逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第272話 貴族社会は疲れる

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 あらかたロゼリアたちの予想通りの事が起きた。しかし、あの後ペイルからダンスの誘いが来るとは思ってもみなかった。
 現在、ロゼリアたちは婚約者と発表された面々と踊っている。少し前から婚約者となっていたシルヴァノとペシエラの踊りは完全に息が合っており、見る者が見惚れてため息を吐くほどである。
 チェリシアとカーマイルのダンスはというと、チェリシアのドジっぷりをカーマイルがよくフォローしている。元は異世界人とはいえ、どれだけ貴族になじめていないかよく分かる。何年貴族令嬢をしているのだろうか。それくらいにチェリシアのダンスは酷いものだった。カーマイルのおかげで、なんとか見れるものとなっていたので、後でお小言は確定だろう。
 ロゼリアとペイルも、これまた息は合っている。どっちもペシエラへの負けん気という共通点があるからだろうか。ペイルが多少強引にリードしても、しっかりロゼリアはついていっていた。二人で行動する事が初めてとは思えないくらい、それは周りを認めさせるには十分だった。
「驚いたな。この俺のリードについてこれるとは」
「侮ってもらっては困ります。とはいえ、ペイル殿下がこれだけ踊れるとは驚きでしたわ」
「俺とて一国の王子だ。これくらいできなくてどうする」
「そうでしたね」
 踊りながらなんか口喧嘩をしていた。それでもそれを周りに感じさせないくらい自然な踊りになっていた。
(二人とも意地になってますわね)
 ペシエラだけにはばれていたが。
 という感じで、王命による婚約者発表は無事に終わった。しかし、この場ではアイリスがコーラル伯爵家の養女になる事は発表されなかった。というのは、アイリスがパープリア男爵の娘その人だという事を知られるのを避けるためだ。国中の貴族が集まったこの場で不用意にばらすのは危険と見たという事である。なにせ、パープリア男爵家が取り潰された事は、すでに国中に広がっている。そこでパープリア男爵家の人間だと気付かれては、アイリスの身の安全が保障できない可能性が高かったからだ。
 ちなみにアイリスの兄であるヴィオレスは、すでに騎士団で実績を作ってその域を無事に脱していた。国への貢献度合いや取り組む姿勢はちゃんと評価されているようである。
 さて、お披露目ダンスを終えたロゼリアたちは、貴族の相手は父親と母親に任せて会場から去っていた。何と言ってもまだ十四歳と十一歳であるから仕方ない。
「はぁ、あれだけの貴族の前じゃ疲れるわね」
 椅子に座ってもたれ掛かっているロゼリア。
「まったくだわ。こっちの世界に来てから六年経つのに、まだ慣れないもの」
 チェリシアも同じように椅子に座り、ジューサーでジュースを作っては飲み干している。
「むしろあなたは慣れなさい。あなただってマゼンダ商会の顔なのよ? 今日の事を考えると、これから先は貴族に囲まれるのは日常になるわよ」
「うええ、それは勘弁してほしいわ」
 ロゼリアが諭し気味に話すと、チェリシアは本気で嫌な顔をしていた。とても貴族令嬢の顔とは思えないほどである。
「お姉様、諦めて下さい。それでなくても、私がシルヴァノ殿下の婚約者なのですから、将来的には女王の姉という事ですり寄ってくる貴族は増えますわよ」
 ペシエラが無表情で無慈悲に追い打ちをかけてくる。それを聞いたチェリシアは、そのままテーブルに泣き崩れた。その様子を、ロゼリアとペシエラはやれやれという感じで眺めていた。
 その時、コンコンと扉が叩かれる音がする。
「どちら様でしょうか」
 反応をしたのはライである。元が妖精であるので簡単には死なないので、最も適切な役だろう。
「ドール商会のオーロでございます。家族で挨拶に参りました」
 声を聞いたライはロゼリアたちに視線を移す。すると無言で頷いたので、
「どうぞお入り下さい」
 と扉を開けた。そこに立っていたのは、オーロ、カナリー、ブラッサ、ロイエールのドール商会一家勢ぞろいだった。
 年末のパーティー会場で、予想外のマゼンダ商会とドール商会のバトルが行われようとしていた。
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