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第九章 大いなる秘密
第252話 シルヴァノとニーズヘッグ
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それぞれに盛り上がりを見せる中、シルヴァノはニーズヘッグと一緒の部屋に割り当てられていた。
「なぜ俺が、小僧のお守りなんぞせねばならぬ」
ニーズヘッグは不満をぶちまけていた。
「まぁいいではありませんか。私は君と同室というのは悪くないと思ってますよ、厄災の暗龍」
「ちっ、そっちの名で呼ぶな。今の俺は幻獣ニーズヘッグだ」
いくら組み合わせが余りものだとはいえ、なかなかに相性は悪そうだった。
「そういえば、君はペシエラの逆行前の事も知っているのですか?」
「一応俺も幻獣だからな。次元を超えて存在できると言えばできるが、あいつの事はこの時間軸でしか知らない」
「君からの印象でいいので聞かせてもらえるかな? いろいろな角度から知っておきたいんだ」
丁寧な物腰で話し掛けるシルヴァノだが、ニーズヘッグはどうにも好きにはなれない。だが、主人の主人であるペシエラが選んだ相手であるので、無下に扱う事も出来ない。ニーズヘッグにとってシルヴァノは、とてもやりにくい相手となっていた。
「まぁ精霊の森で聞いた通りのはずだが、確かに別の視点は大事かもな」
苦手ではあるがシルヴァノの考えには賛同した。
「とはいっても、俺の知る過去の事もペシエラからの話だけだ。なので、そんなに詳しくは語れんぞ」
「構わない」
多くは語れないと断りを入れたが、シルヴァノの姿勢は崩れなかった。仕方ないので、カイス近くでの魔物氾濫から今までの事を、ニーズヘッグはシルヴァノに語った。
「……なるほど、そんな無茶をしていたのでしたら、今回の事態が起きた事は納得がいくというかなんというか……」
ニーズヘッグの話を聞いたシルヴァノは、呆れたような反応を見せつつも、なんとなく納得した。
「チェリシアがかなり無茶をしてたからな。俺への有効手段である光属性の魔法を使うのは、ペシエラにしかできなかった事だ。逆行していたとはいえ、あの魔力量の制御はなかなかできたもんじゃない」
どうやらカイスでの戦闘の話のようだ。この時の経験があるからこそ、その後の魔物の一掃劇が容易にできたのではないかと、ニーズヘッグは推測している。
「しかし、いくら逆行前の反省があるとはいえ、無茶をし過ぎのような感じですね。責任感の強さという点では、女王として相応しいとは思いますが……」
「俺もその点は懸念している。知らない間にパープリアに丸め込まれて、いいように扱われてきたらしいからな。その悔しさが今のペシエラの原動力っぽいからな」
シルヴァノとニーズヘッグはそろって唸っている。普段は合いそうにない二人だが、ペシエラに関しては意見が一致するようである。
「とにかく、ペシエラは逆行前の失敗を悔やんでいる。ロゼリアを処刑した事、モスグリネと戦争になってお前を死なせた事とかな。俺が言うのも変かも知れんが、あいつを幸せにしてやってくれ」
どこかよそよそしく、照れくさそうにニーズヘッグはシルヴァノに言い放つ。それに対してシルヴァノは、
「言われなくても。婚約者とか関係なしに、私はペシエラに惚れていますしね」
笑顔でニーズヘッグに誓っていた。
「本当に頼むぞ。ペシエラの無茶に付き合って主人まで危険に遭うのではないかと、本当に気が休まらんからな」
ニーズヘッグ、渾身の本心である。ベルにべた惚れした過去があるせいか、子孫であるアイリスにもそういう感情を抱いているのかも知れない。そのせいで、ペシエラの無茶に付き合わされるアイリスが心配でたまらないようだ。幻獣が一人の人間に入れ込むのは珍しい。
「なるほど、君の行動原理はアイリスが中心というわけか」
「無論だ!」
シルヴァノが笑いながら言えば、ニーズヘッグは真顔で返してきた。シルヴァノはそれに驚いて、ちょっと引いた。
「まぁ、君の懸念も分からないでもないし、そうだね、ペシエラがあまり無茶しないように、私の方からも働きかけてみるよ」
「ああ、頼むぞ。俺は四年前の一件が後遺症になっていてな、なかなかあいつには強く出れんのだ」
ありったけの光魔法に身を焼かれた事が、どうやらニーズヘッグにとってトラウマとなっているようだった。仮にも幻獣という存在が、一人の少女に本気で怯えているのは、何とも滑稽なものである。
