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第八章 二年次
第208話 二年めの初戦
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学園祭が始まってすぐ、武術大会も始まっていた。ペシエラはその開幕戦の武台に立っていた。
(今年もまた、この武台に立ちましたわね。今年こそは、優勝を狙わせて頂きますわよ)
ペシエラの気合いは十分に入っていた。
会場は熱気に包まれている。観客たちは試合が始まるのを今か今かと待ち侘びているようだ。
「お待たせ致しました。これより学園祭のメインイベント、武術大会を開始致します!」
司会のこの言葉で、会場の盛り上がりは更に高まる。娯楽に飢えているのだろう。正直、武術も魔法も見せ物ではないのだが、大勢の見ている前で力を誇示できるというのは、騎士や兵士たちからもありがたい事なのだろう。強い騎士や兵士が居るから、王国の平和は保たれているという事を強く印象付けられる。
……つまり、誰からしても得しかないという事だ。
それにしても、ペシエラは別の物も気になっていた。観客の持つ食べ物である。
(そういえば、お姉様が今回の出店で、新しい食べ物を出すとか言ってましたわね。……なるほど、あれがその食べ物というわけですわね)
ペシエラは目を瞑る。そして、気合いを入れ直すと、思い切り目を開く。
「ならば、さっさと試合を終わらせて、お姉様のところに駆け付けるべきですわね!」
思いっきり声が出ていたので、近くに控えたアイリスが激しく同意している。
「お、おほん。アイリス、聞いてましたのね」
「最後だけ声に出ていました」
「あ、そう……」
ペシエラは咳払いをして気を取り直す。
「では、行って参りますわ」
「ご武運を」
アイリスが見送る中、ペシエラは武術大会の武台へと歩み出ていった。
「さあ、今年の開幕戦は、去年、決勝トーナメントまで駒を進めた天才少女ペシエラ・コーラルがいきなり登場です!」
この言葉で、会場の熱気は一気に盛り上がる。
「十歳という年齢で特例として入学した彼女。今年はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか。今から楽しみであります」
司会が煽っている。あまりに露骨な盛り上げに、ペシエラはため息をついてから、会場に手を振っている。
対戦相手は学年は下だが、年上の男子学生だった。ペシエラを見てニヤニヤと笑っている。気持ち悪いし、さっきの司会の言葉を聞いていなかったのだろうか。
「初戦の相手がチビ女とは、俺もついてるな。さっさと帰った方が身のためだぞ、お嬢ちゃん」
何も聞いていなかったようである。顔の脇の穴は風通しですかそうですか。
ペシエラが相手の顔も見ないで盛大にため息をつくと、相手の学生は顔に青筋を立てていった。煽り耐性ゼロのようだ。
「始めっ!」
審判の声が響くと同時に、ペシエラに襲い掛かる学生。
「生意気なガキめ、死にさらせっ!」
思い切り振りかぶってペシエラに斬りかかる。
が、次の瞬間。ペシエラが相手の背後に立っていた。まったく何が起きたのか分からなかった。
「私は、コーラル伯爵家次女ペシエラ。アイヴォリー王国シルヴァノ殿下の正式な婚約者でしてよ?」
ペシエラは視線だけ相手に送り、語りかけている。
「あなたのような矮小な存在とはわけが違いますの」
ペシエラはそう言いながら、模擬戦用のサーベルを振り上げ、
「貴族なら、相手をきちんと見定めますことね」
そう言いながら一気に振り下ろした。それと同時に、対戦相手は静かに崩れ落ちた。
「勝者、ペシエラ・コーラル!」
審判がペシエラの勝利宣言をすると、会場からは割れんばかりの歓声と拍手が起きた。
「寸止めしてますから、気絶だけで済んでよかったですわね」
ペシエラはそう言い残して、武台から降りていった。
「相変わらず、すごいな、ペシエラは」
「オフライト、一体何があったんだ? 気が付いたら移動してたぞ」
オフライトがクラスメイトと話をしている。話題はさっきのペシエラの戦いだ。
「ああ、目にも止まらぬ速さで、相手を二十回、剣圧だけで斬ったんだ。剣自体は当てていない。……去年より格段に強くなってるな」
「ひいぃ……。人間なんですか、彼女?」
友人の学生は震え上がっている。
「高みに居る人間だよな。並大抵の努力じゃ、追いつく事もできないよ」
オフライトはそう言いつつも、顔がとても楽しそうにしていた。
それにしても、オフライトの言葉遣いが丁寧になっている。実は、近衛騎士を志すと決めた時に、父親からこっ酷く言葉遣いを直すように言われたらしい。その成果がこれである。クラスメイトにも驚かれたくらいだ。
