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第九章 大いなる秘密
第262話 チェリシアの豆腐
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翌日、チェリシアは厨房の使用許可を得た上で、さっそく昨日購入して水でふやかしておいた大豆を取り出していた。
「ふっふっふっ、今日はお豆腐を作るのですよ」
これに付き合わされるのはキャノルとライ。二人とも目が死んでいる。
「何をやらされるんだろうな、あたいら……」
「まぁ手伝ってもらうけど、基本的には見てるだけでいいわよ」
キャノルのぼやきに、チェリシアはそう返す。
準備を整えると、チェリシアは魔法でふやけた大豆を取り出して、磨り潰しながら水を張った鍋に移していく。
「魔法って便利よね」
魔石コンロを点火して、鍋で潰した大豆を煮始める。
「キャノル、布巾を用意しておいて。この後、搾るから」
「へいへい」
適当な返事のキャノルだったが、ちゃんと大きめの布巾を持ってきていた。
その布巾を流しの上で魔法を使って広げると、チェリシアは鍋の中身を布巾の上にぶちまける。布巾の上には煮崩れた豆が残っている。
今度はそれをボウルの上に移動させ、再び風魔法を使って布巾を絞っていく。すると、布巾から液体がこぼれ始めた。
「何だこれ」
「液体は豆乳って言って、豆腐を作る基になるの。豆乳は飲めるけど、味気ないから苦手な人も多いかな。布巾の中身も捨てないでね。こっちはおからって言って、栄養はほとんどこっちにあるんだから」
「へえ」
搾った豆乳を再び温めるチェリシア。収納魔法からにがりを取り出して豆乳に放り込んでいく。
「チェリシア様、それは?」
「にがりよ。ほら、うちの領地塩作ってるでしょ。そのうち海水を乾燥させて作る塩の方で、最初に出てくる結晶を除いた残りの海水を蒸発させてできたものがにがりよ」
チェリシアの説明に「??」となるキャノルとライ。
「ははっ、こっちの世界じゃそういう知識はないものね。食塩を構成する塩化ナトリウムは温度に関わらずほとんど一定量しか水に溶けないの。でも、にがりの成分は温度が上がればそれだけ多く溶け込めるから、水分を蒸発させていけば食塩だけが先に結晶化していくのよ」
チェリシアの説明にちんぷんかんぷんの二人。その間もチェリシアはにがりを投入した豆乳を温めながら撹拌している。
そうこうしているうちに、豆乳が固まり始めてきた。
「うん、豆腐ができてきたわよ」
こう言いながら、チェリシアは収納魔法から下の方に隙間のある四角い木箱を取り出した。
「ライ、これに別の布巾を敷いてくれないかな」
「えっ、はい」
ライに木箱の準備をさせると、チェリシアはさっき使った流しを光魔法できれいにした後、ライに布巾を敷かせた木箱に、固まり始めた豆腐を流し込んでいく。
「後は蓋をして重石を乗せればいいわ。固まれば完成よ」
チェリシアは魔法で重石を乗せると、「豆腐、捨てるな」と刻み入れていた。
「これでよし。固めてる間におからで料理するわよ。収納魔法に入れておけば腐らないから、じゃんじゃん作るわよ」
チェリシアは気合いが入っていたが、豆腐四丁分のおからでは、作れる量は知れている。しかし、その辺りは前世でかなり研究済みらしく、チェリシアはさっさと調理を始めた。キャノルとライにもメモを取らせている。
おからに卵と玉ねぎを使ったハンバーグを作っていく。しかも手際よく。
「ペシエラ様を見ているせいで、チェリシア様って普通に見えたけど、やっぱり変人だわ」
キャノルがボソッと言葉を漏らす。
「キャノルに比べたら、私はまだ不器用よ」
ちゃっかりチェリシアに聞かれたようで、笑みを浮かべながらこんな言葉を返されてしまった。
チェリシアが作ったおからハンバーグは、豆腐四丁分のおからから十六個。そのうち二個を味見用に調理した。それを六個に切り分けて、
「よかったら味見されますか?」
と、調理場に居た料理人にも味わってもらった。もちろん、チェリシア本人が味見してから。
わいわいと試食してもらっている隙に、豆腐の出来具合を確認に行くチェリシア。見てみると、まだわずかに水気が木箱から流れ出ているので、もう少し時間がかかりそうである。
おからハンバーグ自体は評判はそこそこ悪くない感じだった。まぁ初めて食べるという事もあるからだろう。そこはまぁ、味付けとか工夫すればどうとでもなるだろう。
「いや、大豆にこんな使い方もあるとは思わなかったな」
というのは料理長の言葉。
「醤油や味噌の材料ですからね。そっちに慣れてると、それ以外の処理方法なんて思いつきませんよ」
「そうですな。この豆腐とおからの作り方は、組合にも伝えた方がいい気がする」
というわけで、出来上がった豆腐の試食も行い、それを受けて作り方は商業組合に共有される事となった。
