302 / 431
第十章 乙女ゲーム最終年
第298話 三年次学園祭、初日
しおりを挟む
さて、今年も無事に始まったサンフレア学園祭。入り口では魔法による荷物チェックが行われている。とは言っても、チェリシアとペシエラの魔法で構築された刃物と魔道具の検知器の付いた門をくぐるだけである。チェリシアが空港などにある金属探知機を参考に、ものの数日で作り上げたものだ。ペシエラにもイメージを教えて、二人で数台作っておいた。
この門が持ち込み不可能物を検知すると、門が光って対象者に拘束魔法を掛けるという仕組みになっている。ちなみに門の光を消すと拘束魔法は解ける。
なお、初日の午前中の時点でこの門で何名か引っ掛かっており、警備の兵士に連れて行かれた。一体何を持ち込んだのやら……。
そんな感じで、学園祭の初日は始まった。
学園祭は、過去二年であれだけの騒ぎがあったにも関わらず大盛況である。事が起きたのは武術大会だけだったので、他は安心して巡れると思っているのだろう。
会場を見ていると、外部の人間もちらほら商売をしているのが見える。ドール商会は今年も駆け出し職人たちの装飾品や衣料品を売っているようである。
さて、マゼンダ商会は予定通りの写真撮影と、商会で取り扱いのある食料品の販売だ。ソースや酢といった調味料以外にも、瓶詰めの魚などの保存食が並んでいた。
さて、商会の販売員はチェリシアの侍女キャノル、ロゼリアの侍女シアン、それとアイリスの母アメジスタの三人が来ている。他には補佐の従業員が数名といった感じだ。ロゼリアとペシエラは武術大会に行っているので、この場を取り仕切るのはチェリシアとカーマイルという、実にちょっと気まずい空間となっていた。
「はーい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。サンフレア学園祭に来た記念に写真はいかがでしょうか。ものの数秒で絵が出来上がりますよ!」
チェリシアが前世気分で客寄せを行っている。気まずいには気まずいので、とにかく気を紛らわしたいようである。
カーマイルは無表情で中に座っている。こういう商売には向かない男なので、奥で座ってお金と商品の管理をしてもらっているのだ。適材適所、これ大事。
そうやっていると、最初のお客が引っ掛かる。写真というものに興味を示した模様。そこでチェリシアは撮影用のボードの前にお客さんに立ってもらい、指で四角を作って魔法を使う。
パシャという音とともに緩い光が放たれた。そして、キャノルに紙を持ってきてもらい、そこに転写魔法を発動。これで写真の完成だ。たくさん頑張って作ったので、紙は大量に積まれている。もちろん風で飛ばないように箱にしまい込んである。
そして、無事に完成した写真をお客に見せると、それはもう大層驚かれた。紙には自分の姿がしっかりと描かれていたからだ。ものの数秒で完成する絵、そこには嘘偽りがなかった。
無事に一人目の客を掴まえた記念写真撮影。その後は徐々に口コミで広がっていき、昼前にはそれなりに人が殺到するようになっていた。価格は金貨一枚であるので、貴族や商人にとってはそれほどでもない価格だった。
だが、写真に使われている紙を見た一人の商人は、価格設定が甘くないかと詰め寄ってきた。高いではなく安いという事だ。
「この紙は私の拠点であるモスグリネでも作れない品質だ。この魔法の特殊性も考えると、紙の大きさが小さいとはいえもっと高くてもいいはずだ」
その商人の言い分はこうだった。
「確かにそうかも知れませんが、今回は広めるという目的があるので価格を抑えてみました。次に行う際には参考にさせて頂きます」
チェリシアも落ち着いてこう切り返すと、その商人は納得したようにおとなしくなった。すると、何か交渉したがるような気配を見せたので、カーマイルに丸投げするチェリシア。
「仕方ないな、任されよう」
文句言いたげな顔をしていたカーマイルだったが、父親を継ぐ予定であるので経験を積むいい機会である。その商人をお供と一緒に連れて奥へと引っ込んでいった。
この商人以外にもこういう指摘は多く行われたのだが、同じような切り返しをすると大体納得してくれた。中には釣書にしたいと言って自分の子どもを連れてくる貴族まで現れたくらいである。初日にして大盛況、嬉しい悲鳴である。商会から人員を呼んで対応する事になったくらいである。
それにつられるようにして、ソースやジャムも売れていった。売り出してから何年も経つのに未だに知らない人が居たのには驚いた。買った人は広めなかったのだろうか。特にジャムはお菓子にも使えるのに、不思議なものである。
というわけで、この日持ってきた食品の販売は、この日の夕方を待たずして完売してしまった。試食してもらったのも功を奏した。
「すみません、魔法の使い過ぎのようなので、ここで終わりにさせて頂きます。明日も行ってますので、またよろしくお願いします」
ほぼ同時に、チェリシアは疲労感を覚えたので、写真撮影も終了となった。待っていた客は残念がってはいたが、数百人もの写真を撮っていたのを知っているので文句が出る事はなかった。魔法で体力を消耗するのは常識だから、みんな理解が早かった。
「お疲れ様、ゆっくり休んでちょうだいね」
