逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第十章 乙女ゲーム最終年

第282話 取り扱い説明中

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 驚きに包まれる室内。しばらくの間沈黙が続いた。
「まぁ、私とペイル殿下のためですって?」
 ロゼリアが沈黙を破る。
「ええ。今年でペイル殿下の留学はおしまいなんですもの。ロゼリアは卒業まではこっちでしょ? 寂しくないかなーって」
 チェリシアが作った理由を説明する。ああそういう事かと、全員が納得したようだった。
「で、このチャットフォンだけど、持つのは私たち六人だけにするつもりなの」
 納得したのを見て、チェリシアが話を続けると、またみんなが驚く。
「ペシエラと相談した結果、悪用されたらいけないって結論になってね。でも、国王陛下と女王陛下にはお伝えするつもりよ」
 だが、続けて出てきた広めない理由を聞いて納得した。
「これでも蒼鱗魚の使う念話には敵わないのよね。スマホにしても完全再現には程遠いし、難しいな」
 淑女らしからぬ態度を取り続けるチェリシアだったが、あえて誰もツッコミは入れない。これはこれでチェリシアらしいなという印象がすっかり定着してしまっているからだ。
「お姉様、私たち以外の前でそういう態度を取るのだけはやめて下さいませ。貴族って体裁にはうるさいですから」
「分かっているわ、ペシエラ。……でも、ちょっと気を抜きすぎたかしら」
 令嬢モードに入るチェリシア。その姿を見て、ロゼリアたちはつい笑みをこぼしてしまった。
「このチャットフォンは、写真魔法や撮影魔法の応用ですので、光魔法でしか再現できないために製造は困難でしょう。ですが、先ほどの理由で量産は致しません」
 チェリシアは改めて言い切った。
「分かりました。ただ、父上も母上も多分所望すると思いますので、その時はどうかよろしくお願いします」
 シルヴァノがにこりと微笑む。反則なくらいの爽やか王子スマイル。チェリシアはゲームと全然違う、純真なシルヴァノの笑顔には逆らえなかった。
「承知致しました。国王陛下、女王陛下より下知されましたら、その時は作製致します」
 チェリシアは令嬢モードでシルヴァノに答えた。
 話が終わったところで、チェリシアとペシエラがアイリスを見る。
「このチャットフォンを使えるようにするから、アイリス、暗器を出してくれない?」
「分かりました」
 アイリスは自分用に特殊に仕立てられたドレスの隙間から、太もものベルトに挿した短剣を引っ張り出した。太ももの短剣を固定するベルトは神獣インフェルノとの契約の証なので、常に着けっぱなしである。
「アイリス、ずっと短剣を持ち歩いているのか……」
「申し訳ありません。習慣付いてしまっていて直せそうにございません」
 ペイルが引き気味に言うと、アイリスは淡々と謝罪をしていた。さすがは親の裏家業を手伝い、ペシエラ付きの侍女になってからも淡々と仕事をしていただけの事はある。備わった胆力が違う。
 それはそれとして、それぞれのチャットフォンの魔石に次々と血を垂らす。それぞれの色に魔石が光ると、これでそのチャットフォンはその人物のものとなるのである。
「魔石なのに綺麗よね」
 チャットフォンに付けられた魔石は、フォレストバードの魔石である。いつぞやの魔石氾濫の時など、カイスに向かう時には必ずと言っていいほど撃墜される可哀想な魔物である。
 フォレストバードの魔石を使う理由としては、チャットフォンの大きさからすると適度な大きさの魔石が取れるというのがある。魔石の加工は地味に繊細な作業なので、加工の手間が少ないほどいいのだ。意匠にこだわった結果、宝石のような魔石とするべく、磨きに磨いたそうだ。
「魔石に血を垂らす事で、魔石にその人の魔力が記憶されるんです。いろいろ面倒な魔法を組み込んだ結果、相手を念じる事でその魔力を探して互いのチャットフォンがつながるという仕組みなんです」
 使い方の説明の時に、チェリシアが一部の説明を省いた。どうやら使った魔法が複雑すぎて説明できないらしい。異世界転生者だからこそわかる感覚なのかも知れない。
 そして、最後に一つ注意を加えた。
「これは一対一でしか通話できないので、相手に必ずつながるとは限りませんので、そこは注意して下さい。一応、応答待ちなら緑、通話中なら赤に魔石が光るようにはしてありますけれど」
 チェリシアの説明が終わる。あまりに使われている魔法が複雑すぎて、ペシエラですら頭が痛そうにしていた。王子二人にいたっては撃沈である。
 こうしてアイヴォリー王国に、また一つ新たなオーパーツが誕生したのであった。どこまでも解析不可能な魔道具ではあるが、いろいろと地味に活躍する事は間違いなかった。
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