その後、豆腐を揚げた加工品である油揚げと厚揚げも含めて、四つの大豆加工品がモスグリネ全土へと広がっていったのだった。
「ふっふっふっ、今日はお豆腐を作るのですよ」
これに付き合わされるのはキャノルとライ。二人とも目が死んでいる。
「何をやらされるんだろうな、あたいら……」
「まぁ手伝ってもらうけど、基本的には見てるだけでいいわよ」
キャノルのぼやきに、チェリシアはそう返す。
準備を整えると、チェリシアは魔法でふやけた大豆を取り出して、磨り潰しながら水を張った鍋に移していく。
「魔法って便利よね」
魔石コンロを点火して、鍋で潰した大豆を煮始める。
「キャノル、布巾を用意しておいて。この後、搾るから」
「へいへい」
適当な返事のキャノルだったが、ちゃんと大きめの布巾を持ってきていた。
その布巾を流しの上で魔法を使って広げると、チェリシアは鍋の中身を布巾の上にぶちまける。布巾の上には煮崩れた豆が残っている。
今度はそれをボウルの上に移動させ、再び風魔法を使って布巾を絞っていく。すると、布巾から液体がこぼれ始めた。
「何だこれ」
「液体は豆乳って言って、豆腐を作る基になるの。豆乳は飲めるけど、味気ないから苦手な人も多いかな。布巾の中身も捨てないでね。こっちはおからって言って、栄養はほとんどこっちにあるんだから」
「へえ」
搾った豆乳を再び温めるチェリシア。収納魔法からにがりを取り出して豆乳に放り込んでいく。
「チェリシア様、それは?」
「にがりよ。ほら、うちの領地塩作ってるでしょ。そのうち海水を乾燥させて作る塩の方で、最初に出てくる結晶を除いた残りの海水を蒸発させてできたものがにがりよ」
チェリシアの説明に「??」となるキャノルとライ。
「ははっ、こっちの世界じゃそういう知識はないものね。食塩を構成する塩化ナトリウムは温度に関わらずほとんど一定量しか水に溶けないの。でも、にがりの成分は温度が上がればそれだけ多く溶け込めるから、水分を蒸発させていけば食塩だけが先に結晶化していくのよ」
チェリシアの説明にちんぷんかんぷんの二人。その間もチェリシアはにがりを投入した豆乳を温めながら撹拌している。
そうこうしているうちに、豆乳が固まり始めてきた。
「うん、豆腐ができてきたわよ」
こう言いながら、チェリシアは収納魔法から下の方に隙間のある四角い木箱を取り出した。
「ライ、これに別の布巾を敷いてくれないかな」
「えっ、はい」
ライに木箱の準備をさせると、チェリシアはさっき使った流しを光魔法できれいにした後、ライに布巾を敷かせた木箱に、固まり始めた豆腐を流し込んでいく。
「後は蓋をして重石を乗せればいいわ。固まれば完成よ」
チェリシアは魔法で重石を乗せると、「豆腐、捨てるな」と刻み入れていた。
「これでよし。固めてる間におからで料理するわよ。収納魔法に入れておけば腐らないから、じゃんじゃん作るわよ」
チェリシアは気合いが入っていたが、豆腐四丁分のおからでは、作れる量は知れている。しかし、その辺りは前世でかなり研究済みらしく、チェリシアはさっさと調理を始めた。キャノルとライにもメモを取らせている。
おからに卵と玉ねぎを使ったハンバーグを作っていく。しかも手際よく。
「ペシエラ様を見ているせいで、チェリシア様って普通に見えたけど、やっぱり変人だわ」
キャノルがボソッと言葉を漏らす。
「キャノルに比べたら、私はまだ不器用よ」
ちゃっかりチェリシアに聞かれたようで、笑みを浮かべながらこんな言葉を返されてしまった。
チェリシアが作ったおからハンバーグは、豆腐四丁分のおからから十六個。そのうち二個を味見用に調理した。それを六個に切り分けて、
「よかったら味見されますか?」
と、調理場に居た料理人にも味わってもらった。もちろん、チェリシア本人が味見してから。
わいわいと試食してもらっている隙に、豆腐の出来具合を確認に行くチェリシア。見てみると、まだわずかに水気が木箱から流れ出ているので、もう少し時間がかかりそうである。
おからハンバーグ自体は評判はそこそこ悪くない感じだった。まぁ初めて食べるという事もあるからだろう。そこはまぁ、味付けとか工夫すればどうとでもなるだろう。
「いや、大豆にこんな使い方もあるとは思わなかったな」
というのは料理長の言葉。
「醤油や味噌の材料ですからね。そっちに慣れてると、それ以外の処理方法なんて思いつきませんよ」
「そうですな。この豆腐とおからの作り方は、組合にも伝えた方がいい気がする」
というわけで、出来上がった豆腐の試食も行い、それを受けて作り方は商業組合に共有される事となった。
その後、豆腐を揚げた加工品である油揚げと厚揚げも含めて、四つの大豆加工品がモスグリネ全土へと広がっていったのだった。
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