231 / 431
第八章 二年次
第228話 調査団と押収物
しおりを挟む
事件から一週間が経った。相変わらずパープリア男爵たちは凍り付いたままで、証言を得られそうになかった。仕方なく、屋敷から押収した男爵の私物などの調査が進められていた。
その中で、アイリスとライの二人は、パープリアの屋敷に居た事を理由に捜査に協力していた。そして、その協力のおかげで、男爵が隠していた秘密の部屋を見つける事ができた。
「いやはや、これはすごいぞ……」
「お父様の性格上、こういう部屋があるとは思ってましたが、確かにこれは想像以上です」
隠し部屋には、見た事もない道具がたくさんある上に、膨大な量の書類がいくつもの山になって置かれていた。おそらく、この部屋の存在が、パープリア男爵の悪事が表に出なかった理由なのだろう。ご丁寧に隠蔽魔法が施されていた。
「私のようないたずら妖精に、隠蔽魔法は効かないのよね」
「なにそれ、便利ですね」
「だったら主人様も身に付けてみます? 神獣使いなんですから習得できると思いますよ」
部屋の中を捜索する騎士たちの後ろで、女同士二人が盛り上がっていた。
「すまないが、少し手伝ってくれ。俺たちでは対処できない物もあるみたいだからな」
「分かりましたー」
捜索の責任者と思われる騎士に怒られ、アイリスとライは部屋の中の物の押収を手伝った。
隠し部屋から押収された物は、そのほとんどがアメジスタを通じて神獣使いベルの代から続く遺産である事が、体調の回復したアメジスタの立ち合いの下で判明した。これには、アイリスの呼びかけに答えた蒼鱗魚とフェンリルの証言も加わった事も大きかった。
「本当に申し訳ございませんでした。私があの男の口車に乗せられて嫁いだがために、王国の方々に多大の迷惑をお掛けしまして……。神獣使いの一族を代表して謝罪致します」
証拠の品々の判定が終わったところで、アメジスタが調査団の面々に深々と頭を下げた。しかし、調査団の面々は、アメジスタを咎めるような事はしなかった。
「いや、あなたも立派な被害者だ。閉じ込められた上に毒まで盛られていたのだろう?」
「うむ、さすがに同情すべき点が多い。我々としては罪に問う事はしない」
調査団の騎士や文官たちは口々にそう言っている。これには、アメジスタは涙が出そうになった。
「だが、アイリス嬢は裁判に掛けられる可能はないとは言えない」
「そうだな。ただ殿下の婚約者であられるペシエラ様付きの従者を任されているので、裁判に掛けられたところで観察処分くらいだろうな」
「うむ、今回の男爵絡みの件では非常に協力的であったし、本人には反省が見受けられるからね」
アイリスが裁判に掛けられると聞いたアメジスタは、一瞬気を失いそうになった。しかし、その後のフォローを聞いて、ほっと安心したようだ。
「私も積極的に加担してましたから、裁判に掛けられると聞いても驚きません。むしろ、コーラル伯爵家の養子の件の方に驚いてます」
対照的に、娘のアイリスは冷静に淡々と話していた。
「ああ、その件か。それなら我々騎士団の中でも噂になっているよ。あのペシエラ様が全幅の信頼を寄せているから、反対する者は誰も居なかったね。もう”パープリア男爵の娘”ではなくて、”コーラル家の娘付きの侍女”という認識の方が強いから」
「それに、ヴィオレス殿も似たような感じになっているな。うかうかしていたら俺たちをあっさり超えていきそうだ」
騎士団の話を聞いていて、アメジスタは涙を浮かべた。自分の子どもたちが知らない間に立派になっていたので、母親として純粋に嬉しかったのだ。
「時にライ殿」
「はい、なんでしょう」
感動の最中、騎士の一人がライに話し掛ける。
「パープリア男爵家が取り潰しとなった事で、あなたの働き先が無くなりましたが、これからはどうするおつもりですか?」
そう、潜入調査していたパープリア男爵家が無くなり、めでたく無職となってしまったのだ。騎士はその事を気にして声を掛けたらしい。
「んー、主人様の意見に従う感じかな。元々魔物だし、自由な生活の方が嬉しいのよね」
ライはそうは言いつつも、アイリスの方をちらりと見る。ライとしては、主人であるアイリスの意見を求めているというわけだ。
「ライ、そのあたりはペシエラ様とチェリシア様にお聞きしましょう。私もまた、一介の侍女でしかないのですから、私だけでは決めかねます」
「ですよね……」
アイリスの返答に、ライはなよなよと首を垂れた。その様子に、場には笑いが起きていた。
