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第八章 二年次
第205話 ロゼリアの交渉手腕
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チェリシアと別れて、ロゼリアはシアンと一緒にオーカー商会との面会に赴いた。
オーカー商会はドール商会同様に歴史のある商会だが、その基盤が弱々しく、食材の流通を扱っていたが生産が安定しないので、経営が綱渡り状態だった商会だ。
このオーカー商会に転機が訪れたのが、マゼンダ商会の登場である。
オーカー商会の取り扱う食材は傷みやすいのが欠点だった。しかし、マゼンダ商会が開発した保冷庫、保温庫、冷凍庫という魔道具によって、新鮮な状態を維持したまま運搬ができるようになったのである。しかも、外部からの衝撃にも強く、運悪く馬車が転覆しても魔道具も中身も無事という、驚異的な性能を有していた。これらを試供品として無償提供された事もあり、オーカー商会はマゼンダ商会の傘下に入った。
これ以降もオーカー商会は、マゼンダ商会の作り出す調味料や新しい食材の流通を任されており、王国内のあちこちを駆け回っている。
そんなオーカー商会が、わざわざマゼンダ商会に出向いてきたのだ。ロゼリアはどんな交渉が飛び出てくるのか、ソファに座りながら楽しみにしている。
「お久しぶりでございます、ロゼリアお嬢様」
目の前に座るのは、体型的には少しぽっちゃりとした四十前後の男性である。
彼はオーカー商会の商会長であるブローゼン・オーカーだ。先日は手紙を寄越してきたのだが、「マゼンダ商会のおかげで、少し肥えました」と複雑な心境の文面が目を引いた。太れるくらいには安定した経営なのだろう。この文面を見たチェリシアが吹き出しそうになったのを思い出したロゼリアは、必死に笑いを堪えて目の前のブローゼンを見る。
「しかし、ロゼリアお嬢様はまだ若いというのにしっかりしておりますな。我が子たちも、この半分ほどでも落ち着きがあればと思うのですが、いやはや……」
ブローゼンは、ため息をつきながらいきなりネガティブモードである。ブローゼンと妻ガイアとの間には、姉ブリューレと二つ下の弟ホイートが居る。二人とも仕事の忙しさゆえに自由にさせていたら、かなりわがままに育ってしまったらしいのだ。
「ブリューレは来年より学園に通う事になりますので、その時はどうかよろしくお願い致します」
「私は子守りをするつもりはないですが、大事な取引相手の頼みです。科は違えどできる限り致しましょう。ドール商会のブラッサさんやロイエールさんもいらっしゃいますし」
ロゼリアはドール商会の二人の名前を出す。ロゼリアは魔法科だし、商業科の二人の方が任せるには適任である。
しかし、これにブローゼンの表情は険しくなる。ドール商会は昔から敵対してきたので、借りを作るのが嫌なようだ。
「商売敵とはいえ、取り扱いが異なるのですから、そこまで露骨に嫌な顔をしないで下さらないかしら。それに、私どもはドール商会とも懇意にさせて頂いていますのよ?」
ロゼリアが睨めば、ブローゼンは押し黙った。マゼンダ商会の後ろ盾を失えば、オーカー商会など風前の灯だからだ。
「まあ、お子さんの事はお任せ下さい。今は商売人としてお話ししましょう。学園祭への納入のお話でしたよね?」
ロゼリアが目を伏してから、目を見開いてブローゼンを見る。その目線の力強さに、ブローゼンは一瞬飲まれた。
(くっ、この様な小娘にわしが怖気付くなど……。しかし、逆らっては我が商会は間違いなく潰される。……くそっ)
かなり冷静さを失うブローゼン。ロゼリアはその相手の顔色の悪さにも、冷静に対応する。
(やれやれ、表情に出過ぎよ。私は敵対するつもりもないし、潰すつもりもない。ただ、民のためを思えば甘い顔をできないに過ぎないのよ)
ロゼリアは紅茶を飲む。
「学園と私どもからの発注に対して、量と納期を守って頂ければいいのです。私たち商会というものは、人様からの信用で成り立っているのです。……まさか、その事をお忘れではございませんわよね?」
ロゼリアの鋭い視線が、ブローゼンに突き刺さる。
「感情ある人間の集まりなのですから、不満の完全なる解消は難しいのです。ですが、幸い私どもは聞く耳を持っております。不満があるのなら、仰って頂ければ良いのです」
毅然とした態度でこうも言われてしまえば、ブローゼンはもう何も言えなかった。
「学園祭にはちゃんと予定量を納入致しますゆえ、どうかご容赦を」
