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第九章 大いなる秘密
第258話 モスグリネのケットシー
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翌日、本当に城にケットシーがやって来た。それも朝一番だ。
「やぁ、ダルグ。見た目もだいぶ立派になったな」
「これはケットシー殿。よく参られた」
国王相手にタメ口である。さすが幻獣というところだろうか。
「早速要件なんだけど、年末に行われるというアイヴォリーのお祭りに行っても構わないかな?」
「アイヴォリーのお祭りか。私としては構わんが、商業組合の方はどう思うのやら」
ダルグからはあっさり許可されたが、懸念点を指摘されてしまった。
「ボクとて何もしてないわけじゃない。精霊の加護はなしに経営はしてるし、もしもの時に職員たちで対処できるように鍛えてはあるさ」
ところが、ケットシーは笑って懸念を吹き飛ばしてみせる。さすが幻獣の余裕といったところだろうか。しかしながら、組織のトップともなれば、自分が居ない時の事や不測の事態に備えて何かしら対処法は用意しているものである。ケットシーの言い分は当然の事である。
「で、アイヴォリーのとこの坊ちゃんはどちらに居るのかな? ロゼリアちゃんたちと一緒で、城に泊まっていると聞いたのだが」
「ああ、シルヴァノ王子なら、息子のペイルと食後の運動中だ。兵士の訓練場に居るはずだ」
ケットシーがひげをいじりながら尋ねると、ダルグはおとなしく場所を答えた。
「そうかいそうかい。なら、見学させてもらおうかね」
ケットシーはひげをいじりながら、猫なのに背筋を伸ばした状態で歩き始めた。
「ちょっと待て。付き添いもなしに行くつもりか?」
「なんだい、何か問題があるのか?」
ダルグが呼び止めると、ケットシーは明らかに不機嫌な声で振り返る。
「いや、精霊の存在を知っているとはいえ、貴殿のような大きな猫が突然現れると、息子たちが驚くのではないかと思ってな」
「ふむ……、一理あるな」
ダルグの返答にケットシーは納得したらしい。ところが、何を思ったか、訓練場に向かおうとした足を突然止めた。
「そうだな、後で君の部屋に呼んでくれればいいか。稽古をしているのに邪魔するのも悪い。それに、君とは久しぶりに話がしてみたくなった。構わんかね?」
「いや、構わないが」
「そうかい。それと、別に仕事をしながらでも構わんよ。折角だからな、手伝えるなら手伝おう」
ケットシーはダルグを呆れさせながら、国王の執務室へと乗り込んでいった。ダルグも国王ではあるが、はるかに格上の存在であるケットシーにはとても敵わないので、どうにも頭が上がらなかった。なにせ、生まれた頃から面倒を見られた経緯があるから仕方がない。
モスグリネ王国とケットシーの付き合いは長い。現国王の父親も幼少時より世話になっているらしい。なにより、国の安定にも力を貸してもらったらしいので、多大な恩人(恩猫?)には頭が上がらないというわけである。
「それにしても驚いたな」
「何がだ?」
執務室で国王の仕事を手伝いながら、ケットシーはダルグに話し掛ける。
「いや、隣国の少女が商会長を務める商会を、この国に進出できるように認めた事だよ」
「ああ。マゼンダ商会には大きな魅力を感じたからな」
朝一に持ち込まれ山積みにされている書類を片付けながら、話をする二人。
「ボクも少し見せてもらったが、魔石を使っているとはね。デーモンハートという似て非なる物があるから、正直怖かったよ」
「デーモンハートとは?」
「魔石と同じで、魔物から生成される魔法物質だよ。ただ、魔物の死骸が化石化した物でね、強い瘴気を帯びているんだ。見る者の心を蝕む恐ろしい石だよ」
ケットシーは、ライの事を思い出していた。古くからの友人が狂っていく様を目の当たりにしていたのだ。
「魔石は人間でいうところの心臓にあたる石でね、こっちは純粋な魔力の塊なんだ。だから、使っても問題はないよ」
「なるほど」
ケットシーの説明で、ダルグはケットシーが驚いた理由に納得がいった。
「あの子たちなら違えんだろうが、兵士や冒険者たちは要注意だな。デーモンハートは精霊ですら狂わせるからね。まぁ、ボクには通じないがね」
ケットシーは自慢げにダルグを見る。その顔に、ダルグはどういうわけか安心感を抱いた。
