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第九章 大いなる秘密
第269話 逆行令嬢たちの考察
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翌日、ロゼリアたちはマゼンダ商会に集まって、衣装合わせをしていた。もう目の前に迫った年末パーティーで着るドレスの試着である。
長い滞在になる事が分かっていたので、モスグリネへ出かける前に採寸を終わらせ、その間にドレスを作らせていたのである。
ロゼリアは紫で、肩が大きく開いたドレスだ。チェリシアは淡いピンクのホルターネックのドレス、ペシエラは黄色みがかったパフスリーブドレスである。年齢的な事もあるので、背中の露出はほどほどである。
あと、三人ともあまりごちゃごちゃした装飾は好まないのか、最低限のフリルやレースに花飾りを添えたくらいで、全体としてはかなりすっきりしたデザインとなっている。
「よくお似合いですわ」
同席した使用人や従業員たちが褒めてくるが、ここにはまだ一人足りなかった。
この光景に一人遅れて入ってきたのは、アイリスだった。正式にコーラル家の養女にする話は進んでおり、そのためにドレスを拵えたのである。デザインとしてはペシエラと似たような感じではあるが、肩部分は露出している。どうやら、肩を動かしやすくするためのようである。色としては自分の名前であるアイリスの色である。
「ふぇー、馬子にも衣装だな」
「キャノル、それ褒めてないから」
「そうなのか?」
「そうよ」
眺めているキャノルとライが漫才をしていた。魔物になっていたとはいえ、さすがは長生きしてるライ。知識は豊富のようだ。
「では、お嬢様方。明後日のパーティーのために微調整をしておきます」
「ええ、頼みましたよ」
使用人や職員たちが、ドレスを抱えて部屋を出て行った。部屋に残ったのはいつもの六人である。
ロゼリアたちはここまでの経験から、このパーティーが重要な局面だと見抜いていた。間違いなくとんでもない発表がなされると、勘がそう告げていた。
「お姉様たちも十四歳ですものね。婚約者を勝手に決められる可能性は十分ありますわ」
ペシエラが切り出した。一人だけ婚約者が決まっているので、どこか余裕である。
「それは十分分かってるわ。こっちは三つ上のお兄様の件もあるものね」
「あら、カーマイル様ですか?」
ロゼリアの反応に、チェリシアは驚いたように反応する。
「ええ。お兄様も婚約者がまだ居ないのよ。信じられます? 十七歳なのよ?」
「本人にその気が無いなら仕方ありませんが、侯爵家としては致命的ですわね」
ロゼリアとペシエラが、腕を組んで頷き合っている。
これに関して少し分からない風なのはチェリシアだ。なにせ前世では色恋沙汰がまったくなく、独り身のままで生きてきたせいだろう。今現在、貴族であるにも関わらず、どうにもこういった事には疎過ぎるのだ。
「まぁ、間違いなく私たちの婚約者発表と、アイリスを養女にする件は発表されるでしょうね」
「ええ。お父様たちは秘密裏に進めていると思っているでしょうけれどもね」
ロゼリアとペシエラは、腕を組んだままそろってため息を吐いた。そして、ペシエラはチェリシアを見る。
「というわけでお姉様」
「なに、ペシエラ」
「私の勘ですけれど、お姉様はきっとカーマイル様の婚約者として発表されると思いますわ。カーマイル様はこのマゼンダ商会の両家で唯一の男性。となると、その中で婚約者となれる女性はお姉様ただ一人ですわ。マゼンダ侯爵様からすれば、カーマイル様にはもう身を固めてもらいたいでしょうから、これは間違いないですわ」
ペシエラが腰に手を当てて、チェリシアをしっかりと見た上で力説する。これには、ロゼリアとアイリスの二人が頷いていた。アイリスもあんな家だったとはいえ、元は男爵家の令嬢だから理解できるのである。
「はぁ~、貴族ってのも大変なんだな」
「そうね。私たちみたいに気ままに生きられるってわけじゃないものね」
やり取りを見ていたキャノルとライは、完全に蚊帳の外でついていけなかった。
「それはそうと、ロゼリアの事ですわね」
ペシエラはロゼリアに視線を振る。
「そうね。私だけがおそらく対象外。話は詰めれてないでしょうね」
ロゼリアも自分の事は理解しているようだった。
「ちなみにロゼリアは気になる方は居るの?」
チェリシアは、恐る恐る聞いてみる。
「こっちが忙しくて、なかなかそういう事に気が回らないわね。ただ、モスグリネでの経験を考えると、ペイル殿下も選択肢としては悪くないと思うわ」
ロゼリアは結構あっさりした感じで答えた。
「そうですわね。将来的に両国や商会の事を考えると、それが最善の選択肢と言えますわね。それに、逆行前のペイル殿下はロゼリアに惚れていましたし」
ペシエラもロゼリアの考えに賛同している。
「それはパーティーの後でもいいと思うわ。陛下たちから言われたら、私たち貴族は逆らえませんしね」
「まぁそうですわね」
さすがに生粋の貴族は、割り切ってしまう。チェリシアは分からないような雰囲気ではあるが、そういうものなんだと無理やり納得した。
