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第九章 大いなる秘密
第266話 四角で白い物
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「さて、改めて自己紹介をさせてもらうよ」
ヴァミリオたち、ロゼリアたちの親族が加わったところで、ケットシーは辺りを見渡しながら喋り始めた。
「ボクは幻獣ケットシー。モスグリネ王国の商業組合の組合長を務めている」
ヴァミリオ、カーマイル、プラウスの三人は驚いた。どう見ても巨大な猫にしか見えない目の前の人物の肩書きが、とんでもない身分の連なったものだったからだ。
「今回はモスグリネ王国の国王陛下であるダルグ・モスグリネの承認の下に、マゼンダ商会のモスグリネへの出店を認めた。つまり、ロゼリア嬢たちが自らの手でつかみ取ったものだ。親への確認は必要だったかも知れないが、ここは事後承認で済ましてもらいたい。分かるね?」
ケットシーの目がギラリと光った。
「ま、まぁ、ケットシー様がそこまで仰られるのでしたら……」
ヴァミリオたちは完全に気圧されてしまった。納得はしたくはないが、幻獣や隣国の王族まで絡んだ話なので、相手の面目を潰すのは貴族としては賢い方法ではないのだ。
「まぁこちらで勝手に進めさせてもらったからには、ちゃんと支援はするさ。ボクは人じゃないとはいえ、人でなしではないからね」
ケットシーが高らかに笑っている。ギャグのつもりなのだろうが、状況的にとても笑えたものではなかった。遠慮なく笑っていたのは、ライただ一人だけである。
「さて、その商会で取り扱う商品の中に、豆腐というものがあるんだが、チェリシアくん、出してくれないかい?」
「えっ? はい」
突然、ケットシーはチェリシアに話題を振る。それに従ってチェリシアは収納魔法から豆腐を取り出した。それは白くて四角い物体である。
「大豆を使った豆腐というのは実に面白いものだが、チェリシアくん、このアイヴォリーでは広げない方がいいと思うよ」
「それはなぜです?」
ケットシーが続けて話せば、チェリシアは首を傾げた。
「そっか、豆腐は白い。プルプルとして崩れやすいから、白をイメージカラーとするアイヴォリー王国にとって、縁起の悪いもの。そういう事ですわね?」
ロゼリアとペシエラの二人が気が付いたようだ。
「その通り。下手をすると国の崩壊を連想させる。豆腐そのものは売らない方がいい」
「えええ、これ、前世で大好きだったんだけどなぁ……。淡白でカロリー控えめ、ダイエットにはよかったのに」
チェリシアはとてもがっかりしていた。
「なに、厚揚げや油揚げならそうは分からないだろうから、そういう加工品にすればいいんだよ」
「うう、油はカロリー高いけど、仕方ありませんね……」
ケットシーに諭されて、チェリシアは仕方なしに納得していた。アイリスたち従者組を除けば、どうもこの辺は話についていけないのか反応が乏しい。ブランシェード女王陛下も反応していたので、どうやらカロリーの話は女性にしか通じないようだ。
「まぁ待て。その豆腐とやらを見せてみせい」
チェリシアの話に反応した女王が、チェリシアにそう命じる。これには驚いたが、さすがに女王の命令には背けず、チェリシアは収納魔法から豆腐を取り出した。
「ほぉ、その白い物体が豆腐か。近くで見せてみせよ」
女王が命じてくるので、チェリシアは女王の目の前にその豆腐を置いた。四角くどこか光って見えるその物体を、女王はじっと見ている。そして、手元の紅茶のスプーンを取ると、そのスプーンで豆腐を突いてみる。すると豆腐はプルプルと震えたのだった。
「ほぉ、硬さは確かにないな」
女王が豆腐にスプーンを入れれば、すっと切れていく。そして、そのまますくって口へと運び入れた。女王がしっかりと味わうその様子を、全員が息を飲んで見守った。
「ふむ、薄味だが悪くはない。チェリシア、妾らの食事用に作る事は可能か?」
「えっ、あっ、はい。可能と言えば可能でございます。前日から大豆を水に浸して柔らかくする必要はありますし、なにぶん面倒な工程が多いですが」
女王に尋ねられて混乱しながらも、チェリシアは可能だと答えた。
「ケットシー、そなたの懸念は分からんでもないが、妾が許可する。いずれは国中に広めよ」
女王は豆腐を認めたようだった。これには国王は驚いていたが、こうなった女王に逆らうのは無理だと判断したらしく諦めていた。
「はぁ、女王陛下がそう仰られるのでしたら、承知致しました。大豆の流通を確立しておきましょう」
