逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第265話 賑やかな親子

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 ロゼリアたちがモスグリネから戻ってきた。
 門を通ったところで門兵が駆けて行ったので、王城ではクリアテスとブランシェードが出迎え、お決まりの報告会となった。その席では、巨大な猫であるケットシーがひときわ目立ってきた。
「お初にお目に掛かります、アイヴォリーの国王、女王よ。ボクは幻獣ケットシー、モスグリネ王国の商業組合の組合長をしております。以後、お見知り置きを」
 紳士的な装いに包まれた大きな猫が、ちゃんと紳士な挨拶をしている。
「うむ、わざわざ遠いところからよくぞ参られた。だが、今は年末で少々忙しくてな。あまりちゃんとしたもてなしはできぬので、ご容赦願おう」
 クリアテスが言葉を掛ける。
「いえ、この時期忙しい事は重々承知ゆえに、お構いなく。宿泊はマゼンダ、コーラルの両家から申し出を受けておりますゆえ、ご心配はお掛け致しませぬ」
 ケットシーは落ち着いた物腰で受け答えをしている。さすがは長年生きてきただけの事はある。
 しばらくの間、モスグリネで起きた事をそれぞれに報告させていると、
「国王陛下、女王陛下、マゼンダ侯爵並びにコーラル伯爵が到着されました」
 兵士が報告が入った。どうやら、国王と女王に伝えた後、ロゼリアたちの親にも連絡を入れたらしい。
「よし、通せ」
「はっ! ささっ、お入り下さい」
 許可が下りると、兵士はすぐに二人を謁見の間に通した。
「お兄様も?!」
 と思ったら、カーマイルもつっくついて来ていた。これにはロゼリアも驚いて声を上げた。
「あのな、私たちがどれほど心配したと思っているんだ」
 カーマイルは怒っていた。兄が怒る姿を見て、ロゼリアはとても驚いていた。逆行前はほとんど交流はなかったし、逆行してからもあまり会っていなかった気がしたから余計に驚いた。
「まったく、お前が持ち込んでくる案件のせいで忙しかったからな。やっと片付いたと思ったらモスグリネだと? 振り回されるこっちの身にもなってくれ」
「お、お疲れ様です、お兄様」
 顔を押さえてぼやくカーマイルに、ロゼリアはどう声を掛けていいのか分からなかった。なにせ、またその面倒な案件を持ち込んでしまったからである。
「はははっ、兄というのは大変だねぇ。安心したまえ、また面倒な案件を持ってきてあげたから」
「ちょっ、ケットシー様?!」
 笑いながらあっさりとばらすケットシーに、ロゼリアは慌てた。
「そこのチェリシア嬢が、我が組合で取り扱う大豆を使った商品をたくさん輸入しようとしているからね。これからも忙しくなるというものだよ、はっはっはっ」
 ケットシーが高笑いしている横で、カーマイルたちがぎこちない動きでロゼリアたちの方を見てくる。ああもう滅茶苦茶である。
「……お姉様、しっかり説明しましょうね」
「そのようね」
 というわけで、ここまで国王たちにしていた報告を、改めてヴァリミオたちにもする事になった。それはもう、ヴァミリオ、カーマイル、プラウスの三人の表情は目まぐるしく変わった。だが、最終的には三人とも頭を抱えていた。
「というわけですな。我がモスグリネ商業組合としては、大口の取引先が増える事を歓迎しますぞ」
 ケットシーは終始けらっけらとした笑顔でいたので、ヴァミリオたちとの差が明らかである。
「り、隣国で勝手に商会の支店を出すとは……」
「呆れて物も言えませんな」
 父親二人が目に手を当てて、今にも倒れそうな勢いになっていた。
「一応、商会の長は私になっているはずですが?」
 ロゼリアは腰に手を当ててぷんすかと怒っている。
「書類上はな。だが、父上たちに何の相談もなしにはやりすぎだろう。私たちからしたらロゼリアたちはまだ子どもだ」
「うぐっ」
 カーマイルに言われて、ロゼリアは口をつぐむ。
「だが、向こうの組合長がこうやって来られてしまった以上は、それで話を進めるしかないな。……まったく、胃が痛くたまらんよ」
 ヴァミリオはため息をついた後、ケットシーを見る。
「すっかり娘たちのおかげで挨拶が遅れましたが、ロゼリアの父、ヴァミリオ・マゼンダと申します。爵位は侯爵、以後お見知りおきを」
 さすがに幻獣相手とあって、ヴァミリオは頭を下げた。
「チェリシア、ペシエラの父、プラウス・コーラルでございます。現在は伯爵位を賜っております」
 続けて、プラウスも挨拶をする。
「うんうん、そうかい。わがままなお嬢さんを持つと苦労するね。はっはっはっ。だが、ボクとしては実に興味深いお嬢さんたちだよ。商品しかり、魔法しかり、その発想は実に面白い」
 目の前で繰り広げられた親子の寸劇に、ケットシーはご満悦のようだった。
「うんうん、せっかくそろった事だし、ボクからもいろいろ話をさせてもらうよ」
 ケットシーはとても上機嫌だった。
 というわけでこれから、国王たち王族も含めた席で、ケットシーの長い長い話が始まろうとしていた。
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