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第九章 大いなる秘密
第230話 気付いてしまった
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学園祭の最終日が中止されてからほぼ一か月。冬の月に入っていた。あれからは特に事件も起きる事はなく、実に平和なものだった。
マゼンダ商会はというと、小型調理窯の売れ行きが良く、かなり儲かっているようだった。窯自体はドール商会への発注なので、小型調理窯の人気ぶりは、ドール商会にも恩恵をもたらしていた。
窯が人気になっている一方で、ちょっとした変化があった。
マゼンダ商会にまったくペシエラが姿を現さなくなったのだ。チェリシアは女王教育に専念するためと聞かされているが、どこかペシエラの態度はよそよそしくなっていた。
「変ね」
「だよね」
今日もロゼリアとチェリシアは、執務室で打ち合わせをしている。そこへ、アイリスの母であるアメジスタがやって来た。
「紅茶をお持ちしました」
「ありがとう」
アメジスタの体調はすっかり良くなって、今ではハイビスたちの下で秘書のような役割を担っている。なので、こうやってロゼリアたちに紅茶を持ってくる事もあるのだ。
「ところで、アメジスタさん」
「なんでございますか?」
ロゼリアが声を掛ければ、アメジスタが返事をする。
「ペシエラの事で何か知らないかしら。あの子、姉であるチェリシアにも、こっちに来ない理由を詳しく話してないみたいなのよ」
「そ、そうなのでございますか」
ロゼリアの問い掛けに、アメジスタの声が一瞬震える。ロゼリアはすぐに直感した、これは何を知っていると。
だが、その場では納得したように振舞って、アメジスタを油断させる事にした。というわけで、こっそりシアンをつけさせた。シアンは、「はぁ、仕方ございませんね」としょうがなくロゼリアの指示に従っていた。どうやらシアンは乗り気ではないようだ。
シアンが出て行った後、
「そういえば、最近ペシエラは魔法を使おうとしていない気がするわ」
チェリシアがぽそりとロゼリアに漏らした。しかしながら、この一言がロゼリアに衝撃をもたらす。
「ちょっと、そういう事は早く言ってほしいわ。……探らせるつもりだったけど、あなたのその言葉でペシエラがどうしてこっちに来ないのか分かったわよ」
「えっ、えっ、ええっ?!」
ロゼリアが大声で言うものだから、チェリシアは混乱した。
「チェリシアは異世界から来たからあまり関心が薄いのでしょうけれど、この世界では魔法に目覚めるのは十歳からというのが常識なのよ」
ロゼリアがこう言えば、チェリシアは「あぁっ」っと思い出したように声を出す。
「迂闊だったわね。ペシエラが初めて魔法を使ったのは七歳……。私と同じ逆行だったから失念していたわ」
「という事は、ペシエラは……」
ロゼリアの言葉をじっくりかみ砕きながら、チェリシアは考えを巡らせる。
「ライが言ってた事を思い出して。魔法を使うのにも代償があるって言ってたでしょう?」
「ええ」
一方のロゼリアも、自分にも言い聞かせるようにゆっくりと話す。
「七歳で魔法を使ったペシエラは、禁法を犯したとも考えられるという事よ」
「まさか、ペシエラは……」
お互いに話をしながら、どんどんと顔が青ざめていく二人。ここまで来て達した結論は、
「ペシエラの体は、代償で何かしらの制約を抱えている可能性が高いという事ね。最悪、死ぬ可能性も考えられるわ」
重い代償を抱えているというものだった。
「そんな……、いくらなんでもあんまりだわ」
チェリシアは取り乱す。
「厄災の暗龍を倒すためとはいえ無茶をさせたし、十分可能性は考えられるわね」
一方のロゼリアはとても冷静だった。
しかし、そう結論付ければ、次の行動は早かった。
「私は、ペシエラと同じでこの国を守りたいのよ。それをこんな形で壊されるのはごめんだわ」
ロゼリアはそう言うと、さっさと出かける準備をする。
「行きましょう、チェリシア。情報収集よ」
「う、うん」
ロゼリアはチェリシアの手を引くと、執務室を後にする。
「この手の話なら神獣や幻獣が一番なんでしょうけど、近くには居ないわ。となれば……」