ブローゼンは震えていた。
「ええ、期待していますよ」
ロゼリアはにっこりと微笑んでいた。
オーカー商会はドール商会同様に歴史のある商会だが、その基盤が弱々しく、食材の流通を扱っていたが生産が安定しないので、経営が綱渡り状態だった商会だ。
このオーカー商会に転機が訪れたのが、マゼンダ商会の登場である。
オーカー商会の取り扱う食材は傷みやすいのが欠点だった。しかし、マゼンダ商会が開発した保冷庫、保温庫、冷凍庫という魔道具によって、新鮮な状態を維持したまま運搬ができるようになったのである。しかも、外部からの衝撃にも強く、運悪く馬車が転覆しても魔道具も中身も無事という、驚異的な性能を有していた。これらを試供品として無償提供された事もあり、オーカー商会はマゼンダ商会の傘下に入った。
これ以降もオーカー商会は、マゼンダ商会の作り出す調味料や新しい食材の流通を任されており、王国内のあちこちを駆け回っている。
そんなオーカー商会が、わざわざマゼンダ商会に出向いてきたのだ。ロゼリアはどんな交渉が飛び出てくるのか、ソファに座りながら楽しみにしている。
「お久しぶりでございます、ロゼリアお嬢様」
目の前に座るのは、体型的には少しぽっちゃりとした四十前後の男性である。
彼はオーカー商会の商会長であるブローゼン・オーカーだ。先日は手紙を寄越してきたのだが、「マゼンダ商会のおかげで、少し肥えました」と複雑な心境の文面が目を引いた。太れるくらいには安定した経営なのだろう。この文面を見たチェリシアが吹き出しそうになったのを思い出したロゼリアは、必死に笑いを堪えて目の前のブローゼンを見る。
「しかし、ロゼリアお嬢様はまだ若いというのにしっかりしておりますな。我が子たちも、この半分ほどでも落ち着きがあればと思うのですが、いやはや……」
ブローゼンは、ため息をつきながらいきなりネガティブモードである。ブローゼンと妻ガイアとの間には、姉ブリューレと二つ下の弟ホイートが居る。二人とも仕事の忙しさゆえに自由にさせていたら、かなりわがままに育ってしまったらしいのだ。
「ブリューレは来年より学園に通う事になりますので、その時はどうかよろしくお願い致します」
「私は子守りをするつもりはないですが、大事な取引相手の頼みです。科は違えどできる限り致しましょう。ドール商会のブラッサさんやロイエールさんもいらっしゃいますし」
ロゼリアはドール商会の二人の名前を出す。ロゼリアは魔法科だし、商業科の二人の方が任せるには適任である。
しかし、これにブローゼンの表情は険しくなる。ドール商会は昔から敵対してきたので、借りを作るのが嫌なようだ。
「商売敵とはいえ、取り扱いが異なるのですから、そこまで露骨に嫌な顔をしないで下さらないかしら。それに、私どもはドール商会とも懇意にさせて頂いていますのよ?」
ロゼリアが睨めば、ブローゼンは押し黙った。マゼンダ商会の後ろ盾を失えば、オーカー商会など風前の灯だからだ。
「まあ、お子さんの事はお任せ下さい。今は商売人としてお話ししましょう。学園祭への納入のお話でしたよね?」
ロゼリアが目を伏してから、目を見開いてブローゼンを見る。その目線の力強さに、ブローゼンは一瞬飲まれた。
(くっ、この様な小娘にわしが怖気付くなど……。しかし、逆らっては我が商会は間違いなく潰される。……くそっ)
かなり冷静さを失うブローゼン。ロゼリアはその相手の顔色の悪さにも、冷静に対応する。
(やれやれ、表情に出過ぎよ。私は敵対するつもりもないし、潰すつもりもない。ただ、民のためを思えば甘い顔をできないに過ぎないのよ)
ロゼリアは紅茶を飲む。
「学園と私どもからの発注に対して、量と納期を守って頂ければいいのです。私たち商会というものは、人様からの信用で成り立っているのです。……まさか、その事をお忘れではございませんわよね?」
ロゼリアの鋭い視線が、ブローゼンに突き刺さる。
「感情ある人間の集まりなのですから、不満の完全なる解消は難しいのです。ですが、幸い私どもは聞く耳を持っております。不満があるのなら、仰って頂ければ良いのです」
毅然とした態度でこうも言われてしまえば、ブローゼンはもう何も言えなかった。
「学園祭にはちゃんと予定量を納入致しますゆえ、どうかご容赦を」
ブローゼンは震えていた。
「ええ、期待していますよ」
ロゼリアはにっこりと微笑んでいた。
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