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第十章 乙女ゲーム最終年
第301話 消化イベントでも抜かりなし
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この日はペシエラがもうひと試合あっただけで、こちらも無事に学園祭初日を終えられたようだ。アイリスはライと一緒に観戦していたのだが、二人の活躍に大はしゃぎだった模様。すっかり姉妹として溶け込んでいるようで何よりである。
「ペシエラ、本当にすごいわ。二年前、あなたを殺そうとして失敗したのは必然だったのね」
「当然ですわ。私は逆行前に三十歳まで生きた中で、何度となく死線を潜り抜けてきましたもの」
なんとも物騒な会話であるが、一年次の夏の合宿の話である。この時のアイリスはパープリア男爵の命令で、シルヴァノとペイルを亡き者にしようと小規模な魔物氾濫を引き起こしたのだ。結局は誰一人殺せず失敗に終わったが、それがあったからこそ、アイリスは今もこうやって生きているのである。あのままパープリアの家に居たら、今頃生きていたかどうかなんて分からなかった。
「それよりもライ、何か感じました?」
「いえ、特に何も感じませんでしたね。今年も居るのではと警戒しましたが、武台に何か仕掛けられたような感じはありませんでした」
アイリスとライもただ観戦していたわけではなかった。会場に入っての監視である。アイリスは相変わらず髪飾りを着けているが、今日着けているのは侍女時代にも着けていた撮影魔法付きの髪飾りである。コーラルの家に養女となってからはこの機能は外していたのだが、この日は本人の希望もあって久しぶりに機能付きの髪飾りを身に着けていた。つまり、学園祭の監視役を自ら買って出たという事なのだ。
「ロゼリアも、あんなレベルの高い戦いができるなんてすごいわ。見てるこっちがとても緊張したわ」
「ありがとう、アイリス。シェイディア様はさすがだったわ」
ロゼリアとアイリスも仲は良好のようだ。
「それよりもペシエラ、ちゃんと仕掛けておいたのかしら」
「ええ。人が居なくなってから仕掛けられる事もあり得ますから、悪意だけを弾く防護魔法を掛けておきましたわ。これで訓練場には入れませんわよ」
さすがペシエラ、抜かりはなかった。
「でも、念のため、他の場所もチェック入れておく必要がありますわね。二年連続で失敗しているから、手を変えている可能性は考えられますもの」
ロゼリアたちはチェリシアと合流する前に、ひと通り学園内のチェックを手分けして行った。その結果、特に異常が無かった事を確認するのだった。
集合場所の正門に集まって、四人は報告し合う。
「さすがに正門も裏門も、入場の際にチェックを入れておいて正解ですわね」
「ええ。外壁にもチェリシアが文句を言いながらも壁を張り巡らしているし、何かが起これば内部犯と断定できるものね」
なんとまぁ、前日の時点ですでに対策済みだったようだ。
「すでに手を打ち済みだったんですね。これが私みたいな凡人との違いなのね」
「神獣使いのどこか凡人なのかしら」
「あっ、そうですね」
アイリスが驚いたように喋っていると、ロゼリアにしっかり突っ込まれた。
笑い合う一同。
「では、お姉様と合流して初日の撤収をしましょう」
「そうね。キャノルたちが居るとはいえ、お兄様と二人で切り盛りしていて退屈してるでしょうからね」
「退屈どころか暴走してそうですけれどね」
「ええ、無駄に張り切っていそう」
ロゼリアだけが心配していたが、散々な言われようのチェリシア。だが、実際のところは本当に暴走していた。その事を知るのはこのすぐ後である。
ロゼリアたちは、マゼンダ商会のブースへと向かった。
マゼンダ商会のブースに到着すると、チェリシアは座って休んでおり、キャノルやアメジスタたちが片付けをしていた。この光景にロゼリアたちは驚いた。
「チェリシア、なんで休んでるの?」
ロゼリアがチェリシアに詰め寄る。
「実は、チェリシア様は写真を頑張り過ぎてしまいまして、魔法の使い過ぎによる疲労で休んでおられるのです」
事情を説明するために、キャノルが顔を出してきた。その説明を聞いたロゼリアたちは、一様に顔を押さえた。ライだけは大笑いしている。実に予想通り過ぎたのである。
「お前たち、来てたのか」
騒がしい声に誘われて、奥からカーマイルが出てくる。
「お兄様。どうでしたか、初日は」
「ああ、写真が結局八百枚くらいだったな。調味料も売れるには売れたが、完全に写真のおまけだったよ」
カーマイルの表情もあまりいい感じではなかった。チェリシアを心配しているようである。なんとなく察したロゼリアは、少し満足げになった。
それにしても写真八百枚とは、よくその数も撮ったものである。それでも用意した紙の二十五分の一、紙の山はあまり減っていなかった。
「その写真に使った紙だが、モスグリネから来た商人の目に留まった。明日もまた来るらしいから、少しは売り上げに更新しそうだよ」
写真撮影込みで金貨一枚だったので、この日だけで金貨八百枚を超える大稼ぎである。ちなみに調味料の方はかなり製造が安定化してきたので、銀貨一枚でおつりが出るくらいである。そう考えてみれば、写真はかなりのぼったくりだが、写真魔法を使えるのがチェリシアとペシエラの二人だけ、写真に使った紙はかなり上質のものと、かなり付加価値がついていた。撮影を頼んできたのは貴族や商人ばかりで、その価値が十分分かっていたようである。文句の一つも出なかったそうだ。
