逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第276話 政略でも構いません

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 武器談議から解散したロゼリアたちは、それぞれの婚約者と従者を伴って別々の部屋に移動する。つまり、ロゼリアにはライ、チェリシアにはキャノル、ペシエラにはアイリスが付いて行った。
 ちなみにオフライトたちノワール家は両親の元へ、ルゼはドール商会と合流して帰宅の途についていた。
 さて、ペイルと一緒の部屋に入ったロゼリアだったが、婚約者の話は予想していたとはいえ急だったので、ちょっと緊張気味にしている。それはペイルも同じようで、しばらくはお互いの顔を見るものの、まったく言葉を交わす事もなかった。
 しかし、その状況は予想外なところから崩された。
「お二人ってそんな初心な感じでしたっけ?」
 ライだった。あまりに沈黙を続ける二人を見てられなかったのだろう。揶揄気味にツッコミを入れてきたのだ。
 ところが、このライのツッコミに驚いたロゼリアとペイルは、ライを見た後お互いに顔を向き合わせると、堰を切ったように笑い出した。
「わははははっ、確かにそうだな。すまないな、ライ」
「ほんっとう、おかしな話ですね。しょっちゅう顔を合わせていますのに、変ですわね」
 笑いが止まりそうにない二人を、ライはぷんすかと不機嫌な顔をして見ている。ちなみにペイルの従者も部屋に居るのだが、彼は必死に笑いを堪えていた。
 笑いが収まると、ペイルがロゼリアに話し掛ける。
「いくら王命とはいえ、お前は俺との婚約を受け入れるのか?」
 いきなりこれだ。さすがは俺様気質のペイル。デリカシーの欠片も持ち合わせてはいない。
「ええ。シルヴァノ殿下の事は最初からペシエラに譲るつもりでしたし、アイヴォリーのために貢献できるのなら、国外もありという選択肢は常に考えていましたもの」
 ペイルの質問に、ロゼリアははっきりと答えた。そして、逆に質問を投げ掛けた。
「ペイル殿下こそ、ペシエラの事はよろしいのですか? かなり気に入られていたとは思いますが?」
 このロゼリアの質問に、ペイルは少し黙った。
「確かに、剣も魔法も超一流だ。考え方などもはっきりしているし、あの意志の強さは俺の妻として理想なのは確かだ」
 しばしの沈黙の後、ペイルは確かにそう語った。やはりペシエラに惚れていたのだ。だが、肝心のペシエラの気持ちが自分に向く事はないと、これまでの付き合いから散々悟らされたのである。どうあがいても、あの二人の間に割って入れないと諦めざるを得なかったのだ。
「でも、チェリシアは対象外ですのね」
「ああ。姉だからそうなるかと思うが、彼女はどうにもつかみきれない感じがするからな。王族に迎えて縛り付けるのは、チェリシアのためにはならないと判断したんだ」
「では、私は消去法の余り者という事ですか?」
 こう言われて、ペイルはしまったと口を押さえた。
「い、いや。そういうわけじゃない。ペシエラほどではないが剣と魔法の才能はあるし、チェリシアほどではないが発想の柔軟性がある。マゼンダ商会の商会長としての魅力もあるし、悪くはないと思うんだ」
 完全に苦しい言い訳になってきたペイル。だが、顔を真っ赤にしながら話すので、ロゼリアはどこか怒る気が失せていった。
「まあ、殿下がどう思われてもようとも、王命ですから逃げるなんて事はしません。余り者でも結構。むしろその方がよろしいかも知れません」
 ロゼリアは眉間に皺を寄せながら、ペイルをしっかりと見てはっきりと言う。その姿に、ペイルはドキッとした。
「それに、変に恋愛感情を持たない方が、貴族の場合はかえってうまくいくでしょう。お互いの役割とはっきり割り切れますからね」
 ロゼリアはキッパリと言い切った。
 なるほど、ロゼリアは自分の立ち位置をはっきりと理解しているという事だろう。ロゼリアの覚悟を決めた態度に、ペイルは少し気が楽になったような気がした。
 その後は気が付いてみれば、お互いの使用人も巻き込んだ討論会に発展していた。この二人、なんだかんだで息が合いそうである。
 アイヴォリーとモスグリネの現状から周辺諸国まで含めた対応だの、飽きる事なく繰り広げられる論争に、使用人の二人の方が早々に脱落していた。ペイルの使用人はともかく、元妖精のライすら脱落させる二人の討論は、思った以上にレベルが高かったようだ。
 結局、チェリシアとペシエラたちが様子を見に来るまで止まらなかったようである。
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