来ていたお客の中からは労いの声が聞こえてきた。
忙しかったが、初日をトラブルなく終われたのはいい事だ。椅子に座り込んだチェリシアは、とても満足げな表情を浮かべるのだった。
この門が持ち込み不可能物を検知すると、門が光って対象者に拘束魔法を掛けるという仕組みになっている。ちなみに門の光を消すと拘束魔法は解ける。
なお、初日の午前中の時点でこの門で何名か引っ掛かっており、警備の兵士に連れて行かれた。一体何を持ち込んだのやら……。
そんな感じで、学園祭の初日は始まった。
学園祭は、過去二年であれだけの騒ぎがあったにも関わらず大盛況である。事が起きたのは武術大会だけだったので、他は安心して巡れると思っているのだろう。
会場を見ていると、外部の人間もちらほら商売をしているのが見える。ドール商会は今年も駆け出し職人たちの装飾品や衣料品を売っているようである。
さて、マゼンダ商会は予定通りの写真撮影と、商会で取り扱いのある食料品の販売だ。ソースや酢といった調味料以外にも、瓶詰めの魚などの保存食が並んでいた。
さて、商会の販売員はチェリシアの侍女キャノル、ロゼリアの侍女シアン、それとアイリスの母アメジスタの三人が来ている。他には補佐の従業員が数名といった感じだ。ロゼリアとペシエラは武術大会に行っているので、この場を取り仕切るのはチェリシアとカーマイルという、実にちょっと気まずい空間となっていた。
「はーい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。サンフレア学園祭に来た記念に写真はいかがでしょうか。ものの数秒で絵が出来上がりますよ!」
チェリシアが前世気分で客寄せを行っている。気まずいには気まずいので、とにかく気を紛らわしたいようである。
カーマイルは無表情で中に座っている。こういう商売には向かない男なので、奥で座ってお金と商品の管理をしてもらっているのだ。適材適所、これ大事。
そうやっていると、最初のお客が引っ掛かる。写真というものに興味を示した模様。そこでチェリシアは撮影用のボードの前にお客さんに立ってもらい、指で四角を作って魔法を使う。
パシャという音とともに緩い光が放たれた。そして、キャノルに紙を持ってきてもらい、そこに転写魔法を発動。これで写真の完成だ。たくさん頑張って作ったので、紙は大量に積まれている。もちろん風で飛ばないように箱にしまい込んである。
そして、無事に完成した写真をお客に見せると、それはもう大層驚かれた。紙には自分の姿がしっかりと描かれていたからだ。ものの数秒で完成する絵、そこには嘘偽りがなかった。
無事に一人目の客を掴まえた記念写真撮影。その後は徐々に口コミで広がっていき、昼前にはそれなりに人が殺到するようになっていた。価格は金貨一枚であるので、貴族や商人にとってはそれほどでもない価格だった。
だが、写真に使われている紙を見た一人の商人は、価格設定が甘くないかと詰め寄ってきた。高いではなく安いという事だ。
「この紙は私の拠点であるモスグリネでも作れない品質だ。この魔法の特殊性も考えると、紙の大きさが小さいとはいえもっと高くてもいいはずだ」
その商人の言い分はこうだった。
「確かにそうかも知れませんが、今回は広めるという目的があるので価格を抑えてみました。次に行う際には参考にさせて頂きます」
チェリシアも落ち着いてこう切り返すと、その商人は納得したようにおとなしくなった。すると、何か交渉したがるような気配を見せたので、カーマイルに丸投げするチェリシア。
「仕方ないな、任されよう」
文句言いたげな顔をしていたカーマイルだったが、父親を継ぐ予定であるので経験を積むいい機会である。その商人をお供と一緒に連れて奥へと引っ込んでいった。
この商人以外にもこういう指摘は多く行われたのだが、同じような切り返しをすると大体納得してくれた。中には釣書にしたいと言って自分の子どもを連れてくる貴族まで現れたくらいである。初日にして大盛況、嬉しい悲鳴である。商会から人員を呼んで対応する事になったくらいである。
それにつられるようにして、ソースやジャムも売れていった。売り出してから何年も経つのに未だに知らない人が居たのには驚いた。買った人は広めなかったのだろうか。特にジャムはお菓子にも使えるのに、不思議なものである。
というわけで、この日持ってきた食品の販売は、この日の夕方を待たずして完売してしまった。試食してもらったのも功を奏した。
「すみません、魔法の使い過ぎのようなので、ここで終わりにさせて頂きます。明日も行ってますので、またよろしくお願いします」
ほぼ同時に、チェリシアは疲労感を覚えたので、写真撮影も終了となった。待っていた客は残念がってはいたが、数百人もの写真を撮っていたのを知っているので文句が出る事はなかった。魔法で体力を消耗するのは常識だから、みんな理解が早かった。
「お疲れ様、ゆっくり休んでちょうだいね」
来ていたお客の中からは労いの声が聞こえてきた。
忙しかったが、初日をトラブルなく終われたのはいい事だ。椅子に座り込んだチェリシアは、とても満足げな表情を浮かべるのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる