逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
234 / 544
第九章 大いなる秘密

第231話 手立てを探して(ルゼ

しおりを挟む
「ルゼは居ますかしら?」
 ドール商会に着くなり、ロゼリアは商会の受付に質問をする。
「ルゼさんですか? ええ、今ならリードさんの工房にいらっしゃるかと思います」
「そう、ありがとう」
 受付が答えると、くるりと振り返ってロゼリアは商会から出ていく。チェリシアは受付に一礼してから、ロゼリアの後を追いかけた。あまりの唐突な事に、受付の人は呆気に取られていた。
 そんな事とは露知らず、ロゼリアとチェリシアはリードの工房、グレイアの家へとやって来ていた。
「ごめん下さいませ」
 工房の扉を開けて、ロゼリアが挨拶をする。すると中からはルゼが出てきた。
「あら、ロゼリア様とチェリシア様。こちらにどういった用件です?」
 いたって普通の対応をするルゼ。ところが、すっかり工房への用事だと思っていたルゼは、この後の言葉に驚かされた。
「ちょうどよかったです、ルゼさん」
「と、言いますと?」
「ルゼに聞きたい事があるのよ」
 そう、自分への用事だったのだ。思わずルゼは首を傾げてしまった。
「んー、私への質問? 分かる範囲でなら答えるけど」
 ロゼリアの表情を見たルゼは、深刻そうな雰囲気を感じていた。なので、そう言いつつも、二人をテーブルの方へと案内していた。
「一体どうされたんです? 私に聞きたい事だなんて」
 紅茶を用意しながら、ルゼはロゼリアたちに聞いている。ロゼリアたちはすぐには答えず、まずは紅茶を口に含んだ。
「ふう、ちゃんと紅茶が淹れられるようになってるわね。元スライムだから、味覚が心配だったのよ」
「あれから三ヶ月は経つんです。私だって上達しますよ」
 ルゼはぷくーっと頬を膨らませた。長年生きているとはいえ、元々はスライムだからか妙に子どもっぽいところもあるようだ。
「まあ、用件はペシエラの事よ」
 紅茶を飲んで落ち着いたところで、ロゼリアは本題を切り出した。
「ペシエラ様の話ですか?」
 ルゼは表情を変えずに驚いたように反応する。
「ええ。あの子、なんでも最近魔法を使っていないらしいの。七歳で魔法を使い始めたから、最悪の可能性を考えているのだけど、あなたはどう思う?」
 ロゼリアはストレートにルゼに問う。ルゼはやはり表情を変えない。
「あー……、それは使わない方がいいですね。多分、使う度に激痛に襲われてると思いますよ」
 淡々と答えるルゼ。ロゼリアはやはりという表情をし、チェリシアは口を押さえて青くなる。
「七歳から魔法を使い始めたのなら、体へ相当に負担が掛かっているでしょうからね。私たち魔物の間でも、人間は十歳からじゃないと魔法が使えないっていう話は浸透してますからね」
「つまり、それくらいには常識って事ね?」
「そうですね。それに加えて、ペシエラ様の魔法は規模が違い過ぎます。寿命が相当に縮んでいても、おかしくはないでしょう」
 ルゼは主人の主人であるペシエラの状態について、推測ながらもそのように語った。事実なら相当に差し迫った状態にあるという事になる。
「なんて事なの……。三つ年下になっただけで、そんな負担を掛けていたなんて……」
 ロゼリアの組む手に力が入る。チェリシアも姉でありながら、妹の事を気遣えなかった事を悔やんでいる。
「ねえ、ペシエラを助ける方法ってないの?」
 チェリシアはルゼに泣きつく。ルゼは困ったような顔をするが、主人の主人の危機なのでできるだけ協力したいと考えた。
「申し訳ありません。さすがに純粋な魔物である私には、これといった案は出せないです。ですが……」
「ですが?」
「そういった事は、やはり神獣様や幻獣様に聞くのが一番かと。それが無理なら、ライに聞くといいのですよ。精霊や妖精なら、その手の話を知っている者は居ると思いますから」
 すがる様なチェリシアを前に、ルゼは心当たりを教える事にした。
「そう、精霊や妖精ね。……となると、カイスに行ってレイニに聞くのもありかしら」
 ルゼの言葉を聞いたロゼリアは、ぶつぶつと呟き始めた。
「ありがとう、ルゼ。ひとまずライのところへ行くわよ、チェリシア」
「は、はい」
「無事に見つかる事を願っております」
 慌ただしく出ていくロゼリアたちを、ルゼはそうとだけ言ってしばらく眺めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。 どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。 少女は過労死で死んだ記憶がある。 働くなら絶対にホワイトな職場だ。 神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。 少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。 そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。 だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。 この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...