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第九章 大いなる秘密
第250話 ペイルとトルフ
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野営を一回挟んで、ロゼリアたちはヴィフレアに戻ってきた。ペシエラが回復した事で、エアリアルボードの性能がどうも上がった感じである。それくらいにはチェリシアは舞い上がっていた。
ヴィフレアに着いた時はまだ陽が暮れてはいなかったが、この日はさっさと休む事になった。なので、精霊の森での出来事の報告は改めて翌日という事になった。あまり役に立てなかった王宮魔術師はしょんぼりしていたが、数多くの精霊を見れた事には満足していた模様。精霊はそうそう姿を見せないものなのだそうだ。
「妖精も精霊も気まぐれだからね」
そう話すのは、元妖精で魔物となったハイスプライトのライである。
「それでいて、気に入った相手にはとことん付きまとうから。私みたいな名持ちならそういう事はないけどね」
妖精にしろ魔物にしろ、名前というのは特別な存在の証なのだと言う。そういえば、サファイア湖で仲間にした魔物たちも、名前を持ってかなり雰囲気が変わった覚えがある。
その代表格はライトニングウルフのトルフだ。気性が荒く、まず懐く事のない雷をまとった狼だが、ペイルにかなり懐いている。今回もヴィフレアまでついては来ていた。そこからお留守番になっていたのだが、従魔化して喋れるようにはなっていたので、ペイルがロゼリアたちと精霊の森に行っている間は兵士たちと戯れていたらしい。モスグリネの兵士たちにとってはいい経験になったようだし、トルフもいいストレス発散になったらしい。
「殿下。トルフ殿との訓練はいい刺激になりました。陛下も満足しておられました」
「そうか。もうしばらくこっちに滞在する予定だし、トルフがいいのなら付き合ってもらえ」
「はっ、ありがたく存じます!」
トルフの様子の報告を受けたペイルは、とても機嫌が良いようだった。
それというのも、ペシエラが元気になったからだ。武術大会以降どこか影を落としたような雰囲気になっていたので、シルヴァノと一緒に心配したものである。
(やはり、ペシエラは強気で元気なのが一番合うな)
気が付いているかはどうか分からないが、ペイルはペシエラに惚れていた。他国の王子の婚約者でなければ、かっさらいたいくらいに惚れていた。だからこそ、ペイルは強くなる事を誓っていた。
「ペイル様、お戻りになられてましたか」
「ああ、さっき戻った」
ペイルが部屋でくつろいでいると、トルフが部屋にやって来た。狼なのに器用に部屋の扉を開けている。これが魔物の知恵なのだろうか。
「なにやら嬉しそうにしておりますな。ペイル様が嬉しそうにしておりますと、俺も嬉しくなりますぞ」
丁寧語ながら”俺”という一人称を使うあたり、狼らしさが残っている。単純にペイルに合わせたのかも知れないが。
「しかし、元妖精とはいえライの奴は精霊の森に行けたのに、俺はお留守番とは不満でしたがな」
「そのうっぷんを兵士の稽古で晴らしていたろ聞いたが?」
「はっはっはっ、その通り。さすが王城勤めの兵士、鍛えがいがありましたぞ」
不満たっぷりのトルフだったが、兵士相手に暴れて満足した事までもペイルに直にぶちまけていた。
「俺のような素早い魔物を相手にしているなら、大抵の魔物の動きは目に見えましょうぞ」
トルフは自慢げだった。
「トルフ」
「何でしょうか、ペイル様」
ペイルが急に呼び掛けるので、トルフは疑問に思って首を傾げる。
「明日は城で一日休む事になっている。明日の稽古は俺も付き合おう」
「本当でございますか? それは楽しみですな」
ペイルと稽古ができると聞いて、トルフは非常に喜んでいる。尻尾をぶんぶんと振り回している様子からもよく分かる。
「精霊の森での事を報告しなければならんしな。午前中はその報告をせねばならんから、午後だけになるがいいか?」
「ええ、構いませんとも。俺も立ち会っても問題ないですかな?」
「それは構わん。護衛にもなるだろうし、父上も文句は言うまい」
どうやら、翌日の精霊の森での報告謁見にトルフも同席させるつもりらしい。まぁ、ロゼリアたちの方にも反対する者は居ないだろう。せいぜいトルフを知らないモスグリネの重鎮くらいだ。少なくともここ数日トルフは城に滞在していたので、危険性がない事を知る者は多い。おそらく問題ないはずだ。
「さて、食事も済ませたし、俺はもう休むぞ」
「御意に。俺も部屋の中でご一緒して構いませんかな?」
「構わんぞ。相棒のようなものだしな」
ペイルがそう言えば、トルフは満足した顔をして床に寝そべった。
「シルヴァノの奴は今頃どうしているかな。今回は一人だが、ニーズヘッグが居るから問題ないだろうが、少し心配だな」
精霊の森に行く前は一緒に寝たシルヴァノは、戻ってきてからは一人になっていた。というのもニーズヘッグが増えたためだ。