お互いどこか毛嫌いしているような凸凹な二人だが、ペシエラの事ともなるとこうも意見が合うのは何とも面白い話である。
こうして、精霊の森から戻った最初の夜は過ぎていった。
「なぜ俺が、小僧のお守りなんぞせねばならぬ」
ニーズヘッグは不満をぶちまけていた。
「まぁいいではありませんか。私は君と同室というのは悪くないと思ってますよ、厄災の暗龍」
「ちっ、そっちの名で呼ぶな。今の俺は幻獣ニーズヘッグだ」
いくら組み合わせが余りものだとはいえ、なかなかに相性は悪そうだった。
「そういえば、君はペシエラの逆行前の事も知っているのですか?」
「一応俺も幻獣だからな。次元を超えて存在できると言えばできるが、あいつの事はこの時間軸でしか知らない」
「君からの印象でいいので聞かせてもらえるかな? いろいろな角度から知っておきたいんだ」
丁寧な物腰で話し掛けるシルヴァノだが、ニーズヘッグはどうにも好きにはなれない。だが、主人の主人であるペシエラが選んだ相手であるので、無下に扱う事も出来ない。ニーズヘッグにとってシルヴァノは、とてもやりにくい相手となっていた。
「まぁ精霊の森で聞いた通りのはずだが、確かに別の視点は大事かもな」
苦手ではあるがシルヴァノの考えには賛同した。
「とはいっても、俺の知る過去の事もペシエラからの話だけだ。なので、そんなに詳しくは語れんぞ」
「構わない」
多くは語れないと断りを入れたが、シルヴァノの姿勢は崩れなかった。仕方ないので、カイス近くでの魔物氾濫から今までの事を、ニーズヘッグはシルヴァノに語った。
「……なるほど、そんな無茶をしていたのでしたら、今回の事態が起きた事は納得がいくというかなんというか……」
ニーズヘッグの話を聞いたシルヴァノは、呆れたような反応を見せつつも、なんとなく納得した。
「チェリシアがかなり無茶をしてたからな。俺への有効手段である光属性の魔法を使うのは、ペシエラにしかできなかった事だ。逆行していたとはいえ、あの魔力量の制御はなかなかできたもんじゃない」
どうやらカイスでの戦闘の話のようだ。この時の経験があるからこそ、その後の魔物の一掃劇が容易にできたのではないかと、ニーズヘッグは推測している。
「しかし、いくら逆行前の反省があるとはいえ、無茶をし過ぎのような感じですね。責任感の強さという点では、女王として相応しいとは思いますが……」
「俺もその点は懸念している。知らない間にパープリアに丸め込まれて、いいように扱われてきたらしいからな。その悔しさが今のペシエラの原動力っぽいからな」
シルヴァノとニーズヘッグはそろって唸っている。普段は合いそうにない二人だが、ペシエラに関しては意見が一致するようである。
「とにかく、ペシエラは逆行前の失敗を悔やんでいる。ロゼリアを処刑した事、モスグリネと戦争になってお前を死なせた事とかな。俺が言うのも変かも知れんが、あいつを幸せにしてやってくれ」
どこかよそよそしく、照れくさそうにニーズヘッグはシルヴァノに言い放つ。それに対してシルヴァノは、
「言われなくても。婚約者とか関係なしに、私はペシエラに惚れていますしね」
笑顔でニーズヘッグに誓っていた。
「本当に頼むぞ。ペシエラの無茶に付き合って主人まで危険に遭うのではないかと、本当に気が休まらんからな」
ニーズヘッグ、渾身の本心である。ベルにべた惚れした過去があるせいか、子孫であるアイリスにもそういう感情を抱いているのかも知れない。そのせいで、ペシエラの無茶に付き合わされるアイリスが心配でたまらないようだ。幻獣が一人の人間に入れ込むのは珍しい。
「なるほど、君の行動原理はアイリスが中心というわけか」
「無論だ!」
シルヴァノが笑いながら言えば、ニーズヘッグは真顔で返してきた。シルヴァノはそれに驚いて、ちょっと引いた。
「まぁ、君の懸念も分からないでもないし、そうだね、ペシエラがあまり無茶しないように、私の方からも働きかけてみるよ」
「ああ、頼むぞ。俺は四年前の一件が後遺症になっていてな、なかなかあいつには強く出れんのだ」
ありったけの光魔法に身を焼かれた事が、どうやらニーズヘッグにとってトラウマとなっているようだった。仮にも幻獣という存在が、一人の少女に本気で怯えているのは、何とも滑稽なものである。
お互いどこか毛嫌いしているような凸凹な二人だが、ペシエラの事ともなるとこうも意見が合うのは何とも面白い話である。
こうして、精霊の森から戻った最初の夜は過ぎていった。
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