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第八章 二年次
第219話 ライの冒険
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ペシエラたちが武術大会を観戦している頃、パープリア男爵邸では……。
(旦那様と執事長がお出かけになられて、屋敷の中の空気が少し緩んでるわね)
ハイスプライトのライは、屋敷の掃除をしていた。
この日は、パープリア男爵が執事長であるインディを連れて、学園祭へと出かけていた。夜まで帰らないらしいので、監視の目が無いという事で、使用人たちが完全に気を緩めていたのだ。
だが、ライだけは男爵家への潜入調査と監視という任務を負っていたので、気を引き締めたまま仕事に励んでいたのだ。
ハイスプライトといういたずら好き妖精が、真面目に仕事をしているというのも何か違和感を感じるが、本人は主人であるアイリスとその更に主人であるペシエラに忠誠を誓っているので、特に問題は無いのだ。
呑気に鼻歌を歌いながら仕事をしていたライだったが、午後に入って違和感を感じた。
急にズンと、屋敷を包む空気が重くなったのだ。
(何、これ。魔力が吸われる?)
一瞬の頭痛を感じたライが空を見ると、屋敷から魔力が学園の方へ流れていくのが見える。
「これは、魔力吸引?! 何が起きているの?」
すぐさまライは、アイリスに連絡を取る。魔力が吸い出されてうまく念話が届かないが、屋敷から魔力が学園に向けて流れている事を伝える。そして、返ってきた言葉に愕然とした。
自分たちの魔力を使って、召喚陣を作動させているというのだ。
ここでライは勘付いた。なぜ、今日に限って男爵たちが出かけたのか。
魔力吸引に巻き込まれないためだ。
つまり、パープリア男爵とインディは、屋敷に居る人間を犠牲にして、事を起こそうとしているというのである。
(私の魔力は膨大だから、まずは他の人に影響出ないようにしましょうか。アメジスタ様は体が弱ってますし、負担をかけさせるわけにはいかないもの)
次の瞬間、ガクンと魔力を吸われる。
(何? 一気に魔力を?)
急に膝を落として混乱するライだったが、蒼鱗魚を介して、召喚陣を破壊すると魔力を一気に吸って強力な魔物を召喚する禁法だという事を知った。
「えげつないわね。それほどまでにこの国に怨みでもあるっていうの?」
ライは庭の草木から魔力を分けてもらって、すぐに立ち上がる。元々自然と生きる妖精なので、こういった事ができるらしい。
ライはすぐに召喚陣へ魔力を供給している仕掛けを探す。屋敷の中の使用人たちは、最初の吸収でほとんど動けなくなっており、今動けるのはライだけである。
(私たち魔物ですら、ここまで非道な真似はしないのに……。恐ろしい人間が居るものね!)
ライは自分の魔力が流れていく先を追う。妖精族は魔力の扱いには優れている方な事も幸いした。ライはすぐさま、魔力の集まる場所を見つけ出したのだ。
「ここは、旦那様の書斎?」
そう、たどり着いた先は、パープリア男爵が執務などで使う書斎である。部屋の扉は至って普通の部屋なのだが、ライから吸い出している魔力は、間違いなく書斎の中へと流れ込んでいた。
(ええい、ままよーっ!)
ライは念動力で部屋の扉をこじ開ける。鍵など知った事か。
扉を破って中に入ったライは、そこで恐ろしい物を見てしまう。
男爵の使う机の上に、禍々しいまでのどす黒い小さな石が置かれていたのだ。どうやら、この石が魔力を吸い出しているらしい。
「デーモンハート……。なんでこれが、こんな所にあるのよ」
ライは愕然とした。
悪魔の心臓と呼ばれる石は、魔物の死骸が化石化した物で、強い瘴気を帯びている。持ち主の心を歪ませると言われており、ライがハイスプライトとなった原因の石でもあった。
稀に心がどす黒い者が持てば、望みを叶える魔法の石になるという呪われた一品だ。
(なるほど、パープリア男爵は元々心の歪んだ人間だから、これを平気で使えるわけね……)
その時、ライの思考が一瞬揺らぐ。
(いけない……。石に魅入られる前に、これを壊さなきゃ)
ライは気力を振り絞って魔法を行使する。闇と土の魔法に念動力を使って、デーモンハートに圧力を掛けていく。
バキンッ!!
