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第八章 二年次
第214話 懲りない隠蔽
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「キャノルさん」
「アイリス」
武術大会の会場入口で、二人が鉢合わせてしまった。
「アイリスも感じたのか」
「キャノルさんも?」
しばらくして、反応が遅れて置いていかれたロゼリアとペシエラとシアンがアイリスの後ろから、カーマイルとチェリシアがキャノルの後ろから息を切らせながら現れた。
「一体どうしたの、アイリス」
けろりとしているペシエラが尋ねる。
「隠蔽魔法が使われたんです。この武術大会の会場で」
「なんですって?」
アイリスの返答に、驚きの声を上げる。
「あたい以外に隠蔽魔法が使える奴が居るとは、正直驚きだよ」
キャノルも驚いている。
アクアマリンでの魔物の襲撃を気付けなかったのは、子爵邸に侍女として潜り込んだキャノルのせいだった。あのアクアマリンを欺き続けられた彼女だったからこそ、今回の魔法にはいち早く気付けたのだろう。
それに比べると、アイリスも気付けたのは驚きだ。パープリアの家で暗殺系の技術を身に付けていたとはいえ、去年は気付けなかったのだ。この成長は目を見張るものがある。
「それで、その隠蔽の痕跡はどっちだ?」
カーマイルが二人から聞き出そうと、ぐっと詰める。
「武台の方ですね。でも、今も試合をしているから、参加者の中に犯人が居ると見てよいかと思います」
アイリスは冷静に答えた。
「あたいも同じ所から感じた。同じ魔法の使い手じゃないと気付けない魔力みたいだから、結構手が込んでる感じだね」
キャノルも付け足しながら答える。
「なるほど、魔法に長けている私が感じていないのだから、それには説得力があるわね」
ペシエラは納得したように頷いている。
「おそらくは去年と同じでしょう。ただ、少々規模が大きいですね。おそらく、武台に隠蔽された召喚用の魔石が埋められているかと思います」
「ふえぇ、あんた、だいぶ成長したねぇ」
「ペシエラ様に仕えるなら、これでも足りないかと」
アイリスの説明に、ペシエラを見るキャノル。ペシエラがそれに対して微笑むと、キャノルは一気に血の気が引いた。逆らえば消されそうな、そんな空気すら感じる笑顔だったからだ。
「はぁ、暗殺者としてはその人ありとまで言われたあたいが、何をびびってるんだろうかねぇ」
キャノルは我に返ってぼそりと呟く。その呟きは誰にも聞こえなかったようで、話は隠蔽魔法が仕掛けられた武台へと移る。
「武台に魔法か。今日は殿下たちの試合があるが、それ以前にもあった。罠が今日仕掛けられたのなら、今日にしか試合のない奴が怪しいと見ていいだろうな」
カーマイルの推理は冴えていた。さすが、侯爵家の長男でロゼリアの兄である。頭脳が違う。
「だったら、あたいとアイリスは観客席に移動して、武台を観察するよ。隠蔽魔法の痕跡はあたいらにしか分からないからね」
キャノルがそう提案すると、
「なら、私とお兄様で聞き込みをしますわ。チェリシアとペシエラは武台の見える位置から監視を。殿下たちの試合は午後からですから、万一の対処が必要ですからね」
ロゼリアはすぐさま役割分担をする。
「分かりましたわ」
「オッケーよ」
ペシエラとチェリシアがそれぞれに返事をする。
会場には、ラルクとトルフの二体の魔物も控えているので、一応彼らにも証言を求める予定である。
「じゃあ、今日は何事も起こらない事を祈りつつ、行動を始めましょう」
ロゼリアがこう言えば、それぞれに散って行動を開始した。
「私たちはまず、当該の人物を絞るところから始めようか」
「そうですわね、お兄様」
ロゼリアとカーマイルは、武術大会の運営本部へと向かう。ここなら、予選の組み合わせを全て把握しているはずだからだ。
武術大会の運営本部は、武術大会の会場となる訓練場内にある。ロゼリアとカーマイルは、迷う事なくその部屋を目指して進んでいった。
一方、チェリシアとペシエラは、それぞれの侍女であるキャノルとアイリスを引き連れて、武術大会の観客席へとやって来た。武台上では試合が行われており、割れんばかりの歓声が飛び交っている。
「二人とも、隠蔽箇所を見つけたら教えて。一つずつ写真に収めていくから」
カメラを取り出して、チェリシアは準備万端である。これに対してキャノルとアイリスは素直に頷いている。
「さて、せっかくの学園祭を壊そうとする方は、これでもかとお仕置きしませんといけませんわね」
ペシエラが怖い笑顔を浮かべている。
「ペシエラ、今はとにかく証拠集めよ」
「ええ、お姉様。分かってますわ」
