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第八章 二年次
第217話 発動
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「兄様、元気そうでなによりです」
武台に上がったヴィオレスを見て、アイリスは泣きそうな顔をして呟く。
昨年の夏の合宿以降、会う事を禁じられてしまったので、間近に見るのは本当に久しぶりになる。
最近はペシエラと一緒に登城してはいるものの、王宮内では自由に動けないので、視界に入れる事すらできなかったのだ。
ところが、その感動も次の瞬間に崩れ去る。
突如としてゴゴゴゴ……という轟音が鳴り響いたのだ。
「あそこっ! 魔法を発動させてやがる」
同時に周りを警戒していたキャノルが叫ぶ。
なんと、武台に仕掛けられた罠が作動を始めてしまった。警戒をしていたのに発動は止められなかったのだ。
「ちっ、仕方ありませんわね。アイリス、キャノル。お姉様と一緒に観客の避難を」
「はいっ、おまかせを」
すぐさま、ペシエラが指示を出す。
「ペシエラは?」
「私は、ラルクやトルフと一緒に被害を食い止めますわ」
ペシエラはそう言うと同時に、キャノルが示した人物を魔法で捕縛する。魔法の手枷に足枷、それに猿ぐつわだ。逃がしてなるものか。
「うゔっ!」
キャノルが指摘した怪しい人物は、体の自由を失ってその場に倒れ込んだ。念のため、周りを障壁で包み込み、転移もできないようにしておく。それを終えると、ペシエラは観客席から飛び降りる。
その時、武台のあちこちから、ボンボンと大きな音が響き渡る。そして、何やら黒い影が次々と浮かび上がっていった。
「グルァァアァッッ!!」
魔物の咆哮が響き渡る。
「きゃあああっ!」
「うわぁっ! ま、魔物?!」
一気に会場が阿鼻叫喚の渦に飲まれる。
まさか、二年連続の魔物の召喚。ロイエール以外の攻略対象が訓練場に集結している状態での発動である。
実にこの召喚の目的は明白であった。
(間違いなく、シルヴァノ殿下とペイル殿下を葬るためですわね。しかし、将来騎士団を担うオフライト様とパープリア男爵家を見限ったヴィオレス様も居る中でですから、この二人も狙われたと見ていいですわね)
ペシエラは魔法で剣を作り出すと、最初に姿を見せた魔物を斬り捨てる。
「ペシエラッ!」
「殿下、ご無事で?」
「私は大丈夫だ。しかし、なぜ魔物が!」
「武台に召喚陣を仕掛けられたようですわ。犯人と思しき人物は拘束してあります。殿下たちはお姉様やアイリスたちと協力して、観客を逃がして下さいませ」
湧き続ける魔物を倒しながら、ペシエラはシルヴァノに呼び掛ける。
「分かった。だが、オフライト、ペイル、それにヴィオレス、無事か?!」
「俺たちはここだ」
ペシエラの呼び掛けに答えつつも、シルヴァノは思い出したかのように三人を呼ぶ。それに答えたのはペイルだった。
「シルヴァノ殿下。三人なら我らでお救い致しました」
続けて聞こえてきた声はラルクだった。そのラルクの両腕とトルフの背中には、ペイルたち三人の姿があった。
「殿下、ここは我らにお任せ下さい。あの試合の後では、この戦いには耐え切れないでしょうから」
ラルクの言葉に、シルヴァノは唇を噛む。しかし、無茶をして万一の事があってはいけないと、シルヴァノはその言葉に強く頷いた。
少し時を遡り、
「失礼します」
カーマイルとロゼリアは、武術大会の運営本部にやって来ていた。
「やあ、ロゼリア嬢、それとカーマイルではないですか。いかがされましたか?」
そこに居たのはチークウッドだった。
「武術大会の武台に怪しげな物が仕掛けられた。本日の試合の終了後に調査する事、それと、今日が初めての試合になった学生が居ないか調べさせてほしい」
カーマイルの表情は真剣だ。それに加えて声色もかなり重い。ずいっと迫られてしまっては、さすがにチークウッドも焦ってしまった。
「分かった分かった。ただ、私もまだ二年次だ。先輩や先生にも聞いてみない事には、一存では決められないよ」
「分かったが、早く頼む。妹の友人だけじゃない、殿下たちにも危険が及ぶ話だからな」
気圧されて返答に困るチークウッドに、カーマイルは更に圧を強めた。
その時だった。
爆発音がすると同時に、何やら騒がしい声が聞こえてきたのだ。
「何が起きたんだ?」
カーマイルが叫ぶ。
(ロゼリア、やられましたわ)
それと同時に、ロゼリアの脳内にペシエラの声が聞こえてくる。
(ペシエラ? 何があったの)
(召喚陣を発動されてしまいましたわ。一応、犯人と思しき人物は観客席で拘束してますわ。カーマイル様を連れて確保下さいませ)
(それは了解よ。ペシエラはどうするつもり?)
