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第九章 大いなる秘密
第264話 アイヴォリーへの帰還
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モスグリネをロゼリアとチェリシアの操るエアリアルボードで発った一行は、一路アイヴォリーを目指している。
「いやはや、なかなかすごい乗り物ですな。これだけ上空を飛び、しかも防壁によって飛来物も空気の流れも気にしなくてよいとは。いやぁ快適快適」
幻獣であるケットシーがご満悦のようである。
「ちょっと、ケットシーさん、暴れないで下さい。コントロールしているとはいっても、危ないですから」
「おや、すまない。ボクは空が飛べないからついね」
ケットシーは謝罪しながらも、ごろごろと顔を洗っている。こういうところは猫だなと思う。
「うーん、トルマは土魔法の使い手だからこうはいかないなぁ。ジェダならできるかな?」
「ケットシー、部下に精霊が居るのか?」
ケットシーの独り言にペイルが反応する。
「ええ、居ますよ。五色の精霊でそれぞれに役割を与えているよ」
ケットシーはニコニコとしている。
「赤のガーネは鍛治、青のアイオは作物、黄のトルマは経理、緑のジェダは交通、白のオパルは人事ですな」
ケットシーが淡々と説明しているが、モスグリネでは商業の中心に精霊が普通に存在しているとは驚きだった。いや、なんで誰も気が付かないのか。
「はっはっはっ。五人とも普通の人間のように振る舞っているし、ボクの印象が強すぎて誰も疑わなかったんだよ。はっはっはっ」
ケットシーが大きな声で笑っている。確かに、身近にもライといういい例が居た。魔物となった元妖精だが、人間サイズで見た目が人間だから、羽がなければ人間で押し通せるのだから。それを思えば、精霊が普通に人間社会に溶け込んでいても、何らおかしな事ではなかった。
「いつでもよろしいですので、ジェダにこの魔法を教えてやって下さいますかな?」
ケットシーがニコニコとしながら言ってくるので、
「気が向いたらですね」
と、ロゼリアは操縦に集中しながら素っ気なく答えた。
「ケットシー、この魔法って結構繊細だから、これ以上は話し掛けないであげて。ペシエラ様やチェリシア様でも結構集中しているから」
「おやおや、そうかい。それは悪かったね」
ライに咎められて、ケットシーは平謝りしていた。さすが友人らしく、口の利き方がタメである。
目の前で繰り広げられている展開に、ペイルとその従者はついていけなかった。ロゼリアの使う魔法は、かなりの高等魔法なのである。風の魔法を得意とするモスグリネの王族として、その事が嫌というほど分かる。なにせ、自分には完全に扱う事が不可能だからだ。剣術などの武術に能力が偏っている事もあるが、性格的なところもあってこういう繊細で大胆な魔法は、ペイルには向いていないのである。
ついでに言うと、精霊が日常に紛れていた事に気付けなかった事にもショックを受けていたようだ。さっきケットシーが挙げた名前の中には、王城に出入りしていた者も居たのでなおの更のようである。それくらいに精霊たちの隠蔽工作は徹底されたもののようだ。
「あっ、ペイル殿下」
「なんだ?」
ペイルが難しい顔をしていると、ケットシーが突然話を振ってきた。
「ボクたち精霊っていうのは、基本的に人間に害は及ぼしませんよ。人間から悪意を向けられなければ、基本的に温厚ですから。そうでもなければ、人間のふりをして街に居続ける事はしませんよ」
「……そうなのか」
「はい、そうなのですよ」
ペイルは少し不機嫌になった。心を完全に見透かされていた。だが、それが精霊という存在である。それが昇格したケットシーなのだから、人の心など簡単に見透かせて当然なのである。……もっとも、ペイル自体、心の読みやすい人間なのではあるが。
そうこうしているうちに国境も越えて、アイヴォリー王国の王都が見えてきた。ヴィフレアを出て、あっという間の数日間だった。
「見えてきましたわね。あれがアイヴォリー王国王都ハウライトですわ」
「王都の名前、初めて聞いたわね」
ペシエラが叫ぶと、チェリシアがとんでもない事を言い出した。
「ちょっとお姉様。地図でも確認したではありませんか」
「ごめんごめん。あまり見てなかったわ。王都って言えば通じてたから」
チェリシアが言い訳をすると、ペシエラはあんぐりと口を開けて黙ってしまった。
「ふふっ、国から出る事がありませんでしたからね。それも仕方ないと思いますよ、ペシエラ」
シルヴァノがフォローを入れる。
「し、仕方ありませんわね。そういう事にしておきますわ」
ペシエラは腕を組んでプイっと顔を背けた。怒っているようだが、その仕草が可愛い。
