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第十章 乙女ゲーム最終年
第283話 どこまでも勉強は苦手
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三年次が始まって春の一の月も終わりかけに近付いた頃、モスグリネ王国から婚約に対する返事が送られてきた。その結果は承認。つまり、ペイルとロゼリアの婚約が両国間で認められたのである。これに一番喜んだのはチェリシアで、ペシエラも喜びつつもほっとした様子だった。
乙女ゲームの中では、攻略の最終年となる三年次。そうともなれば親密度を上げるためのイベントが目白押しである。
……のだったが、現実となった世界では恋愛関係はほとんど落ち着いてしまっている。ヒロインや悪役令嬢の婚約に関しては王命でズバッと固められてしまっているからだ。
代理ヒロインや代理悪役令嬢の登場も警戒したがそれもなく、前期の日程は順調に消化されて行っていた。実に平和なものである。
強いて平和じゃない要素と言えば、チェリシアによる魔道具や料理、調味料開発の数々だろう。チェリシアが生み出したものの数々は、今ではかなり生活に根付いていた。
ロゼリアとペシエラは女王教育、アイリスは女官になるために必死に勉強中。というわけで、今日もチェリシアは一人マゼンダ商会にやって来ていた。
しかし、チェリシアも暇というわけではない。ロゼリアがモスグリネに嫁ぐというのなら、マゼンダ商会の実質的な支配人となる。そのためには計算だの人事だの、できなければならない事が増えていく。今日もマゼンダ家のリモスやハイビスからビシバシと鍛えられていた。チェリシアは学園の勉強もあまり得意ではないので、少し音を上げそうになっていたのだが、だからといって教育係の手加減はない。悲鳴を上げながらも、チェリシアは必死に勉強に明け暮れていった。
夜、家に帰ってきたチェリシアを見たペシエラとアイリス。
「勉強してこなかったツケですわ」
「ええ。暗殺家業に手を出していた私ですらこなせる内容ですのに、チェリシアはどれだけ勉強が嫌いなんですか」
実に冷たい。まぁ二人とも成績はトップクラスだから仕方ないのだ。アイリスの成績が悪かったのはパープリアのせいだという事がはっきり分かったくらいに、アイリスの成績は上昇を続けていた。身体能力が高いので、扱うのはショートソードだというのに剣術の授業もしっかりこなしているくらいである。
チェリシアは魔道具の開発など、発想や技術はすごいのだが、学園からすると成績面がいまいちなので問題児扱いされてしまっていたのだ。
「お姉様、一年くらいは学業に専念してみてはいかがかしら」
「えー……」
ペシエラがそう提案すると、露骨に嫌な顔をするチェリシア。
「お姉様。私も人の事は言えませんが、お姉様が開発を頑張り過ぎたせいで、技術者や従業員たちが悲鳴を上げていますの。少し休ませてあげませんと、反発が起きますわよ?」
「うっ」
ペシエラが現実的な話をすると、チェリシアは押し黙った。実際、チェリシアを見る従業員の目が怖いものを見るようだったのだ。確かに、魔道具や調味料などの材料を集めるために無理をさせた覚えはある。さすがにチェリシアは観念したようである。
「うーん、分かった。学生の本分は学業だものね……」
すごく落ち込んだ顔をしていた。
アイリスと二人で何とも言えない顔をしていたペシエラだったが、さすがにこのまま凹まし続けるのも悪いと思ったのか、かねてから考えていた構想を口に出した。
「お姉様が考えたエアリアルボードという魔法ですが、これを使った流通業が構築できないかと、王家の方に打診致しましたわ」
ペシエラのこの言葉を聞いたチェリシアが、もの凄い勢いで顔を上げる。
「それは素晴らしいわ。実現すれば流通に革命が起きるわ。ただ、あの魔法を再現できる人間は居るかしら」
チェリシアの勢いがすごい。ペシエラは肩を掴まれそうになるが、予想通りの反応だったので、ひらりと躱した。空を切ったチェリシアは少し残念そうだった。
「魔法の指導をする際の講師にお姉様を推薦しておきましたから、申しつけられ時はよろしく頼みますわよ」
冷静に躱したペシエラは、そう言葉を続ける。それに対してチェリシアは、
「了解」
と嬉しそうに大声で返事をした。
