逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
259 / 431
第九章 大いなる秘密

第256話 二足歩行の大きな猫

しおりを挟む
「いいですか、決して失礼のないようにお願いしますよ」
 案内していた職員は、念押しのように言う。当然ながらロゼリアたちはそれを了承する。組合長の居る部屋に着くと、職員は扉をノックする。
「組合長、先ほどお話しした者たちを連れてまいりました」
「うむ、ご苦労。入っていいよ」
「はっ、失礼致します」
 職員が扉を開けようとするが、ライだけが違った反応を示した。
「ん? この声、聞いた事あるわね」
 中に入ると、そこに座っていたのはどういうわけか猫だった。人間並みにでかい猫だった。
「やぁ、よく来てくれたね、時の渡り子と世界の渡り子たち」
「あーっ! やっぱりケットシーじゃないの!」
 両肘を机についてかっこよく決めようとした猫の言葉に、間髪入れずに響いたのは、ライの声だった。
「知ってるの?」
「知ってるも何も、元精霊で幻獣になった猫よ。同じ精霊の森の出身なんだから知ってて当然だわ」
 驚いて確認するように問うロゼリアに、ライはすぐさま答えた。
「おやおや、誰かと思えば懐かしい顔だね。あの森から気配が消えたと思ったら、こんな所で会うとはね」
 ケットシーはにこにこと笑っている。
「まぁね。今の私はアイリス様の従魔で、ライという名前を持っているわ」
 ドヤ顔を決めるライ。それを見てケットシーは、
「すまない。ちょっと重要な話になりそうだから、君は席を外してくれたまえ。あと、そこの兵士三人もだ」
 めんどくさそうになりそうだと、関係者以外に部屋から出て行ってもらった。席を外すように言われた四人は、訳が分からないよというような顔をしていたが、機密事項だから仕方がない。
「びっくりしたわ。商業組合のトップになってるなんて」
「ははっ、元々人当たりが良かったからね。口八丁なもんだから、気が付いたらこんな地位になっちまってたってわけだ」
 懐かしさで盛り上がるケットシーとライ。だが、今は昔話をしている時ではない。
「そういう昔話とかは今はいいので、商会用の建物をご紹介頂けないでしょうか?」
 ロゼリアがツッコミを入れると、ケットシーとライは喋るのをやめた。
「いや、すまない。懐かしい知り合いに会うとどうしてもね。で、商会用の建物の紹介だったね」
 ケットシーはそう言ってヴィフレアの地図を出した。
「これはあまり出さない地図なんだが、君たちは特別だ。オリジン様から言伝を受けているからね」
 どうやらガレンは一度ここに寄ったらしい。というか、ガレンはここを知っていたようだ。
「不思議な事じゃないよ。精霊王にとって、精霊の場所を把握する事は造作もないんだからね」
 驚いているロゼリアたちを尻目に、ケットシーは話を進める。
「で、ちょうど良さそうな場所が空いててね。この辺りの建物なんだが、前のオーナーが亡くなられた際に引き払われて空いてるんだ」
 ケットシーが指し示した場所は、大通りにある脇道との角地だった。ロゼリアたちが地図に集中している間に、ケットシーは土地の権利書を引っ張り出してきた。ペシエラがそっちに目を移すと、日付的に半年前に引き払われた事が示されていた。
「あら、思ったよりも最近ですのね」
「遺産整理で後回しになっていたようだからね。権利書が今ここにあるわけだから、売り物件である事には間違いないよ」
 権利書を凝視するペシエラ。ひと通り目を通すと、視線だけケットシーの方へと向ける。
「見せて頂く事は?」
「もちろん構わないさ。半年放置されていたから、埃とか溜まっているだろうけどね」
 ペシエラとケットシーが話をしていると、地図を見終わったロゼリアたちも話に加わる。
「立地もいい場所のようですし、すぐにでも行きましょう」
「うんうん、こういうのは早い方がいいわ」
 三人とも腹の内は決めたようである。
「そうか、それじゃ早速行くとしよう。ボクが案内するよ」
「ケットシー自ら?!」
 ケットシーがすくりと立ち上がって申し出ると、ライが一番驚いていた。
「当り前じゃないか、ライ。こんな変わった面々を一度に相手にできるなんて、そうそうある事じゃないからね」
「いや、そうじゃなくて。大きな猫が二足歩行でうろついていたら騒ぎになるんじゃ?」
「はっはっはっ! これでもボクはヴィフレアでは有名人だよ。もふりたくて集まってくるのは確かだがね!」
 ライの心配をよそに、ケットシーは高笑いをしていた。アイリスとキャノルはどう反応していいのやらと、ずっと黙って立っていた。
「まぁ、そろそろ移動しようか。商談は早い方がいい」
 そんなこんなで、ロゼリアたちはケットシーに連れられて、示された物件を見学しに行く事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...