逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第九章 大いなる秘密

第236話 ヴィフレアにて

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「第一王子ペイル、今戻った。父上にお会いしたいので、連絡を頼む」
「はっ、畏まりました」
 王都の入口で、ペイルが門兵に命令している。命を受けた兵士は、馬を駆ってさっさと王城へと向かっていった。
「あら、第一王子って事は、ペイルって弟がいらっしゃるので?」
 ロゼリアが疑問に思ったので、ペイルに質問をぶつけていた。
「あぁ、二つ下の弟と三つ下の妹が居る。二人ともアイヴォリーの学園に留学予定だ、その時は仲良くしてやってくれ」
 不愛想に返答するペイル。しかし、下の兄弟が居るとはゲームに無い情報だったので、チェリシアは非常に興奮していた。
「チェリシア、少しは落ち着きなさい……」
 あまりの鼻息の荒さに、ロゼリアから叱責を受けるチェリシアであった。
「お姉様ったら……」
 ペシエラも呆れるくらいだった。

 ロゼリアたちは門兵の案内で、城まで馬車を出してもらえる事になった。モスグリネの城下町は、アイヴォリーの王都と比較すると少々質素ではあるが、それでも国の中心都市として大いに賑わっている。モスグリネの国はその王族のカラーリングからも分かる通り自然が豊かで、街の中には野菜や果物がたくさんあふれかえっていた。
 街の様子をチェリシアが馬車の中からきょろきょろと見回している。その気持ちが分かるロゼリアだったが、
「チェリシア、あまり見回さないの。田舎者って思われるわよ。商会のヒントにしたいのでしょうけれど、今は我慢よ」
 とチェリシアを叱る。チェリシアの横に座るペシエラもうんうんと頷いている。
「ごめんなさい。水着の布地の事もあったし、どうしても気になっちゃって」
 チェリシアはしゅんと縮こまって謝った。
「ゆっくり見たければ、精霊の森の件を終わらせてからにしましょう。今後の商会の展開を考えるなら、せっかくモスグリネに来たんですからゆっくり見たいわ」
「ははっ、こんな時でも商魂たくましいな」
 ロゼリアがチェリシアを諭していると、ペイルがそんな事を言いながら笑顔を見せていた。俺様主義の王子の珍しい笑顔だった。
「ペイル殿下、間もなく城に着きます」
 御者から伝言が伝えられる。この声に馬車から外を見ると、全体的に蔦に囲まれたひときわ高い建物が見えてきた。これがモスグリネ城である。
「まるで甲子園だわ……」
「コウシ……? チェリシア、なんなのそれ」
「えっ、あはは。こっちの話よ」
 思わず前世の単語を出してしまったチェリシアは、とりあえず笑ってごまかしておいた。その顔を訝しんで見られていたのは言うまでもない。
「まぁとりあえず、その辺の話はおいおいという事で……」
 みんなからジト目で見られて、チェリシアはさらに笑ってごまかした。

 王城に着くなり、一行はいきなり国王と王妃、ペイルの両親と会う事になってしまった。シルヴァノが居るためにこのような措置となったようだ。
「アイヴォリーからよく来てくれたな。俺はペイルの父親で国王のダルグ・モスグリネだ」
「母親で王妃のライム・モスグリネです」
「初めまして、突然のご訪問で申し訳ございません。私はアイヴォリー王国王子シルヴァノと申します」
 ペイルの両親の挨拶の後、一行を代表してシルヴァノが挨拶をする。その姿を見て、
「ふむ、きちんとした挨拶だな。向こうの教育はしっかりしているようだな」
 ダルグはシルヴァノの振る舞いを見て感心していた。
「だが、我が息子も見違えたぞ。立派になったようだな」
 ペイルにも視線を向け、ダルグはそのように評価している。周りの兵士たちは分かっていないようだが、さすがは父親、内面的な変化も感じ取れるようだった。
「して、残りの女子たちは、何者かな?」
「お初にお目にかかります、モスグリネ国王陛下。私、アイヴォリー王国でマゼンダ商会を営んでおります、マゼンダ侯爵家のロゼリアと申します。以後、お見知りおきを」
 話が振られたので、代表してロゼリアが答える。
「ほう、貴公があのマゼンダ商会のロゼリアか。優秀な令嬢と聞き及んでおるぞ。特に石けんはこの国の女性の間で人気だぞ」
「お褒め頂き光栄でございます」
 どうやら、マゼンダ商会の商品は無事にモスグリネでも受け入れられているようである。しかし、雑談は長くは続かなかった。
「父上、今はそれどころではありません。一刻も早く、精霊の森へ行く許可を頂きたいのです!」
 ペイルが叫んだ。
「精霊の森だと?! 一体何の用があって、あそこへ行きたいと言うのか」
 ダルグが大声で聞き返す。あまりの迫力に、ペイルが怯んだ。
「それは、私が説明致します」
 その声とともに、ロゼリアはライを伴って一歩前に歩み出たのだった。
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