こうして、笑いで落ち着いた調査団は、てきぱきと押収した証拠品の調査を進めていった。
その中で、アイリスとライの二人は、パープリアの屋敷に居た事を理由に捜査に協力していた。そして、その協力のおかげで、男爵が隠していた秘密の部屋を見つける事ができた。
「いやはや、これはすごいぞ……」
「お父様の性格上、こういう部屋があるとは思ってましたが、確かにこれは想像以上です」
隠し部屋には、見た事もない道具がたくさんある上に、膨大な量の書類がいくつもの山になって置かれていた。おそらく、この部屋の存在が、パープリア男爵の悪事が表に出なかった理由なのだろう。ご丁寧に隠蔽魔法が施されていた。
「私のようないたずら妖精に、隠蔽魔法は効かないのよね」
「なにそれ、便利ですね」
「だったら主人様も身に付けてみます? 神獣使いなんですから習得できると思いますよ」
部屋の中を捜索する騎士たちの後ろで、女同士二人が盛り上がっていた。
「すまないが、少し手伝ってくれ。俺たちでは対処できない物もあるみたいだからな」
「分かりましたー」
捜索の責任者と思われる騎士に怒られ、アイリスとライは部屋の中の物の押収を手伝った。
隠し部屋から押収された物は、そのほとんどがアメジスタを通じて神獣使いベルの代から続く遺産である事が、体調の回復したアメジスタの立ち合いの下で判明した。これには、アイリスの呼びかけに答えた蒼鱗魚とフェンリルの証言も加わった事も大きかった。
「本当に申し訳ございませんでした。私があの男の口車に乗せられて嫁いだがために、王国の方々に多大の迷惑をお掛けしまして……。神獣使いの一族を代表して謝罪致します」
証拠の品々の判定が終わったところで、アメジスタが調査団の面々に深々と頭を下げた。しかし、調査団の面々は、アメジスタを咎めるような事はしなかった。
「いや、あなたも立派な被害者だ。閉じ込められた上に毒まで盛られていたのだろう?」
「うむ、さすがに同情すべき点が多い。我々としては罪に問う事はしない」
調査団の騎士や文官たちは口々にそう言っている。これには、アメジスタは涙が出そうになった。
「だが、アイリス嬢は裁判に掛けられる可能はないとは言えない」
「そうだな。ただ殿下の婚約者であられるペシエラ様付きの従者を任されているので、裁判に掛けられたところで観察処分くらいだろうな」
「うむ、今回の男爵絡みの件では非常に協力的であったし、本人には反省が見受けられるからね」
アイリスが裁判に掛けられると聞いたアメジスタは、一瞬気を失いそうになった。しかし、その後のフォローを聞いて、ほっと安心したようだ。
「私も積極的に加担してましたから、裁判に掛けられると聞いても驚きません。むしろ、コーラル伯爵家の養子の件の方に驚いてます」
対照的に、娘のアイリスは冷静に淡々と話していた。
「ああ、その件か。それなら我々騎士団の中でも噂になっているよ。あのペシエラ様が全幅の信頼を寄せているから、反対する者は誰も居なかったね。もう”パープリア男爵の娘”ではなくて、”コーラル家の娘付きの侍女”という認識の方が強いから」
「それに、ヴィオレス殿も似たような感じになっているな。うかうかしていたら俺たちをあっさり超えていきそうだ」
騎士団の話を聞いていて、アメジスタは涙を浮かべた。自分の子どもたちが知らない間に立派になっていたので、母親として純粋に嬉しかったのだ。
「時にライ殿」
「はい、なんでしょう」
感動の最中、騎士の一人がライに話し掛ける。
「パープリア男爵家が取り潰しとなった事で、あなたの働き先が無くなりましたが、これからはどうするおつもりですか?」
そう、潜入調査していたパープリア男爵家が無くなり、めでたく無職となってしまったのだ。騎士はその事を気にして声を掛けたらしい。
「んー、主人様の意見に従う感じかな。元々魔物だし、自由な生活の方が嬉しいのよね」
ライはそうは言いつつも、アイリスの方をちらりと見る。ライとしては、主人であるアイリスの意見を求めているというわけだ。
「ライ、そのあたりはペシエラ様とチェリシア様にお聞きしましょう。私もまた、一介の侍女でしかないのですから、私だけでは決めかねます」
「ですよね……」
アイリスの返答に、ライはなよなよと首を垂れた。その様子に、場には笑いが起きていた。
こうして、笑いで落ち着いた調査団は、てきぱきと押収した証拠品の調査を進めていった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる