294 / 488
第十章 乙女ゲーム最終年
第290話 もはや通過イベント
しおりを挟む
三年次の夏の合宿の野営二日目が始まった。
この日の朝ご飯も、多くの学生がチェリシアが用意したものを食べていた。まったく甘いものである。
この日からは一日中探索である。夕方には戻って来ないといけないので、行動範囲は知れている。戻って来れなければ、森の中で夜を過ごす事になる。危険な魔物の徘徊する森に滞在するので、死活問題の状態に陥ってしまう。学生たちに緊張が走る。過去には実際に森で夜を過ごす事になって、命を落としかけた例も存在している。これを聞いて脱落する学生が毎回出てくるが、今回はみんな参加する事となった。
ただ、この探索はただ森を歩き回るだけではない。魔物を討伐して食料を確保しなければならないのだ。そうしなければ食事を取る事ができない。夕方までに戻ってくれば、成果なしでも食事にはありつけるようになっている。どのグループにもロゼリアたちに魔法を鍛えられた学生が居るので、どうにかはなるだろうと見られている。
こうして二日目の探索が始まった。魔法科の学生はやる気に満ちていたが、武術科の生徒はちょっと引け気味だった。ロゼリアたちに鍛えられたかどうかの差が、ここに大きく影響しているようである。
その夕方。学生は全員無事に戻ってきた。魔法科の学生は魔法の鍛錬の成果を見せられて満足げであった。ただ、成果があったかというと別の問題。食料が確保できた班はシルヴァノとペイルの班、オフライトの班、シェイディアとアイリスの班、ロゼリアとグレイアの班、チェリシアとペシエラの班であった。五人組が十二班あるので、実に半分にも満たなかった。一番多く集めたのはチェリシアとペシエラの班である。さすがは自分の庭なだけある。
「フォレストバードの肉は美味しいんですよ」
チェリシアはにっこにこである。
「フォレストバードってそんな簡単に倒せるものなのか?」
学生たちはざわついていた。
地面に普通に居るコボルトやウルフだけでも、初心者のうちはそれなりに苦戦する相手だ。宙を舞うフォレストバードなど、とても相手にできたものではない。
「あら、動きは単純ですから、倒すのは結構簡単ですわよ」
驚く学生たちにけろっとした表情でペシエラは言う。そうしたら、また学生たちに驚かれた。そんなに大変なのかなと、チェリシアも不思議そうに首を傾げた。
というわけで、チェリシアとペシエラが狩りまくったフォレストバードが夕食となった。フォレストバードの香草焼きは学生どころか教師陣にも好評だった。
本来、乙女ゲームであれば好感度イベントと戦闘イベントが両方起きるはず合宿なのだが、婚約者も決まってしまって好感度イベントは起こりようがなかった。戦闘イベントも野営地に魔物がなだれ込んでくる四連戦なのだが、そのための魔物も実はもう懐柔済み。実は、去年の段階でアイリスの配下に入った魔物たちが、このイベントでの討伐対象だったのだ。
というわけで、この合宿はだらだらと五日間の野営を過ごすイベントに成り下がっていた。まぁそもそも、魔物との戦い方や野営の行い方を学ぶ場なので、それなりの意味はある場なのであるが、その上で学生同士の親睦が深くなれば御の字である。
翌日からは、優秀な班が後れている班の指導に当たる。特に武術科の学生へのテコ入れが行われる。特に優秀な班には剣術にも優れた学生がそれぞれに居たので、どこか魔物に対してへっぴり腰だった学生たちも、真っ直ぐ剣を構えられるくらいの度胸を手に入れた。気後れしていては、倒せるものも倒せない。生きるか死ぬかの世界では、それは致命的なものなのだから。
しかし、意外だったのはチェリシアだった。風魔法を駆使して舞うように魔物を切り刻んだ。昔を思えば魔物を倒す事に抵抗がなくなっているのは、この世界に完全に適応していると言える。とはいえ、これは普通の学生にとってまったく参考にならなかった。
「お姉様、もう少し普通の戦い方をして下さいまし。みなさんにはとても再現できませんわよ」
ペシエラにしっかりツッコミを入れられるチェリシア。
「えー……。かっこいいと思うのに……」
チェリシアは残念そうな顔をしている。
「まったく、剣術ならこうするのですわよ!」
現れたコボルトに対して、ペシエラは華麗な剣術を繰り出す。その剣術に対して、同行していた学生は感動の声を出していた。剣を収めたペシエラはドヤ顔を決めていた。
それにしても、サーベルを扱うペシエラは相変わらず十二歳とは思えないかっこよさだった。それこそチェリシアも見惚れるレベルである。十二歳となったペシエラは体もだいぶ成長して、体型的にもチェリシアの同時期に比べれば発育が良い。おそらく、体を取り戻した事によって成長が安定したのだろう。そこまでは思ったより小さかったので、その反発があるのだと思われる。そのバランスの良さがあって、より戦闘が映えているというものである。
「さすがペシエラ様。殿下の婚約者に選ばれるだけの事がございます」
同行していた女学生たちは憧れの視線をペシエラに向けていた。チェリシアはどこか寂しい気もしたが、ペシエラが人気なのは姉として嬉しいので複雑な気持ちである。
こういった事もあったが、無事に合宿の日程は消化されていったのだった。