勉強漬けに落ち込むチェリシアを元気づけようと思って口に出した構想だったが、想像以上にやる気を出してしまった模様。実際に考えていた事とはいえ、これほどまでに効果があるとは思ってもみなかった。
(やっぱりお姉様って変だわ)
引き気味に見ているペシエラを尻目に、チェリシアは実現に向けて激しく燃えているのだった。
乙女ゲームの中では、攻略の最終年となる三年次。そうともなれば親密度を上げるためのイベントが目白押しである。
……のだったが、現実となった世界では恋愛関係はほとんど落ち着いてしまっている。ヒロインや悪役令嬢の婚約に関しては王命でズバッと固められてしまっているからだ。
代理ヒロインや代理悪役令嬢の登場も警戒したがそれもなく、前期の日程は順調に消化されて行っていた。実に平和なものである。
強いて平和じゃない要素と言えば、チェリシアによる魔道具や料理、調味料開発の数々だろう。チェリシアが生み出したものの数々は、今ではかなり生活に根付いていた。
ロゼリアとペシエラは女王教育、アイリスは女官になるために必死に勉強中。というわけで、今日もチェリシアは一人マゼンダ商会にやって来ていた。
しかし、チェリシアも暇というわけではない。ロゼリアがモスグリネに嫁ぐというのなら、マゼンダ商会の実質的な支配人となる。そのためには計算だの人事だの、できなければならない事が増えていく。今日もマゼンダ家のリモスやハイビスからビシバシと鍛えられていた。チェリシアは学園の勉強もあまり得意ではないので、少し音を上げそうになっていたのだが、だからといって教育係の手加減はない。悲鳴を上げながらも、チェリシアは必死に勉強に明け暮れていった。
夜、家に帰ってきたチェリシアを見たペシエラとアイリス。
「勉強してこなかったツケですわ」
「ええ。暗殺家業に手を出していた私ですらこなせる内容ですのに、チェリシアはどれだけ勉強が嫌いなんですか」
実に冷たい。まぁ二人とも成績はトップクラスだから仕方ないのだ。アイリスの成績が悪かったのはパープリアのせいだという事がはっきり分かったくらいに、アイリスの成績は上昇を続けていた。身体能力が高いので、扱うのはショートソードだというのに剣術の授業もしっかりこなしているくらいである。
チェリシアは魔道具の開発など、発想や技術はすごいのだが、学園からすると成績面がいまいちなので問題児扱いされてしまっていたのだ。
「お姉様、一年くらいは学業に専念してみてはいかがかしら」
「えー……」
ペシエラがそう提案すると、露骨に嫌な顔をするチェリシア。
「お姉様。私も人の事は言えませんが、お姉様が開発を頑張り過ぎたせいで、技術者や従業員たちが悲鳴を上げていますの。少し休ませてあげませんと、反発が起きますわよ?」
「うっ」
ペシエラが現実的な話をすると、チェリシアは押し黙った。実際、チェリシアを見る従業員の目が怖いものを見るようだったのだ。確かに、魔道具や調味料などの材料を集めるために無理をさせた覚えはある。さすがにチェリシアは観念したようである。
「うーん、分かった。学生の本分は学業だものね……」
すごく落ち込んだ顔をしていた。
アイリスと二人で何とも言えない顔をしていたペシエラだったが、さすがにこのまま凹まし続けるのも悪いと思ったのか、かねてから考えていた構想を口に出した。
「お姉様が考えたエアリアルボードという魔法ですが、これを使った流通業が構築できないかと、王家の方に打診致しましたわ」
ペシエラのこの言葉を聞いたチェリシアが、もの凄い勢いで顔を上げる。
「それは素晴らしいわ。実現すれば流通に革命が起きるわ。ただ、あの魔法を再現できる人間は居るかしら」
チェリシアの勢いがすごい。ペシエラは肩を掴まれそうになるが、予想通りの反応だったので、ひらりと躱した。空を切ったチェリシアは少し残念そうだった。
「魔法の指導をする際の講師にお姉様を推薦しておきましたから、申しつけられ時はよろしく頼みますわよ」
冷静に躱したペシエラは、そう言葉を続ける。それに対してチェリシアは、
「了解」
と嬉しそうに大声で返事をした。
勉強漬けに落ち込むチェリシアを元気づけようと思って口に出した構想だったが、想像以上にやる気を出してしまった模様。実際に考えていた事とはいえ、これほどまでに効果があるとは思ってもみなかった。
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