259 / 473
第九章 大いなる秘密
第256話 二足歩行の大きな猫
しおりを挟む
「いいですか、決して失礼のないようにお願いしますよ」
案内していた職員は、念押しのように言う。当然ながらロゼリアたちはそれを了承する。組合長の居る部屋に着くと、職員は扉をノックする。
「組合長、先ほどお話しした者たちを連れてまいりました」
「うむ、ご苦労。入っていいよ」
「はっ、失礼致します」
職員が扉を開けようとするが、ライだけが違った反応を示した。
「ん? この声、聞いた事あるわね」
中に入ると、そこに座っていたのはどういうわけか猫だった。人間並みにでかい猫だった。
「やぁ、よく来てくれたね、時の渡り子と世界の渡り子たち」
「あーっ! やっぱりケットシーじゃないの!」
両肘を机についてかっこよく決めようとした猫の言葉に、間髪入れずに響いたのは、ライの声だった。
「知ってるの?」
「知ってるも何も、元精霊で幻獣になった猫よ。同じ精霊の森の出身なんだから知ってて当然だわ」
驚いて確認するように問うロゼリアに、ライはすぐさま答えた。
「おやおや、誰かと思えば懐かしい顔だね。あの森から気配が消えたと思ったら、こんな所で会うとはね」
ケットシーはにこにこと笑っている。
「まぁね。今の私はアイリス様の従魔で、ライという名前を持っているわ」
ドヤ顔を決めるライ。それを見てケットシーは、
「すまない。ちょっと重要な話になりそうだから、君は席を外してくれたまえ。あと、そこの兵士三人もだ」
めんどくさそうになりそうだと、関係者以外に部屋から出て行ってもらった。席を外すように言われた四人は、訳が分からないよというような顔をしていたが、機密事項だから仕方がない。
「びっくりしたわ。商業組合のトップになってるなんて」
「ははっ、元々人当たりが良かったからね。口八丁なもんだから、気が付いたらこんな地位になっちまってたってわけだ」
懐かしさで盛り上がるケットシーとライ。だが、今は昔話をしている時ではない。
「そういう昔話とかは今はいいので、商会用の建物をご紹介頂けないでしょうか?」
ロゼリアがツッコミを入れると、ケットシーとライは喋るのをやめた。
「いや、すまない。懐かしい知り合いに会うとどうしてもね。で、商会用の建物の紹介だったね」
ケットシーはそう言ってヴィフレアの地図を出した。
「これはあまり出さない地図なんだが、君たちは特別だ。オリジン様から言伝を受けているからね」
どうやらガレンは一度ここに寄ったらしい。というか、ガレンはここを知っていたようだ。
「不思議な事じゃないよ。精霊王にとって、精霊の場所を把握する事は造作もないんだからね」
驚いているロゼリアたちを尻目に、ケットシーは話を進める。
「で、ちょうど良さそうな場所が空いててね。この辺りの建物なんだが、前のオーナーが亡くなられた際に引き払われて空いてるんだ」
ケットシーが指し示した場所は、大通りにある脇道との角地だった。ロゼリアたちが地図に集中している間に、ケットシーは土地の権利書を引っ張り出してきた。ペシエラがそっちに目を移すと、日付的に半年前に引き払われた事が示されていた。
「あら、思ったよりも最近ですのね」
「遺産整理で後回しになっていたようだからね。権利書が今ここにあるわけだから、売り物件である事には間違いないよ」
権利書を凝視するペシエラ。ひと通り目を通すと、視線だけケットシーの方へと向ける。
「見せて頂く事は?」
「もちろん構わないさ。半年放置されていたから、埃とか溜まっているだろうけどね」
ペシエラとケットシーが話をしていると、地図を見終わったロゼリアたちも話に加わる。
「立地もいい場所のようですし、すぐにでも行きましょう」
「うんうん、こういうのは早い方がいいわ」
三人とも腹の内は決めたようである。
「そうか、それじゃ早速行くとしよう。ボクが案内するよ」
「ケットシー自ら?!」
ケットシーがすくりと立ち上がって申し出ると、ライが一番驚いていた。
「当り前じゃないか、ライ。こんな変わった面々を一度に相手にできるなんて、そうそうある事じゃないからね」
「いや、そうじゃなくて。大きな猫が二足歩行でうろついていたら騒ぎになるんじゃ?」
「はっはっはっ! これでもボクはヴィフレアでは有名人だよ。もふりたくて集まってくるのは確かだがね!」
ライの心配をよそに、ケットシーは高笑いをしていた。アイリスとキャノルはどう反応していいのやらと、ずっと黙って立っていた。
「まぁ、そろそろ移動しようか。商談は早い方がいい」
そんなこんなで、ロゼリアたちはケットシーに連れられて、示された物件を見学しに行く事になった。
