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第九章 大いなる秘密
第234話 一抹の希望を
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精霊王オリジン。
それがライから示された、ペシエラを救う策を持っているかも知れない存在の名前だった。
精霊王と言われるだけあって、すべての妖精や精霊の頂点に立つ存在なのだから、禁法の代償とその対処法にも詳しいのではないかとライから説明された。
幸いながら学園祭の事件のせいで、今年中は学園が休校になっているので時間はある。一方のロゼリアたちには、迷いも選択の余地もなかった。即決である。
だが、部屋を出ようとしたロゼリアたちだったが、不意に扉がノックされる。誰か外に居たのだろうか。
「誰ですか」
ロゼリアが強い口調で尋ねる。
「すまない、俺だ。ペイルだ」
外から聞こえてきたのは、ペイル・モスグリネの声だった。
「ペ、ペイル殿下? どうなさったのですか?」
慌てているのはチェリシア。ロゼリアたちの前で激しくおろおろしている。だが、ペイルはそんな事は気にせず、部屋へと入ってきた。
「立ち聞きするつもりはなかったが、今話していた事は本当なのか?」
ペイルが顔も声も無表情に聞いてくる。
「何の事でしょうか」
ロゼリアははぐらかしてみるが、
「ふざけるな。ペシエラが危ないというのは、本当の事なのか?」
ペイルが怒りを滲ませて言葉を続けてきた。
「俺はあいつに負けたままだ。このまま勝ち逃げにされても困るからな。それに、オリジンの居場所なら、俺に心当たりがある」
「本当ですか?!」
ペイルがロゼリアを睨みつけたまま言うと、それに対してロゼリアとチェリシアが食いついた。その勢いに、ペイルは少し引いた。
「本当だ。モスグリネの王城から北の位置に、王家の直轄地がある。そこには精霊の森と呼ばれる場所があるんだ」
紛らわすようにぷいっと首を振ったペイルは、その情報を話す。これにはライが反応した。
「まぁ、精霊の森。私の故郷ですよ、そこ」
「なんだ、お前も精霊だったのか?」
「私は堕ちて魔物になった妖精ですよ。アイリス様のおかげで今は普通になりましたけど。魔物時代はいたずら大好きでしたからね」
ライとペイルは普通に話しているが、その会話にロゼリアたちは驚いていた。
「何も驚く事はあるまい。モスグリネは元々精霊信仰の強い土地だ。だからこそ、精霊の森は王家の直轄地にあるんだ」
ペイルの説明に、妙に納得するロゼリアたち。
「ただ、森に入るとなると、国王、つまり親父の許可が必要だ。俺とはいえ勝手に入れない」
申請から許可となると、時間がかかる可能性がある。一刻を争うような状況なのだから、時間は無駄にしたくない。
「まぁ、精霊が居るなら、すぐにでも許可は下りるだろう。親父は俺よりは柔軟だからな」
「頑固な自覚はあるんですね」
ペイルが言えば、即ロゼリアがツッコミを入れた。笑っちゃいけないけど、チェリシアとライが笑ってしまった。
「そうと決まれば、善は急げですわね。ペシエラとシルヴァノ殿下には声を掛けておきますわ」
「私も同行致します」
そう言って、ロゼリアとアイリスが出て行った。部屋には、チェリシア、ライ、キャノル、そしてペイルが残っている。少しの沈黙の後、ペイルが口を開く。
「しかし、問題はそこまでの移動手段だな。ここからモスグリネの王都まではひと月はかかる。あいつに残された時間が少ないのなら、そんな悠長な事は言ってられんというのに……」
ペイルは悔しそうな顔をしている。それを見かねたチェリシアは、
「移動手段はご心配なく。これを使えば、半分以下で済みますから」
久しぶりのエアリアルボードを展開する。この魔法を使ってもチェリシアは特に問題ない感じだ。
「私も八歳で魔法を使い始めたけれど、体は大丈夫みたいね。……となると、ペシエラの立ち位置の問題かしら。何にしても、オリジン様に会って確認しなきゃ……」
チェリシアは確認するように独り言を言っている。
「立ち位置?」
「あっ、こっちの話。気にしないで」
ペイルに聞き返されたので、チェリシアは驚いてごまかす。
「と、とりあえず、モスグリネへの移動は、私とロゼリアでこの魔法を使って移動します。五人は乗れますからね」
