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第十章 乙女ゲーム最終年
第297話 楽観視できない学園祭
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「という事があったのですけれど?」
この日の女王教育を終えて、家に戻ったペシエラは早速チェリシアに学園であった事をぶちまけた。去年のピザを売った時の立体映像の話である。
「ああ、それを特許にして専売してもいいかも知れないわね」
のんきな事を言うチェリシアである。
だが、実際扱うとして、どういった場面に使えるかは議論する必要がありそうだ。それに、ピザの時は対象がそう大きくなかったし、どこまでの映像が映し出せるのか未知数なところが多い。そんなわけで、学園祭の準備の間はそれは置いておく事となった。
「それにしても、お姉様」
「何かしら、ペシエラ」
「すっかりクマも取れて、元気になられたようですわね」
「ええ、お昼もぐっすり眠ったからね」
ペシエラの指摘通り、チェリシアの両目の下にあった真っ黒なクマは完全に消えていた。確認すれば、朝はあの後すぐに寝ついて、昼過ぎまで寝ていたそうだ。その後は商会関連の事で確認を求められた事のチェックをしたらしい。よく見れば、チェリシアの部屋の机に商会の書類が積まれていた。これに気が付いたペシエラは、盛大にため息を吐いた。
「おとなしく寝ていなさいと言いましたのに、仕事をなさったのですのね」
「いや、確認を頼まれただけだから……」
「お姉様。頼みますから倒れるような事はなさらないで下さいませんこと?!」
言い訳を重ねるチェリシアに、ついにペシエラの雷が落ちた。こうなるとチェリシアは黙るしかなく、夕食の時間までペシエラに説教され続けた。その様子を見ていたキャノルとストロアは顔を引きつらせながら笑っている事しかできなかった。
今年の学園祭での出し物だが、マゼンダ商会は写真撮影と物品販売に決まった。チェリシアの前世知識を使った商品はたくさんあるし、商会での販売だけでは販路がまだまだ乏しいので、学園祭で販路の開拓をするための出店なのである。
クラスの方も出し物が決まって、準備が進んでいる。ロゼリアたちは参加しようとしたら止められてしまった。当日の手伝いだけでいいからと念を押された。何をするつもりなのかは聞かされていない。でも、相談だけはされるのでおおよその想像くらいはできた。秘密にしたいらしいので、あえて口を挟む事はやめたロゼリアたちである。
今年の武術大会だが、ペシエラに加えて、今年はロゼリアも参加を決めた。ペイルの婚約者となったのだから、ちょっとは腕試しがしたくなったのである。というか、女王教育で剣術を習わされたので、出ざるを得なくなったという方が正しかった。女王ブランシェードの圧が凄かったのだ。
気が付けば、あれよあれよという間に学園祭の日程が近付いてきていた。三年次の学園祭は戦闘系イベントはなく、ヒロインと選んだ攻略対象がデートして回るだけという好感度ドーピングイベントしかなかった。つまり、婚約者が決定した今となっては、実に意味のないイベントであり、ゲームによる補正は起こりえない。
その一方で、よそ者が簡単に出入りできる催し物であるし、過去二年連続で事件が起きた。こっちは警戒しなければならない。いつも以上に警備が厚くなっている。その結果が魔法使い系の大人の総動員である。教師が泣いていた。
これに関しては、チェリシアとペシエラも、自分たちの持つ光魔法を使って対策を考えていた。まぁ、学園祭の直前となるとやる時間が無くなるのは分かっていたので、実は年末から準備していた事である。
まずは校門での凶器検知。これに引っ掛からないのは衛兵たちとアイリスとキャノルの二人だ。この辺りは細かく設定して対象から外しておいた。ちなみに実験済みである。これは裏の搬入口にも設置予定である。
他にもいろいろ試したい事はあったが、ロゼリアから負担が増えるからやめておくように言われた。方法によっては魔法の掛け方が複雑になるし、仕方ないかと諦めた。
その代わりに、アイリスの契約している幻獣たちに警戒をお願いする事になった。とはいえ、王都に居る個体たちだけである。
ラルクとトルフはそもそもそれが役目なので、とても快く受けてくれた。ルゼはドール商会に付き添ってきてくれるらしいし、ライはそもそもアイリスにくっ付いている。あとは……、
「ニーズヘッグ。あなたも学園祭の警備に当たって下さい」
「主人が仰るのでしたら、仕方ありませんね」
アイリスが頼むと、どういうわけかニーズヘッグは少し考えてから了承していた。何かあるのだろうか。
「父親とはもう思いたくもないけれど、あの人の周りの人間はきっと何か仕掛けてくる気がするのです。学園祭で浮かれるとなれば、もしかしたら王都内で何かする可能性があるので、本当に頼みますよ」
アイリスはどこか嫌そうなニーズヘッグを泣き落としで説得した。
しかし、このニーズヘッグのちょっとした変化は、ほとんど気付かれる事はなかった。ただ、アイリスはちょっと気になったので、チェリシアとペシエラには相談しておいた。