(避難はお姉様たちに任せて、魔物を迎え撃ちますわ)
通信はここで途絶えた。
「お兄様、ペシエラが犯人を確保してくれているわ。私たちも向かいましょう」
ロゼリアはそう言って、カーマイルの返事を聞く事もなく駆け出したのだった。
武台に上がったヴィオレスを見て、アイリスは泣きそうな顔をして呟く。
昨年の夏の合宿以降、会う事を禁じられてしまったので、間近に見るのは本当に久しぶりになる。
最近はペシエラと一緒に登城してはいるものの、王宮内では自由に動けないので、視界に入れる事すらできなかったのだ。
ところが、その感動も次の瞬間に崩れ去る。
突如としてゴゴゴゴ……という轟音が鳴り響いたのだ。
「あそこっ! 魔法を発動させてやがる」
同時に周りを警戒していたキャノルが叫ぶ。
なんと、武台に仕掛けられた罠が作動を始めてしまった。警戒をしていたのに発動は止められなかったのだ。
「ちっ、仕方ありませんわね。アイリス、キャノル。お姉様と一緒に観客の避難を」
「はいっ、おまかせを」
すぐさま、ペシエラが指示を出す。
「ペシエラは?」
「私は、ラルクやトルフと一緒に被害を食い止めますわ」
ペシエラはそう言うと同時に、キャノルが示した人物を魔法で捕縛する。魔法の手枷に足枷、それに猿ぐつわだ。逃がしてなるものか。
「うゔっ!」
キャノルが指摘した怪しい人物は、体の自由を失ってその場に倒れ込んだ。念のため、周りを障壁で包み込み、転移もできないようにしておく。それを終えると、ペシエラは観客席から飛び降りる。
その時、武台のあちこちから、ボンボンと大きな音が響き渡る。そして、何やら黒い影が次々と浮かび上がっていった。
「グルァァアァッッ!!」
魔物の咆哮が響き渡る。
「きゃあああっ!」
「うわぁっ! ま、魔物?!」
一気に会場が阿鼻叫喚の渦に飲まれる。
まさか、二年連続の魔物の召喚。ロイエール以外の攻略対象が訓練場に集結している状態での発動である。
実にこの召喚の目的は明白であった。
(間違いなく、シルヴァノ殿下とペイル殿下を葬るためですわね。しかし、将来騎士団を担うオフライト様とパープリア男爵家を見限ったヴィオレス様も居る中でですから、この二人も狙われたと見ていいですわね)
ペシエラは魔法で剣を作り出すと、最初に姿を見せた魔物を斬り捨てる。
「ペシエラッ!」
「殿下、ご無事で?」
「私は大丈夫だ。しかし、なぜ魔物が!」
「武台に召喚陣を仕掛けられたようですわ。犯人と思しき人物は拘束してあります。殿下たちはお姉様やアイリスたちと協力して、観客を逃がして下さいませ」
湧き続ける魔物を倒しながら、ペシエラはシルヴァノに呼び掛ける。
「分かった。だが、オフライト、ペイル、それにヴィオレス、無事か?!」
「俺たちはここだ」
ペシエラの呼び掛けに答えつつも、シルヴァノは思い出したかのように三人を呼ぶ。それに答えたのはペイルだった。
「シルヴァノ殿下。三人なら我らでお救い致しました」
続けて聞こえてきた声はラルクだった。そのラルクの両腕とトルフの背中には、ペイルたち三人の姿があった。
「殿下、ここは我らにお任せ下さい。あの試合の後では、この戦いには耐え切れないでしょうから」
ラルクの言葉に、シルヴァノは唇を噛む。しかし、無茶をして万一の事があってはいけないと、シルヴァノはその言葉に強く頷いた。
少し時を遡り、
「失礼します」
カーマイルとロゼリアは、武術大会の運営本部にやって来ていた。
「やあ、ロゼリア嬢、それとカーマイルではないですか。いかがされましたか?」
そこに居たのはチークウッドだった。
「武術大会の武台に怪しげな物が仕掛けられた。本日の試合の終了後に調査する事、それと、今日が初めての試合になった学生が居ないか調べさせてほしい」
カーマイルの表情は真剣だ。それに加えて声色もかなり重い。ずいっと迫られてしまっては、さすがにチークウッドも焦ってしまった。
「分かった分かった。ただ、私もまだ二年次だ。先輩や先生にも聞いてみない事には、一存では決められないよ」
「分かったが、早く頼む。妹の友人だけじゃない、殿下たちにも危険が及ぶ話だからな」
気圧されて返答に困るチークウッドに、カーマイルは更に圧を強めた。
その時だった。
爆発音がすると同時に、何やら騒がしい声が聞こえてきたのだ。
「何が起きたんだ?」
カーマイルが叫ぶ。
(ロゼリア、やられましたわ)
それと同時に、ロゼリアの脳内にペシエラの声が聞こえてくる。
(ペシエラ? 何があったの)
(召喚陣を発動されてしまいましたわ。一応、犯人と思しき人物は観客席で拘束してますわ。カーマイル様を連れて確保下さいませ)
(それは了解よ。ペシエラはどうするつもり?)
(避難はお姉様たちに任せて、魔物を迎え撃ちますわ)
通信はここで途絶えた。
「お兄様、ペシエラが犯人を確保してくれているわ。私たちも向かいましょう」
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