアイリスも仲は良好のようだ。
「それよりもペシエラ、ちゃんと仕掛けておいたのかしら」
「ええ。人が居なくなってから仕掛けられる事もあり得ますから、悪意だけを弾く防護魔法を掛けておきましたわ。これで訓練場には入れませんわよ」
 さすがペシエラ、抜かりはなかった。
「でも、念のため、他の場所もチェック入れておく必要がありますわね。二年連続で失敗しているから、手を変えている可能性は考えられますもの」
 ロゼリアたちはチェリシアと合流する前に、ひと通り学園内のチェックを手分けして行った。その結果、特に異常が無かった事を確認するのだった。
 集合場所の正門に集まって、四人は報告し合う。
「さすがに正門も裏門も、入場の際にチェックを入れておいて正解ですわね」
「ええ。外壁にもチェリシアが文句を言いながらも壁を張り巡らしているし、何かが起これば内部犯と断定できるものね」
 なんとまぁ、前日の時点ですでに対策済みだったようだ。
「すでに手を打ち済みだったんですね。これが私みたいな凡人との違いなのね」
「神獣使いのどこか凡人なのかしら」
「あっ、そうですね」
 アイリスが驚いたように喋っていると、ロゼリアにしっかり突っ込まれた。
 笑い合う一同。
「では、お姉様と合流して初日の撤収をしましょう」
「そうね。キャノルたちが居るとはいえ、お兄様と二人で切り盛りしていて退屈してるでしょうからね」
「退屈どころか暴走してそうですけれどね」
「ええ、無駄に張り切っていそう」
 ロゼリアだけが心配していたが、散々な言われようのチェリシア。だが、実際のところは本当に暴走していた。その事を知るのはこのすぐ後である。
 ロゼリアたちは、マゼンダ商会のブースへと向かった。

 マゼンダ商会のブースに到着すると、チェリシアは座って休んでおり、キャノルやアメジスタたちが片付けをしていた。この光景にロゼリアたちは驚いた。
「チェリシア、なんで休んでるの?」
 ロゼリアがチェリシアに詰め寄る。
「実は、チェリシア様は写真を頑張り過ぎてしまいまして、魔法の使い過ぎによる疲労で休んでおられるのです」
 事情を説明するために、キャノルが顔を出してきた。その説明を聞いたロゼリアたちは、一様に顔を押さえた。ライだけは大笑いしている。実に予想通り過ぎたのである。
「お前たち、来てたのか」
 騒がしい声に誘われて、奥からカーマイルが出てくる。
「お兄様。どうでしたか、初日は」
「ああ、写真が結局八百枚くらいだったな。調味料も売れるには売れたが、完全に写真のおまけだったよ」
 カーマイルの表情もあまりいい感じではなかった。チェリシアを心配しているようである。なんとなく察したロゼリアは、少し満足げになった。
 それにしても写真八百枚とは、よくその数も撮ったものである。それでも用意した紙の二十五分の一、紙の山はあまり減っていなかった。
「その写真に使った紙だが、モスグリネから来た商人の目に留まった。明日もまた来るらしいから、少しは売り上げに更新しそうだよ」
 写真撮影込みで金貨一枚だったので、この日だけで金貨八百枚を超える大稼ぎである。ちなみに調味料の方はかなり製造が安定化してきたので、銀貨一枚でおつりが出るくらいである。そう考えてみれば、写真はかなりのぼったくりだが、写真魔法を使えるのがチェリシアとペシエラの二人だけ、写真に使った紙はかなり上質のものと、かなり付加価値がついていた。撮影を頼んできたのは貴族や商人ばかりで、その価値が十分分かっていたようである。文句の一つも出なかったそうだ。
「これは明日も忙しくなりそうですわね」
 ペシエラがそう呟いて、学園祭の初日は暮れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

処理中です...