逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第八章 二年次

第216話 シルヴァノ対オフライト

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「始めっ!」
 審判の声が響き渡り、シルヴァノとオフライトの試合が始まった。
 開始の合図と共に両者は一気に踏み込み、互いの初撃で激しく剣をぶつけ合う。
「こうして剣を交えるのは初めてですな、殿下」
「そうだね。いつも遠目から君の剣を見ていたけど、こうして受けてみると実に重い一撃だね」
 ぶつかる剣を挟んで、両者が睨み合っている。このまましばらく、両者の剣の押し合いが続いた。
 が、睨み合いが続くと思われた矢先、オフライトが剣を払って仕掛けた。
「殿下相手ですと、手を抜いていると思われたくはありませんのでね。少々本気でいかせてもらいます!」
 剣を払ってシルヴァノの体勢を崩したオフライトは、シルヴァノが体勢を立て直せないうちに次の攻撃を仕掛ける。
 それを見ていたチェリシアが、目を背けるような仕草をするが、
「お姉様、落ち着いて。あの程度防げなくて、私の婚約者だなんて名乗らせませんわ」
 そう告げるペシエラは、瞬きもなしに試合を見ている。
 ペシエラは逆行前とは違う意味で、シルヴァノに執着している。ロゼリアの事も邪魔者ではなく、協力者として見ている。確かな違いがそこにはあった。
 それはシルヴァノも同じだった。
 逆行前は、こうやって武術大会に出場する事もなく、ただただ学園祭をちゃらけて楽しむだけの青二才だった。
 だが、今回はこうやって武台に立ち、剣を振るっている。
 会場に鈍い金属音が響き渡る。
 崩れた体勢から、シルヴァノはオフライトの剣を受け止めてみせたのだ。
 始まったばかりだが、この展開に観客からは歓声が上がる。
「アイリス、しっかりと見ておいて頂戴」
「はい、畏まりました」
 撮影魔法の準備をできなかったので、アイリスが毎日必ず着けている撮影魔法の付与された髪飾りで、シルヴァノとオフライトの試合を撮影する事にしたのだ。アイリスもそれを察して、武台から目を離さないようにした。
「キャノル、あなたは周りを警戒して。隠蔽魔法の対象が想像通りなら、この試合の決着頃に事を起こす可能性があるわ」
「はっ、承知しましたよ……」
 ペシエラが続け様に指示を出すと、キャノルは仕方ないなと言わんばかりに投げやりな返事をした。
 その頃の試合は、シルヴァノとオフライトが互いに距離を取っていた。実力はオフライトの方が上だろうが、シルヴァノも技術を磨いてきたのか、互いに決め手を欠いていた。
「お互いに反撃を警戒して動けないようですわね」
「シルヴァノ殿下って、魔法と剣を織り交ぜたタイプなのに、まったく魔法を使ってないわ」
「相手に合わせて、なおかつ上を行こうってのかい。不器用な男だねぇ、あの殿下は」
 撮影に集中するアイリス以外が、それぞれに感想を漏らす。
 しかし、いつまでもこう着状態というわけにはいかなかったのか、シルヴァノとオフライトが同時に駆け出した。刃を潰してある模擬剣とはいえ、本気で打ち合う姿に緊張が走る。
 魔法を使えば優位に進められるシルヴァノは、この打ち合いの最中にも魔法を全く使おうとしない。
「殿下、魔法を使ったらどうですか?」
 オフライトが煽る。
「嫌だね。君との戦いは、純粋に剣だけでやりたいんだ」
 シルヴァノははっきりと断る。
「やれやれ、プライドだけで勝てるとか、思ってませんよね?」
 オフライトの攻撃が激しさを増す。
「手加減にしてもこだわりにしても、戦場に出ればそんなものなど通用しない。常に持てる力を発揮すべきだ。甘い考えは死を招くだけですぞ!」
 次第に防戦一方になっていくシルヴァノ。
「くっ……」
 剣撃の重さに、シルヴァノはついに膝をついてしまった。
「これまでのようですね、殿下」
 剣先を向けられたシルヴァノ。
「剣の腕は、やっぱり敵わなかったか。……降参だよ、オフライト」
 シルヴァノが負けを認めた事で、ついに決着がついた。これにより、会場はより大きな歓声に沸いた。
「まったく、相手の舞台に乗り過ぎですわ。妙なところでこだわるんですから、殿下は」
 ペシエラは不満そうだった。
 一方、武台の方は選手が入れ替わる。
「あっ、兄様だわ」
 アイリスが声を上げる。
「えっ?」
 それに対して、チェリシアとペシエラが反応する。
 武台に上がったのはペイルと、なんとパープリア家を飛び出したアイリスの兄であるヴィオレスだった。
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