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第九章 大いなる秘密
第243話 ガレンの推理2
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「調べてみた結果、アトランティス帝国の帝都があった場所が分かったんだ」
ガレンは続きの頭をこう切り出した。
「それは一体どこなんですか?」
「チェリシアくんとペシエラくん、それにロゼリアくんもよく知る場所だよ」
チェリシアが聞き返せば、ガレンはそう答えた。すぐに分からなかった三人だが、ロゼリアが、
「カイスの近くの凹地?」
と確信なしに呟く。すると、
「そうだ。そこがアトランティス帝国の帝都のあった場所なんだよ」
「ええええっ!!」
グレンが正解だと言うものだから。チェリシアたちが叫んだ。
「学園が休みだから思う存分調べられた結果、分かった事だ。で、これが四年前の魔物氾濫にもつながる事だ」
叫ぶ様子をガレンはスルーしている。
「さっきも言ったとおり、アトランティス帝国はデーモンハートを使っていた。デーモンハートは瘴気を溜め込んでいて、近くの人間の精神汚染を行うんだ。それは、デーモンハートを使って研究していたアトランティス帝国の人間の精神を蝕んでいったんだろう。世界征服は帰るための手段ではなくなり、目的と化していったと考えられる。帝国の末期には近隣諸国との紛争も頻発してたらしいからな」
ガレンは資料の束の紙中から該当部分を示しながら、説明を続けている。これではまるで課外授業だ。
「捕まっていた妖精たちからの証言だから間違いない事だ。で、暴発したデーモンハートは砕け散り、閉じ込められていた瘴気はその場で霧散したんだ。ただ、その瘴気が厄介なもので、ゆっくりと時間を掛けて収束する性質を持っていたんだ。その結果が……」
「四年前の魔物氾濫……」
「そういう事だ」
何という事だろうか。四年前に厄災の暗龍が出現した魔物氾濫の原因は、大昔に滅んだ帝国の名残なのだという。衝撃的な事実に、ロゼリアたちは言葉を失っていた。
「おいおい、これはまだ序の口だ。さらにとんでもない事も分かったんだからな。さらに順序立てて説明していくぞ」
ガレン先生による特別講義はまだ続くらしい。ロゼリアたちは衝撃から立ち直れそうにないが、ここはおとなしく続きを聞くしか選択肢はなかった。
「で、今分かっている事を列挙する。アトランティス帝国には生き残りが居る。その中にはデーモンハートと関わっていた者も居たらしい。そのアトランティス帝国のあった場所は、今はアイヴォリー王国の国土の一部だ。……こう繋げていくと、何か浮かばないかな?」
ガレンは人差し指を立てて、判明した事実を列挙していく。すると、これにアイリスが反応する。
「それって……。もしかして、お父様とインディって……」
そう、自分の父親と筆頭執事が、やたらとアイヴォリー王国を敵視してた事を思い出したのだ。
「そういう事だ。あの二人にはアトランティス帝国の生き残りの子孫である可能性があるって事だ。自分たちのいずれ帰る場所を、アイヴォリーに取られた。そう解釈しているのだろうな」
パープリアの家系図は不明なので、これを結論とするには少々強引すぎる。だが、動機付けとしてこれ以上の理論も存在しない。これは、凍れる時から解放された二人から聞き出すしかないだろう。
「こういうわけだから、カイスの村にはアトランティス帝国の子孫が居た可能性はある。そこをパープリア男爵が狙って暗躍して、逆行前のペシエラくんを唆した。そして、アイヴォリー王国最有力のマゼンダ侯爵を、娘であるロゼリアくんを罪人に仕立て上げる事で失脚させて、その後は逆にそのマゼンダ侯爵の派閥を唆して敵対させた、そういう流れだったのだろうな」
「確かに、いろいろつじつまが合うわね」
「そうですわね。無実の罪で侯爵令嬢を殺した人間が王位に就けば、それは十分王国への反逆の理由になりますもの」
ガレンの推論に、ロゼリアとペシエラ、二人の逆行前の体験者がそれぞれに納得する。あまりに状況に合致しすぎるのだ。
しかし、二人が納得しているのも無視して、ガレンは更に話を進めていく。
「その一方でこの推論が事実だとするなら、アイリスくんとヴィオレスくんは、実に奇跡の存在と言えると思う。なにせ、父方母方双方に異世界出身者を持つのだからね」
「私が……、奇跡の存在?」
「そうとも。実際、別の時間軸では君は死んでいたし、こうして神獣使いの力を発揮する事もできなかった。時間を遡ってきたロゼリアくん、ペシエラくん、それと異世界から渡ってきたチェリシアくん。その三人と出会った事も引き金の一つだろう」
ガレンのテンションがかなり高い。長年生きてきた精霊王ですら、これほどの状況に出くわした事が無いので気持ちは分からなくはない。
「ところがだ。実はペシエラくんを救うには君たちが揃う事以外に、まだ一つ足りないんだ」
ガレンが期待させておいて、何やら重苦しい顔をする。
「何が足りないんですか?」
深刻そうなガレンに、チェリシアが尋ねる。
「正直使いたくはないが、この方法しか考えられなくてね……」
「その方法は何なんだ、教えてくれ!」
「そうですよ、先生。ペシエラの命が掛かっているんですよ!」
渋るガレンに、ペイルとシルヴァノが詰め寄る。すると、ガレンは観念したようにその方法を語り出した。
