逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第242話 ガレンの推理

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「今回のチェリシアくんとペシエラくんの一件は、たまたま時渡りの禁法と時空の歪みの出現が重なって起きた事故だろう。私はそう考えている」
 ガレンの結論はそうだった。しかし、これにチェリシアが不安を覚える。
「という事は、ペシエラは……」
 後ろでライと口喧嘩するペシエラを見るチェリシア。ところが、その不安は的中してしまう。
「私の仮説が正しいなら、本来八歳のチェリシアに戻るところをはじき出されて、魂が仮初めの肉体を形成したんだろう。三つ年下になったのは、たまたまだと思う」
「つまり、ペシエラは魂だけの状態で生活してるってわけね」
「そういう事になるな」
 チェリシアはこの仮説を聞いて愕然とした。しかし、ガレンがすぐにフォローを入れる。
「魂だけの状態だと、魔力の疲弊がそのまま魂へのダメージになる。肉体があれば肩代わりをしてくれるのだがな」
「なるほど、ペシエラが魔法を使わなくなった理由にようやく合点がいきました」
 説明を聞いたチェリシアは、すっと俯く。
「つまり、あの子には肉体が必要って事なのよね。だったら……っ!」
 チェリシアは何を思ったか、自分に向けて魔法を放とうとした。しかし、そこに一つの影が飛びついた。ペシエラである。
「やめて下さい、お姉様!」
「放してっ! 私が体を奪ったからこんな事に……っ!」
 ペシエラが必死に止めるが、チェリシアは少々自棄になっている。すると、その騒ぎに気が付いたロゼリアが駆け寄ってきて、
 バチンッ!
と、チェリシアの頬を引っ叩いた。
「何を言っているの、チェリシア。今となってはあなたは私たちになくてはならない存在なのよ。自棄を起こさないでちょうだい!」
 叫ぶロゼリアの顔は泣いていた。
「まったくだ。ペシエラくんを救うにはチェリシア君は必須だというのにな。早合点は困るぞ」
「えっ、どういう事ですか?」
 頬を叩かれて呆然とするチェリシアだったが、ガレンの言葉にすぐさま反応する。さすがは妹ラブである。
「まったく、まだ説明を始めたばかりだというのに、君にはもう少し落ち着きが必要だな」
 ガレンが説教くさい。さすがは精霊王で教師だ。
「順を追って説明をする。とりあえず、最初に話すのはムー王国とアトランティス帝国の二国についてだ」
 ガレンが説明を始める。
 どうやらこの二国は、ほぼ同時期に世界の離れた場所に出現したらしく、特に接点は無かったらしい。見つけた地図はそれよりもだいぶ後の時代で、話をすり合わせてお互いの地図を一つにしたものだそうだ。つまり、二国は滅んだが、子孫は居るとの事らしい。
「次に鍵になるのは、この二国の登場以前には無く、それ以降に出現したものだな。幸い、この場にはそのすべてを経験した奴が居る」
 ガレンはそう言うと、ライに視線を向けた。
「えっ、私?!」
「そうだ」
 慌てるライだが、ガレンは表情を変えずに肯定する。そして、言葉を続けた。
「一つは神獣と幻獣だ。それまでは精霊王である私が、この世界の神の次に偉い存在だったのだが、その間に神獣と幻獣が挟まった。例の二国によって生じた時空の歪みから地球の信仰が流れ込んできて、それがこっちの精霊や妖精、それ以外だと魔物とも混ざり合って幻獣や神獣は生まれたんだ」
「えええっ!」
 ガレンの説明でチェリシアが一番大きな声で驚く。まぁ無理もないか。
「そして、その次が神獣使い。これは比較的新しい存在だな。初代はそこのアイリスくんのだ。調べてみた限り、彼女もチェリシアくんと同じ転生した人間のようだよ」
 ガレンが続けた言葉で、今度はアイリスも加わって大きな驚きの声が響き渡る。うるさい。
「大声で驚くのは無理のない事だ。よって、無視して続けるぞ」
 それでもガレンは冷静だった。ちなみに、シルヴァノとペイルの王子二人も動じていない。ロゼリアとペシエラもだ。キャノルやペイルの関係者はどう反応していいのか分からない感じで黙っている。
「三つめは魔物氾濫。これは四つめとも関連する話だが、特にアトランティス帝国の方でよく起きるようになった事象だな。で、四つ目はライは二度も見た事があるあれだ」
「……デーモンハート」
 ガレンがライに話題を振ると、ライは神妙な面持ちで当てはまる単語を口にする。これには場の空気が一瞬で静まり返る。
「そうだ。あれは基本的に魔石と同様の物なんだが、生成のされ方と中に溜め込むものが違う」
「と言いますと?」
「魔石は魔力だが、デーモンハートは瘴気を溜め込むんだ。だから、魔石は魔物の心臓だが、デーモンハートは魔物の体が元になるという違いが出る」
 ここまでの説明に、ロゼリアたちヒロイン組と二人の王子、アイリスとライはついてきている。
「で、生成のされ方は違うが、見た目には似たものだからな、アトランティスの連中が間違ってそれを使って実験を始めたらしい。追放された者の証言が文献に残っていた」
 ガレンの話はまだ続き、ムーにしてもアトランティスにしても、元の世界に戻るための時空間転移の研究をしたらしい。そのため、当時極端に文化レベルが低かった世界を支配して、技術水準を上げて労働力にするつもりだった。それと並行するように魔石やデーモンハートを使った実験も行っていたのだが、扱いきれずに暴発したというのが、両国の滅亡の原因なのだそうだ。
 ちなみに魔石とデーモンハートを見分けられなかったのは、両国の人間が魔力を有さなかったためである。
「ここでもだいぶ情報量は多いんだが、まだまだ続くから覚悟しろ」
 どうやらまだ話は続くらしい。もはや聞いてる側は疲れてきているのだが、この後にはさらなる衝撃が待ち受けているなど誰が予想しただろうか。
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