304 / 431
第十章 乙女ゲーム最終年
第300話 令嬢対決
しおりを挟む
お互いに初めての武術大会であるロゼリアとシェイディア。よく思えば武術では初顔合わせであるので、出方を見ようと動けなかった。
「おっと、ロゼリア選手とシェイディア選手、ともに牽制し合って動きがありません!」
実況にそう言われる始末である。
ロゼリアには逆行前のアドバンテージがあるものの、実戦そのものは対魔物ばかりで、対人戦はほぼ皆無である。
一方のシェイディアは騎士団の練習に出て対人戦を行った経験はあるが、未知の相手だとどうしても受けに回ってしまう癖があった。それがこの膠着状態の理由である。
(対人戦は私の方が経験あるはずです。ここはひとつ……)
「おっと、シェイディア選手が先に仕掛けた!」
自分に分があると踏んだシェイディアが仕掛ける。
それにしても今年の実況はずいぶんと喋るものだ。王子二人が入学してきたとあって固くなっていたのが、三年目となって解れたのだろうか。まあこれだけ喋ってくれれば盛り上がるだろう。
さて試合の方は、シェイディアの突進からの斬りが放たれる。様子見の単純な攻撃である。さすがにこれはロゼリアも反応して……、ってなぜか剣で受けた。普通は躱して反撃を入れるところだろう。
「……読まれましたか」
「危ないわね。躱していたらそこから切り返しが飛んできてたわね」
そう、シェイディアは振り下ろしを止めて、薙ぎ払いへの連携を狙っていたのだ。振り下ろしの速度の遅さを、ロゼリアは見抜いたのである。これはフェイントだと。わざと軽い攻撃を放って、本命はその後に放つ。余裕で躱せるとみると大抵は左右のどちらかに躱す。それを見込んだ攻撃だったのだ。
ロゼリアは剣を弾いて軽く後退する。シェイディアも弾かれた衝撃を利用して後方に下がった。武術大会初出場とは思えない動きだ。
ロゼリアは呼吸を整え、打って変わって自分から攻撃を仕掛ける。しかし、そこは対人戦はずぶの素人の攻撃だ。シェイディアには到底当たらなかった。しかもフェイントを掛ける余裕もない。躱されれば無防備な姿をさらした。
だが、忘れてはならない。これは剣術大会ではない。武術大会なのだ。剣術以外にも、体術や魔法の使用だって可能なのだ。
風魔法を使って攻撃を躱すロゼリア。これにはシェイディアは驚かされた。
「さすがは三属性の使い手。反撃を食らうと分かっているから、とっさにでも発動できるわけね」
ロゼリアの風魔法はかなり精度が高い。ロゼリアのエアリアルボードは、チェリシアやペシエラに劣らない性能を持つのだから当然の話だ。
この風魔法を見せられては、シェイディアも黙ってはいなかった。シェイディアの周りに黒い剣のようなものがいくつも現れる。
「闇魔法?」
「ええ、そうよ。私の家系は闇属性の使い手。当然ながら私だって使えますわ」
そう言うと、シェイディアはロゼリア目がけて闇の剣を投げつける。武台にざくざくと刺さっていく闇の剣。ロゼリアは風魔法を使ってそれを回避していく。ロゼリアの身体能力では回避が間に合わないと見たからだ。
実際その見立ては当たっている。ここまででシェイディアは、ロゼリアのおおよその身体能力を見破っていた。回避がぎりぎり間に合わない位置と速度を割り出して、ロゼリアへと闇の剣を放っているのである。ノワール家の戦闘センスの高さが窺える戦い方だ。
こうなってくると、シェイディアからの一方的な戦いになっていく。ロゼリアの能力は高いが、それは魔法の話。体力は徐々に削られて、動きが鈍ってきた。しかし、このままでは終われない。そう思ったロゼリアは土の壁を発動させる。
「くっ、疲れてきてるのに魔法がまだ使えるの?」
シェイディアは焦る。ロゼリアの使った土の壁は、シェイディアの闇の剣を確実に防いでいく。驚いたせいで一瞬状況の把握が遅れたが、それは着実に近付いてきていた。
「そこっ!」
気配を感じたシェイディアが、背後へと剣を振り抜く。ところが、ざばあっと音がしただけだった。
「?!」
シェイディアが斬ったのは、なんと人の姿をした水だった。驚いたシェイディアの首筋に、ロゼリアの剣がぴたりと当てられていた。
「はぁはぁ、私の、勝ちですかね」
「……最後のデコイはなかなかでした」
シェイディアは攻撃態勢にはすぐに移れない状態で立っている。
「あそこから逆転されるとは思いませんでした。……私の負けですね」
ロゼリアの逆転勝ちであった。剣術よりも魔法でのごり押し感はあるものの、これは武術大会なので全然問題ないのである。
「し、勝者ロゼリア・マゼンダ! 剣術も魔法も見応えのある戦いでしたが、最後は思わぬどんでん返しで決着しました!」
実況も興奮気味に喋っている。
「さて、穴だらけにしてしまったので直しておきませんとね」
武台を降りる前に、ロゼリアは土魔法を使って二人で穴だらけにした跡を直していった。
まだ武術大会は予選が始まったばかりである。しかも、二人ともまだその初戦である。残り二試合あるのだ。
だというのに、初戦から意地がぶつかり合った結果、いきなりの消耗となってしまったのだ。
控室に戻ると、試合を見に来ていたペシエラから褒められると同時に怒られていた。なんとも苦い対人戦デビューとなったロゼリアなのであった。