豆腐の話題を出して脱線した話だったが、どういうわけか一つの取引を成立させてしまったのだった。これが結果オーライというものだろうか。
ヴァミリオたち、ロゼリアたちの親族が加わったところで、ケットシーは辺りを見渡しながら喋り始めた。
「ボクは幻獣ケットシー。モスグリネ王国の商業組合の組合長を務めている」
ヴァミリオ、カーマイル、プラウスの三人は驚いた。どう見ても巨大な猫にしか見えない目の前の人物の肩書きが、とんでもない身分の連なったものだったからだ。
「今回はモスグリネ王国の国王陛下であるダルグ・モスグリネの承認の下に、マゼンダ商会のモスグリネへの出店を認めた。つまり、ロゼリア嬢たちが自らの手でつかみ取ったものだ。親への確認は必要だったかも知れないが、ここは事後承認で済ましてもらいたい。分かるね?」
ケットシーの目がギラリと光った。
「ま、まぁ、ケットシー様がそこまで仰られるのでしたら……」
ヴァミリオたちは完全に気圧されてしまった。納得はしたくはないが、幻獣や隣国の王族まで絡んだ話なので、相手の面目を潰すのは貴族としては賢い方法ではないのだ。
「まぁこちらで勝手に進めさせてもらったからには、ちゃんと支援はするさ。ボクは人じゃないとはいえ、人でなしではないからね」
ケットシーが高らかに笑っている。ギャグのつもりなのだろうが、状況的にとても笑えたものではなかった。遠慮なく笑っていたのは、ライただ一人だけである。
「さて、その商会で取り扱う商品の中に、豆腐というものがあるんだが、チェリシアくん、出してくれないかい?」
「えっ? はい」
突然、ケットシーはチェリシアに話題を振る。それに従ってチェリシアは収納魔法から豆腐を取り出した。それは白くて四角い物体である。
「大豆を使った豆腐というのは実に面白いものだが、チェリシアくん、このアイヴォリーでは広げない方がいいと思うよ」
「それはなぜです?」
ケットシーが続けて話せば、チェリシアは首を傾げた。
「そっか、豆腐は白い。プルプルとして崩れやすいから、白をイメージカラーとするアイヴォリー王国にとって、縁起の悪いもの。そういう事ですわね?」
ロゼリアとペシエラの二人が気が付いたようだ。
「その通り。下手をすると国の崩壊を連想させる。豆腐そのものは売らない方がいい」
「えええ、これ、前世で大好きだったんだけどなぁ……。淡白でカロリー控えめ、ダイエットにはよかったのに」
チェリシアはとてもがっかりしていた。
「なに、厚揚げや油揚げならそうは分からないだろうから、そういう加工品にすればいいんだよ」
「うう、油はカロリー高いけど、仕方ありませんね……」
ケットシーに諭されて、チェリシアは仕方なしに納得していた。アイリスたち従者組を除けば、どうもこの辺は話についていけないのか反応が乏しい。ブランシェード女王陛下も反応していたので、どうやらカロリーの話は女性にしか通じないようだ。
「まぁ待て。その豆腐とやらを見せてみせい」
チェリシアの話に反応した女王が、チェリシアにそう命じる。これには驚いたが、さすがに女王の命令には背けず、チェリシアは収納魔法から豆腐を取り出した。
「ほぉ、その白い物体が豆腐か。近くで見せてみせよ」
女王が命じてくるので、チェリシアは女王の目の前にその豆腐を置いた。四角くどこか光って見えるその物体を、女王はじっと見ている。そして、手元の紅茶のスプーンを取ると、そのスプーンで豆腐を突いてみる。すると豆腐はプルプルと震えたのだった。
「ほぉ、硬さは確かにないな」
女王が豆腐にスプーンを入れれば、すっと切れていく。そして、そのまますくって口へと運び入れた。女王がしっかりと味わうその様子を、全員が息を飲んで見守った。
「ふむ、薄味だが悪くはない。チェリシア、妾らの食事用に作る事は可能か?」
「えっ、あっ、はい。可能と言えば可能でございます。前日から大豆を水に浸して柔らかくする必要はありますし、なにぶん面倒な工程が多いですが」
女王に尋ねられて混乱しながらも、チェリシアは可能だと答えた。
「ケットシー、そなたの懸念は分からんでもないが、妾が許可する。いずれは国中に広めよ」
女王は豆腐を認めたようだった。これには国王は驚いていたが、こうなった女王に逆らうのは無理だと判断したらしく諦めていた。
「はぁ、女王陛下がそう仰られるのでしたら、承知致しました。大豆の流通を確立しておきましょう」
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