「これは明日も忙しくなりそうですわね」
ペシエラがそう呟いて、学園祭の初日は暮れていった。
「ペシエラ、本当にすごいわ。二年前、あなたを殺そうとして失敗したのは必然だったのね」
「当然ですわ。私は逆行前に三十歳まで生きた中で、何度となく死線を潜り抜けてきましたもの」
なんとも物騒な会話であるが、一年次の夏の合宿の話である。この時のアイリスはパープリア男爵の命令で、シルヴァノとペイルを亡き者にしようと小規模な魔物氾濫を引き起こしたのだ。結局は誰一人殺せず失敗に終わったが、それがあったからこそ、アイリスは今もこうやって生きているのである。あのままパープリアの家に居たら、今頃生きていたかどうかなんて分からなかった。
「それよりもライ、何か感じました?」
「いえ、特に何も感じませんでしたね。今年も居るのではと警戒しましたが、武台に何か仕掛けられたような感じはありませんでした」
アイリスとライもただ観戦していたわけではなかった。会場に入っての監視である。アイリスは相変わらず髪飾りを着けているが、今日着けているのは侍女時代にも着けていた撮影魔法付きの髪飾りである。コーラルの家に養女となってからはこの機能は外していたのだが、この日は本人の希望もあって久しぶりに機能付きの髪飾りを身に着けていた。つまり、学園祭の監視役を自ら買って出たという事なのだ。
「ロゼリアも、あんなレベルの高い戦いができるなんてすごいわ。見てるこっちがとても緊張したわ」
「ありがとう、アイリス。シェイディア様はさすがだったわ」
ロゼリアとアイリスも仲は良好のようだ。
「それよりもペシエラ、ちゃんと仕掛けておいたのかしら」
「ええ。人が居なくなってから仕掛けられる事もあり得ますから、悪意だけを弾く防護魔法を掛けておきましたわ。これで訓練場には入れませんわよ」
さすがペシエラ、抜かりはなかった。
「でも、念のため、他の場所もチェック入れておく必要がありますわね。二年連続で失敗しているから、手を変えている可能性は考えられますもの」
ロゼリアたちはチェリシアと合流する前に、ひと通り学園内のチェックを手分けして行った。その結果、特に異常が無かった事を確認するのだった。
集合場所の正門に集まって、四人は報告し合う。
「さすがに正門も裏門も、入場の際にチェックを入れておいて正解ですわね」
「ええ。外壁にもチェリシアが文句を言いながらも壁を張り巡らしているし、何かが起これば内部犯と断定できるものね」
なんとまぁ、前日の時点ですでに対策済みだったようだ。
「すでに手を打ち済みだったんですね。これが私みたいな凡人との違いなのね」
「神獣使いのどこか凡人なのかしら」
「あっ、そうですね」
アイリスが驚いたように喋っていると、ロゼリアにしっかり突っ込まれた。
笑い合う一同。
「では、お姉様と合流して初日の撤収をしましょう」
「そうね。キャノルたちが居るとはいえ、お兄様と二人で切り盛りしていて退屈してるでしょうからね」
「退屈どころか暴走してそうですけれどね」
「ええ、無駄に張り切っていそう」
ロゼリアだけが心配していたが、散々な言われようのチェリシア。だが、実際のところは本当に暴走していた。その事を知るのはこのすぐ後である。
ロゼリアたちは、マゼンダ商会のブースへと向かった。
マゼンダ商会のブースに到着すると、チェリシアは座って休んでおり、キャノルやアメジスタたちが片付けをしていた。この光景にロゼリアたちは驚いた。
「チェリシア、なんで休んでるの?」
ロゼリアがチェリシアに詰め寄る。
「実は、チェリシア様は写真を頑張り過ぎてしまいまして、魔法の使い過ぎによる疲労で休んでおられるのです」
事情を説明するために、キャノルが顔を出してきた。その説明を聞いたロゼリアたちは、一様に顔を押さえた。ライだけは大笑いしている。実に予想通り過ぎたのである。
「お前たち、来てたのか」
騒がしい声に誘われて、奥からカーマイルが出てくる。
「お兄様。どうでしたか、初日は」
「ああ、写真が結局八百枚くらいだったな。調味料も売れるには売れたが、完全に写真のおまけだったよ」
カーマイルの表情もあまりいい感じではなかった。チェリシアを心配しているようである。なんとなく察したロゼリアは、少し満足げになった。
それにしても写真八百枚とは、よくその数も撮ったものである。それでも用意した紙の二十五分の一、紙の山はあまり減っていなかった。
「その写真に使った紙だが、モスグリネから来た商人の目に留まった。明日もまた来るらしいから、少しは売り上げに更新しそうだよ」
写真撮影込みで金貨一枚だったので、この日だけで金貨八百枚を超える大稼ぎである。ちなみに調味料の方はかなり製造が安定化してきたので、銀貨一枚でおつりが出るくらいである。そう考えてみれば、写真はかなりのぼったくりだが、写真魔法を使えるのがチェリシアとペシエラの二人だけ、写真に使った紙はかなり上質のものと、かなり付加価値がついていた。撮影を頼んできたのは貴族や商人ばかりで、その価値が十分分かっていたようである。文句の一つも出なかったそうだ。
「これは明日も忙しくなりそうですわね」
ペシエラがそう呟いて、学園祭の初日は暮れていった。
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