何にしても、二日後はアイヴォリー王国恒例の年末パーティーである。ロゼリアたちはただ静かにこの日を待つ事にするのだった。
長い滞在になる事が分かっていたので、モスグリネへ出かける前に採寸を終わらせ、その間にドレスを作らせていたのである。
ロゼリアは紫で、肩が大きく開いたドレスだ。チェリシアは淡いピンクのホルターネックのドレス、ペシエラは黄色みがかったパフスリーブドレスである。年齢的な事もあるので、背中の露出はほどほどである。
あと、三人ともあまりごちゃごちゃした装飾は好まないのか、最低限のフリルやレースに花飾りを添えたくらいで、全体としてはかなりすっきりしたデザインとなっている。
「よくお似合いですわ」
同席した使用人や従業員たちが褒めてくるが、ここにはまだ一人足りなかった。
この光景に一人遅れて入ってきたのは、アイリスだった。正式にコーラル家の養女にする話は進んでおり、そのためにドレスを拵えたのである。デザインとしてはペシエラと似たような感じではあるが、肩部分は露出している。どうやら、肩を動かしやすくするためのようである。色としては自分の名前であるアイリスの色である。
「ふぇー、馬子にも衣装だな」
「キャノル、それ褒めてないから」
「そうなのか?」
「そうよ」
眺めているキャノルとライが漫才をしていた。魔物になっていたとはいえ、さすがは長生きしてるライ。知識は豊富のようだ。
「では、お嬢様方。明後日のパーティーのために微調整をしておきます」
「ええ、頼みましたよ」
使用人や職員たちが、ドレスを抱えて部屋を出て行った。部屋に残ったのはいつもの六人である。
ロゼリアたちはここまでの経験から、このパーティーが重要な局面だと見抜いていた。間違いなくとんでもない発表がなされると、勘がそう告げていた。
「お姉様たちも十四歳ですものね。婚約者を勝手に決められる可能性は十分ありますわ」
ペシエラが切り出した。一人だけ婚約者が決まっているので、どこか余裕である。
「それは十分分かってるわ。こっちは三つ上のお兄様の件もあるものね」
「あら、カーマイル様ですか?」
ロゼリアの反応に、チェリシアは驚いたように反応する。
「ええ。お兄様も婚約者がまだ居ないのよ。信じられます? 十七歳なのよ?」
「本人にその気が無いなら仕方ありませんが、侯爵家としては致命的ですわね」
ロゼリアとペシエラが、腕を組んで頷き合っている。
これに関して少し分からない風なのはチェリシアだ。なにせ前世では色恋沙汰がまったくなく、独り身のままで生きてきたせいだろう。今現在、貴族であるにも関わらず、どうにもこういった事には疎過ぎるのだ。
「まぁ、間違いなく私たちの婚約者発表と、アイリスを養女にする件は発表されるでしょうね」
「ええ。お父様たちは秘密裏に進めていると思っているでしょうけれどもね」
ロゼリアとペシエラは、腕を組んだままそろってため息を吐いた。そして、ペシエラはチェリシアを見る。
「というわけでお姉様」
「なに、ペシエラ」
「私の勘ですけれど、お姉様はきっとカーマイル様の婚約者として発表されると思いますわ。カーマイル様はこのマゼンダ商会の両家で唯一の男性。となると、その中で婚約者となれる女性はお姉様ただ一人ですわ。マゼンダ侯爵様からすれば、カーマイル様にはもう身を固めてもらいたいでしょうから、これは間違いないですわ」
ペシエラが腰に手を当てて、チェリシアをしっかりと見た上で力説する。これには、ロゼリアとアイリスの二人が頷いていた。アイリスもあんな家だったとはいえ、元は男爵家の令嬢だから理解できるのである。
「はぁ~、貴族ってのも大変なんだな」
「そうね。私たちみたいに気ままに生きられるってわけじゃないものね」
やり取りを見ていたキャノルとライは、完全に蚊帳の外でついていけなかった。
「それはそうと、ロゼリアの事ですわね」
ペシエラはロゼリアに視線を振る。
「そうね。私だけがおそらく対象外。話は詰めれてないでしょうね」
ロゼリアも自分の事は理解しているようだった。
「ちなみにロゼリアは気になる方は居るの?」
チェリシアは、恐る恐る聞いてみる。
「こっちが忙しくて、なかなかそういう事に気が回らないわね。ただ、モスグリネでの経験を考えると、ペイル殿下も選択肢としては悪くないと思うわ」
ロゼリアは結構あっさりした感じで答えた。
「そうですわね。将来的に両国や商会の事を考えると、それが最善の選択肢と言えますわね。それに、逆行前のペイル殿下はロゼリアに惚れていましたし」
ペシエラもロゼリアの考えに賛同している。
「それはパーティーの後でもいいと思うわ。陛下たちから言われたら、私たち貴族は逆らえませんしね」
「まぁそうですわね」
さすがに生粋の貴族は、割り切ってしまう。チェリシアは分からないような雰囲気ではあるが、そういうものなんだと無理やり納得した。
何にしても、二日後はアイヴォリー王国恒例の年末パーティーである。ロゼリアたちはただ静かにこの日を待つ事にするのだった。
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