「ライさんやルゼさん」
「そういう事ね」
ロゼリアとチェリシアは、まずはドール商会へと向かうのだった。
マゼンダ商会はというと、小型調理窯の売れ行きが良く、かなり儲かっているようだった。窯自体はドール商会への発注なので、小型調理窯の人気ぶりは、ドール商会にも恩恵をもたらしていた。
窯が人気になっている一方で、ちょっとした変化があった。
マゼンダ商会にまったくペシエラが姿を現さなくなったのだ。チェリシアは女王教育に専念するためと聞かされているが、どこかペシエラの態度はよそよそしくなっていた。
「変ね」
「だよね」
今日もロゼリアとチェリシアは、執務室で打ち合わせをしている。そこへ、アイリスの母であるアメジスタがやって来た。
「紅茶をお持ちしました」
「ありがとう」
アメジスタの体調はすっかり良くなって、今ではハイビスたちの下で秘書のような役割を担っている。なので、こうやってロゼリアたちに紅茶を持ってくる事もあるのだ。
「ところで、アメジスタさん」
「なんでございますか?」
ロゼリアが声を掛ければ、アメジスタが返事をする。
「ペシエラの事で何か知らないかしら。あの子、姉であるチェリシアにも、こっちに来ない理由を詳しく話してないみたいなのよ」
「そ、そうなのでございますか」
ロゼリアの問い掛けに、アメジスタの声が一瞬震える。ロゼリアはすぐに直感した、これは何を知っていると。
だが、その場では納得したように振舞って、アメジスタを油断させる事にした。というわけで、こっそりシアンをつけさせた。シアンは、「はぁ、仕方ございませんね」としょうがなくロゼリアの指示に従っていた。どうやらシアンは乗り気ではないようだ。
シアンが出て行った後、
「そういえば、最近ペシエラは魔法を使おうとしていない気がするわ」
チェリシアがぽそりとロゼリアに漏らした。しかしながら、この一言がロゼリアに衝撃をもたらす。
「ちょっと、そういう事は早く言ってほしいわ。……探らせるつもりだったけど、あなたのその言葉でペシエラがどうしてこっちに来ないのか分かったわよ」
「えっ、えっ、ええっ?!」
ロゼリアが大声で言うものだから、チェリシアは混乱した。
「チェリシアは異世界から来たからあまり関心が薄いのでしょうけれど、この世界では魔法に目覚めるのは十歳からというのが常識なのよ」
ロゼリアがこう言えば、チェリシアは「あぁっ」っと思い出したように声を出す。
「迂闊だったわね。ペシエラが初めて魔法を使ったのは七歳……。私と同じ逆行だったから失念していたわ」
「という事は、ペシエラは……」
ロゼリアの言葉をじっくりかみ砕きながら、チェリシアは考えを巡らせる。
「ライが言ってた事を思い出して。魔法を使うのにも代償があるって言ってたでしょう?」
「ええ」
一方のロゼリアも、自分にも言い聞かせるようにゆっくりと話す。
「七歳で魔法を使ったペシエラは、禁法を犯したとも考えられるという事よ」
「まさか、ペシエラは……」
お互いに話をしながら、どんどんと顔が青ざめていく二人。ここまで来て達した結論は、
「ペシエラの体は、代償で何かしらの制約を抱えている可能性が高いという事ね。最悪、死ぬ可能性も考えられるわ」
重い代償を抱えているというものだった。
「そんな……、いくらなんでもあんまりだわ」
チェリシアは取り乱す。
「厄災の暗龍を倒すためとはいえ無茶をさせたし、十分可能性は考えられるわね」
一方のロゼリアはとても冷静だった。
しかし、そう結論付ければ、次の行動は早かった。
「私は、ペシエラと同じでこの国を守りたいのよ。それをこんな形で壊されるのはごめんだわ」
ロゼリアはそう言うと、さっさと出かける準備をする。
「行きましょう、チェリシア。情報収集よ」
「う、うん」
ロゼリアはチェリシアの手を引くと、執務室を後にする。
「この手の話なら神獣や幻獣が一番なんでしょうけど、近くには居ないわ。となれば……」
「ライさんやルゼさん」
「そういう事ね」
ロゼリアとチェリシアは、まずはドール商会へと向かうのだった。
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