逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第285話 特別魔法授業

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 エアリアルボードという魔法は、かなり繊細で高度な魔法操作を要求される魔法である。
 先日から始めた魔力誘導の訓練は、エアリアルボードの魔法には必須の技術なのだ。
 チェリシアができるのはイメージができるから。ペシエラができるのは経験の多さから。ロゼリアができるのは負けず嫌いだから。三人ができるのはそれぞれに理由があった。
 一日の講義が終わった後、女王教育が無い日に限るが、ペイルにエアリアルボードを教える事になっていた。モスグリネの血筋は風と土の魔法が得意なので、ペイルが扱える可能性は十分にあるのだ。
 エアリアルボードを教える上で、最初は空気弾を魔法で作るところから始める。というのも、エアリアルボードの乗る部分は空気を固めているからだ。空気弾を満足に作れないようでは、まず話にならないのだ。
 ペイルには、まずこの点を重点的に教え込む。婚約者となったロゼリアが教えるのが適切だろうが、ペシエラも一緒になって教えている。ロゼリアもどちらかというとまだ未熟。なので、ペシエラが教える方が適切であると判断したためだ。
 本来なら考案者であるチェリシアが教えるべきだろう。ところが、チェリシアは教え方が抽象的すぎなので、ペシエラから強く言われてこの席を外されてしまった。チェリシアは「バカァっ!」と叫んで泣きながら学園を出ていた。いい歳こいた貴族令嬢の態度だろうか。ロゼリアとペシエラは「ええ……」と困惑しながらそれを見送っていた。そして、キャノルが二人に頭を下げてチェリシアを追いかけていった。凄腕の暗殺者だったキャノルも、すっかり侍女の仕事が板についてきたようだ。
 まぁチェリシアの事はとりあえずおいておこう。家に帰ってからフォローはしておくつもりだ。
 さて、ペイルに対しての特別講義が始まる。これは本人の希望なのだからやむを得ない事である。しかも、モスグリネに帰るまでの一年間限定だから、急がざるを得ないというわけである。というわけで、チェリシアに構わずそのまま指導を始める。
 最初の指導が、さっき言った通りの空気弾の生成である。これが満足にできないと途中で足場が抜けるなど、危険な状態になってしまうのだ。基本であり重要な事である。ロゼリアもペシエラも、簡単に空気弾を作り上げる。ペイルも頑張ってみるが、空気の圧縮がうまくいかず、大きなふわふわした塊しか作れなかった。
「むぅ、難しいな」
 ペイルはその魔法の繊細さに苦戦していた。だが、ペイルは根気よく空気弾の生成を続けている。ロゼリアやペシエラが見本を見せてくれるが、ペイルは二人のような魔法弾を作る事ができなかった。
「これ以上遅くなるわけにはまいりませんので、今日はここまでですね」
 ロゼリアが終了を宣言する。だが、ペイルは諦めが悪いようで、まだ続けようとしていた。だが、ペシエラが厳しくビシッと言えば、惚れていた経緯からかペイルはおとなしく帰宅する事に応じた。これが惚れた弱みというものだろうか。ロゼリアはちょっと悔しく思った。
 しかし、ペイルは魔法を苦手と言っていた割には、ふわふわだったとはいえ空気弾を作り出していたので、さすが適性のある属性といったところだろう。この分なら根気よく頑張れば、モスグリネに戻る頃には取得できるかも知れない。そういう意味では、期待ができる王子である。
「ただいまですわ、お姉様、アイリスお姉様」
「おかえりなさい、ペシエラ」
 帰ったペシエラをアイリスが出迎える。だが、チェリシアの姿はなかった。
「ねえ、チェリシアが怒っていたけど、何があったのかしら」
 どうやら怒って戻ってきたらしい。というわけで、ペシエラはアイリスに事情を説明した。すると、アイリスは納得したようだった。
「なるほど、チェリシアは仲間外れにされたと思って怒っていたのね。自分が考案した魔法だから、余計に悔しかったのね」
「ええ。お姉様には悪いとは思いましたけれど、ペイル殿下相手となると、周りの目への対処も必要になりますから」
 ペシエラは、チェリシアを外した理由をこう語った。とりあえずチェリシアへ説明するために、ペシエラはチェリシアの部屋へと向かった。
「お姉様、ペシエラですわ」
 部屋の中からは反応がない。
「申し訳ございませんでしたわ。今日のところは周りの目の事も考えて、お姉様を外した事を謝罪しますわ。でも、今日の結果を見て、次からはお姉様も参加をお願いしますわ。直感的な方が伝わる気がしましたので」
 ペシエラが誠意を込めて謝罪をすると、チェリシアはゆっくりと扉を開けて、
「本当?」
 真っ赤にした目でペシエラを見た。
「ええ、約束しますわ。でも、今日みたいな大人気ない態度は勘弁して下さいませ」
「うん、分かったわ」
 意外と簡単に和解が成立した。
 約束通り、次のペイルの魔法講義の場には、チェリシアも参加したのだった。ただ、この回からはペイルたちの呼び掛けに応じた学生も参加する事になったのだった。
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