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第八章 二年次
第224話 凍れる時
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その日は学園祭が中止となり、ロゼリアたちは使用人たちも含めて大所帯で王宮へと出向いていた。シアン、アイリスは登城の経験があるが、キャノルやライは初めてである。
しかし、見慣れた廊下を歩いていると、どうにも城内が騒がしい。一体何があったのだろうか。ところが、話を聞こうにもロゼリアたちの周りには、手の空いた兵士はおろか使用人すら見当たらない。仕方がないので、ロゼリアたちは国王と女王の待つ謁見の間へと急いだ。
「失礼致します。ロゼリア・マゼンダ、チェリシア・コーラル、ペシエラ・コーラルの三名が到着致しました」
謁見の間の近衛兵がそう告げる。
「通せ」
「はっ!」
国王が短く許可を出すと、大きく扉が開いて、謁見の間にロゼリアたちと従者たちが足を踏み入れた。
「国王陛下、女王陛下、ロゼリア・マゼンダ以下、招集に応え、馳せ参じました」
ロゼリアが堅苦しい挨拶をする。
「うむ、ご苦労である」
もう何度目になるのか分からないので、国王も慣れたものである。
「さて、昨日の襲撃事件の報告を……といきたいところだが、こちらもこちらで面倒な事が起きた」
事情聴取が始まるはずが、国王の顔色がなんとも悪い。歯切れも悪いし、一体何があったのだろうか。
訳が分からず立ち尽くしているロゼリアたちの前に、兵士たちが何かを運び込んできた。
「あれは、お父様とインディ……」
思わずアイリスが声を上げる。
しかし、奇妙だった。アイリスの行動に対する反応が起きないのだ。よく見れば、瞬きはおろか呼吸もしていない。それでいて死んでいるかと言えばそうでもない。ロゼリアたちは首を傾げるばかりだった。
「今朝方の事だが、巡回で地下牢に行った兵が見つけたのだ。侵入を許した事はありえん事だが、この二人の状態は更にありえん事でな。まったく動く気配はないし、見つかったのが鍵のかかった牢の中というのも妙なのだ」
顎を触りながら、頭を捻りつつ状況を説明する国王。ますます話が分からなかった。
そんな中、固まって動かない二人に近付いていくライ。魔物であるライは、何かを感じたのだろう。
「……これは『時止め』ですね。この二人は、時間を止められて動けなくなってるんです」
「なんですって?!」
ざわつく謁見の間。それに構わず、ライは言葉を続ける。
「これから報告予定の事でしたが、ここで説明します。この二人は、武術大会の会場に召喚陣を仕掛けました。その召喚陣には、他所から魔力を供給させていて、その魔力を集めるためにデーモンハートという禁法の道具を使っていたんです」
「なっ、デーモンハートだと?!」
禁法の魔道具の名前に、国王が反応する。おそらく知っているのだろう。
だが、今はライの説明の最中なのでスルーされる。
「私がなんとかデーモンハートを砕いて、召喚陣への魔力供給を止めました。供給元を絶たれた召喚陣を、ペシエラ様が魔物ごと全部壊したというのが昨日の話です」
ここまでのライの説明が終わって、全員の視線がペシエラに集中する。かなりの数が居たはずの魔物を一気に倒したのだから、それは注目を浴びてしまうのは無理もない話であった。
「それで、このデーモンハートは、パープリア男爵邸を効果範囲として魔力を吸収するように設定されていたようです。二人はその日の朝から出掛けてしまいましたから、屋敷中の人間を犠牲にするつもりだったようです」
ライの説明に、場の全員が言葉を失った。それでもライの説明はまだ続く。
「ただ、この計画には予定外がありました。それが私です。魔物、しかも上位の魔物である私は魔力が多いので、ある程度魔力を失っても平気です。そして、禁法の欠点として、その対象に知られてはいけないという制約があるのです」
「つまり何か。禁法の対象となったそなたがデーモンハートを砕いた事で、こやつらは禁法を使った罰を食らったというわけか?」
さすが国王、頭が切れる。
「はい、その通りでございます」
ライは肯定する。これを聞いた国王は、勢いよく立ち上がりかけた体をゆっくりと椅子へと戻す。
「事情は分かった。では、改めて昨日の一件の報告を聞こう」
一度深呼吸をした国王は、咳払いをひとつしてロゼリアたちを見る。
「畏まりました。アイリス、キャノル、ライ、撮影魔法の髪飾りを」