この日の朝ご飯も、多くの学生がチェリシアが用意したものを食べていた。まったく甘いものである。
この日からは一日中探索である。夕方には戻って来ないといけないので、行動範囲は知れている。戻って来れなければ、森の中で夜を過ごす事になる。危険な魔物の徘徊する森に滞在するので、死活問題の状態に陥ってしまう。学生たちに緊張が走る。過去には実際に森で夜を過ごす事になって、命を落としかけた例も存在している。これを聞いて脱落する学生が毎回出てくるが、今回はみんな参加する事となった。
ただ、この探索はただ森を歩き回るだけではない。魔物を討伐して食料を確保しなければならないのだ。そうしなければ食事を取る事ができない。夕方までに戻ってくれば、成果なしでも食事にはありつけるようになっている。どのグループにもロゼリアたちに魔法を鍛えられた学生が居るので、どうにかはなるだろうと見られている。
こうして二日目の探索が始まった。魔法科の学生はやる気に満ちていたが、武術科の生徒はちょっと引け気味だった。ロゼリアたちに鍛えられたかどうかの差が、ここに大きく影響しているようである。
その夕方。学生は全員無事に戻ってきた。魔法科の学生は魔法の鍛錬の成果を見せられて満足げであった。ただ、成果があったかというと別の問題。食料が確保できた班はシルヴァノとペイルの班、オフライトの班、シェイディアとアイリスの班、ロゼリアとグレイアの班、チェリシアとペシエラの班であった。五人組が十二班あるので、実に半分にも満たなかった。一番多く集めたのはチェリシアとペシエラの班である。さすがは自分の庭なだけある。
「フォレストバードの肉は美味しいんですよ」
チェリシアはにっこにこである。
「フォレストバードってそんな簡単に倒せるものなのか?」
学生たちはざわついていた。
地面に普通に居るコボルトやウルフだけでも、初心者のうちはそれなりに苦戦する相手だ。宙を舞うフォレストバードなど、とても相手にできたものではない。
「あら、動きは単純ですから、倒すのは結構簡単ですわよ」
驚く学生たちにけろっとした表情でペシエラは言う。そうしたら、また学生たちに驚かれた。そんなに大変なのかなと、チェリシアも不思議そうに首を傾げた。
というわけで、チェリシアとペシエラが狩りまくったフォレストバードが夕食となった。フォレストバードの香草焼きは学生どころか教師陣にも好評だった。
本来、乙女ゲームであれば好感度イベントと戦闘イベントが両方起きるはず合宿なのだが、婚約者も決まってしまって好感度イベントは起こりようがなかった。戦闘イベントも野営地に魔物がなだれ込んでくる四連戦なのだが、そのための魔物も実はもう懐柔済み。実は、去年の段階でアイリスの配下に入った魔物たちが、このイベントでの討伐対象だったのだ。
というわけで、この合宿はだらだらと五日間の野営を過ごすイベントに成り下がっていた。まぁそもそも、魔物との戦い方や野営の行い方を学ぶ場なので、それなりの意味はある場なのであるが、その上で学生同士の親睦が深くなれば御の字である。
翌日からは、優秀な班が後れている班の指導に当たる。特に武術科の学生へのテコ入れが行われる。特に優秀な班には剣術にも優れた学生がそれぞれに居たので、どこか魔物に対してへっぴり腰だった学生たちも、真っ直ぐ剣を構えられるくらいの度胸を手に入れた。気後れしていては、倒せるものも倒せない。生きるか死ぬかの世界では、それは致命的なものなのだから。
しかし、意外だったのはチェリシアだった。風魔法を駆使して舞うように魔物を切り刻んだ。昔を思えば魔物を倒す事に抵抗がなくなっているのは、この世界に完全に適応していると言える。とはいえ、これは普通の学生にとってまったく参考にならなかった。
「お姉様、もう少し普通の戦い方をして下さいまし。みなさんにはとても再現できませんわよ」
ペシエラにしっかりツッコミを入れられるチェリシア。
「えー……。かっこいいと思うのに……」
チェリシアは残念そうな顔をしている。
「まったく、剣術ならこうするのですわよ!」
現れたコボルトに対して、ペシエラは華麗な剣術を繰り出す。その剣術に対して、同行していた学生は感動の声を出していた。剣を収めたペシエラはドヤ顔を決めていた。
それにしても、サーベルを扱うペシエラは相変わらず十二歳とは思えないかっこよさだった。それこそチェリシアも見惚れるレベルである。十二歳となったペシエラは体もだいぶ成長して、体型的にもチェリシアの同時期に比べれば発育が良い。おそらく、体を取り戻した事によって成長が安定したのだろう。そこまでは思ったより小さかったので、その反発があるのだと思われる。そのバランスの良さがあって、より戦闘が映えているというものである。
「さすがペシエラ様。殿下の婚約者に選ばれるだけの事がございます」
同行していた女学生たちは憧れの視線をペシエラに向けていた。チェリシアはどこか寂しい気もしたが、ペシエラが人気なのは姉として嬉しいので複雑な気持ちである。
こういった事もあったが、無事に合宿の日程は消化されていったのだった。
1
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる