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第九章 大いなる秘密
第263話 モスグリネを発つ
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長かったモスグリネでの滞在も終え、ついにアイヴォリーに帰る事になった。
ペシエラの調子もすっかり戻り、楽しみにしていた豆も見つけ、それぞれに満足のいくモスグリネ滞在だった。
アイヴォリーとは確実に品揃えが違っており、武器や装飾品にも独特な物がたくさんあった。
特に髪の装飾使うかんざしは、アイリスとキャノルの暗殺者組には違った物に見えたようである。
「あのかんざしってやつ、暗器にできそうだな」
「そうですね。髪に差し込む部分を鋭くすれば、針のように刺せそうですし」
「ねぇ、あの二人なんか怖い事言ってない?」
「はははっ、あの二人は元暗殺者だから、私たちと違った視点を持ってるんでしょうね」
ドン引きするライに話し掛けられて、チェリシアは苦笑いをしながら答えていた。とある時代劇を思い出しながら。
(ああ、なんか曲が流れてくる……)
こういう妙なところが転生者らしい。
それにしても、やはり一行を一番驚かせた事は、サンフレア学園の教師であるガレンが精霊王オリジンであった事だろう。変な教師だと思われる部分があったのは確かなのだが、まさか精霊や妖精を束ねる王だとは誰が想像しえただろうか。
そういえば、チェリシアが作った豆腐関連の料理は、さっそくモスグリネで広がりを見せており、まさか王宮での食事で出てくるとは思わなかった。
また豆腐は水気が多く、加工品を含めて日持ちはしないので、作ったその日に食べきるようにとは教えておいた。その豆腐料理の見返りというのだろうか、マゼンダ商会には大豆などの豆が卸される事が決定していた。
その一方で、水面下ではいろいろな思惑も動いていた。
「ペイルよ」
「なんでしょうか父上」
「あのマゼンダ商会の令嬢たち、誰かしっかり射止めておけ。あの度胸と知恵は、きっと我が国を豊かにするぞ」
モスグリネ国王ダルグは、ロゼリアたちに目を付けていた。時の戻り子、世界の渡り子という事は報告で聞いていたので、なおの事興味が湧いたようである。
「ペシエラは無理でしょうね。魔法も剣技も俺よりはるかに上ですし、あいつはシルヴァノと婚約者の上にお互いに好意まで持ち合ってますから」
ダルグの言葉に、ペイルはそう答える。
「ですが、確かにせっかくの縁ですから、俺も手放したくはないですね」
ペイルはそう言葉を続けて笑みを浮かべていた。
「そうか。だが、両国間の関係があれない程度で頼むぞ。向こうの王太子にもいい印象を持ってもらえたのだからな」
「分かっておりますとも、父上」
ペイルとダルグのこの会話。実はこっそり聞いている者が居た。
(ふむ、何やら面白い事になりそうだな。我が主人も対象に入っているのかは分からんが、国王としては優秀な人材を妃に迎えたいというところか。何にしても注意深く観察するかな)
ニーズヘッグである。影に紛れて王族の話を盗み聞きとはいい根性をしている。
(主人も絡む話だが、これは伝えない方がいいな。この手のものは反応を見て楽しむものだからな)
こう思いながらニーズヘッグは、ペイルとダルグが離れていくのを確認すると同時に部屋を去ったのだった。
これでこの年の残りの行事は、年末に行われるアイヴォリーの城での年末パーティーだけである。
ロゼリアたちはこれに間に合うようにモスグリネでの用事を済ませると、帰り支度をする。とはいっても、荷物のほとんどはチェリシアの収納魔法に放り込んで終わりだ。その荷物の中でもひときわ量を占めているのが大量の豆。後日始まる貿易とは別に、今回初回の買い付けをした豆が、麻袋に何袋も入っている。どんだけ買ったのやら。それでもかなりお金を余らせているあたり、マゼンダ商会の財力の恐ろしさが感じられる。
ロゼリアたちがモスグリネを発つ時、ダルグたち国の重鎮たちも見送りをしていた。まぁシルヴァノというアイヴォリーの王子も居たのだから、当然の見送りだろう。
シルヴァノをはじめとしたアイヴォリー王国出身の面々は、モスグリネの滞在は楽しめたと口々に言っていた。本心から言っていたせいか、ダルグたちはちょっとむず痒く感じていたようだが。
「ほっほっほっ、皆さんお揃いですな」
感動的な場面なはずが、大きな二足歩行の猫ケットシーが現れた事で空気が固まった。
「ケットシー、本当に行くのか?」
「当然ですな。話したい事が山ほどありますからな。ボクが留守の間はこいつに任せるから安心するといい」
ダルグが困惑顔でいると、ケットシーは代理として一人の精霊を紹介した。
「この子はトルマ。お金に関してはかなり細かいが、ボクの下で秘書をしているから頼りになると思うよ」
「初めまして、トルマと申します。ケットシー様不在の間、モスグリネ商業組合の組合長代理を務めさせて頂きます。よろしくお願い致します」
実に真面目そうな女性のようだ。
「では任せたよ、トルマ」
「畏まりました、ケットシー様」
受け答えを見る限り大丈夫そうで、ダルグたちモスグリネの人間は安心したようである。
「というわけだから、行ってくるよダルグ」
「あ、ああ。気を付けてな」
こうして、行きの人員にニーズヘッグとケットシーを加えて、ロゼリアたちはアイヴォリーへと戻る事になった。