就寝を前にシルヴァノの事が少し気になったペイルだったが、旅の疲れが残っていたのかそのままぐっすりと眠ってしまったのだった。
ヴィフレアに着いた時はまだ陽が暮れてはいなかったが、この日はさっさと休む事になった。なので、精霊の森での出来事の報告は改めて翌日という事になった。あまり役に立てなかった王宮魔術師はしょんぼりしていたが、数多くの精霊を見れた事には満足していた模様。精霊はそうそう姿を見せないものなのだそうだ。
「妖精も精霊も気まぐれだからね」
そう話すのは、元妖精で魔物となったハイスプライトのライである。
「それでいて、気に入った相手にはとことん付きまとうから。私みたいな名持ちならそういう事はないけどね」
妖精にしろ魔物にしろ、名前というのは特別な存在の証なのだと言う。そういえば、サファイア湖で仲間にした魔物たちも、名前を持ってかなり雰囲気が変わった覚えがある。
その代表格はライトニングウルフのトルフだ。気性が荒く、まず懐く事のない雷をまとった狼だが、ペイルにかなり懐いている。今回もヴィフレアまでついては来ていた。そこからお留守番になっていたのだが、従魔化して喋れるようにはなっていたので、ペイルがロゼリアたちと精霊の森に行っている間は兵士たちと戯れていたらしい。モスグリネの兵士たちにとってはいい経験になったようだし、トルフもいいストレス発散になったらしい。
「殿下。トルフ殿との訓練はいい刺激になりました。陛下も満足しておられました」
「そうか。もうしばらくこっちに滞在する予定だし、トルフがいいのなら付き合ってもらえ」
「はっ、ありがたく存じます!」
トルフの様子の報告を受けたペイルは、とても機嫌が良いようだった。
それというのも、ペシエラが元気になったからだ。武術大会以降どこか影を落としたような雰囲気になっていたので、シルヴァノと一緒に心配したものである。
(やはり、ペシエラは強気で元気なのが一番合うな)
気が付いているかはどうか分からないが、ペイルはペシエラに惚れていた。他国の王子の婚約者でなければ、かっさらいたいくらいに惚れていた。だからこそ、ペイルは強くなる事を誓っていた。
「ペイル様、お戻りになられてましたか」
「ああ、さっき戻った」
ペイルが部屋でくつろいでいると、トルフが部屋にやって来た。狼なのに器用に部屋の扉を開けている。これが魔物の知恵なのだろうか。
「なにやら嬉しそうにしておりますな。ペイル様が嬉しそうにしておりますと、俺も嬉しくなりますぞ」
丁寧語ながら”俺”という一人称を使うあたり、狼らしさが残っている。単純にペイルに合わせたのかも知れないが。
「しかし、元妖精とはいえライの奴は精霊の森に行けたのに、俺はお留守番とは不満でしたがな」
「そのうっぷんを兵士の稽古で晴らしていたろ聞いたが?」
「はっはっはっ、その通り。さすが王城勤めの兵士、鍛えがいがありましたぞ」
不満たっぷりのトルフだったが、兵士相手に暴れて満足した事までもペイルに直にぶちまけていた。
「俺のような素早い魔物を相手にしているなら、大抵の魔物の動きは目に見えましょうぞ」
トルフは自慢げだった。
「トルフ」
「何でしょうか、ペイル様」
ペイルが急に呼び掛けるので、トルフは疑問に思って首を傾げる。
「明日は城で一日休む事になっている。明日の稽古は俺も付き合おう」
「本当でございますか? それは楽しみですな」
ペイルと稽古ができると聞いて、トルフは非常に喜んでいる。尻尾をぶんぶんと振り回している様子からもよく分かる。
「精霊の森での事を報告しなければならんしな。午前中はその報告をせねばならんから、午後だけになるがいいか?」
「ええ、構いませんとも。俺も立ち会っても問題ないですかな?」
「それは構わん。護衛にもなるだろうし、父上も文句は言うまい」
どうやら、翌日の精霊の森での報告謁見にトルフも同席させるつもりらしい。まぁ、ロゼリアたちの方にも反対する者は居ないだろう。せいぜいトルフを知らないモスグリネの重鎮くらいだ。少なくともここ数日トルフは城に滞在していたので、危険性がない事を知る者は多い。おそらく問題ないはずだ。
「さて、食事も済ませたし、俺はもう休むぞ」
「御意に。俺も部屋の中でご一緒して構いませんかな?」
「構わんぞ。相棒のようなものだしな」
ペイルがそう言えば、トルフは満足した顔をして床に寝そべった。
「シルヴァノの奴は今頃どうしているかな。今回は一人だが、ニーズヘッグが居るから問題ないだろうが、少し心配だな」
精霊の森に行く前は一緒に寝たシルヴァノは、戻ってきてからは一人になっていた。というのもニーズヘッグが増えたためだ。
就寝を前にシルヴァノの事が少し気になったペイルだったが、旅の疲れが残っていたのかそのままぐっすりと眠ってしまったのだった。
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