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第九章 大いなる秘密
第231話 手立てを探して(ルゼ
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「ルゼは居ますかしら?」
ドール商会に着くなり、ロゼリアは商会の受付に質問をする。
「ルゼさんですか? ええ、今ならリードさんの工房にいらっしゃるかと思います」
「そう、ありがとう」
受付が答えると、くるりと振り返ってロゼリアは商会から出ていく。チェリシアは受付に一礼してから、ロゼリアの後を追いかけた。あまりの唐突な事に、受付の人は呆気に取られていた。
そんな事とは露知らず、ロゼリアとチェリシアはリードの工房、グレイアの家へとやって来ていた。
「ごめん下さいませ」
工房の扉を開けて、ロゼリアが挨拶をする。すると中からはルゼが出てきた。
「あら、ロゼリア様とチェリシア様。こちらにどういった用件です?」
いたって普通の対応をするルゼ。ところが、すっかり工房への用事だと思っていたルゼは、この後の言葉に驚かされた。
「ちょうどよかったです、ルゼさん」
「と、言いますと?」
「ルゼに聞きたい事があるのよ」
そう、自分への用事だったのだ。思わずルゼは首を傾げてしまった。
「んー、私への質問? 分かる範囲でなら答えるけど」
ロゼリアの表情を見たルゼは、深刻そうな雰囲気を感じていた。なので、そう言いつつも、二人をテーブルの方へと案内していた。
「一体どうされたんです? 私に聞きたい事だなんて」
紅茶を用意しながら、ルゼはロゼリアたちに聞いている。ロゼリアたちはすぐには答えず、まずは紅茶を口に含んだ。
「ふう、ちゃんと紅茶が淹れられるようになってるわね。元スライムだから、味覚が心配だったのよ」
「あれから三ヶ月は経つんです。私だって上達しますよ」
ルゼはぷくーっと頬を膨らませた。長年生きているとはいえ、元々はスライムだからか妙に子どもっぽいところもあるようだ。
「まあ、用件はペシエラの事よ」
紅茶を飲んで落ち着いたところで、ロゼリアは本題を切り出した。
「ペシエラ様の話ですか?」
ルゼは表情を変えずに驚いたように反応する。
「ええ。あの子、なんでも最近魔法を使っていないらしいの。七歳で魔法を使い始めたから、最悪の可能性を考えているのだけど、あなたはどう思う?」
ロゼリアはストレートにルゼに問う。ルゼはやはり表情を変えない。
「あー……、それは使わない方がいいですね。多分、使う度に激痛に襲われてると思いますよ」
淡々と答えるルゼ。ロゼリアはやはりという表情をし、チェリシアは口を押さえて青くなる。
「七歳から魔法を使い始めたのなら、体へ相当に負担が掛かっているでしょうからね。私たち魔物の間でも、人間は十歳からじゃないと魔法が使えないっていう話は浸透してますからね」
「つまり、それくらいには常識って事ね?」
「そうですね。それに加えて、ペシエラ様の魔法は規模が違い過ぎます。寿命が相当に縮んでいても、おかしくはないでしょう」
ルゼは主人の主人であるペシエラの状態について、推測ながらもそのように語った。事実なら相当に差し迫った状態にあるという事になる。
「なんて事なの……。三つ年下になっただけで、そんな負担を掛けていたなんて……」
ロゼリアの組む手に力が入る。チェリシアも姉でありながら、妹の事を気遣えなかった事を悔やんでいる。
「ねえ、ペシエラを助ける方法ってないの?」
チェリシアはルゼに泣きつく。ルゼは困ったような顔をするが、主人の主人の危機なのでできるだけ協力したいと考えた。
「申し訳ありません。さすがに純粋な魔物である私には、これといった案は出せないです。ですが……」
「ですが?」
「そういった事は、やはり神獣様や幻獣様に聞くのが一番かと。それが無理なら、ライに聞くといいのですよ。精霊や妖精なら、その手の話を知っている者は居ると思いますから」
縋る様なチェリシアを前に、ルゼは心当たりを教える事にした。
「そう、精霊や妖精ね。……となると、カイスに行ってレイニに聞くのもありかしら」
ルゼの言葉を聞いたロゼリアは、ぶつぶつと呟き始めた。
「ありがとう、ルゼ。ひとまずライのところへ行くわよ、チェリシア」
「は、はい」
「無事に見つかる事を願っております」