エアリアルボードを目の前に、チェリシアは胸を張ってドヤ顔を決めていた。
それがライから示された、ペシエラを救う策を持っているかも知れない存在の名前だった。
精霊王と言われるだけあって、すべての妖精や精霊の頂点に立つ存在なのだから、禁法の代償とその対処法にも詳しいのではないかとライから説明された。
幸いながら学園祭の事件のせいで、今年中は学園が休校になっているので時間はある。一方のロゼリアたちには、迷いも選択の余地もなかった。即決である。
だが、部屋を出ようとしたロゼリアたちだったが、不意に扉がノックされる。誰か外に居たのだろうか。
「誰ですか」
ロゼリアが強い口調で尋ねる。
「すまない、俺だ。ペイルだ」
外から聞こえてきたのは、ペイル・モスグリネの声だった。
「ペ、ペイル殿下? どうなさったのですか?」
慌てているのはチェリシア。ロゼリアたちの前で激しくおろおろしている。だが、ペイルはそんな事は気にせず、部屋へと入ってきた。
「立ち聞きするつもりはなかったが、今話していた事は本当なのか?」
ペイルが顔も声も無表情に聞いてくる。
「何の事でしょうか」
ロゼリアははぐらかしてみるが、
「ふざけるな。ペシエラが危ないというのは、本当の事なのか?」
ペイルが怒りを滲ませて言葉を続けてきた。
「俺はあいつに負けたままだ。このまま勝ち逃げにされても困るからな。それに、オリジンの居場所なら、俺に心当たりがある」
「本当ですか?!」
ペイルがロゼリアを睨みつけたまま言うと、それに対してロゼリアとチェリシアが食いついた。その勢いに、ペイルは少し引いた。
「本当だ。モスグリネの王城から北の位置に、王家の直轄地がある。そこには精霊の森と呼ばれる場所があるんだ」
紛らわすようにぷいっと首を振ったペイルは、その情報を話す。これにはライが反応した。
「まぁ、精霊の森。私の故郷ですよ、そこ」
「なんだ、お前も精霊だったのか?」
「私は堕ちて魔物になった妖精ですよ。アイリス様のおかげで今は普通になりましたけど。魔物時代はいたずら大好きでしたからね」
ライとペイルは普通に話しているが、その会話にロゼリアたちは驚いていた。
「何も驚く事はあるまい。モスグリネは元々精霊信仰の強い土地だ。だからこそ、精霊の森は王家の直轄地にあるんだ」
ペイルの説明に、妙に納得するロゼリアたち。
「ただ、森に入るとなると、国王、つまり親父の許可が必要だ。俺とはいえ勝手に入れない」
申請から許可となると、時間がかかる可能性がある。一刻を争うような状況なのだから、時間は無駄にしたくない。
「まぁ、精霊が居るなら、すぐにでも許可は下りるだろう。親父は俺よりは柔軟だからな」
「頑固な自覚はあるんですね」
ペイルが言えば、即ロゼリアがツッコミを入れた。笑っちゃいけないけど、チェリシアとライが笑ってしまった。
「そうと決まれば、善は急げですわね。ペシエラとシルヴァノ殿下には声を掛けておきますわ」
「私も同行致します」
そう言って、ロゼリアとアイリスが出て行った。部屋には、チェリシア、ライ、キャノル、そしてペイルが残っている。少しの沈黙の後、ペイルが口を開く。
「しかし、問題はそこまでの移動手段だな。ここからモスグリネの王都まではひと月はかかる。あいつに残された時間が少ないのなら、そんな悠長な事は言ってられんというのに……」
ペイルは悔しそうな顔をしている。それを見かねたチェリシアは、
「移動手段はご心配なく。これを使えば、半分以下で済みますから」
久しぶりのエアリアルボードを展開する。この魔法を使ってもチェリシアは特に問題ない感じだ。
「私も八歳で魔法を使い始めたけれど、体は大丈夫みたいね。……となると、ペシエラの立ち位置の問題かしら。何にしても、オリジン様に会って確認しなきゃ……」
チェリシアは確認するように独り言を言っている。
「立ち位置?」
「あっ、こっちの話。気にしないで」
ペイルに聞き返されたので、チェリシアは驚いてごまかす。
「と、とりあえず、モスグリネへの移動は、私とロゼリアでこの魔法を使って移動します。五人は乗れますからね」
エアリアルボードを目の前に、チェリシアは胸を張ってドヤ顔を決めていた。
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