案内していた職員は、念押しのように言う。当然ながらロゼリアたちはそれを了承する。組合長の居る部屋に着くと、職員は扉をノックする。
「組合長、先ほどお話しした者たちを連れてまいりました」
「うむ、ご苦労。入っていいよ」
「はっ、失礼致します」
職員が扉を開けようとするが、ライだけが違った反応を示した。
「ん? この声、聞いた事あるわね」
中に入ると、そこに座っていたのはどういうわけか猫だった。人間並みにでかい猫だった。
「やぁ、よく来てくれたね、時の渡り子と世界の渡り子たち」
「あーっ! やっぱりケットシーじゃないの!」
両肘を机についてかっこよく決めようとした猫の言葉に、間髪入れずに響いたのは、ライの声だった。
「知ってるの?」
「知ってるも何も、元精霊で幻獣になった猫よ。同じ精霊の森の出身なんだから知ってて当然だわ」
驚いて確認するように問うロゼリアに、ライはすぐさま答えた。
「おやおや、誰かと思えば懐かしい顔だね。あの森から気配が消えたと思ったら、こんな所で会うとはね」
ケットシーはにこにこと笑っている。
「まぁね。今の私はアイリス様の従魔で、ライという名前を持っているわ」
ドヤ顔を決めるライ。それを見てケットシーは、
「すまない。ちょっと重要な話になりそうだから、君は席を外してくれたまえ。あと、そこの兵士三人もだ」
めんどくさそうになりそうだと、関係者以外に部屋から出て行ってもらった。席を外すように言われた四人は、訳が分からないよというような顔をしていたが、機密事項だから仕方がない。
「びっくりしたわ。商業組合のトップになってるなんて」
「ははっ、元々人当たりが良かったからね。口八丁なもんだから、気が付いたらこんな地位になっちまってたってわけだ」
懐かしさで盛り上がるケットシーとライ。だが、今は昔話をしている時ではない。
「そういう昔話とかは今はいいので、商会用の建物をご紹介頂けないでしょうか?」
ロゼリアがツッコミを入れると、ケットシーとライは喋るのをやめた。
「いや、すまない。懐かしい知り合いに会うとどうしてもね。で、商会用の建物の紹介だったね」
ケットシーはそう言ってヴィフレアの地図を出した。
「これはあまり出さない地図なんだが、君たちは特別だ。オリジン様から言伝を受けているからね」
どうやらガレンは一度ここに寄ったらしい。というか、ガレンはここを知っていたようだ。
「不思議な事じゃないよ。精霊王にとって、精霊の場所を把握する事は造作もないんだからね」
驚いているロゼリアたちを尻目に、ケットシーは話を進める。
「で、ちょうど良さそうな場所が空いててね。この辺りの建物なんだが、前のオーナーが亡くなられた際に引き払われて空いてるんだ」
ケットシーが指し示した場所は、大通りにある脇道との角地だった。ロゼリアたちが地図に集中している間に、ケットシーは土地の権利書を引っ張り出してきた。ペシエラがそっちに目を移すと、日付的に半年前に引き払われた事が示されていた。
「あら、思ったよりも最近ですのね」
「遺産整理で後回しになっていたようだからね。権利書が今ここにあるわけだから、売り物件である事には間違いないよ」
権利書を凝視するペシエラ。ひと通り目を通すと、視線だけケットシーの方へと向ける。
「見せて頂く事は?」
「もちろん構わないさ。半年放置されていたから、埃とか溜まっているだろうけどね」
ペシエラとケットシーが話をしていると、地図を見終わったロゼリアたちも話に加わる。
「立地もいい場所のようですし、すぐにでも行きましょう」
「うんうん、こういうのは早い方がいいわ」
三人とも腹の内は決めたようである。
「そうか、それじゃ早速行くとしよう。ボクが案内するよ」
「ケットシー自ら?!」
ケットシーがすくりと立ち上がって申し出ると、ライが一番驚いていた。
「当り前じゃないか、ライ。こんな変わった面々を一度に相手にできるなんて、そうそうある事じゃないからね」
「いや、そうじゃなくて。大きな猫が二足歩行でうろついていたら騒ぎになるんじゃ?」
「はっはっはっ! これでもボクはヴィフレアでは有名人だよ。もふりたくて集まってくるのは確かだがね!」
ライの心配をよそに、ケットシーは高笑いをしていた。アイリスとキャノルはどう反応していいのやらと、ずっと黙って立っていた。
「まぁ、そろそろ移動しようか。商談は早い方がいい」
そんなこんなで、ロゼリアたちはケットシーに連れられて、示された物件を見学しに行く事になった。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる