逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第288話 夏合宿・三年次

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 なんだかんだで、三年次も無事に夏の合宿の時期を迎えた。
 この頃には、風属性の扱える学生たちは、エアリアルボードを二人が乗れるほどの大きさまで生成させる事ができるようになっていた。しかし、その持続時間は二時間にも満たないので、まだまだ先は長いようである。魔力性疲労を引き起こす事もしばしばあったので、しばらくは無茶をさせる事は出来ないという方針になってしまったのは残念である。
 他の属性の学生たちも魔法の扱いがかなり上達していた。これは誇っていいと思う
 そんなこんなで、三年次の夏合宿始まりである。
 三年次の合宿はいつものサファイア湖ではなく、コーラル領に存在する未開の森である。こちらも一応水場があるので問題はない。さすがに二年連続で問題が起きた事が、今年の場所が変更になった原因である。ちなみにアクエリア子爵は、未だにその対応に追われている。
 ちなみに、その犯人であるキャノルは、チェリシアに侍女として仕えており、もう問題が起こる心配はないはずである。アメジスタやライと一緒にマゼンダ商会の仕事をしているので、物理的にも無理なはずだ。
 未開の森への移動手段は馬車である。未開の森までは四日弱で着く。その途中には、エアリアルボードでの移動ではしょっちゅう無視されるシクラメアの街もある。
 特に問題もなく未開の森に到着したが、ここにはサファイア湖の時のような建物は存在しない。つまり、ずっと野営で過ごすという厳しいものである。その代わり、期間は五日間と少し短くなっている。
「ここ未開の森は、私たちコーラル伯爵家の治める土地ですが、実質支配権は及んでおりませんので好きに過ごして下さいませ」
 挨拶をしたのはペシエラである。後ろにはチェリシアと養女となったアイリスが立っている。ちなみにアイリスは変装後の薄紫色の髪に眼鏡といういでたちである。これはパープリアとの決別という本人の強い意志があって継続しているのだ。
 ペシエラの説明で、未開の森の魔物の種類や中の地形などが細かく説明されていく。過去のカイスへの訪問で何度も通っただけに、すっかり地形が頭に入っているのだ。だが、周りは教師陣も含めて誰も知らない情報なだけに、それはドン引きレベルで驚かれたものである。
 挨拶が終わると、学生はそれぞれに野営の準備に入る。それを見送ったチェリシアは呟く。
「もうシナリオが破綻し切ってて、固定イベントしか発生してくれないわね……」
「面倒なイベントがないのはいいではありませんの。変なイレギュラーは気を揉むだけですわよ」
 そのチェリシアのぼやきに、ペシエラは腰に手を当てて、呆れたように返していた。アイリスはよく分からないので、どう反応していいのか戸惑っていた。
「ほら、三人とも。合宿始まってるんだから、野営を設置しましょう」
 ロゼリアが大きな声で呼び掛けてくる。
「そうね、準備しましょうか、お姉様」
「了解」
 チェリシアはロゼリアが指定した場所に立つ。そして、収納魔法から野営セットを引っ張り出して、魔法で次々と設置していった。ちなみにこの野営セットは、いつも使っている野営セットである。
 このチェリシアの野営の設置の仕方に、周りの学生たちは目を丸くして手を止めてしまった。収納魔法もそうだし、自動的に設置した魔法にもである。収納魔法だけでも、持っている人物がごく少数の希少な魔法である。そんな魔法を目の前で披露されてしまえば、驚かない方が無理だというものである。
 その一方で、この四人が身軽でやって来た理由にも合点がいった。荷物はすべて、チェリシアが収納魔法にしまっていたからである。全員が「ええ……」って感じで眺めていた。
 さて、まだ明るく活動ができる状態である。この夜からは、用意してきた食事は尽きてしまっている自力で用意しなければならない。こうなると、森に入るなりして食事を用意しなければならない。戸惑っている学生に、ペシエラが声を掛ける。
「それでは、私が自ら案内してあげますわ。最初ですから、知識を持った者が導くのは当然ですものね」
「それだったら、私も手伝います」
 こう言って、ロゼリアも探索に参加する事になった。
「チェリシア、アイリス。ここの事は頼みます」
「了解。任せておいて」
「頼まれました」
 こうして、ペシエラとロゼリアによる、未開の森探索の講義が始まった。
 探索から戻ってきた学生たちは、一様に疲れ切っていた。魔物はコボルトやフォレストバードだから、そう苦戦する事はないと思ったのだが、貴族は思ったより強くなかったようである。
 こうして、夏の合宿の野営一日目の日が暮れていった。
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