長いようで短かった約一か月のモスグリネでの滞在。いろいろな思い出を胸に、ロゼリアとチェリシアはエアリアルボードを展開して帰路についたのだった。
ペシエラの調子もすっかり戻り、楽しみにしていた豆も見つけ、それぞれに満足のいくモスグリネ滞在だった。
アイヴォリーとは確実に品揃えが違っており、武器や装飾品にも独特な物がたくさんあった。
特に髪の装飾使うかんざしは、アイリスとキャノルの暗殺者組には違った物に見えたようである。
「あのかんざしってやつ、暗器にできそうだな」
「そうですね。髪に差し込む部分を鋭くすれば、針のように刺せそうですし」
「ねぇ、あの二人なんか怖い事言ってない?」
「はははっ、あの二人は元暗殺者だから、私たちと違った視点を持ってるんでしょうね」
ドン引きするライに話し掛けられて、チェリシアは苦笑いをしながら答えていた。とある時代劇を思い出しながら。
(ああ、なんか曲が流れてくる……)
こういう妙なところが転生者らしい。
それにしても、やはり一行を一番驚かせた事は、サンフレア学園の教師であるガレンが精霊王オリジンであった事だろう。変な教師だと思われる部分があったのは確かなのだが、まさか精霊や妖精を束ねる王だとは誰が想像しえただろうか。
そういえば、チェリシアが作った豆腐関連の料理は、さっそくモスグリネで広がりを見せており、まさか王宮での食事で出てくるとは思わなかった。
また豆腐は水気が多く、加工品を含めて日持ちはしないので、作ったその日に食べきるようにとは教えておいた。その豆腐料理の見返りというのだろうか、マゼンダ商会には大豆などの豆が卸される事が決定していた。
その一方で、水面下ではいろいろな思惑も動いていた。
「ペイルよ」
「なんでしょうか父上」
「あのマゼンダ商会の令嬢たち、誰かしっかり射止めておけ。あの度胸と知恵は、きっと我が国を豊かにするぞ」
モスグリネ国王ダルグは、ロゼリアたちに目を付けていた。時の戻り子、世界の渡り子という事は報告で聞いていたので、なおの事興味が湧いたようである。
「ペシエラは無理でしょうね。魔法も剣技も俺よりはるかに上ですし、あいつはシルヴァノと婚約者の上にお互いに好意まで持ち合ってますから」
ダルグの言葉に、ペイルはそう答える。
「ですが、確かにせっかくの縁ですから、俺も手放したくはないですね」
ペイルはそう言葉を続けて笑みを浮かべていた。
「そうか。だが、両国間の関係があれない程度で頼むぞ。向こうの王太子にもいい印象を持ってもらえたのだからな」
「分かっておりますとも、父上」
ペイルとダルグのこの会話。実はこっそり聞いている者が居た。
(ふむ、何やら面白い事になりそうだな。我が主人も対象に入っているのかは分からんが、国王としては優秀な人材を妃に迎えたいというところか。何にしても注意深く観察するかな)
ニーズヘッグである。影に紛れて王族の話を盗み聞きとはいい根性をしている。
(主人も絡む話だが、これは伝えない方がいいな。この手のものは反応を見て楽しむものだからな)
こう思いながらニーズヘッグは、ペイルとダルグが離れていくのを確認すると同時に部屋を去ったのだった。
これでこの年の残りの行事は、年末に行われるアイヴォリーの城での年末パーティーだけである。
ロゼリアたちはこれに間に合うようにモスグリネでの用事を済ませると、帰り支度をする。とはいっても、荷物のほとんどはチェリシアの収納魔法に放り込んで終わりだ。その荷物の中でもひときわ量を占めているのが大量の豆。後日始まる貿易とは別に、今回初回の買い付けをした豆が、麻袋に何袋も入っている。どんだけ買ったのやら。それでもかなりお金を余らせているあたり、マゼンダ商会の財力の恐ろしさが感じられる。
ロゼリアたちがモスグリネを発つ時、ダルグたち国の重鎮たちも見送りをしていた。まぁシルヴァノというアイヴォリーの王子も居たのだから、当然の見送りだろう。
シルヴァノをはじめとしたアイヴォリー王国出身の面々は、モスグリネの滞在は楽しめたと口々に言っていた。本心から言っていたせいか、ダルグたちはちょっとむず痒く感じていたようだが。
「ほっほっほっ、皆さんお揃いですな」
感動的な場面なはずが、大きな二足歩行の猫ケットシーが現れた事で空気が固まった。
「ケットシー、本当に行くのか?」
「当然ですな。話したい事が山ほどありますからな。ボクが留守の間はこいつに任せるから安心するといい」
ダルグが困惑顔でいると、ケットシーは代理として一人の精霊を紹介した。
「この子はトルマ。お金に関してはかなり細かいが、ボクの下で秘書をしているから頼りになると思うよ」
「初めまして、トルマと申します。ケットシー様不在の間、モスグリネ商業組合の組合長代理を務めさせて頂きます。よろしくお願い致します」
実に真面目そうな女性のようだ。
「では任せたよ、トルマ」
「畏まりました、ケットシー様」
受け答えを見る限り大丈夫そうで、ダルグたちモスグリネの人間は安心したようである。
「というわけだから、行ってくるよダルグ」
「あ、ああ。気を付けてな」
こうして、行きの人員にニーズヘッグとケットシーを加えて、ロゼリアたちはアイヴォリーへと戻る事になった。
長いようで短かった約一か月のモスグリネでの滞在。いろいろな思い出を胸に、ロゼリアとチェリシアはエアリアルボードを展開して帰路についたのだった。
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