逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
上 下
214 / 544
第八章 二年次

第211話 商会たちの顔合わせ

しおりを挟む
 翌日、学園にはオーカー商会長一家が足を運んでいた。商会長のブローゼン、妻ガイア、長女ブリューレ、長男ホイートの四人が揃っての外出は珍しい。
「ドール商会のお嬢さん方からのお誘いだ。お前たち、失礼のないようにな」
「はーい」
「へいへい」
 ブローゼンが今一度念を押すが、子どもたちの返事がもうダメだ。仕事に集中し過ぎて子どもに構えなかった事を、今さらのように後悔している。妻もだいぶ甘やかしていた事がよく分かるのでなおさらだ。
 今回会うのは、マゼンダ商会が出てくるまでは王国で一番だった、名門ドール商会なのだ。対してブローゼン率いるオーカー商会は、マゼンダ商会の傘下に入るまでは不安定な経営だった。それこそ吹けば飛ぶような存在だったのだ。……ブローゼンには不安しかなかった。
 一行がやって来たのはドール商会の出店。そこでブローゼンは、予想外の姿を見つけて驚愕した。
「あら、ブローゼン商会長様、お久しぶりです」
「ろ、ロゼリア様。なぜここに?」
 そう、ロゼリア・マゼンダが居たのである。オーカー商会にとって救世主である、マゼンダ商会の実質オーナーであるロゼリア。その姿を見つけて驚かずに済むわけがない。
「ええ。ロイエールさんから本日、オーカー商会のお子様たちがいらっしゃるとお聞きしまして、マゼンダ商会の者を代表して顔合わせに参りましたの」
 マゼンダは笑顔で言っているが、ブローゼンは脂汗を滲ませている。蛇に睨まれた蛙である。そして、ブローゼンは周りを見回す。
「チェリシアはマゼンダ商会の出店、ペシエラは武術大会に出ていますので、ここに居るのは私と侍女のシアンだけです。そこまで露骨に警戒しないで下さいませ」
 ロゼリアはブローゼンの態度に、事情は分かるものの少し呆れていた。
 一方で、ペシエラが居ないと聞いて、ブローゼンは安心した。だが、ロゼリア一人だけでも気を揉む相手だ。ちらりと子どもたちの方を見るが、緊張はしていないようだ。それどころかロゼリアはおろかロイエールやブラッサの方も見ていない。これはいささか失礼ではなかろうか。
「二人とも、ちゃんと相手を見なさい」
 母親であるガイアが小さな声で注意する。しかし、二人とも従う様子がない。この様子を見ていたロゼリアは、オーカー商会の先行きに不安を感じた。
「ブリューレ、ホイート。こちらの方々は、学園で先輩になる、マゼンダ商会のロゼリア様とドール商会のブラッサ様とロイエール様だ。ご挨拶なさい」
 もう冷や汗が滝のようになりそうなブローゼンだったが、礼儀として二人に挨拶するように促す。が、
「面倒くさい」
 ホイートのこの言葉で、場が一気に凍りついた。平民同士ならまだしも、ロゼリアという貴族を相手にしてこれでは、その場で斬り捨てられても文句は言えない。
「こ、これはお初にお目にかかります。オーカー商会のブリューレ・オーカーと申します。ロゼリア様、ブラッサ様、ロイエール様、来年よりお世話になります」
 周りの空気を感じたのか、ブリューレは慌てて淑女の挨拶をする。ちゃんとできるあたり、一応はこういう場の挨拶は教えられていたらしい。
 だが、ホイートの態度は改善していない。これはいけない事だ。
「まったく、ペシエラが居なくて助かったわね、そこの君」
 ロゼリアの表情が冷たい。
「君は商会長の息子なのよね? これから社交界に出てそんな態度していたら、どうなるか分かっているの?」
 蔑むような目。これではまるで悪役令嬢だ。
「私たちより四つ下、十歳だからといって、その態度はどうかしらね。普通の平民なら問題ないけれど、商会の関係者であるなら、貴族とも交流する事があるの。その中で生き延びたいのなら、相手を見て行動するべきよ」
 だが、ホイートの態度は変わらなかった。その姿を見て、
「この脅しでも変わらないとはね。馬鹿なのか大物なのか、将来が楽しみだわ」
 ロゼリアは笑みを浮かべていた。それを見ていたブローゼンは生きた心地がしなかった。妻のガイアも青ざめている。
「いや、ロゼリアさん、怖かったですよ」
 苦笑いを浮かべながらロイエールが言う。
「さすが、齢十歳で実質的な商会長になっただけの事はありますね」
 ブラッサも引き気味に笑いながら言う。だが、このブラッサの言葉に、ホイートが衝撃を受けた。
(十歳で、商会を仕切っていた? 僕と同じ歳で?)
 ホイートが多大な衝撃に固まっているとは露知らず、ブリューレにあれこれ教えているロゼリアたち。
 ここでのやり取りが、この後に重大な影響を及ぼす事になるとは、一体誰が想像しただろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明
ファンタジー
神様に気に入られた悪女令嬢が好きな少女は眷属神にされた。 どう見ても人の言う事を聞かなそうな神様の下で働くなって絶対嫌だった。 少女は過労死で死んだ記憶がある。 働くなら絶対にホワイトな職場だ。 神様のスカウトを断った少女だったが、人の話を聞かない神様が許す訳もない。 少女は眷属神の卵として転生を繰り返す。 そいて、ジュリアーナ・マジク・アラルンガルはこの世界に転生された。 だが、神々の加護を貰えないジュリアーナはすぐに捨てられた。 この可哀想な神様の卵に幸はあるのだろうか?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...