「おっと、ロゼリア選手とシェイディア選手、ともに牽制し合って動きがありません!」
実況にそう言われる始末である。
ロゼリアには逆行前のアドバンテージがあるものの、実戦そのものは対魔物ばかりで、対人戦はほぼ皆無である。
一方のシェイディアは騎士団の練習に出て対人戦を行った経験はあるが、未知の相手だとどうしても受けに回ってしまう癖があった。それがこの膠着状態の理由である。
(対人戦は私の方が経験あるはずです。ここはひとつ……)
「おっと、シェイディア選手が先に仕掛けた!」
自分に分があると踏んだシェイディアが仕掛ける。
それにしても今年の実況はずいぶんと喋るものだ。王子二人が入学してきたとあって固くなっていたのが、三年目となって解れたのだろうか。まあこれだけ喋ってくれれば盛り上がるだろう。
さて試合の方は、シェイディアの突進からの斬りが放たれる。様子見の単純な攻撃である。さすがにこれはロゼリアも反応して……、ってなぜか剣で受けた。普通は躱して反撃を入れるところだろう。
「……読まれましたか」
「危ないわね。躱していたらそこから切り返しが飛んできてたわね」
そう、シェイディアは振り下ろしを止めて、薙ぎ払いへの連携を狙っていたのだ。振り下ろしの速度の遅さを、ロゼリアは見抜いたのである。これはフェイントだと。わざと軽い攻撃を放って、本命はその後に放つ。余裕で躱せるとみると大抵は左右のどちらかに躱す。それを見込んだ攻撃だったのだ。
ロゼリアは剣を弾いて軽く後退する。シェイディアも弾かれた衝撃を利用して後方に下がった。武術大会初出場とは思えない動きだ。
ロゼリアは呼吸を整え、打って変わって自分から攻撃を仕掛ける。しかし、そこは対人戦はずぶの素人の攻撃だ。シェイディアには到底当たらなかった。しかもフェイントを掛ける余裕もない。躱されれば無防備な姿をさらした。
だが、忘れてはならない。これは剣術大会ではない。武術大会なのだ。剣術以外にも、体術や魔法の使用だって可能なのだ。
風魔法を使って攻撃を躱すロゼリア。これにはシェイディアは驚かされた。
「さすがは三属性の使い手。反撃を食らうと分かっているから、とっさにでも発動できるわけね」
ロゼリアの風魔法はかなり精度が高い。ロゼリアのエアリアルボードは、チェリシアやペシエラに劣らない性能を持つのだから当然の話だ。
この風魔法を見せられては、シェイディアも黙ってはいなかった。シェイディアの周りに黒い剣のようなものがいくつも現れる。
「闇魔法?」
「ええ、そうよ。私の家系は闇属性の使い手。当然ながら私だって使えますわ」
そう言うと、シェイディアはロゼリア目がけて闇の剣を投げつける。武台にざくざくと刺さっていく闇の剣。ロゼリアは風魔法を使ってそれを回避していく。ロゼリアの身体能力では回避が間に合わないと見たからだ。
実際その見立ては当たっている。ここまででシェイディアは、ロゼリアのおおよその身体能力を見破っていた。回避がぎりぎり間に合わない位置と速度を割り出して、ロゼリアへと闇の剣を放っているのである。ノワール家の戦闘センスの高さが窺える戦い方だ。
こうなってくると、シェイディアからの一方的な戦いになっていく。ロゼリアの能力は高いが、それは魔法の話。体力は徐々に削られて、動きが鈍ってきた。しかし、このままでは終われない。そう思ったロゼリアは土の壁を発動させる。
「くっ、疲れてきてるのに魔法がまだ使えるの?」
シェイディアは焦る。ロゼリアの使った土の壁は、シェイディアの闇の剣を確実に防いでいく。驚いたせいで一瞬状況の把握が遅れたが、それは着実に近付いてきていた。
「そこっ!」
気配を感じたシェイディアが、背後へと剣を振り抜く。ところが、ざばあっと音がしただけだった。
「?!」
シェイディアが斬ったのは、なんと人の姿をした水だった。驚いたシェイディアの首筋に、ロゼリアの剣がぴたりと当てられていた。
「はぁはぁ、私の、勝ちですかね」
「……最後のデコイはなかなかでした」
シェイディアは攻撃態勢にはすぐに移れない状態で立っている。
「あそこから逆転されるとは思いませんでした。……私の負けですね」
ロゼリアの逆転勝ちであった。剣術よりも魔法でのごり押し感はあるものの、これは武術大会なので全然問題ないのである。
「し、勝者ロゼリア・マゼンダ! 剣術も魔法も見応えのある戦いでしたが、最後は思わぬどんでん返しで決着しました!」
実況も興奮気味に喋っている。
「さて、穴だらけにしてしまったので直しておきませんとね」
武台を降りる前に、ロゼリアは土魔法を使って二人で穴だらけにした跡を直していった。
まだ武術大会は予選が始まったばかりである。しかも、二人ともまだその初戦である。残り二試合あるのだ。
だというのに、初戦から意地がぶつかり合った結果、いきなりの消耗となってしまったのだ。
控室に戻ると、試合を見に来ていたペシエラから褒められると同時に怒られていた。なんとも苦い対人戦デビューとなったロゼリアなのであった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる