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第九章 大いなる秘密
第244話 精霊の森のデーモンハート
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奇跡を起こす最後のピースは、なんと人を狂わせる瘴気の石”デーモンハート”だった。
「魔石でも大丈夫だとは思うが、同じ大きさの魔石とデーモンハートなら、デーモンハートの方が魔力換算量は多いんだ。それに加えて、デーモンハートの方が大きいものが手に入りやすい。しかし、デーモンハートはその代償も大きい。君たちが危険に遭う可能性は高いんだよ……」
ガレンは辛そうな表情をしている。
「精霊王という立場なら無責任に言えるかもしれないが、教師という立場からだとどうしてもそう強く言えなくてな……。私もだいぶ人間に染まったという事かも知れんな」
そうは言いつつ、どこか満足したような顔をするガレン。
しかし、ここには問題があった。
「でも、そのデーモンハートがどこにあるというのかしら。王都にあった分はライが砕いちゃったし……」
ロゼリアが考え込む仕草をしながら言う。
そう、その鍵となるデーモンハートの所在である。それにもガレンは思い当たる節があると言う。
「ライ、君が魔物になった原因のデーモンハートは、確かこの森にあるんだよな?」
「えっ、あっ、はい。あれを動かせる存在なんて居るとは思えませんし、この精霊の森に簡単に足を踏み入れられる人間なんて、そう多くはないでしょうから」
ガレンが威圧的に尋ねると、ライはびびりまくりながらもちゃんと答えた。
「というわけだ。みんなをそこまで案内しなさい」
ガレンがにっこり微笑むと、ライは声にならない声で叫んだ。
「この中でデーモンハートの波動が分かるのは君だけだ。私ですら知らないんだから、少しくらい自慢に思ってもいいくらいだぞ」
「えっ?!」
ガレンが言えば、ライの表情が明るくなった。精霊王すら知らない事を知っている、これがどれだけの事か分からないライではなかった。
「しょ、しょうがないわね。二度もデーモンハートに触れたのは、世界広しと言えど私くらいでしょうから」
急に自慢げになるライ。現金で扱いやすい子である。
ところが、ここで突然上空から声が聞こえてくる。
「お探しの物はこれかな?」
「この声は、ニーズヘッグ?」
「そうですよ、我が主人」
一同が一斉に上空を見る。そこに居たのは禍々しいまでの漆黒の巨竜だった。
「や、や、や、厄災の、暗龍……」
ペイルの従者とモスグリネの王宮魔術師が、震えながら腰を抜かした。
「えっ、あの龍が厄災の暗龍なのか? すごい、もの凄くかっこいいぞ!」
キャノルが目を輝かせて意外な反応を示していた。元々暗殺者なのでどこか中二病じみたところがあるのかも知れない。
地上に降りた厄災の暗龍は、すっと姿を変える。そこに立っていたのは、どす黒い石を抱えたイケメンの執事だった。
「蒼鱗魚を通じてお話は聞いておりました。こちらはこの森にあったデーモンハートでございます」
見るからに恐ろしい雰囲気を放つ魔性の石デーモンハート。それが、ニーズヘッグの腕に抱えられていた。この石の持つ雰囲気に、どういうわけか不思議と惹きつけられてしまう。
「おっと、危ないので近付かないで下さい。私は主人との盟約により、ようやくこれを克服できたくらいですからね。下手に近付こうものなら、一瞬で魅了されてしまいますよ?」
そう、ニーズヘッグはこの石に魅了されたからこそ、厄災の暗龍と堕ちたのだ。幻獣となった彼ですら堕ちてしまうような危険な石だ。普通の人間が耐えられるわけもない。
「いやはや、若気の至りで持ち出した石が、まさかこんな所にあろうとは思いませんでしたね」
ニーズヘッグは笑っているが、その手に持つ石のせいでロゼリアたちは笑えなかった。
「これは元々、カイスの近くの凹地にあった物ですよ。生まれたばかりの私は、安易にそれに触れたばかりに厄災を振り撒く龍へと変貌したのです。その変貌の最中にこちらに落としてしまったというのが、この精霊の森にデーモンハートがある理由ですね」
ニーズヘッグは、聞かれてもいないのに全部を話していた。紛れもない黒歴史なのだが、どうしてそんなに嬉しそうなのだろうか。自分の不始末とはいえ、今こうやって役に立てているのが嬉しいのだろう。なんて単純な龍なのだろうか。