ロゼリアからこう言われて、名を呼ばれた三人はそれぞれ撮影魔法の掛けられた装飾品を外す。
「では、順番に当時の状況を投影して参ろうかと存じます」
こうして、謁見の間において、事件の状況の確認が行われる事になった。
しかし、見慣れた廊下を歩いていると、どうにも城内が騒がしい。一体何があったのだろうか。ところが、話を聞こうにもロゼリアたちの周りには、手の空いた兵士はおろか使用人すら見当たらない。仕方がないので、ロゼリアたちは国王と女王の待つ謁見の間へと急いだ。
「失礼致します。ロゼリア・マゼンダ、チェリシア・コーラル、ペシエラ・コーラルの三名が到着致しました」
謁見の間の近衛兵がそう告げる。
「通せ」
「はっ!」
国王が短く許可を出すと、大きく扉が開いて、謁見の間にロゼリアたちと従者たちが足を踏み入れた。
「国王陛下、女王陛下、ロゼリア・マゼンダ以下、招集に応え、馳せ参じました」
ロゼリアが堅苦しい挨拶をする。
「うむ、ご苦労である」
もう何度目になるのか分からないので、国王も慣れたものである。
「さて、昨日の襲撃事件の報告を……といきたいところだが、こちらもこちらで面倒な事が起きた」
事情聴取が始まるはずが、国王の顔色がなんとも悪い。歯切れも悪いし、一体何があったのだろうか。
訳が分からず立ち尽くしているロゼリアたちの前に、兵士たちが何かを運び込んできた。
「あれは、お父様とインディ……」
思わずアイリスが声を上げる。
しかし、奇妙だった。アイリスの行動に対する反応が起きないのだ。よく見れば、瞬きはおろか呼吸もしていない。それでいて死んでいるかと言えばそうでもない。ロゼリアたちは首を傾げるばかりだった。
「今朝方の事だが、巡回で地下牢に行った兵が見つけたのだ。侵入を許した事はありえん事だが、この二人の状態は更にありえん事でな。まったく動く気配はないし、見つかったのが鍵のかかった牢の中というのも妙なのだ」
顎を触りながら、頭を捻りつつ状況を説明する国王。ますます話が分からなかった。
そんな中、固まって動かない二人に近付いていくライ。魔物であるライは、何かを感じたのだろう。
「……これは『時止め』ですね。この二人は、時間を止められて動けなくなってるんです」
「なんですって?!」
ざわつく謁見の間。それに構わず、ライは言葉を続ける。
「これから報告予定の事でしたが、ここで説明します。この二人は、武術大会の会場に召喚陣を仕掛けました。その召喚陣には、他所から魔力を供給させていて、その魔力を集めるためにデーモンハートという禁法の道具を使っていたんです」
「なっ、デーモンハートだと?!」
禁法の魔道具の名前に、国王が反応する。おそらく知っているのだろう。
だが、今はライの説明の最中なのでスルーされる。
「私がなんとかデーモンハートを砕いて、召喚陣への魔力供給を止めました。供給元を絶たれた召喚陣を、ペシエラ様が魔物ごと全部壊したというのが昨日の話です」
ここまでのライの説明が終わって、全員の視線がペシエラに集中する。かなりの数が居たはずの魔物を一気に倒したのだから、それは注目を浴びてしまうのは無理もない話であった。
「それで、このデーモンハートは、パープリア男爵邸を効果範囲として魔力を吸収するように設定されていたようです。二人はその日の朝から出掛けてしまいましたから、屋敷中の人間を犠牲にするつもりだったようです」
ライの説明に、場の全員が言葉を失った。それでもライの説明はまだ続く。
「ただ、この計画には予定外がありました。それが私です。魔物、しかも上位の魔物である私は魔力が多いので、ある程度魔力を失っても平気です。そして、禁法の欠点として、その対象に知られてはいけないという制約があるのです」
「つまり何か。禁法の対象となったそなたがデーモンハートを砕いた事で、こやつらは禁法を使った罰を食らったというわけか?」
さすが国王、頭が切れる。
「はい、その通りでございます」
ライは肯定する。これを聞いた国王は、勢いよく立ち上がりかけた体をゆっくりと椅子へと戻す。
「事情は分かった。では、改めて昨日の一件の報告を聞こう」
一度深呼吸をした国王は、咳払いをひとつしてロゼリアたちを見る。
「畏まりました。アイリス、キャノル、ライ、撮影魔法の髪飾りを」
ロゼリアからこう言われて、名を呼ばれた三人はそれぞれ撮影魔法の掛けられた装飾品を外す。
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