「もう一つの要素は、デーモンハートなんだ」
この言葉に、その場の全員に戦慄が走った。
ガレンは続きの頭をこう切り出した。
「それは一体どこなんですか?」
「チェリシアくんとペシエラくん、それにロゼリアくんもよく知る場所だよ」
チェリシアが聞き返せば、ガレンはそう答えた。すぐに分からなかった三人だが、ロゼリアが、
「カイスの近くの凹地?」
と確信なしに呟く。すると、
「そうだ。そこがアトランティス帝国の帝都のあった場所なんだよ」
「ええええっ!!」
グレンが正解だと言うものだから。チェリシアたちが叫んだ。
「学園が休みだから思う存分調べられた結果、分かった事だ。で、これが四年前の魔物氾濫にもつながる事だ」
叫ぶ様子をガレンはスルーしている。
「さっきも言ったとおり、アトランティス帝国はデーモンハートを使っていた。デーモンハートは瘴気を溜め込んでいて、近くの人間の精神汚染を行うんだ。それは、デーモンハートを使って研究していたアトランティス帝国の人間の精神を蝕んでいったんだろう。世界征服は帰るための手段ではなくなり、目的と化していったと考えられる。帝国の末期には近隣諸国との紛争も頻発してたらしいからな」
ガレンは資料の束の紙中から該当部分を示しながら、説明を続けている。これではまるで課外授業だ。
「捕まっていた妖精たちからの証言だから間違いない事だ。で、暴発したデーモンハートは砕け散り、閉じ込められていた瘴気はその場で霧散したんだ。ただ、その瘴気が厄介なもので、ゆっくりと時間を掛けて収束する性質を持っていたんだ。その結果が……」
「四年前の魔物氾濫……」
「そういう事だ」
何という事だろうか。四年前に厄災の暗龍が出現した魔物氾濫の原因は、大昔に滅んだ帝国の名残なのだという。衝撃的な事実に、ロゼリアたちは言葉を失っていた。
「おいおい、これはまだ序の口だ。さらにとんでもない事も分かったんだからな。さらに順序立てて説明していくぞ」
ガレン先生による特別講義はまだ続くらしい。ロゼリアたちは衝撃から立ち直れそうにないが、ここはおとなしく続きを聞くしか選択肢はなかった。
「で、今分かっている事を列挙する。アトランティス帝国には生き残りが居る。その中にはデーモンハートと関わっていた者も居たらしい。そのアトランティス帝国のあった場所は、今はアイヴォリー王国の国土の一部だ。……こう繋げていくと、何か浮かばないかな?」
ガレンは人差し指を立てて、判明した事実を列挙していく。すると、これにアイリスが反応する。
「それって……。もしかして、お父様とインディって……」
そう、自分の父親と筆頭執事が、やたらとアイヴォリー王国を敵視してた事を思い出したのだ。
「そういう事だ。あの二人にはアトランティス帝国の生き残りの子孫である可能性があるって事だ。自分たちのいずれ帰る場所を、アイヴォリーに取られた。そう解釈しているのだろうな」
パープリアの家系図は不明なので、これを結論とするには少々強引すぎる。だが、動機付けとしてこれ以上の理論も存在しない。これは、凍れる時から解放された二人から聞き出すしかないだろう。
「こういうわけだから、カイスの村にはアトランティス帝国の子孫が居た可能性はある。そこをパープリア男爵が狙って暗躍して、逆行前のペシエラくんを唆した。そして、アイヴォリー王国最有力のマゼンダ侯爵を、娘であるロゼリアくんを罪人に仕立て上げる事で失脚させて、その後は逆にそのマゼンダ侯爵の派閥を唆して敵対させた、そういう流れだったのだろうな」
「確かに、いろいろつじつまが合うわね」
「そうですわね。無実の罪で侯爵令嬢を殺した人間が王位に就けば、それは十分王国への反逆の理由になりますもの」
ガレンの推論に、ロゼリアとペシエラ、二人の逆行前の体験者がそれぞれに納得する。あまりに状況に合致しすぎるのだ。
しかし、二人が納得しているのも無視して、ガレンは更に話を進めていく。
「その一方でこの推論が事実だとするなら、アイリスくんとヴィオレスくんは、実に奇跡の存在と言えると思う。なにせ、父方母方双方に異世界出身者を持つのだからね」
「私が……、奇跡の存在?」
「そうとも。実際、別の時間軸では君は死んでいたし、こうして神獣使いの力を発揮する事もできなかった。時間を遡ってきたロゼリアくん、ペシエラくん、それと異世界から渡ってきたチェリシアくん。その三人と出会った事も引き金の一つだろう」
ガレンのテンションがかなり高い。長年生きてきた精霊王ですら、これほどの状況に出くわした事が無いので気持ちは分からなくはない。
「ところがだ。実はペシエラくんを救うには君たちが揃う事以外に、まだ一つ足りないんだ」
ガレンが期待させておいて、何やら重苦しい顔をする。
「何が足りないんですか?」
深刻そうなガレンに、チェリシアが尋ねる。
「正直使いたくはないが、この方法しか考えられなくてね……」
「その方法は何なんだ、教えてくれ!」
「そうですよ、先生。ペシエラの命が掛かっているんですよ!」
渋るガレンに、ペイルとシルヴァノが詰め寄る。すると、ガレンは観念したようにその方法を語り出した。
「もう一つの要素は、デーモンハートなんだ」
この言葉に、その場の全員に戦慄が走った。
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