ついぞライは、デーモンハートを砕く事に成功したのだった。
「これで、召喚陣は、止まるはず……」
ライは力を使い果たしてふらつきながらも、書斎を出て扉を元に戻したのだった。
(旦那様と執事長がお出かけになられて、屋敷の中の空気が少し緩んでるわね)
ハイスプライトのライは、屋敷の掃除をしていた。
この日は、パープリア男爵が執事長であるインディを連れて、学園祭へと出かけていた。夜まで帰らないらしいので、監視の目が無いという事で、使用人たちが完全に気を緩めていたのだ。
だが、ライだけは男爵家への潜入調査と監視という任務を負っていたので、気を引き締めたまま仕事に励んでいたのだ。
ハイスプライトといういたずら好き妖精が、真面目に仕事をしているというのも何か違和感を感じるが、本人は主人であるアイリスとその更に主人であるペシエラに忠誠を誓っているので、特に問題は無いのだ。
呑気に鼻歌を歌いながら仕事をしていたライだったが、午後に入って違和感を感じた。
急にズンと、屋敷を包む空気が重くなったのだ。
(何、これ。魔力が吸われる?)
一瞬の頭痛を感じたライが空を見ると、屋敷から魔力が学園の方へ流れていくのが見える。
「これは、魔力吸引?! 何が起きているの?」
すぐさまライは、アイリスに連絡を取る。魔力が吸い出されてうまく念話が届かないが、屋敷から魔力が学園に向けて流れている事を伝える。そして、返ってきた言葉に愕然とした。
自分たちの魔力を使って、召喚陣を作動させているというのだ。
ここでライは勘付いた。なぜ、今日に限って男爵たちが出かけたのか。
魔力吸引に巻き込まれないためだ。
つまり、パープリア男爵とインディは、屋敷に居る人間を犠牲にして、事を起こそうとしているというのである。
(私の魔力は膨大だから、まずは他の人に影響出ないようにしましょうか。アメジスタ様は体が弱ってますし、負担をかけさせるわけにはいかないもの)
次の瞬間、ガクンと魔力を吸われる。
(何? 一気に魔力を?)
急に膝を落として混乱するライだったが、蒼鱗魚を介して、召喚陣を破壊すると魔力を一気に吸って強力な魔物を召喚する禁法だという事を知った。
「えげつないわね。それほどまでにこの国に怨みでもあるっていうの?」
ライは庭の草木から魔力を分けてもらって、すぐに立ち上がる。元々自然と生きる妖精なので、こういった事ができるらしい。
ライはすぐに召喚陣へ魔力を供給している仕掛けを探す。屋敷の中の使用人たちは、最初の吸収でほとんど動けなくなっており、今動けるのはライだけである。
(私たち魔物ですら、ここまで非道な真似はしないのに……。恐ろしい人間が居るものね!)
ライは自分の魔力が流れていく先を追う。妖精族は魔力の扱いには優れている方な事も幸いした。ライはすぐさま、魔力の集まる場所を見つけ出したのだ。
「ここは、旦那様の書斎?」
そう、たどり着いた先は、パープリア男爵が執務などで使う書斎である。部屋の扉は至って普通の部屋なのだが、ライから吸い出している魔力は、間違いなく書斎の中へと流れ込んでいた。
(ええい、ままよーっ!)
ライは念動力で部屋の扉をこじ開ける。鍵など知った事か。
扉を破って中に入ったライは、そこで恐ろしい物を見てしまう。
男爵の使う机の上に、禍々しいまでのどす黒い小さな石が置かれていたのだ。どうやら、この石が魔力を吸い出しているらしい。
「デーモンハート……。なんでこれが、こんな所にあるのよ」
ライは愕然とした。
悪魔の心臓と呼ばれる石は、魔物の死骸が化石化した物で、強い瘴気を帯びている。持ち主の心を歪ませると言われており、ライがハイスプライトとなった原因の石でもあった。
稀に心がどす黒い者が持てば、望みを叶える魔法の石になるという呪われた一品だ。
(なるほど、パープリア男爵は元々心の歪んだ人間だから、これを平気で使えるわけね……)
その時、ライの思考が一瞬揺らぐ。
(いけない……。石に魅入られる前に、これを壊さなきゃ)
ライは気力を振り絞って魔法を行使する。闇と土の魔法に念動力を使って、デーモンハートに圧力を掛けていく。
バキンッ!!
ついぞライは、デーモンハートを砕く事に成功したのだった。
「これで、召喚陣は、止まるはず……」
ライは力を使い果たしてふらつきながらも、書斎を出て扉を元に戻したのだった。
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