逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第286話 特訓はあちこちで

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 ロゼリアたちが魔法の講義を行うようになって、学生たちの魔法の腕前はメキメキと上達し始めた。今までの講師たちが青ざめるくらいの状況である。
 規格外のペシエラの魔法を、幾度となく見てきた事の影響が大きいのだろうか。あれで諦めるのではなく、少しでも近付けるようにと思った学生が多いという事である。さすがはヒロインといったところだろうか。乙女ゲームから逸脱したとはいえ、それが備えていた属性というのは簡単に変わらないのだろう。
 春の時期が終わる頃には、じわじわと魔力誘導を使いこなせる学生が出てきていた。
 この間にはチェリシアは、王宮でもエアリアルボードの指導を始めていた。感覚的な教え方ではあるが、チェリシアの教え方は意外と的確だった。それを理解できる風の魔法使いたちもすごいものである。こちらも春の時期が終わる頃には、人一人が乗れるくらいの風の足場を作れる魔法使いが出てきていた。
 ここから先の問題は魔力量である。魔力量が多くないと、扱える規模はどうしても小さくなるし、魔法を長時間維持する事ができない。それこそ魔力を補充できる手段が必要となってくる。エリートと自負していた魔法使いたちでも、そこまでの魔力の持ち主は多くなかったようだった。人一人の足場を一時間維持するのが精一杯という人物が多かった。
 だが、この人一人が乗れる足場を生成するだけでかなりの腕前なのである。それくらいに恐ろしい高等技術なのである。
「はぁはぁ……、こんな魔法を平然と使われるなんて。さすがは陛下たちが認められた方々だ……」
 息が上がっている魔法使いたちの前で、チェリシアは、一人用のエアリアルボードをかれこれ二時間維持している。十人くらい乗れるエアリアルボードを平然と半日以上持続できるチェリシアからすれば、これくらいで音を上げられては困るというものである。
「最終的にはこれくらいのエアリアルボードを作って頂きたいのですけれど」
 チェリシアはそう言って、普段作っているエアリアルボードを展開させる。一人用だった大きさが、一気にその面積を十倍以上に広げた。これを見せられた魔法使いは、疲労でギリギリ立っていたのでとうとう腰を抜かしていた。
「その大きさを……。我々はたどり着ける事ができるだろうか」
 魔法使いたちは唖然としてへたり込んでいた。
「今、学園でも同じような授業をしていますので、もしかしたら、みなさん追い抜かれてしまうかも知れませんね」
 チェリシアはきょとんとした顔で言っているが、聞いていた魔法使いたちは絶望に襲われていた。こんな化け物がこれからたくさん生まれるのかと……。
 しかし、いつまでも絶望感に打ちひしがれている場合でもない。チェリシアが満面の笑みを浮かべて、
「まずは、この空気の塊を四人分が乗れるくらいには広げてもらいます。そうすれば少量の荷物を同時に運搬できるようにはなりますので、楽になりますよ」
 なんだかとんでもない事を言い出していた。確かに面積四倍ではあるが、そのための消費魔力は格段に増えるのだ。そのせいで魔法使いたちは戦慄していた。だが、震える魔法使いを尻目に、チェリシアの特訓は続けられていた。
 それと同時に、ペイルたちの魔法指導も続けられている。どうにも学生たちの方が飲み込みが早そうだ。これが若さというものだろうか。
 現時点では、風の足場が作れるだけ国の魔法使いの方がレベルは上である。しかし、学生たちも徐々に魔法に魔力を込めて圧縮させられるようになってきているのだ。これは、どちらの方がエアリアルボードを先にマスターするのかが楽しみになってきた。
 魔道具の開発は止められてしまってストレスになるかと思ったチェリシアだったが、この上達の競争に興味を持ってしまって、それが楽しみで仕方ない状態になっていた。なにせ、エアリアルボードはチェリシアが開発した魔法だからだ。魔道具とは別方向ではあるが、自分が起点となっているからこそ、チェリシアのやる気が保たれているのだ。
 チェリシアによるエアリアルボードの最終目標は、自分たちの使える十人以上が乗れるものの半分程度。六人程度が乗れる規模である。そうすれば、操縦者一人と馬車一台の三割~半数程度の荷物を載せて移動ができるようになるのだ。この量はチェリシアが自ら検証した量であり、間違いはない。
 運べる量は減るものの、運搬にかかる日数は半分程度にまで抑えられる。この実現のために、チェリシアは気合いを入れて、今日も魔法を教えるのだった。
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