逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第225話 これからが大変

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 三人それぞれの視点での記録を見た一同は、はっきり言って言葉を失っていた。
 アイリスとキャノル視点での映像には、夥しいまでの魔物の数と逃げ惑う観客たちの光景が映し出され、とても言葉で語り尽くせないくらいに混沌としていた。この数の魔物を一瞬で片づけてみせたペシエラとは一体……。
 更に続けて流されたライ視点の映像では、どす黒い石の登場にますます言葉を失った。映し出された石の様子は禍々しく、目を背けたくても惹きつけられる不思議な魅力を持っていた。
「デーモンハートか……。そのような危険な物がこの世に存在していようとはな……」
 国王が呟いた。
「調べてみた限りでは、どの文献にも記述が見つからないので、とっくに失われた遺物のようでしたわ。パープリア男爵は一体どこから、これの情報と実物を入手したのか調べる必要がありそうですわね」
 ペシエラが国王の呟きに続けるように進言する。しかし、これには慎重な意見も出る。
「私ですら魅入られかけた魔性の石ですので、見つけたとしても迂闊に近づくのはやめた方がいいです」
 他ならぬライからの意見だった。
 ハイスプライトはデーモンハートで堕ちた妖精の上位種だ。そのハイスプライトですら飲まれる可能性のある危険な石である。この意見はもっともだった。
「私もライ殿の意見に賛成だ。普通の魔物ならまだしも、私どもは主人を得た普通の魔物とは違った存在だ。デーモンハートが対象と言うならば、ライ殿のように飲まれかける危険性がある」
「だとしたら、どうすればいいというのかしら」
 ラルクが意見を言えば、ロゼリアが言葉を返す。
「幻獣や神獣であれば、影響は軽微もしくは無効化できると思います。彼らの存在は善悪を超越したものですから」
 これにすんなりと回答するラルク。オークジェネラルの彼はかなり聡明なようだ。意見を求められれば、すぐに状況に応じた回答ができるのだから。実に頼もしい限りである。
「というわけよ。ニーズヘッグ、頼めるかしら」
「確かに、暗龍と呼ばれる俺が最適でしょうな。こいつらの仲間らしき連中も目星は付けている。ペシエラ様の命とあれば、引き受けましょう」
 アイリスの影から、スルッと出てきたニーズヘッグ。厄災の暗龍と呼ばれている闇属性の龍なので、影に潜む事もできるようだ。
 そのニーズヘッグは、やけにあっさりとデーモンハートの調査を引き受けてくれた。
 しかし、国王たちの目が点になっている事が気にかかる。
「あの、国王陛下、いかがなされたのですか?」
 おそるおそる尋ねたのはチェリシア。
「今、その男は暗龍と言わなかったか?」
「はい。以前にも説明を致しませんでしたでしょうか。私たちの使用人として厄災の暗龍を迎えたと」
 そう、以前に実際に国王たちはニーズヘッグに会っていたのだ。しかし、いろいろ衝撃的な事が立て続けに起きて、どうやら失念してしまっていたようなのだ。
 とはいえ、今はそれを話題にしている場合ではない。
「では、国王陛下たちから許可が頂けましたし、ニーズヘッグ、頼んみましたよ」
「仰せのままに」
 チェリシアの言葉に簡単に言葉を返したニーズヘッグは、瞬間移動テレポートで謁見の間から消え去った。
 とんとんと話が進んで呆気に取られる国王たちの横で、パープリア男爵とインディは、いまだに固まったままであった。いつ動き出されても困るので、国王の命令で発見された地下牢へと運ばれていった。まぁ、動き出したら牢の中に居たとなれば、それはそれでも騒ぎ出しそうである。
 ちなみに、パープリア邸の捜索については、アイリスが元家族で積極的に犯罪に関わっていたので、同行させられる事となった。その間はキャノルがチェリシアとペシエラの二人の付き人となる。とんでも姉妹の専属侍女となったキャノルは、謁見の間で危うく気を失いそうになったのだが、アイリスとシアンのフォローで事なきを得るのだった。
 さてひとまずこれで、パープリア男爵が中心となる騒ぎは終わりそうではあったが、後始末の事を考えると、むしろこれが始まりとも思えるのだった。何せ、事後処理が多い。パープリア男爵家は取り潰しが確実なので、アイリスとヴィオレスの兄妹、それに妻のアメジスタ、働いている使用人たちの処遇、それと男爵の領地などなど、とにかく大変である。
 学園祭での騒動の聞き取りが終わったロゼリアたちは、大きくため息をつきながら、王宮を後にするのだった。
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