逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第220話 決着は一瞬で

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 学園の訓練場。ペシエラたちは魔物を牽制するも倒す事ができず、苦戦を強いられていた。倒せば新たな魔物が召喚陣から現れる。召喚される数に上限がある事が分かったが故の対応である。
 しかし、それも突如として終わりを告げる。
「ペシエラ、ライが魔力供給の元を絶ったそうだ。陣が壊せるぞ」
「ありがとう、インフェルノ」
 そう、パープリアの屋敷にあった魔力供給の元となったデーモンハートを、ライが壊したのである。これで遠慮なく魔物を叩けるというものだ。
「さあ、覚悟なさい。この地に出てきた事を不運に思うといいですわ」
 ペシエラは怒り心頭だった。
 どかーんと極大範囲魔法を落として、あっという間に召喚陣ごと魔物を倒してしまった。相当にストレスが溜まっていたようだった。逆行前はロゼリアに一方的に恨みを溜めていたペシエラだったが、今回は割と脳筋に傾倒していたようだ。
 チェリシアたちが駆けつけた時には、既にすべてが終わっていた。
「えっ、これ……」
「あら、遅かったですわね、お姉様」
 魔物の残骸の上に堂々と立つペシエラ。その姿はまるで覇王。圧倒的なペシエラの姿を見たチェリシアは、驚きのあまりに固まってしまった。ペシエラの傍には、共闘していたはずのロゼリアも呆然と佇んでいる。
「ロゼリア?」
 あまりにも放心状態が酷かったので、チェリシアは心配になって声を掛ける。
「えっ、あっ、チェリシア。観客たちは無事かしら」
 ボーッとしていたので、ロゼリアはワンテンポ、ツーテンポ遅れて反応する。チェリシアの後ろでは避難誘導に付き合っていたシルヴァノとペイル、それとチークウッドが苦笑いをしている。
「ロゼリアが呆然とするのも、分かる気がするけれどもね……」
 訓練場内の惨状を見て、チェリシアは顔を引き攣らせている。おびただしいまでの魔物の死骸が会場内に散乱しているからだ。ラルクとトルフもあまりのペシエラの攻撃魔法に、壁際にまで避難していた。
「うむ、以前も見たが、これほどまで殲滅力が高いとは。トルフ、早めに避難して正解だったな」
「わ、わうっ……」
 凶暴極まりないと言われるライトニングウルフのトルフが、すっかりと怯え切っている。それほどまでにペシエラは規格外すぎるという事である。
 呆然とする会場内だったが、観客席から声がする。
「ところで、こいつはどうする? 一応、生きてはいるみたいだ」
 カーマイルだ。彼が抱えるのは、術の発動者である学生だった。どうやら召喚陣を発動する時に魔力をゴッソリ持って行かれたようで、顔面蒼白で力無く全身を投げ出していた。
「回復させて尋問ですわね。召喚陣を仕込んだ宝珠を、一体どこから手に入れたのか吐かせねばなりません」
 ペシエラの表情は怒りに満ちていた。なにせ、召喚陣の発動にパープリアの屋敷の人間を犠牲して、アイリスの母親を危険な目に遭わせたのだ。
 この事件を仕組んだのは、間違いなくパープリア男爵だ。今回の学生の事を考えると、おそらく逆行前のペシエラは、パープリア男爵の駒として利用されたのだろうという事は、今のペシエラであれば容易に想像がつく。もはや、ペシエラにとって、パープリア男爵は憎いだけの相手であった。
 積もり積もった恨み、ここで晴らさねばならない。ペシエラは積年の恨みのせいで、まるで鬼神のごとき表情で笑っていた。
「ペ、ペシエラ。とりあえず先にこの場を収めましょう? これだけ魔物の死骸が転がっているのを放置しておくわけにはいかないわよ」
「それもそうですわね」
 チェリシアの提案を、ペシエラはあっさりと受け入れて、いつもの強気な表情に戻る。その姿を見て、ロゼリアとチェリシアはどこかほっとしていた。
「レイニ、居ますかしら」
「ほいほい、ボクに何の用かな?」
 落ち着いたペシエラがレイニを呼ぶと、すっと姿を現した。
「パープリア男爵邸に行って、ライとアイリスの母親の保護を頼みますわ。あのまま屋敷に置いておくと危険ですから」
「了解。コーラル邸に連れて来ればいいかい?」
「ええ、それでいいですわ」
 ペシエラが頼むと、レイニはすっとその場から姿を消した。
 どうやら、すぐにでもパープリア男爵との決着をつける必要がありそうだ。ロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人は、そろってそう強く思うのだった。
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