その後もお互いに話をしながら、ペイルとシルヴァノが部屋を訪れるまで書類整理に追われる二人であった。
「やぁ、ダルグ。見た目もだいぶ立派になったな」
「これはケットシー殿。よく参られた」
国王相手にタメ口である。さすが幻獣というところだろうか。
「早速要件なんだけど、年末に行われるというアイヴォリーのお祭りに行っても構わないかな?」
「アイヴォリーのお祭りか。私としては構わんが、商業組合の方はどう思うのやら」
ダルグからはあっさり許可されたが、懸念点を指摘されてしまった。
「ボクとて何もしてないわけじゃない。精霊の加護はなしに経営はしてるし、もしもの時に職員たちで対処できるように鍛えてはあるさ」
ところが、ケットシーは笑って懸念を吹き飛ばしてみせる。さすが幻獣の余裕といったところだろうか。しかしながら、組織のトップともなれば、自分が居ない時の事や不測の事態に備えて何かしら対処法は用意しているものである。ケットシーの言い分は当然の事である。
「で、アイヴォリーのとこの坊ちゃんはどちらに居るのかな? ロゼリアちゃんたちと一緒で、城に泊まっていると聞いたのだが」
「ああ、シルヴァノ王子なら、息子のペイルと食後の運動中だ。兵士の訓練場に居るはずだ」
ケットシーがひげをいじりながら尋ねると、ダルグはおとなしく場所を答えた。
「そうかいそうかい。なら、見学させてもらおうかね」
ケットシーはひげをいじりながら、猫なのに背筋を伸ばした状態で歩き始めた。
「ちょっと待て。付き添いもなしに行くつもりか?」
「なんだい、何か問題があるのか?」
ダルグが呼び止めると、ケットシーは明らかに不機嫌な声で振り返る。
「いや、精霊の存在を知っているとはいえ、貴殿のような大きな猫が突然現れると、息子たちが驚くのではないかと思ってな」
「ふむ……、一理あるな」
ダルグの返答にケットシーは納得したらしい。ところが、何を思ったか、訓練場に向かおうとした足を突然止めた。
「そうだな、後で君の部屋に呼んでくれればいいか。稽古をしているのに邪魔するのも悪い。それに、君とは久しぶりに話がしてみたくなった。構わんかね?」
「いや、構わないが」
「そうかい。それと、別に仕事をしながらでも構わんよ。折角だからな、手伝えるなら手伝おう」
ケットシーはダルグを呆れさせながら、国王の執務室へと乗り込んでいった。ダルグも国王ではあるが、はるかに格上の存在であるケットシーにはとても敵わないので、どうにも頭が上がらなかった。なにせ、生まれた頃から面倒を見られた経緯があるから仕方がない。
モスグリネ王国とケットシーの付き合いは長い。現国王の父親も幼少時より世話になっているらしい。なにより、国の安定にも力を貸してもらったらしいので、多大な恩人(恩猫?)には頭が上がらないというわけである。
「それにしても驚いたな」
「何がだ?」
執務室で国王の仕事を手伝いながら、ケットシーはダルグに話し掛ける。
「いや、隣国の少女が商会長を務める商会を、この国に進出できるように認めた事だよ」
「ああ。マゼンダ商会には大きな魅力を感じたからな」
朝一に持ち込まれ山積みにされている書類を片付けながら、話をする二人。
「ボクも少し見せてもらったが、魔石を使っているとはね。デーモンハートという似て非なる物があるから、正直怖かったよ」
「デーモンハートとは?」
「魔石と同じで、魔物から生成される魔法物質だよ。ただ、魔物の死骸が化石化した物でね、強い瘴気を帯びているんだ。見る者の心を蝕む恐ろしい石だよ」
ケットシーは、ライの事を思い出していた。古くからの友人が狂っていく様を目の当たりにしていたのだ。
「魔石は人間でいうところの心臓にあたる石でね、こっちは純粋な魔力の塊なんだ。だから、使っても問題はないよ」
「なるほど」
ケットシーの説明で、ダルグはケットシーが驚いた理由に納得がいった。
「あの子たちなら違えんだろうが、兵士や冒険者たちは要注意だな。デーモンハートは精霊ですら狂わせるからね。まぁ、ボクには通じないがね」
ケットシーは自慢げにダルグを見る。その顔に、ダルグはどういうわけか安心感を抱いた。
その後もお互いに話をしながら、ペイルとシルヴァノが部屋を訪れるまで書類整理に追われる二人であった。
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