こうして、いろいろ思うところのある三年次の学園祭の開催初日を迎える。その日の朝、学園長は頼むから今年は何も起きないでくれと、胃をキリキリさせていた。
この日の女王教育を終えて、家に戻ったペシエラは早速チェリシアに学園であった事をぶちまけた。去年のピザを売った時の立体映像の話である。
「ああ、それを特許にして専売してもいいかも知れないわね」
のんきな事を言うチェリシアである。
だが、実際扱うとして、どういった場面に使えるかは議論する必要がありそうだ。それに、ピザの時は対象がそう大きくなかったし、どこまでの映像が映し出せるのか未知数なところが多い。そんなわけで、学園祭の準備の間はそれは置いておく事となった。
「それにしても、お姉様」
「何かしら、ペシエラ」
「すっかりクマも取れて、元気になられたようですわね」
「ええ、お昼もぐっすり眠ったからね」
ペシエラの指摘通り、チェリシアの両目の下にあった真っ黒なクマは完全に消えていた。確認すれば、朝はあの後すぐに寝ついて、昼過ぎまで寝ていたそうだ。その後は商会関連の事で確認を求められた事のチェックをしたらしい。よく見れば、チェリシアの部屋の机に商会の書類が積まれていた。これに気が付いたペシエラは、盛大にため息を吐いた。
「おとなしく寝ていなさいと言いましたのに、仕事をなさったのですのね」
「いや、確認を頼まれただけだから……」
「お姉様。頼みますから倒れるような事はなさらないで下さいませんこと?!」
言い訳を重ねるチェリシアに、ついにペシエラの雷が落ちた。こうなるとチェリシアは黙るしかなく、夕食の時間までペシエラに説教され続けた。その様子を見ていたキャノルとストロアは顔を引きつらせながら笑っている事しかできなかった。
今年の学園祭での出し物だが、マゼンダ商会は写真撮影と物品販売に決まった。チェリシアの前世知識を使った商品はたくさんあるし、商会での販売だけでは販路がまだまだ乏しいので、学園祭で販路の開拓をするための出店なのである。
クラスの方も出し物が決まって、準備が進んでいる。ロゼリアたちは参加しようとしたら止められてしまった。当日の手伝いだけでいいからと念を押された。何をするつもりなのかは聞かされていない。でも、相談だけはされるのでおおよその想像くらいはできた。秘密にしたいらしいので、あえて口を挟む事はやめたロゼリアたちである。
今年の武術大会だが、ペシエラに加えて、今年はロゼリアも参加を決めた。ペイルの婚約者となったのだから、ちょっとは腕試しがしたくなったのである。というか、女王教育で剣術を習わされたので、出ざるを得なくなったという方が正しかった。女王ブランシェードの圧が凄かったのだ。
気が付けば、あれよあれよという間に学園祭の日程が近付いてきていた。三年次の学園祭は戦闘系イベントはなく、ヒロインと選んだ攻略対象がデートして回るだけという好感度ドーピングイベントしかなかった。つまり、婚約者が決定した今となっては、実に意味のないイベントであり、ゲームによる補正は起こりえない。
その一方で、よそ者が簡単に出入りできる催し物であるし、過去二年連続で事件が起きた。こっちは警戒しなければならない。いつも以上に警備が厚くなっている。その結果が魔法使い系の大人の総動員である。教師が泣いていた。
これに関しては、チェリシアとペシエラも、自分たちの持つ光魔法を使って対策を考えていた。まぁ、学園祭の直前となるとやる時間が無くなるのは分かっていたので、実は年末から準備していた事である。
まずは校門での凶器検知。これに引っ掛からないのは衛兵たちとアイリスとキャノルの二人だ。この辺りは細かく設定して対象から外しておいた。ちなみに実験済みである。これは裏の搬入口にも設置予定である。
他にもいろいろ試したい事はあったが、ロゼリアから負担が増えるからやめておくように言われた。方法によっては魔法の掛け方が複雑になるし、仕方ないかと諦めた。
その代わりに、アイリスの契約している幻獣たちに警戒をお願いする事になった。とはいえ、王都に居る個体たちだけである。
ラルクとトルフはそもそもそれが役目なので、とても快く受けてくれた。ルゼはドール商会に付き添ってきてくれるらしいし、ライはそもそもアイリスにくっ付いている。あとは……、
「ニーズヘッグ。あなたも学園祭の警備に当たって下さい」
「主人が仰るのでしたら、仕方ありませんね」
アイリスが頼むと、どういうわけかニーズヘッグは少し考えてから了承していた。何かあるのだろうか。
「父親とはもう思いたくもないけれど、あの人の周りの人間はきっと何か仕掛けてくる気がするのです。学園祭で浮かれるとなれば、もしかしたら王都内で何かする可能性があるので、本当に頼みますよ」
アイリスはどこか嫌そうなニーズヘッグを泣き落としで説得した。
しかし、このニーズヘッグのちょっとした変化は、ほとんど気付かれる事はなかった。ただ、アイリスはちょっと気になったので、チェリシアとペシエラには相談しておいた。
こうして、いろいろ思うところのある三年次の学園祭の開催初日を迎える。その日の朝、学園長は頼むから今年は何も起きないでくれと、胃をキリキリさせていた。
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