というわけで、ロゼリアたちはケットシーを連れて、長いモスグリネ王国への訪問から帰ってきたのであった。
「いやはや、なかなかすごい乗り物ですな。これだけ上空を飛び、しかも防壁によって飛来物も空気の流れも気にしなくてよいとは。いやぁ快適快適」
幻獣であるケットシーがご満悦のようである。
「ちょっと、ケットシーさん、暴れないで下さい。コントロールしているとはいっても、危ないですから」
「おや、すまない。ボクは空が飛べないからついね」
ケットシーは謝罪しながらも、ごろごろと顔を洗っている。こういうところは猫だなと思う。
「うーん、トルマは土魔法の使い手だからこうはいかないなぁ。ジェダならできるかな?」
「ケットシー、部下に精霊が居るのか?」
ケットシーの独り言にペイルが反応する。
「ええ、居ますよ。五色の精霊でそれぞれに役割を与えているよ」
ケットシーはニコニコとしている。
「赤のガーネは鍛治、青のアイオは作物、黄のトルマは経理、緑のジェダは交通、白のオパルは人事ですな」
ケットシーが淡々と説明しているが、モスグリネでは商業の中心に精霊が普通に存在しているとは驚きだった。いや、なんで誰も気が付かないのか。
「はっはっはっ。五人とも普通の人間のように振る舞っているし、ボクの印象が強すぎて誰も疑わなかったんだよ。はっはっはっ」
ケットシーが大きな声で笑っている。確かに、身近にもライといういい例が居た。魔物となった元妖精だが、人間サイズで見た目が人間だから、羽がなければ人間で押し通せるのだから。それを思えば、精霊が普通に人間社会に溶け込んでいても、何らおかしな事ではなかった。
「いつでもよろしいですので、ジェダにこの魔法を教えてやって下さいますかな?」
ケットシーがニコニコとしながら言ってくるので、
「気が向いたらですね」
と、ロゼリアは操縦に集中しながら素っ気なく答えた。
「ケットシー、この魔法って結構繊細だから、これ以上は話し掛けないであげて。ペシエラ様やチェリシア様でも結構集中しているから」
「おやおや、そうかい。それは悪かったね」
ライに咎められて、ケットシーは平謝りしていた。さすが友人らしく、口の利き方がタメである。
目の前で繰り広げられている展開に、ペイルとその従者はついていけなかった。ロゼリアの使う魔法は、かなりの高等魔法なのである。風の魔法を得意とするモスグリネの王族として、その事が嫌というほど分かる。なにせ、自分には完全に扱う事が不可能だからだ。剣術などの武術に能力が偏っている事もあるが、性格的なところもあってこういう繊細で大胆な魔法は、ペイルには向いていないのである。
ついでに言うと、精霊が日常に紛れていた事に気付けなかった事にもショックを受けていたようだ。さっきケットシーが挙げた名前の中には、王城に出入りしていた者も居たのでなおの更のようである。それくらいに精霊たちの隠蔽工作は徹底されたもののようだ。
「あっ、ペイル殿下」
「なんだ?」
ペイルが難しい顔をしていると、ケットシーが突然話を振ってきた。
「ボクたち精霊っていうのは、基本的に人間に害は及ぼしませんよ。人間から悪意を向けられなければ、基本的に温厚ですから。そうでもなければ、人間のふりをして街に居続ける事はしませんよ」
「……そうなのか」
「はい、そうなのですよ」
ペイルは少し不機嫌になった。心を完全に見透かされていた。だが、それが精霊という存在である。それが昇格したケットシーなのだから、人の心など簡単に見透かせて当然なのである。……もっとも、ペイル自体、心の読みやすい人間なのではあるが。
そうこうしているうちに国境も越えて、アイヴォリー王国の王都が見えてきた。ヴィフレアを出て、あっという間の数日間だった。
「見えてきましたわね。あれがアイヴォリー王国王都ハウライトですわ」
「王都の名前、初めて聞いたわね」
ペシエラが叫ぶと、チェリシアがとんでもない事を言い出した。
「ちょっとお姉様。地図でも確認したではありませんか」
「ごめんごめん。あまり見てなかったわ。王都って言えば通じてたから」
チェリシアが言い訳をすると、ペシエラはあんぐりと口を開けて黙ってしまった。
「ふふっ、国から出る事がありませんでしたからね。それも仕方ないと思いますよ、ペシエラ」
シルヴァノがフォローを入れる。
「し、仕方ありませんわね。そういう事にしておきますわ」
ペシエラは腕を組んでプイっと顔を背けた。怒っているようだが、その仕草が可愛い。
というわけで、ロゼリアたちはケットシーを連れて、長いモスグリネ王国への訪問から帰ってきたのであった。
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