「ああ、彼女と早く剣を交わしてみたいものだ」
オフライトの目は、真っ直ぐペシエラを見ていたのだった。
(今年もまた、この武台に立ちましたわね。今年こそは、優勝を狙わせて頂きますわよ)
ペシエラの気合いは十分に入っていた。
会場は熱気に包まれている。観客たちは試合が始まるのを今か今かと待ち侘びているようだ。
「お待たせ致しました。これより学園祭のメインイベント、武術大会を開始致します!」
司会のこの言葉で、会場の盛り上がりは更に高まる。娯楽に飢えているのだろう。正直、武術も魔法も見せ物ではないのだが、大勢の見ている前で力を誇示できるというのは、騎士や兵士たちからもありがたい事なのだろう。強い騎士や兵士が居るから、王国の平和は保たれているという事を強く印象付けられる。
……つまり、誰からしても得しかないという事だ。
それにしても、ペシエラは別の物も気になっていた。観客の持つ食べ物である。
(そういえば、お姉様が今回の出店で、新しい食べ物を出すとか言ってましたわね。……なるほど、あれがその食べ物というわけですわね)
ペシエラは目を瞑る。そして、気合いを入れ直すと、思い切り目を開く。
「ならば、さっさと試合を終わらせて、お姉様のところに駆け付けるべきですわね!」
思いっきり声が出ていたので、近くに控えたアイリスが激しく同意している。
「お、おほん。アイリス、聞いてましたのね」
「最後だけ声に出ていました」
「あ、そう……」
ペシエラは咳払いをして気を取り直す。
「では、行って参りますわ」
「ご武運を」
アイリスが見送る中、ペシエラは武術大会の武台へと歩み出ていった。
「さあ、今年の開幕戦は、去年、決勝トーナメントまで駒を進めた天才少女ペシエラ・コーラルがいきなり登場です!」
この言葉で、会場の熱気は一気に盛り上がる。
「十歳という年齢で特例として入学した彼女。今年はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか。今から楽しみであります」
司会が煽っている。あまりに露骨な盛り上げに、ペシエラはため息をついてから、会場に手を振っている。
対戦相手は学年は下だが、年上の男子学生だった。ペシエラを見てニヤニヤと笑っている。気持ち悪いし、さっきの司会の言葉を聞いていなかったのだろうか。
「初戦の相手がチビ女とは、俺もついてるな。さっさと帰った方が身のためだぞ、お嬢ちゃん」
何も聞いていなかったようである。顔の脇の穴は風通しですかそうですか。
ペシエラが相手の顔も見ないで盛大にため息をつくと、相手の学生は顔に青筋を立てていった。煽り耐性ゼロのようだ。
「始めっ!」
審判の声が響くと同時に、ペシエラに襲い掛かる学生。
「生意気なガキめ、死にさらせっ!」
思い切り振りかぶってペシエラに斬りかかる。
が、次の瞬間。ペシエラが相手の背後に立っていた。まったく何が起きたのか分からなかった。
「私は、コーラル伯爵家次女ペシエラ。アイヴォリー王国シルヴァノ殿下の正式な婚約者でしてよ?」
ペシエラは視線だけ相手に送り、語りかけている。
「あなたのような矮小な存在とはわけが違いますの」
ペシエラはそう言いながら、模擬戦用のサーベルを振り上げ、
「貴族なら、相手をきちんと見定めますことね」
そう言いながら一気に振り下ろした。それと同時に、対戦相手は静かに崩れ落ちた。
「勝者、ペシエラ・コーラル!」
審判がペシエラの勝利宣言をすると、会場からは割れんばかりの歓声と拍手が起きた。
「寸止めしてますから、気絶だけで済んでよかったですわね」
ペシエラはそう言い残して、武台から降りていった。
「相変わらず、すごいな、ペシエラは」
「オフライト、一体何があったんだ? 気が付いたら移動してたぞ」
オフライトがクラスメイトと話をしている。話題はさっきのペシエラの戦いだ。
「ああ、目にも止まらぬ速さで、相手を二十回、剣圧だけで斬ったんだ。剣自体は当てていない。……去年より格段に強くなってるな」
「ひいぃ……。人間なんですか、彼女?」
友人の学生は震え上がっている。
「高みに居る人間だよな。並大抵の努力じゃ、追いつく事もできないよ」
オフライトはそう言いつつも、顔がとても楽しそうにしていた。
それにしても、オフライトの言葉遣いが丁寧になっている。実は、近衛騎士を志すと決めた時に、父親からこっ酷く言葉遣いを直すように言われたらしい。その成果がこれである。クラスメイトにも驚かれたくらいだ。
「ああ、彼女と早く剣を交わしてみたいものだ」
オフライトの目は、真っ直ぐペシエラを見ていたのだった。
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