慌ただしく出ていくロゼリアたちを、ルゼはそうとだけ言ってしばらく眺めていた。
ドール商会に着くなり、ロゼリアは商会の受付に質問をする。
「ルゼさんですか? ええ、今ならリードさんの工房にいらっしゃるかと思います」
「そう、ありがとう」
受付が答えると、くるりと振り返ってロゼリアは商会から出ていく。チェリシアは受付に一礼してから、ロゼリアの後を追いかけた。あまりの唐突な事に、受付の人は呆気に取られていた。
そんな事とは露知らず、ロゼリアとチェリシアはリードの工房、グレイアの家へとやって来ていた。
「ごめん下さいませ」
工房の扉を開けて、ロゼリアが挨拶をする。すると中からはルゼが出てきた。
「あら、ロゼリア様とチェリシア様。こちらにどういった用件です?」
いたって普通の対応をするルゼ。ところが、すっかり工房への用事だと思っていたルゼは、この後の言葉に驚かされた。
「ちょうどよかったです、ルゼさん」
「と、言いますと?」
「ルゼに聞きたい事があるのよ」
そう、自分への用事だったのだ。思わずルゼは首を傾げてしまった。
「んー、私への質問? 分かる範囲でなら答えるけど」
ロゼリアの表情を見たルゼは、深刻そうな雰囲気を感じていた。なので、そう言いつつも、二人をテーブルの方へと案内していた。
「一体どうされたんです? 私に聞きたい事だなんて」
紅茶を用意しながら、ルゼはロゼリアたちに聞いている。ロゼリアたちはすぐには答えず、まずは紅茶を口に含んだ。
「ふう、ちゃんと紅茶が淹れられるようになってるわね。元スライムだから、味覚が心配だったのよ」
「あれから三ヶ月は経つんです。私だって上達しますよ」
ルゼはぷくーっと頬を膨らませた。長年生きているとはいえ、元々はスライムだからか妙に子どもっぽいところもあるようだ。
「まあ、用件はペシエラの事よ」
紅茶を飲んで落ち着いたところで、ロゼリアは本題を切り出した。
「ペシエラ様の話ですか?」
ルゼは表情を変えずに驚いたように反応する。
「ええ。あの子、なんでも最近魔法を使っていないらしいの。七歳で魔法を使い始めたから、最悪の可能性を考えているのだけど、あなたはどう思う?」
ロゼリアはストレートにルゼに問う。ルゼはやはり表情を変えない。
「あー……、それは使わない方がいいですね。多分、使う度に激痛に襲われてると思いますよ」
淡々と答えるルゼ。ロゼリアはやはりという表情をし、チェリシアは口を押さえて青くなる。
「七歳から魔法を使い始めたのなら、体へ相当に負担が掛かっているでしょうからね。私たち魔物の間でも、人間は十歳からじゃないと魔法が使えないっていう話は浸透してますからね」
「つまり、それくらいには常識って事ね?」
「そうですね。それに加えて、ペシエラ様の魔法は規模が違い過ぎます。寿命が相当に縮んでいても、おかしくはないでしょう」
ルゼは主人の主人であるペシエラの状態について、推測ながらもそのように語った。事実なら相当に差し迫った状態にあるという事になる。
「なんて事なの……。三つ年下になっただけで、そんな負担を掛けていたなんて……」
ロゼリアの組む手に力が入る。チェリシアも姉でありながら、妹の事を気遣えなかった事を悔やんでいる。
「ねえ、ペシエラを助ける方法ってないの?」
チェリシアはルゼに泣きつく。ルゼは困ったような顔をするが、主人の主人の危機なのでできるだけ協力したいと考えた。
「申し訳ありません。さすがに純粋な魔物である私には、これといった案は出せないです。ですが……」
「ですが?」
「そういった事は、やはり神獣様や幻獣様に聞くのが一番かと。それが無理なら、ライに聞くといいのですよ。精霊や妖精なら、その手の話を知っている者は居ると思いますから」
縋る様なチェリシアを前に、ルゼは心当たりを教える事にした。
「そう、精霊や妖精ね。……となると、カイスに行ってレイニに聞くのもありかしら」
ルゼの言葉を聞いたロゼリアは、ぶつぶつと呟き始めた。
「ありがとう、ルゼ。ひとまずライのところへ行くわよ、チェリシア」
「は、はい」
「無事に見つかる事を願っております」
慌ただしく出ていくロゼリアたちを、ルゼはそうとだけ言ってしばらく眺めていた。
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