チェリシアの言い分に、ペシエラはおとなしく従う。だが、その顔を見た侍女二人は震え上がった。
こうして、ロゼリアたちの探偵ごっこが始まったのである。
「アイリス」
武術大会の会場入口で、二人が鉢合わせてしまった。
「アイリスも感じたのか」
「キャノルさんも?」
しばらくして、反応が遅れて置いていかれたロゼリアとペシエラとシアンがアイリスの後ろから、カーマイルとチェリシアがキャノルの後ろから息を切らせながら現れた。
「一体どうしたの、アイリス」
けろりとしているペシエラが尋ねる。
「隠蔽魔法が使われたんです。この武術大会の会場で」
「なんですって?」
アイリスの返答に、驚きの声を上げる。
「あたい以外に隠蔽魔法が使える奴が居るとは、正直驚きだよ」
キャノルも驚いている。
アクアマリンでの魔物の襲撃を気付けなかったのは、子爵邸に侍女として潜り込んだキャノルのせいだった。あのアクアマリンを欺き続けられた彼女だったからこそ、今回の魔法にはいち早く気付けたのだろう。
それに比べると、アイリスも気付けたのは驚きだ。パープリアの家で暗殺系の技術を身に付けていたとはいえ、去年は気付けなかったのだ。この成長は目を見張るものがある。
「それで、その隠蔽の痕跡はどっちだ?」
カーマイルが二人から聞き出そうと、ぐっと詰める。
「武台の方ですね。でも、今も試合をしているから、参加者の中に犯人が居ると見てよいかと思います」
アイリスは冷静に答えた。
「あたいも同じ所から感じた。同じ魔法の使い手じゃないと気付けない魔力みたいだから、結構手が込んでる感じだね」
キャノルも付け足しながら答える。
「なるほど、魔法に長けている私が感じていないのだから、それには説得力があるわね」
ペシエラは納得したように頷いている。
「おそらくは去年と同じでしょう。ただ、少々規模が大きいですね。おそらく、武台に隠蔽された召喚用の魔石が埋められているかと思います」
「ふえぇ、あんた、だいぶ成長したねぇ」
「ペシエラ様に仕えるなら、これでも足りないかと」
アイリスの説明に、ペシエラを見るキャノル。ペシエラがそれに対して微笑むと、キャノルは一気に血の気が引いた。逆らえば消されそうな、そんな空気すら感じる笑顔だったからだ。
「はぁ、暗殺者としてはその人ありとまで言われたあたいが、何をびびってるんだろうかねぇ」
キャノルは我に返ってぼそりと呟く。その呟きは誰にも聞こえなかったようで、話は隠蔽魔法が仕掛けられた武台へと移る。
「武台に魔法か。今日は殿下たちの試合があるが、それ以前にもあった。罠が今日仕掛けられたのなら、今日にしか試合のない奴が怪しいと見ていいだろうな」
カーマイルの推理は冴えていた。さすが、侯爵家の長男でロゼリアの兄である。頭脳が違う。
「だったら、あたいとアイリスは観客席に移動して、武台を観察するよ。隠蔽魔法の痕跡はあたいらにしか分からないからね」
キャノルがそう提案すると、
「なら、私とお兄様で聞き込みをしますわ。チェリシアとペシエラは武台の見える位置から監視を。殿下たちの試合は午後からですから、万一の対処が必要ですからね」
ロゼリアはすぐさま役割分担をする。
「分かりましたわ」
「オッケーよ」
ペシエラとチェリシアがそれぞれに返事をする。
会場には、ラルクとトルフの二体の魔物も控えているので、一応彼らにも証言を求める予定である。
「じゃあ、今日は何事も起こらない事を祈りつつ、行動を始めましょう」
ロゼリアがこう言えば、それぞれに散って行動を開始した。
「私たちはまず、当該の人物を絞るところから始めようか」
「そうですわね、お兄様」
ロゼリアとカーマイルは、武術大会の運営本部へと向かう。ここなら、予選の組み合わせを全て把握しているはずだからだ。
武術大会の運営本部は、武術大会の会場となる訓練場内にある。ロゼリアとカーマイルは、迷う事なくその部屋を目指して進んでいった。
一方、チェリシアとペシエラは、それぞれの侍女であるキャノルとアイリスを引き連れて、武術大会の観客席へとやって来た。武台上では試合が行われており、割れんばかりの歓声が飛び交っている。
「二人とも、隠蔽箇所を見つけたら教えて。一つずつ写真に収めていくから」
カメラを取り出して、チェリシアは準備万端である。これに対してキャノルとアイリスは素直に頷いている。
「さて、せっかくの学園祭を壊そうとする方は、これでもかとお仕置きしませんといけませんわね」
ペシエラが怖い笑顔を浮かべている。
「ペシエラ、今はとにかく証拠集めよ」
「ええ、お姉様。分かってますわ」
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