逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
267 / 522
第九章 大いなる秘密

第264話 アイヴォリーへの帰還

しおりを挟む
 モスグリネをロゼリアとチェリシアの操るエアリアルボードで発った一行は、一路アイヴォリーを目指している。
「いやはや、なかなかすごい乗り物ですな。これだけ上空を飛び、しかも防壁によって飛来物も空気の流れも気にしなくてよいとは。いやぁ快適快適」
 幻獣であるケットシーがご満悦のようである。
「ちょっと、ケットシーさん、暴れないで下さい。コントロールしているとはいっても、危ないですから」
「おや、すまない。ボクは空が飛べないからついね」
 ケットシーは謝罪しながらも、ごろごろと顔を洗っている。こういうところは猫だなと思う。
「うーん、トルマは土魔法の使い手だからこうはいかないなぁ。ジェダならできるかな?」
「ケットシー、部下に精霊が居るのか?」
 ケットシーの独り言にペイルが反応する。
「ええ、居ますよ。五色の精霊でそれぞれに役割を与えているよ」
 ケットシーはニコニコとしている。
「赤のガーネは鍛治、青のアイオは作物、黄のトルマは経理、緑のジェダは交通、白のオパルは人事ですな」
 ケットシーが淡々と説明しているが、モスグリネでは商業の中心に精霊が普通に存在しているとは驚きだった。いや、なんで誰も気が付かないのか。
「はっはっはっ。五人とも普通の人間のように振る舞っているし、ボクの印象が強すぎて誰も疑わなかったんだよ。はっはっはっ」
 ケットシーが大きな声で笑っている。確かに、身近にもライといういい例が居た。魔物となった元妖精だが、人間サイズで見た目が人間だから、羽がなければ人間で押し通せるのだから。それを思えば、精霊が普通に人間社会に溶け込んでいても、何らおかしな事ではなかった。
「いつでもよろしいですので、ジェダにこの魔法を教えてやって下さいますかな?」
 ケットシーがニコニコとしながら言ってくるので、
「気が向いたらですね」
 と、ロゼリアは操縦に集中しながら素っ気なく答えた。
「ケットシー、この魔法って結構繊細だから、これ以上は話し掛けないであげて。ペシエラ様やチェリシア様でも結構集中しているから」
「おやおや、そうかい。それは悪かったね」
 ライに咎められて、ケットシーは平謝りしていた。さすが友人らしく、口の利き方がタメである。
 目の前で繰り広げられている展開に、ペイルとその従者はついていけなかった。ロゼリアの使う魔法は、かなりの高等魔法なのである。風の魔法を得意とするモスグリネの王族として、その事が嫌というほど分かる。なにせ、自分には完全に扱う事が不可能だからだ。剣術などの武術に能力が偏っている事もあるが、性格的なところもあってこういう繊細で大胆な魔法は、ペイルには向いていないのである。
 ついでに言うと、精霊が日常に紛れていた事に気付けなかった事にもショックを受けていたようだ。さっきケットシーが挙げた名前の中には、王城に出入りしていた者も居たのでなおの更のようである。それくらいに精霊たちの隠蔽工作は徹底されたもののようだ。
「あっ、ペイル殿下」
「なんだ?」
 ペイルが難しい顔をしていると、ケットシーが突然話を振ってきた。
「ボクたち精霊っていうのは、基本的に人間に害は及ぼしませんよ。人間から悪意を向けられなければ、基本的に温厚ですから。そうでもなければ、人間のふりをして街に居続ける事はしませんよ」
「……そうなのか」
「はい、そうなのですよ」
 ペイルは少し不機嫌になった。心を完全に見透かされていた。だが、それが精霊という存在である。それが昇格したケットシーなのだから、人の心など簡単に見透かせて当然なのである。……もっとも、ペイル自体、心の読みやすい人間なのではあるが。
 そうこうしているうちに国境も越えて、アイヴォリー王国の王都が見えてきた。ヴィフレアを出て、あっという間の数日間だった。
「見えてきましたわね。あれがアイヴォリー王国王都ハウライトですわ」
「王都の名前、初めて聞いたわね」
 ペシエラが叫ぶと、チェリシアがとんでもない事を言い出した。
「ちょっとお姉様。地図でも確認したではありませんか」
「ごめんごめん。あまり見てなかったわ。王都って言えば通じてたから」
 チェリシアが言い訳をすると、ペシエラはあんぐりと口を開けて黙ってしまった。
「ふふっ、国から出る事がありませんでしたからね。それも仕方ないと思いますよ、ペシエラ」
 シルヴァノがフォローを入れる。
「し、仕方ありませんわね。そういう事にしておきますわ」
 ペシエラは腕を組んでプイっと顔を背けた。怒っているようだが、その仕草が可愛い。
 というわけで、ロゼリアたちはケットシーを連れて、長いモスグリネ王国への訪問から帰ってきたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して古物商になったトトが、幻獣王の指輪と契約しました(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
火事で死んで転生したトラストン・ドーベルは、祖父の跡を継いで古物商を営んでいた。 そんな中、領主の孫娘から幽霊騒動の解決を依頼される。 指輪に酷似した遺物に封じられた、幻獣の王ーードラゴンであるガランの魂が使う魔術を活用しながら、トラストン――トトは幽霊騒動に挑む。 オーバーラップさんで一次選考に残った作品です。 色々ともやもやしたことがあり、供養も兼ねてここで投稿することにしました。 誤記があったので修正はしましたが、それ以外は元のままです。 中世と産業革命の狭間の文明世界で繰り広げられる、推理チックなファンタジー。 5月より、第二章をはじめました。 少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...