逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
219 / 433
第八章 二年次

第216話 シルヴァノ対オフライト

しおりを挟む
「始めっ!」
 審判の声が響き渡り、シルヴァノとオフライトの試合が始まった。
 開始の合図と共に両者は一気に踏み込み、互いの初撃で激しく剣をぶつけ合う。
「こうして剣を交えるのは初めてですな、殿下」
「そうだね。いつも遠目から君の剣を見ていたけど、こうして受けてみると実に重い一撃だね」
 ぶつかる剣を挟んで、両者が睨み合っている。このまましばらく、両者の剣の押し合いが続いた。
 が、睨み合いが続くと思われた矢先、オフライトが剣を払って仕掛けた。
「殿下相手ですと、手を抜いていると思われたくはありませんのでね。少々本気でいかせてもらいます!」
 剣を払ってシルヴァノの体勢を崩したオフライトは、シルヴァノが体勢を立て直せないうちに次の攻撃を仕掛ける。
 それを見ていたチェリシアが、目を背けるような仕草をするが、
「お姉様、落ち着いて。あの程度防げなくて、私の婚約者だなんて名乗らせませんわ」
 そう告げるペシエラは、瞬きもなしに試合を見ている。
 ペシエラは逆行前とは違う意味で、シルヴァノに執着している。ロゼリアの事も邪魔者ではなく、協力者として見ている。確かな違いがそこにはあった。
 それはシルヴァノも同じだった。
 逆行前は、こうやって武術大会に出場する事もなく、ただただ学園祭をちゃらけて楽しむだけの青二才だった。
 だが、今回はこうやって武台に立ち、剣を振るっている。
 会場に鈍い金属音が響き渡る。
 崩れた体勢から、シルヴァノはオフライトの剣を受け止めてみせたのだ。
 始まったばかりだが、この展開に観客からは歓声が上がる。
「アイリス、しっかりと見ておいて頂戴」
「はい、畏まりました」
 撮影魔法の準備をできなかったので、アイリスが毎日必ず着けている撮影魔法の付与された髪飾りで、シルヴァノとオフライトの試合を撮影する事にしたのだ。アイリスもそれを察して、武台から目を離さないようにした。
「キャノル、あなたは周りを警戒して。隠蔽魔法の対象が想像通りなら、この試合の決着頃に事を起こす可能性があるわ」
「はっ、承知しましたよ……」
 ペシエラが続け様に指示を出すと、キャノルは仕方ないなと言わんばかりに投げやりな返事をした。
 その頃の試合は、シルヴァノとオフライトが互いに距離を取っていた。実力はオフライトの方が上だろうが、シルヴァノも技術を磨いてきたのか、互いに決め手を欠いていた。
「お互いに反撃を警戒して動けないようですわね」
「シルヴァノ殿下って、魔法と剣を織り交ぜたタイプなのに、まったく魔法を使ってないわ」
「相手に合わせて、なおかつ上を行こうってのかい。不器用な男だねぇ、あの殿下は」
 撮影に集中するアイリス以外が、それぞれに感想を漏らす。
 しかし、いつまでもこう着状態というわけにはいかなかったのか、シルヴァノとオフライトが同時に駆け出した。刃を潰してある模擬剣とはいえ、本気で打ち合う姿に緊張が走る。
 魔法を使えば優位に進められるシルヴァノは、この打ち合いの最中にも魔法を全く使おうとしない。
「殿下、魔法を使ったらどうですか?」
 オフライトが煽る。
「嫌だね。君との戦いは、純粋に剣だけでやりたいんだ」
 シルヴァノははっきりと断る。
「やれやれ、プライドだけで勝てるとか、思ってませんよね?」
 オフライトの攻撃が激しさを増す。
「手加減にしてもこだわりにしても、戦場に出ればそんなものなど通用しない。常に持てる力を発揮すべきだ。甘い考えは死を招くだけですぞ!」
 次第に防戦一方になっていくシルヴァノ。
「くっ……」
 剣撃の重さに、シルヴァノはついに膝をついてしまった。
「これまでのようですね、殿下」
 剣先を向けられたシルヴァノ。
「剣の腕は、やっぱり敵わなかったか。……降参だよ、オフライト」
 シルヴァノが負けを認めた事で、ついに決着がついた。これにより、会場はより大きな歓声に沸いた。
「まったく、相手の舞台に乗り過ぎですわ。妙なところでこだわるんですから、殿下は」
 ペシエラは不満そうだった。
 一方、武台の方は選手が入れ替わる。
「あっ、兄様だわ」
 アイリスが声を上げる。
「えっ?」
 それに対して、チェリシアとペシエラが反応する。
 武台に上がったのはペイルと、なんとパープリア家を飛び出したアイリスの兄であるヴィオレスだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...