まぁ経緯はどうあれ、奇跡を起こすためのピースがここに集まったのだ。しかし、これで一体どうやって奇跡を起こすというのであろうか。それを実行すべく、その方法を知るであろうガレンに、全員の視線が集中する。
「魔石でも大丈夫だとは思うが、同じ大きさの魔石とデーモンハートなら、デーモンハートの方が魔力換算量は多いんだ。それに加えて、デーモンハートの方が大きいものが手に入りやすい。しかし、デーモンハートはその代償も大きい。君たちが危険に遭う可能性は高いんだよ……」
ガレンは辛そうな表情をしている。
「精霊王という立場なら無責任に言えるかもしれないが、教師という立場からだとどうしてもそう強く言えなくてな……。私もだいぶ人間に染まったという事かも知れんな」
そうは言いつつ、どこか満足したような顔をするガレン。
しかし、ここには問題があった。
「でも、そのデーモンハートがどこにあるというのかしら。王都にあった分はライが砕いちゃったし……」
ロゼリアが考え込む仕草をしながら言う。
そう、その鍵となるデーモンハートの所在である。それにもガレンは思い当たる節があると言う。
「ライ、君が魔物になった原因のデーモンハートは、確かこの森にあるんだよな?」
「えっ、あっ、はい。あれを動かせる存在なんて居るとは思えませんし、この精霊の森に簡単に足を踏み入れられる人間なんて、そう多くはないでしょうから」
ガレンが威圧的に尋ねると、ライはびびりまくりながらもちゃんと答えた。
「というわけだ。みんなをそこまで案内しなさい」
ガレンがにっこり微笑むと、ライは声にならない声で叫んだ。
「この中でデーモンハートの波動が分かるのは君だけだ。私ですら知らないんだから、少しくらい自慢に思ってもいいくらいだぞ」
「えっ?!」
ガレンが言えば、ライの表情が明るくなった。精霊王すら知らない事を知っている、これがどれだけの事か分からないライではなかった。
「しょ、しょうがないわね。二度もデーモンハートに触れたのは、世界広しと言えど私くらいでしょうから」
急に自慢げになるライ。現金で扱いやすい子である。
ところが、ここで突然上空から声が聞こえてくる。
「お探しの物はこれかな?」
「この声は、ニーズヘッグ?」
「そうですよ、我が主人」
一同が一斉に上空を見る。そこに居たのは禍々しいまでの漆黒の巨竜だった。
「や、や、や、厄災の、暗龍……」
ペイルの従者とモスグリネの王宮魔術師が、震えながら腰を抜かした。
「えっ、あの龍が厄災の暗龍なのか? すごい、もの凄くかっこいいぞ!」
キャノルが目を輝かせて意外な反応を示していた。元々暗殺者なのでどこか中二病じみたところがあるのかも知れない。
地上に降りた厄災の暗龍は、すっと姿を変える。そこに立っていたのは、どす黒い石を抱えたイケメンの執事だった。
「蒼鱗魚を通じてお話は聞いておりました。こちらはこの森にあったデーモンハートでございます」
見るからに恐ろしい雰囲気を放つ魔性の石デーモンハート。それが、ニーズヘッグの腕に抱えられていた。この石の持つ雰囲気に、どういうわけか不思議と惹きつけられてしまう。
「おっと、危ないので近付かないで下さい。私は主人との盟約により、ようやくこれを克服できたくらいですからね。下手に近付こうものなら、一瞬で魅了されてしまいますよ?」
そう、ニーズヘッグはこの石に魅了されたからこそ、厄災の暗龍と堕ちたのだ。幻獣となった彼ですら堕ちてしまうような危険な石だ。普通の人間が耐えられるわけもない。
「いやはや、若気の至りで持ち出した石が、まさかこんな所にあろうとは思いませんでしたね」
ニーズヘッグは笑っているが、その手に持つ石のせいでロゼリアたちは笑えなかった。
「これは元々、カイスの近くの凹地にあった物ですよ。生まれたばかりの私は、安易にそれに触れたばかりに厄災を振り撒く龍へと変貌したのです。その変貌の最中にこちらに落としてしまったというのが、この精霊の森にデーモンハートがある理由ですね」
ニーズヘッグは、聞かれてもいないのに全部を話していた。紛れもない黒歴史なのだが、どうしてそんなに嬉しそうなのだろうか。自分の不始末とはいえ、今こうやって役に立てているのが嬉しいのだろう。なんて単純な龍なのだろうか。
まぁ経緯はどうあれ、奇跡を起こすためのピースがここに集まったのだ。しかし、これで一体どうやって奇跡を起こすというのであろうか。それを実行すべく、その方法を知るであろうガレンに、全員の視線が集中する。
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